連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜
第5話:集合
「サラにゃー、手を出してくださいですにゃ」
「ミャー?」
「肉球ぷにぷに。サラの手は柔らかいですにゃあ〜♪」
「…………」
ミズヤのやわっこい指がふにふにとサラの肉球を触る。
サラとしては何とも言えない気持ちで嫌ではないからされるがままにされるのだった。
「サラにゃー、ボールで遊んだりする? サラにゃーは中身が人間だから、やらないかな?」
「ニャーッ」
「そうだよねー……でもいいや。おいで」
両手を広げられ、ピョンとサラが跳ねてミズヤの胸に収まる。
ミズヤは胸の中で動く小さな命をギュッと抱きしめて、頬ずりをしながら背中を愛撫した。
血濡れだった部屋は片付いて綺麗になったミズヤの自室、あれから丸一日経って、2人はずっと一緒に居て、まるで愛し合っているようにも見えた。
「サラにゃー、僕も早く本物の君に会いたいなーっ」
「ニャー?」
「だって、やっぱりお喋りしたいもん。サラだって僕に言いたい事、たくさんあるだろうし……それに、サラの鳴き声は凄く綺麗だから、君の声が聴きたいな……」
「…………」
べしべしとサラはミズヤの顔を叩く。
その力は弱く、サラが照れてるのが伺えたのだった。
ミズヤは照れたねこさんが愛くるしくて、ぎゅーっと抱きしめるのだった。
「ミズヤァー、入るよー」
「ん?」
ノックもなしに声だけを放たれ、閉ざした扉が勢いよく開かれる。
扉の向こうからは、ゾロゾロと人が入ってくるのだった。
「おー……その様子だと、もう平気そうじゃんね」
先頭に立つ黒髪の少女、環奈がヘラヘラしながら言う。
彼女のすぐ後ろにはキトリューが立って居て、さらに背後にはミズヤも対峙した人物が立っていた。
「おーっす、瑞っち。数日会わねぇだけで違和感あるな、マジで」
軽いノリで挨拶をしてくる、白ワイシャツにスラックスを履いた学生服の男。
髪を逆立てながらも両分けした黒髪には見覚えがあり、ミズヤは少年の名を言い当てる。
「瑛彦……さん?」
「そうそう。でも、さん付けはやめろよなテメー」
「え、あ、うん……?」
何故この人がここに――ミズヤがまず抱いた疑問だったが、また次の疑問が頭の浮かぶ。
それは、瑛彦の腕に抱きついた女性だった。
ボブカットの黒髪でおっとりとした様子、環奈と同じ学生服を着ていることから、【ヤプタレア】の人だということは理解できたが、今のミズヤは彼女を知らない。
そこで環奈が少女を指差して紹介する。
「この世界のミズヤは知らんのかもしれんけど、この子は【ヤプタレア】でウチらと同じ部活のメンバーだった、工藤理優。瑛彦と一緒に召喚されたらしくてさ、周りが知らん人ばかりだから怖いみたい。あんさんと同じゆるほわ系だから、仲良くしたげて」
「え……は、はぁ……」
同じと言われても困り、曖昧な返事しか返せなかった。
それでも環奈はうんうんと頷いて、瑛彦と理優を前に突き出す。
「ほれ、なんか話すこともあるでしょ」
「いや、今のミズヤと何話せっつーんだよ」
「理優がメインで話したげて。ウチらはちょいとここの偉い人んとこに、あんさんらのこと報告してくるから」
『ええ〜?』
展開が急過ぎてどうすればいいかわからず、瑛彦と理優、ミズヤの3人は口を揃えて嘆いた。
しかし環奈は待つことなく、キトリューと一緒にスタコラ部屋を出て行ってしまう。
残された3人と1匹は困っていたが、サラがミズヤの胸から抜け出し、3人の間に躍り出る。
「みゃーん」
なんとも可愛らしくサラが鳴き、その場にうずくまる。
その様子を見ていた理優という少女は硬直し、サラを凝視したまま動かなくなった。
「あーっ、サラにゃーそのまま寝たら風邪引きますにゃ」
