連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第10話:戦場の花

 一方、道の端で座る猫はその一連の様子をアルトリーユにあるサラの個室でスクリーンに映していた。

「……彼女は寄生性双生児として生まれたんです」

 静かな室内に、幼い男児の声が反響した。
 声の主はミズヤと瓜二つの顔を持つ、執事服に身を包んだ長髪の男の子、ユウキだった。
 全員の目が彼に向く。

「本来双子として作られた細胞が、もう片方を侵食し、双つの命が一つになった。でも、体内に宿る魔力までは侵せず、その魔力を用いる際に、名も無き彼女が現れる。簡単に言えば、二重人格なんですね、彼女は」
「……いくら陰が薄いからって、そんな説明をするために出てこなくてもいんじゃない?」
「サラさん、陰が薄いとかそういう理由で来てるわけではないのですが……というか、今までいつも私、貴方の隣に居ましたからね!?」

 ポップコーンを頬張りながらジト目で見るサラに、ユウキは声を荒げて反発するのだった。
【ヤプタレア】を統括する神の息子だが、親元を離れてもう数年、サラの側で溜息を吐く事が多い。

「あの子と数日共に行動した身としては、あんな風になるなんて信じられないね。人間変わるもんですなぁ」
「1番変わってる貴女が言いますか」
「……ミズヤの顔して敬語使われるの腹立つわー、やめてもらっていい?」
「…………」

 環奈の呟きを拾うも辛辣な言葉しか返ってこず、ユウキは酸っぱいものでも食べたかのように顔をしぼませ、俯きながら静かに退室して行った。

「……まぁ内気で居るよりは良いんじゃねぇの?」

 壁に寄りかかり、ボンヤリ映像を眺めて居た瑛彦が何気なく呟く。
 南大陸に来てからというもの、【ヤプタレア】で過ごしたグループは常に固まって居た。

「それだけじゃないわ」

 付け足すようにサラが声を震わす。
 冷静な瞳でスクリーンを見つめ、キュッと閉じた口を開いてこう言った。

「この子、普通に強いわ――」



 ◇



「【狐火椿こびつばき】」

 世界に向けて命令すると、ヘリリアの周りには紅い炎が5つ、彼女の周りで公転運動を始める。
 椿の花のような形をした、綺麗な炎だった。

 本来【サウドラシア】の魔法概念を考えれば――【赤魔法】や【青魔法】と前哨をまじない、横文字のスペルを唱える。
 しかし、ヘリリアの中に居るもう1人の彼女は、その常識を知らない。
 元来、魔法の名前すら必要ないだろう。
 ただ趣味なだけなのだ。
 その名前が、彼女の魔法に似合うから。

「…………」

 剣を捨てて刀を持ち、空中で停滞するミズヤ。
 彼は一向に攻めてこないヘリリアを見て気付く。
 彼女が、無色魔法を使えない事に。

(……危険でも、ちゃんと戦わないと機嫌直してくれないよね)

 だから渋々と彼は降下を始め、スタッと地面に降り立った。

「……上から集中砲火しねぇのは、褒めてやるよ」

 男勝りなヘリリアの声、ミズヤはそれに気圧される事なくニコリと笑う。
 それはミズヤが自分の強さに自信があるからであり、目の前の奴は倒せる相手だと認識しているからこそ生まれた余裕だった。

「僕、汚いマネは好きじゃないので……」
「そうかい。だったら正攻法でアタイを攻略してみるんだねぇ!!」

 叫ぶように勝負を吹っ掛けると、彼女の周りを舞う炎が一斉に飛び出した。

「【力の四角形フォース・スクエア】」

 それに対しミズヤは、空いた左手を前に差し出し、オレンジ色の正方形を空間に浮かび上がらせる。
 そしてそのひらたいパネルから、高密の空気の塊が飛び出した。
 炎は圧力をぶつけられれば消えてしまう。
 だからミズヤは空気の塊を放つ。

 しかし、炎の花は軽々と起動を変え、ミズヤの放った空気を避ける。
 そしてミズヤの下まで、即座に到達した。

 白銀の刃が走る。
 花を散らすために、刃先は弧を描いて炎を切った。

 ――ポゥッ

 斬られた炎の花は、花柱と子房を残して花弁は全て落ちた。
 椿の花――それは花びらを同時に落としてしまう花。
 小さな花柱達は分散し、再びミズヤへと迫る。

「――【円筒の壁シリンダー・ガード】」

 呪文を唱えると、ミズヤの周りを筒が囲うように壁ができる。
 花柱達は壁にぶつかり、爆発を起こした。
 残る花柱も全て誘爆し、ミズヤは炎と黒煙に包まれる。

「――【無色魔法カラークリア】、【追尾球体バースト・スフィア】」

 煙から姿を現したのはミズヤではなく、半透明の白い4つの球体。
 バスケットボールサイズのこれらは全てが圧縮空気の塊で、ミズヤが生み出したものだった。

「意趣返しのつもりかぁ!? んなもんアタイが喰らうかョォ!!!」

 咆哮が響いた。
 同時にヘリリアは両手に紅く流麗な双剣を作り出し、1つ目の球体を切り裂いた。

 圧縮された空気は本来の大きさに戻ろうと爆発を起こす筈――なのに、風一つ起こらなかった。

「その刀、衝撃を――」
「断つ!!!」

 2つ目のスフィアが斬られる。
 イグソーブ・ソードは衝撃を跳ね返す力があった。
 だが、今ヘリリアが持つ双剣は振動を殺し、固体化した空気の衝撃を全て殺しているのだ。
 斬られた空気はそのまま空間に留まり、真っ二つになった状態を保っている。

「【花浜匙はなはまさじ】、斬った物を停止させる剣さ。――そりゃあっ!!」

 残る【追尾球体バースト・スフィア】も、全て切り捨てられる。
 飛び道具では拉致があかない。
 ミズヤは刀を振り上げ、突撃した。

 キィインと、空に金属音が響き渡る。
 力はほぼ互角、だがヘリリアの武器は2本だ。
 右手で受けられ、左手から斬撃を放つ。

 ミズヤはその攻撃を正確に見る目がある。
 避けるのはたわいもなく、刀を弾き横に凪いだ。
 これは空を斬り、ヘリリアの半月を描く剣が迫る。

 キィインと、再び金属音のぶつかる音が響いた。
 ミズヤは刀を振り切っている、防ぐことはできない。

 空間に刀を生み出さなければ――

「【多天技たてんぎ】!」

 その魔法の名を叫ぶ。
 多天技――それは物質創造の黒魔法による、武器の生成――。

 新たに2つ、刀が空間に生まれ、ヘリリアに迫る。
 およそ人が刀を振るうのと同等の速度、1つは躱すも、ヘリリアは右手の剣を弾かれた。

「グッ――!」

 歯嚙みをしながら後退するヘリリア。
 だが、決着が付くのは弾かれた剣が落ちるよりも早くて――。

「終わりです」

 ミズヤはヘリリアの首筋に刀を当てながら、そう宣言するのだった。
 訪れる静寂、弾かれた剣は遠くの地面に突き刺さる。
 ジージーと虫の鳴く声すら聞こえる――そんな中、

「きゅぅぅううううううっ……」

 マヌケな声を出して、ヘリリアはパタリと仰向けに倒れるのだった。

「あらー……」

 急変した彼女の様子に、ミズヤは舌を巻いて倒れたヘリリアを見下ろすのだった。
 よくわからない幕引きだったが、ミズヤは魔法で彼女を持ち上げ、城へと戻るのだった。

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