連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第21話:心

 何故だろう、こんなにうるさい筈なのに、とても静かに感じるのは。
 ザッ、ザッと歩いていると、ちっちゃな岩が1粒、足の近くに落ちた。

「……危ないなぁ」

 ポツリと呟いて、僕はその小石を消した・・・
 なんで石なんかが降ってくるんだろう、僕はただ廊下・・を歩いているだけなのに。

 また僕は歩く。
 すると、気絶している瑛彦を見つけた。

「……ちょっと、瑛彦〜っ。もうっ、君はいつもお寝坊さんなんだから……」

 揺さぶっても起きやしない。
 仕方ないから放っておくとして、そういえばと周りを見渡すと、なんだか人が多いし、ここは広い。
 僕は――校庭に来てたんだっけ?

「――あれ?」

 次は環奈とキトリューさんを見つけた。
 2人とも疲れてるように見えるし、環奈は寝ちゃってる。
 瑛彦じゃないんだから、こんな所で寝てると風邪を引いちゃう。
 起こさないと。

「“環奈、起きて”」

 僕が声をかけると、すぐにキトリューさんが顔を上げて僕を見た。
 次に、環奈がゆっくりと目を開ける。

「――ミズヤ、お前……」
「なんですか、キトリューさん?」
「……いや、そうか。不死だったな、お前は」
「……? はい、そうですよ。あはははは」

 答えてあげると、キトリューさんの顔色がまた悪くなる。
 あれ? 正しく答えてあげたのに、なんでだろう。
 まぁいいや、“超能力”使えば。

「キトリューさん、あと環奈も。気分悪そうだから、治してあげるね」
「……?」
「ミ……ズヤ? アンタ、何言って……」

 僕は超能力を使い、2人の体調を良くしてあげた。
 魔力が無かったらしい、魔人は大変だなぁ。

「そういえば、沙羅はどこ?」
「……ミズヤ? アンタ、さっきから何言ってんの?」

 調子を戻した環奈が立ち上がり、僕に質問を返す。
 あれ……僕、なんか変な事言ったかな?

「ほら、沙羅だよ。金髪の、僕の……」

 それ以上、言葉が出なかった。




 あれ?




 響川沙羅って、誰だっけ――?










「ミズヤ! しっかりしなって!!」
「!?」

 気がつくと、僕は環奈さんに肩を揺さぶられていた。
 にゃ!? な、なんですにゃ!!?

「にゃぁぁぁあ!!? やーめーてー!」
「うわ、起きた! 立ったまま気絶しない! ほら、超能力取り戻したんならあの岩消す!」
「……超能力ですにゃ?」
「…………」

 バシッと一発ビンタを喰らう。
 え、なっ、なんでしょう?

「じゃあみんな死ぬじゃん。まぁいっか、沙羅がウチとキトリュー生き返らせてくれるし」
「えっ!? なんで死、ぬ……ん?」

 そこで漸く、やたら暗い事に気がつく。
 顔を上に上げると、そこには視界を覆うほど大きな岩があって――

 ドクン――

 心臓が大きく動悸した。
 このままだと大勢の人が死ぬ。
 食材のために生きてきた僕にはそれが耐え難いこと。
 なんでこんな目にあってるのかはわからないけれど、とにかく、何とかしなくちゃいけない。

「【羽衣天韋はごろもてんい】――って、あれ?」

 羽衣を展開しようとして、自分が身につけていないことに気付く。
 そして漸く思い出した。

 僕は、メイラに殺されたんだと。

 でも、殺されることで贖罪は果たした。
 今この行いは、僕の単なる善意だ!