ミズヤがねこっぽく話してサラに毛布を被せる。
そしてその横にミズヤも寝そべり、目を瞑ったサラの頭を優しく撫でて微笑む。
寝転がった1組を見て、瑛彦が座り、続いて理優も床に座った。
「……暇だな」
「そ、そうだね」
瑛彦の呟きに、理優が同調する。
ミズヤに会わされたものの、目の前で猫と毛布にくるまっていては何もできない。
「みーずやくーんっ」
理優がそっと左手を出し、ミズヤの首を撫でる。
するとミズヤは微笑んで理優の人差し指を咥えた。
「……可愛い」
「そんなことしてないで、もう起こしちゃえばよくね?」
「え? ああっ!」
瑛彦がパシッとミズヤの頭を叩き、毛布を剥ぎ取る。
するとサラがぐるりと半回転し、お腹が上になって寝転んだ。
「うに〜っ」
ミズヤも転がり、両腕を前に出してうつ伏せに倒れた。
伸びる猫のようにぐったりとしていたが、やがてパチパチと目を開いて起き上がる。
「んー……なんですにゃ?」
「起きろよ瑞っち。理優っちに挨拶しろって」
ミズヤが起きて座ると、サラも起きてミズヤの膝の上に頭を乗せる。
そのサラの両脇を、理優がひょいっと取った。
「この猫さん、とても可愛い〜っ! サラちゃんって言うの? ミズヤくんにピッタリなねこさんだね!」
「んん? 君も僕のこと知ってるの?」
「うん。私ともお友達だったんだよ?」
「ふむふむ。サラにゃー、わかる?」
ミズヤはサラに確認すると、サラはコクリと頷いた。
その様子に理優はサラの状態を察する。
「……沙羅ちゃん、ねこになっちゃったの?」
「このねこさんは遠隔操作なんだって〜。本体は南の大陸にいるんだよ」
「こっち北大陸だから……えっ、凄く遠いね」
慄く理優だが、【サウドラシア】自体の球半径は【ヤプタレア】に比べると短いため、それほど遠いわけでもない。
数千kmというのは変わらないのだが。
「でもでもっ、この沙羅ちゃん……サラちゃん? とても可愛いよ。毛ふわふわ〜っ!」
「サラはとっても可愛いねこさんなのですっ」
2人して猫を愛であい、その中心にいるサラは退屈そうに目を細めていた。
朗らかな空気の中、瑛彦は暇そうに寝転がるのであった。
◇
「フッ――!」
ドライブ・イグソーブを振るい、空気が吹き荒れる。
カカッと高速にボタンを連打し、空に向けて衝撃波を放った。
そこから2つ目のドライブ・イグソーブを中心に体を撓らせ2発の蹴りを放った。
さらに身を転じて重機を振り下ろしながら着地する。
「精が出るな」
頬に汗を伝す少女を見て、少年はそう呟いた。
少年の存在に気付くと、彼女は自主訓練を取りやめて少年を見る。
「なんだトメス。相手になりたいのか?」
「いや、俺はいい。よくもまぁ我が姉は強くなろうと努力するものだと、感心するまでさ。あまり気合を入れすぎて、いざという時に動けなくては困るぞ?」
「……そんな心配をされるほど、私はヤワではない」
ボヤき混じりの声と共に、ラナはトメスタスへとドライブ・イグソーブを片方投げた。
重い鉄の塊だが、トメスタスは瞬時に赤魔法で肉体を強化して受け止める。
「……おいおい、なんの真似だ? 俺はやらんと言ったはずだが?」
「いいから、たまには姉に付き合え。お前とはもう何年もやってないだろうが」
「おぉ、姉上よ。そんなに弟をいたぶるのがお好きか」
「お前をいたぶる分には良心は痛まぬよ」
「酷いな……」
自分の扱いに悲しさを覚えながらも、トメスタスはラナの居る中庭へと足を踏み入れた。
イグソーブ武器を使った模擬戦――だか、少しのミスで大事故に繋がる戦いになるだろう。
「覚悟は良いな、トメスタス」
「ああ、はいはい。さっさと始めようぞ、姉上」
互いに武器を構える。
