連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第20話:4つ目の瞳

 空を駆ける黒い流星。
 環奈の放った【一千衝華】は空を煌めき、そして一瞬の輝きはすぐに消え去った。

 落ちてくる人影が1つ、その体は鎧の至る所が壊れ、血が至る所から噴出していた。
 落下する体に向け、環奈は【無色魔法】を発動する。

「【無色魔法カラークリア】、【重力低下グラビティ・ディクライン】」

 重力加速度の終端速度を極端に下げ、ゆっくりと降下させた。
 彼女の落下地点まで環奈はのんびりと歩いて行き、着地しそうなその刹那、刀を振るう。

「【羽衣正義】」

 先ほど外した一撃を、今度は確実に当ててみせるのだった。
 斬ることによる外傷はなし、だが

 メイラの六翼からは、黒い光が飛び出した。
 滝が逆流するような大量の悪魔力が世界を駆け巡る。

 悪意と善意の変換、世界の善悪量が平等のこの世界では、悪意を吐き出して善意を取り込むことが交換となる。
 一通りの黒い魔力が吐き出されると、次の瞬間には白い光の塊が、少女の翼へと飛び込んでいく。

 次こそは滝が落ちるように、その凄まじい風圧に環奈は気圧されることもなく、少女を見守る。
 白い光もやがて収まり、爆風が吹き荒れるとメイラの体からは黒い鎧が昇華し、桜色の地に倒れ伏した。

 衣服のない彼女に向け、環奈はジャージのジッパーを下ろして少女にバサリと掛けた。

「……ふぅ」

 一仕事終えたかのように息を吐き出し、彼女は【二千桜壁】を解除した。
 花びらの群れに隠されたバスレノス兵達も顔を覗かせ、戦いが終わったのかとざわつき始める。

 マナーズはミズヤの回復魔法も途中で、命に別状はないが未だ起きず、ヤーシャはすでに戦闘体勢に入っていた。

 対して、レジスタンス軍は特に焦りもなく、ダメだったか――程度の認識で、トメスタスは目下を見下していた。

(マナーズは戦闘不能……これは重畳だが、ここで大将クラスの戦力が“神楽器”を持って参戦か。ギターを回収して撤退するのが得策だが――)

 敵戦力で残る強者は環奈とキトリュー、そしてヤーシャのみ。
 キトリューが不参戦とすれば、たった2人。
 そしてレジスタンスの主戦力も、ミュベスとトメスタスの両名なのだ。

「――ここで西軍を潰しておくか」

 環奈は不明だが、ヤーシャならば勝てない相手ではないと踏み、その判断を下すのだった。

「“ブラッドストーンの瞳”」

 トメスタスの右目が黒と赤の禍々しい色に変化する。
 その宝石の瞳は強固の石言葉を持つ瞳で、彼は再び基地を包み込む大結界を張るのだった。
 そして次に、左目が輝く。

「“モルダバイトの瞳”」

 褐色の瞳を輝かせ、彼は空を仰いだ。
 チェーン、ブラッドストーン、サファイア、そしてモルダバイト。
 4つ目の瞳、その目の色を見たミュベスは不敵に笑った。

「終わりですわ、何もかも……」

 哀れむような言霊は、誰にも聞かれることなく消え去り、次の瞬間には空が瞬いた――。



 ◇



「まったくさぁ……」

 疲れを見せる環奈の声、それは空を見てのことだった。

 結界にフィットするほどの大きな岩――直径300mはあるだろう。
 緑褐色に光るその岩はまるで隕石のように、ゆっくりと落下しているのだった。

 あんな物が落ちてくれば全員が死に、基地も真っ平らになることは想像に難くない。
 幸いなのは隕石の降下がゆっくりであること。
 空から降ってくるソレが着弾するまで2分はかかるだろう。
 だから、彼女は飛んだ。