「ヤーシャさん! 神楽器達を返してください!」
「!? ミズヤくん!? 貴方、死んだんじゃ――」
「早く! 僕ならアレを何とかできます!」
「! ……えぇ、頼んだわ!」

 羽衣、刀、ヴァイオリンの全てを投げられる。
 僕はそれらを飛び込んで受け取り、刀を構えた。

「【羽衣天技】――【八千隔遠はっせんかくえん】!!」

 ミズヤは今にも落ちそうなその隕石に向け、両手を翳した。
 その手からは銀色の光が放たれ、隕石に着弾する。

 途端、隕石は姿を消し、月夜が戻ってきた。
 人々の影となっていた隕石は、一瞬にして姿を消してしまったのだ。
 誰もが目を疑い、同時に、ミズヤの力の恐ろしさを感じていた。

「……ふぅ。これでいいかな?」
「ん、よくやった。褒美をやろう」
「え……」

 ポンポンと環奈がミズヤの肩を叩き、ミズヤはよくわからずにはてなを浮かべるのだった。

「でさ、アンタ大丈夫? 沙羅のこと思い出した?」
「え、なんで? 全然覚えてないけど……僕、なんか言った?」
「や、覚えてないならいいんよ。ひとまず助かったわ」
「? うん」

 とりあえずミズヤは頷く。
 キトリューがボソッと「生死の境に居たから、無自覚に……」と言っていたのを耳にし、なんとなく何が起きたのかを察するのだった。



 ◇



「想定外、だな……」

 トメスタスは此処に来て漸く焦りを見せた。
 倒した環奈が復活し、神楽器を巧みに使うミズヤも復活したのだから。

 隕石すら消してしまうミズヤの力は脅威であり、彼がいるだけで勝ち負けを左右する。
 つまり、このままでは戦力的に、レジスタンスの勝ちは薄いのだ。

「……お兄様、どうします?」
「…………」

 妹の問いに答えられなかった。
 マズい――総大将である彼のその一言も戦況に影響するから。
 隕石すら避けられる、結界は効かない、最早なす術がないのだ。

『お困りのようだな』
「!? 貴様!?」

 影もなく現れてトメスタスの肩を魔王は叩いた。
 突然の事に驚きつつも、魔王が差し出してきた物に目を向ける。

『貴公に渡したものだ。しっかり持っていろ』
「…………」

 手渡しで受け取るのはアコースティックギターで、メイラに渡していた神楽器だった。
 魔王は誰も見ていないうちに回収していたのだ。

 これで今回、レジスタンスはメイラ以外に損害はなくなった。

『撤退しろ、トメスタス。この場は余が預かる』
「ッ……ここまでやって撤退? まだ暴れてない奴も大勢居る。こんなことで撤退などするわけ――」
『いや、それなら勝手にすればいい。ただ……』

 魔王が言葉を切ると、彼女の前方にはヒュンヒュンと音を立て、次々とソレが現れた。
 黒い骸骨が裾の広い袴を履き、背中などないソレは、人にはない黒翼を広げていた。

「人骸鬼――」

 その生命体の名を、トメスタスは口から漏らす。
 数は既に50体を超え、今尚増え続けている。
 人骸鬼はランクの高い魔物であり、何より

黒天の血魔法サーキュレイアルカ】が使えるのだ――。

「……状況は分かった。恩にきる、魔王」
『礼には及ばん。余が好きでやってることだ』

 魔王を一瞥し、トメスタスは踵を返して空を駆けた。
黒天の血魔法サーキュレイアルカ】の威力は、よく知るものが多いだろう。
 それが50、100――これだけの数撃たれれば、この辺りの地形は丸ごと吹っ飛ぶ。

「撤退だ!!! 人骸鬼の群れが現れた! また後日ここを狙うぞ!」

 高らかに宣言すると少しのざわめきの後にレジスタンスは撤退していくのだった。



 西方軍事拠点の方からしても、その光景は地獄に他ならなかった。
 人骸鬼はA級の魔物、そして環奈が使う【黒天の血魔法サーキュレイアルカ】の魔法を連発する力がある。
 数体ならまだわかる。
 今見えるのはおよそ100体――これで勝てるのだろうかと、そんな不安が彼らを襲った。

 しかし、その中でも全く別の考えを持つのが、2人――。

「フォルシーナさん……」
「生きてたんか」

 2年前に神楽器を託されたミズヤと、150年前に友人だった環奈は、神妙な顔付きで魔王を見据えるのだった。

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