睨みにも似た視線が交錯し、やがてどちらともなく足を踏み出した。
「ミャー?」
「肉球ぷにぷに。サラの手は柔らかいですにゃあ〜♪」
「…………」
ミズヤのやわっこい指がふにふにとサラの肉球を触る。
サラとしては何とも言えない気持ちで嫌ではないからされるがままにされるのだった。
「サラにゃー、ボールで遊んだりする? サラにゃーは中身が人間だから、やらないかな?」
「ニャーッ」
「そうだよねー……でもいいや。おいで」
両手を広げられ、ピョンとサラが跳ねてミズヤの胸に収まる。
ミズヤは胸の中で動く小さな命をギュッと抱きしめて、頬ずりをしながら背中を愛撫した。
血濡れだった部屋は片付いて綺麗になったミズヤの自室、あれから丸一日経って、2人はずっと一緒に居て、まるで愛し合っているようにも見えた。
「サラにゃー、僕も早く本物の君に会いたいなーっ」
「ニャー?」
「だって、やっぱりお喋りしたいもん。サラだって僕に言いたい事、たくさんあるだろうし……それに、サラの鳴き声は凄く綺麗だから、君の声が聴きたいな……」
「…………」
べしべしとサラはミズヤの顔を叩く。
その力は弱く、サラが照れてるのが伺えたのだった。
ミズヤは照れたねこさんが愛くるしくて、ぎゅーっと抱きしめるのだった。
「ミズヤァー、入るよー」
「ん?」
ノックもなしに声だけを放たれ、閉ざした扉が勢いよく開かれる。
扉の向こうからは、ゾロゾロと人が入ってくるのだった。
「おー……その様子だと、もう平気そうじゃんね」
先頭に立つ黒髪の少女、環奈がヘラヘラしながら言う。
彼女のすぐ後ろにはキトリューが立って居て、さらに背後にはミズヤも対峙した人物が立っていた。
「おーっす、瑞っち。数日会わねぇだけで違和感あるな、マジで」
軽いノリで挨拶をしてくる、白ワイシャツにスラックスを履いた学生服の男。
髪を逆立てながらも両分けした黒髪には見覚えがあり、ミズヤは少年の名を言い当てる。
「瑛彦……さん?」
「そうそう。でも、さん付けはやめろよなテメー」
「え、あ、うん……?」
何故この人がここに――ミズヤがまず抱いた疑問だったが、また次の疑問が頭の浮かぶ。
それは、瑛彦の腕に抱きついた女性だった。
ボブカットの黒髪でおっとりとした様子、環奈と同じ学生服を着ていることから、【ヤプタレア】の人だということは理解できたが、今のミズヤは彼女を知らない。
そこで環奈が少女を指差して紹介する。
「この世界のミズヤは知らんのかもしれんけど、この子は【ヤプタレア】でウチらと同じ部活のメンバーだった、工藤理優。瑛彦と一緒に召喚されたらしくてさ、周りが知らん人ばかりだから怖いみたい。あんさんと同じゆるほわ系だから、仲良くしたげて」
「え……は、はぁ……」
同じと言われても困り、曖昧な返事しか返せなかった。
それでも環奈はうんうんと頷いて、瑛彦と理優を前に突き出す。
「ほれ、なんか話すこともあるでしょ」
「いや、今のミズヤと何話せっつーんだよ」
「理優がメインで話したげて。ウチらはちょいとここの偉い人んとこに、あんさんらのこと報告してくるから」
『ええ〜?』
展開が急過ぎてどうすればいいかわからず、瑛彦と理優、ミズヤの3人は口を揃えて嘆いた。
しかし環奈は待つことなく、キトリューと一緒にスタコラ部屋を出て行ってしまう。
残された3人と1匹は困っていたが、サラがミズヤの胸から抜け出し、3人の間に躍り出る。
「みゃーん」
なんとも可愛らしくサラが鳴き、その場にうずくまる。
その様子を見ていた理優という少女は硬直し、サラを凝視したまま動かなくなった。
「あーっ、サラにゃーそのまま寝たら風邪引きますにゃ」
ミズヤがねこっぽく話してサラに毛布を被せる。
そしてその横にミズヤも寝そべり、目を瞑ったサラの頭を優しく撫でて微笑む。