 一瞬にしてヤーシャの前に立つ環奈はすぐさま羽衣とヴァイオリンをヤーシャに押し付ける。

「アンタ強いっしょ!? 【羽衣天技】頼んだよ! ウチは【悪苑の殲撃シュグロード】とか【悪苑の剣戟グジャロード】とかで、アレぶっ壊すよ!」
「! えっ、ええっ! やるっきゃないわね!」

 絶望にしか見えない岩の塊、ぶっ壊すためには貫く貫通力がいる。
【羽衣天技】と【黒天の血魔法サーキュレイアルカ】の同時発動ならば――

「【黒天の血魔法サーキュレイアルカ】――」
「【羽衣天技】――」

 ヤーシャは刀を振り被り、環奈は両手に槍を構える。
 お互いに黒い魔力を放ち、2人の武器は漆黒に染まった。
 そして、放つ!

「【悪苑の殲撃シュグロード】!!!」
「【一千衝華】!!!」

 黒い槍が先行し、周りを回転しながら黒い魔力の塊が渦を巻いて進んでいく。
 一瞬のうちに衝突を起こし、爆音と爆風が世界を満たすのだった。

「やった……かな?」

 この世で最も強いと思われる2つの魔法を合わせた、それでも疑問に残り、環奈は何者にでもなく問う。
 やがて煙が晴れると、そこには――未だ降下し続ける、隕石が映るのだった。

「――イケそうじゃん」

 だが、その表面には深いクレーターができており、パラパラと石の破片が落下している。
 もう一撃で終わり、その筈なのだ。

「でもウチ……もう、撃てないや……」
「!!? カンナさん!?」

 一歩、二歩と歩き、環奈は前のめりに倒れた。
 どしゃりと地面に倒れる体、それを颯爽と現れたキトリューが拾い上げる。

「まったく、馬鹿な女だ。自分の魔力限界はわかってただろうに」
「……神楽器、あったし…………あの、ギターを…………」
「今のお前が40倍の魔力になっても付け焼き刃にしかならん、休んでろ」
「ッ……ウゥッ…………」

 環奈は目を閉じ、キトリューの胸の中で喋らなくなった。
 意識を失ったと知ると、キトリューはヤーシャに告げる。

「ヤーシャ殿、アレを壊してくれ。落ちる破片は俺が避けさせる。頼むぞ」
「……まったく、こちとら初めて使う武器だってのに……」

 文句を言いつつも他に手はなく、ヤーシャは再度刀を振りかぶった。

「【羽衣天技】――」

 そして再び、黒い魔力が刀に集い始める。
 大きな渦を巻いて集まり続ける黒い風は全て吸収を終えると、空に向けて刀を突きつける――。

「【一千衝華】!!!」

 黒い魔力の塊は流星の如くスピードで、隕石に衝突に――再び爆音を轟かせた。
 破壊を確認するまでもなく、粉砕された岩が散弾となって地上に迫る。

「【時間調節タイム・コントロール】!」

 しかし、全ての落石は時間がスローモーションとなった。
 だが時間が遅くなるからとはいえ、その威力が衰えるわけではない。
 だから、彼はまた魔法を使う。

「【無色魔法カラークリア】、【圧力減少フォース・ディクライン】」

 魔法名を唱えた刹那、隕石よりも下の空間に、幾重にも重なる薄緑の障壁が展開された。
 ゆっくりと落ちる岩の群れは障壁に侵入すると方向を変えつつ、さらにまた1枚と入るごとに力を小さく、方向を大きく変換させていくのだった。

「【時間調節タイム・コントロール】、【解除リリース】」

 広い空間でずっと時間を延滞させるのは魔力の消耗が激しく、彼は魔法を解いた。
 刹那、戻った時が落石を始めさせるも、その落下スピードはあまりにも遅かった。
 ズドン、ズドンと落ちる岩は当たることなく、結界の端に積み重なって行く。

「フーッ……やってくれるな……」

 汗を一粒垂らし、キトリューはその場に座り込む。
 魔力の消耗は皆激しく、バスレノス軍はイグソーブ武器を使う兵達の戦力が残されているものの、それだけではまだ――

 ゴォォォォオォ――

 二発目の隕石は、防げそうにない――。

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