連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第8話:帰ってからの、あっちとこっち

 環奈達が南大陸へと飛び立ち、既に1日が経過していた。
 城内は変わりなく平和だが、変化があるとすれば、ミズヤの部屋には人が集まっていることだろう。
 男女比は女性が9割で、その理由は彼の作るお菓子だった。
 ヘリリアとクオンが口外し噂となって広まったミズヤのお菓子を求め、多くの客が来ていたのだ。

「プリン追加で〜すっ」

 ミズヤのこの一言に、ワアッと歓声が上がる。
 彼が両手をピンと伸ばしてギリギリ持てるトレーにはびっしりとプリンが乗っている。
 しかし、すぐさまいくつもの魔の手が掴み掛かって、トレーの上はカラになっていた。

「……ひゃーっ」

 間抜けな声で驚くミズヤだったが、彼が目を丸くするのも仕方のないことだ。
 こんなにもお菓子が評判になるなど、知る由もなかったのだから。

 北大陸では砂糖の元となるテンサイがよく育つ。
 そのため甘い物は作れるが、技術と発想が貧しかったせいでケーキ以上のスイーツに発展しなかった。
 だからこそ、新しいお菓子を作るミズヤに人が集まったと言える。

「本日は閉店でーすっ。また明日作るから、仕事頑張ってください〜っ」
「ありがとうねミズヤくん。また来るわ」
「いやー、素晴らしかったわねー」
「レシピ貰ったし、私も実家で――」

 店でもないのに、閉店の合図でゾロゾロと部屋から人が出て行く。
 段々と人が消える中、1人の人物が残った。
 それはラナの側近である、プロンという栗色の髪を持つ少女だった。

「ねぇねぇミズヤ〜、今すぐ何個か作ってヨ〜。ラナ様にもお土産に持っていきたいんだよね〜」
「今から作るとだいぶ時間が掛かるけど、それでも良いなら……」
「ん〜……。まだ日没直後だし、時間は平気っしょ。ここで待ってるからさぁ〜、作ってぇ〜」
「は、はい……」

 ギャル風の話し方に屈し、ミズヤは部屋備え付けのキッチンで料理を始めた。
 サラは退屈に思ったのか、静かに部屋を出てしまった。

 小麦粉をボウルに入れている最中の事、ミズヤの耳に琴線を鳴らす音が届いた。
 振り返れば、プロンがハープを弾いていた。
 胸の中に収まるサイズ、青い天使の彫刻が載っているハープからは、彼女が弾いたと思えないほど優しい旋律が響き渡る。

「……楽器を、弾くんですね」
「何言ってんノ〜? この世界で楽器を弾けない奴なんて、あんまり居ないっしょ。【サウドラシア】というこの世界は、昔から音楽文化が盛んだったんだし〜」
「……そうなの、かなぁ」

 ポロロンとまた線を鳴らし、プロンはミズヤの言葉に頷いた。

「貧民は知らないけどさぁ〜、口笛とか草笛とか、誰でも弾けるんじゃない? クオン様もそのうち何か弾くみたいだし〜」
「ラナさんは、何が弾けるの?」
「…………」
「…………?」
「……秘密〜」

 呟き、またハープを弾く。
 彼女が開けた間が気になるも、ミズヤは深入りしなかった。

 それからミズヤは静かにお菓子作りをして、プロンはずっとハープを弾いていた。
 天使が織りなすような温かい音色を奏で続け、お菓子も完成する。
 ミズヤは作ったプリン、マシュマロ、カップケーキを箱に詰めてプロンに渡した。

「ありがとぅねぇ〜♪ ラナ様もきっとお喜びになられるヨ」
「だといいんですけどね……。では、また来てくださーいっ」
「かしこまり〜んっ♪」

 プロンは意気揚々と鼻歌交じりに退室して行った。
 ミズヤは1時間で3種のお菓子作成に疲れ、ため息をこぼす。
 と、下に目線を落とせばちょうどサラが戻って来る所だった。

「おかえり、サラっ」
「ニャーッ」
「どこ行ってたのー? 楽しかった?」
「ニャーッ」
「じゃあいいや。ごめんね、構ってあげられなくて。今日は残り時間、一緒にいよーねー」
「ニャーッ♪」