寝転がった1組を見て、瑛彦が座り、続いて理優も床に座った。
「……暇だな」
「そ、そうだね」
瑛彦の呟きに、理優が同調する。
ミズヤに会わされたものの、目の前で猫と毛布にくるまっていては何もできない。
「みーずやくーんっ」
理優がそっと左手を出し、ミズヤの首を撫でる。
するとミズヤは微笑んで理優の人差し指を咥えた。
「……可愛い」
「そんなことしてないで、もう起こしちゃえばよくね?」
「え? ああっ!」
瑛彦がパシッとミズヤの頭を叩き、毛布を剥ぎ取る。
するとサラがぐるりと半回転し、お腹が上になって寝転んだ。
「うに〜っ」
ミズヤも転がり、両腕を前に出してうつ伏せに倒れた。
伸びる猫のようにぐったりとしていたが、やがてパチパチと目を開いて起き上がる。
「んー……なんですにゃ?」
「起きろよ瑞っち。理優っちに挨拶しろって」
ミズヤが起きて座ると、サラも起きてミズヤの膝の上に頭を乗せる。
そのサラの両脇を、理優がひょいっと取った。
「この猫さん、とても可愛い〜っ! サラちゃんって言うの? ミズヤくんにピッタリなねこさんだね!」
「んん? 君も僕のこと知ってるの?」
「うん。私ともお友達だったんだよ?」
「ふむふむ。サラにゃー、わかる?」
ミズヤはサラに確認すると、サラはコクリと頷いた。
その様子に理優はサラの状態を察する。
「……沙羅ちゃん、ねこになっちゃったの?」
「このねこさんは遠隔操作なんだって〜。本体は南の大陸にいるんだよ」
「こっち北大陸だから……えっ、凄く遠いね」
慄く理優だが、【サウドラシア】自体の球半径は【ヤプタレア】に比べると短いため、それほど遠いわけでもない。
数千kmというのは変わらないのだが。
「でもでもっ、この沙羅ちゃん……サラちゃん? とても可愛いよ。毛ふわふわ〜っ!」
「サラはとっても可愛いねこさんなのですっ」
2人して猫を愛であい、その中心にいるサラは退屈そうに目を細めていた。
朗らかな空気の中、瑛彦は暇そうに寝転がるのであった。
◇
「フッ――!」
ドライブ・イグソーブを振るい、空気が吹き荒れる。
カカッと高速にボタンを連打し、空に向けて衝撃波を放った。
そこから2つ目のドライブ・イグソーブを中心に体を撓らせ2発の蹴りを放った。
さらに身を転じて重機を振り下ろしながら着地する。
「精が出るな」
頬に汗を伝す少女を見て、少年はそう呟いた。
少年の存在に気付くと、彼女は自主訓練を取りやめて少年を見る。
「なんだトメス。相手になりたいのか?」
「いや、俺はいい。よくもまぁ我が姉は強くなろうと努力するものだと、感心するまでさ。あまり気合を入れすぎて、いざという時に動けなくては困るぞ?」
「……そんな心配をされるほど、私はヤワではない」
ボヤき混じりの声と共に、ラナはトメスタスへとドライブ・イグソーブを片方投げた。
重い鉄の塊だが、トメスタスは瞬時に赤魔法で肉体を強化して受け止める。
「……おいおい、なんの真似だ? 俺はやらんと言ったはずだが?」
「いいから、たまには姉に付き合え。お前とはもう何年もやってないだろうが」
「おぉ、姉上よ。そんなに弟をいたぶるのがお好きか」
「お前をいたぶる分には良心は痛まぬよ」
「酷いな……」
自分の扱いに悲しさを覚えながらも、トメスタスはラナの居る中庭へと足を踏み入れた。
イグソーブ武器を使った模擬戦――だか、少しのミスで大事故に繋がる戦いになるだろう。
「覚悟は良いな、トメスタス」
「ああ、はいはい。さっさと始めようぞ、姉上」
互いに武器を構える。
睨みにも似た視線が交錯し、やがてどちらともなく足を踏み出した。
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