 甘えるように鳴いてミズヤの足元に擦り寄り、ミズヤはそんなサラを抱き上げた。
 それから1つ笑みを浮かべ、彼は漸く静かになった部屋に戻って行った。



 ◇



 他方、南大陸では

「オラオラ! 図が高いのよ瑛彦! 私は王女よ!」
「そんなんどーでもいいけどよー。あっついよマジで。これなんとかなんねーの?」
「だってさ沙羅」
「オーケー、しばくわ」

 宮廷の一室にて、金髪の少女のワンパンで瑛彦が吹き飛ぶのだった。
 というわけで、環奈や瑛彦達は南大陸の王女、サラ・ユイス・アルトリーユ――またの名を、“響川沙羅”という少女と再会していた。

「ゴフッ……」
「生まれ変わったっても、魔人の力は引き継いでんのよ。あんまりバカにすると、痛い目みるわよ?」
「もうみてるから……ガクッ」

 瑛彦が力なく倒れるも、誰も彼に駆け寄る事はなかった。
 死にはしないだろう、そんな楽観的な気持ちでこの茶番に望んでいるのだから。

「さてさて……にしても、よく2日で来られたわね。お疲れ様」

 改めてサラは、先ほど訪問した同郷の友人達にねぎらいの言葉をかける、
 環奈達は西大陸に寄り道して一泊し、それから南大陸へとやってきたのだ。
 1日2日で大陸を渡る、それだけの魔力は環奈にあっても、その他の者にはない。
 しかし、今しがた吹き飛ばされた瑛彦は人を雷に変え、一瞬で数万キロ移動できる。
 そのため、4人は割とのんびりしながらアルトリーユに来られた。

「大して疲れてないさね。瑛彦が移動ミスって海に落ちたぐらいしか辛いことなかったよ」
「そっ。なんにしても、北大陸ではアンタら大変だったでしょ? アルトリーユは戦争なんてやってないし、ゆっくりしていくといいわ。帰りたかったら好きに帰っていいし」
「……だってさ。みんなどうするよ?」

 環奈がサラの質問をみんなに流す。
 まず答えたのはキトリューだった。

「俺は帰らん。西大陸が気になるからな。環奈も残れ」
「えっ……か、環奈ちゃんが残るなら、私も……」
「理優が残るなら瑛彦も残るか。……って事で沙羅。今後ともよろしく〜」
「りょーかい。環奈は悪幻種だし、何かと国に置いとく理由にはなるでしょ」
「歩く危険生物ですわー」

 呑気に返す環奈だが、現状アルトリーユの戦力はバスレノス全体すら凌ぐ勢いである。
 環奈達もこの【サウドラシア】に留まることが決定し、雑談に移行する。
 瑛彦が気絶してる今、女子の中に混じりにくいキトリューは静かに椅子に座って、本棚から一冊手に取り読みふけるのだった。

「サラもさ、今12歳? 頑張れば胸も大きくなるんじゃない?」
「色々試してるけど、全然大きくなるきざしがないわ。理優も環奈もどうしてそんなにおっきくなんのよ?」
「私のは普通ぐらいだよ……? でも、環奈ちゃんは大きいよねぇ〜」
「ウチは親が大きかったし、いっぱい食べてたからね〜。食べた分だけ運動というか、走り回ってたし、体型はずっとこんな感じよ」
「要するに、いっぱい食えばいいのね。これで胸出なかったら恨むわよ」
「いや、ウチを恨まれてもねぇ……」

 環奈は苦笑しつつ、こんな言葉を漏らした。

「あと、揉んでもらえばおっきくなるって聞いたよ?」
「揉んでくれるべき相手が北大陸にいるんだけど?」
「ウチと理優で揉みほぐしてやろう。さぁ理優、サラはウチが抑えとくからどうぞどうぞ」
「えっ、いや、ちょっ……」

 サラは瞬時に背後を取られ、両手を拘束される。
 同じ魔人の環奈に両手を掴まれ、逃げることができずに胸をいじくりまわされるのだった。

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