連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜
第14話:サード・コンタクト④
教会側で戦う2人の足は止まっていた。
啖呵を切ったフィサの動きを待つミズヤは、ヴァムテルの妹ということから【青魔法】を使ってくると予想している。
魔法の属性は生まれた家系に依存するものであり、初陣の際【青魔法】を使ってみせたヴァムテルを、ミズヤは見ている。
加えて、あの巨漢は【無色魔法】で飛ぶことができず、ドライブ・イグソーブで跳躍するフィサもその限りではなかった。
「……行くよ」
武器を左手に、右手を空けてフィサが呟く。
対して、ミズヤは口を開かず、両手を広げて見せた。
それは「いつでもどうぞ」という、自信に満ちた挑発に等しかった。
「……いつまでも――」
右手を掲げ、呟くフィサ。
魔法により青く輝く右手が憤怒の顔を照らし出す。
「――ナメるな!!!」
光る右手を、彼女は大地へと押し付けた。
閃光のように輝く大地からは氷が地を埋め尽くして行き、ミズヤは即座に飛んだ。
無限に広がるように思えた氷の地表は街を覆うほどに広く行き渡り、ミズヤが着地すると、滑って転んでしまう。
突起や凹みのない、ツルツルとした平面の氷。
そこはもはや、スケートリンクのようであった。
「【青魔法】、【氷場】。楽に死ねると思わないで」
平静な口調でありながらも土器を含む彼女の言葉に、ミズヤは笑って返した。
「生憎と僕は死なないので、そもそも死ねると思っていませんよ」
彼にしてみれば、ただ事実を語っただけであった。
ミズヤは不死身である、よって死ぬことはない。
だがフィサからすれば、依然とナメられてるとしか受け取れない――。
「……なら、とりあえず」
踏み込みながら、彼女はそっと呟く。
フィサの履いたヒールの高い靴には、先程までなかったエッジが付いており、進めばもう止まらない。
「絶望しなさい!」
ドライブ・イグソーブを噴射させ、彼女は飛び出した。
氷のブレードが付いた靴で氷上を滑る彼女だが、その速さは異常であった。
(単調だなぁ……)
しかし、ミズヤには見える。
フィサの動きはマナーズやキトリューを下回るものであり、【赤魔法】の強化よりも少し速い程度である。
だからこそ残念であったが、勝負は勝負だと、ミズヤは刀を構えた――
「あれ?」
しかし、その手が弾かれた。
フィサはまだここまで来ていない。
何が起きたのかと、ミズヤは振り返る。
彼の手の方へ、氷柱が地面から生えていたのだ。
「――ッ!」
大地全てが自身の敵――そう考えるまでもなくミズヤは飛んでいた。
ビキビキと次なる氷柱が何本もミズヤを襲い、氷柱の上をフィサが走る。
「【赤魔法】、【狂熱】!!」
幅5mを超える氷柱の群れに向かって、ミズヤは伸ばした手のひらから紫色の霧を生み出した。
魔法で生み出した視界を覆うほどの霧は、高温の待機であった。
その熱さ、鉄を溶かす1500度に相当する。
切り抜けることは不可能、氷さえも昇華してしまうものだ。
しかし、その霧の中に、フィサは突っ込んだ。
「えっ!?」
ミズヤも思わず口を開いて空中に止まる。
1500度の熱気の中をくぐり抜けることは、人間にはできない。
途中でドロッとしたものに変わってしまう、なのに――
「【青魔法】、【氷雪武装】」
彼女は出てきた。
氷の鎧でその身を包んで――。
ガンッと、ミズヤの左肩に重く鋭い一撃が掛かる。
フィサの蹴りが止まっているミズヤにぶつかり、吹き飛ばされたのだ。
ベッタリと血が彼の方から吹き出る。
ジャージに染み込む紅い血を見て、少年は下唇を噛みながら痛みを堪えた。
「……だから言ったんだ。私をナメるな、って……」
キィィィィ――
片手で氷柱を掴み、ドライブ・イグソーブを唸らせながら彼女は呟くのであった――。
◇
トメスタスによる全員後退の命が下されると、巨大な赤黒い結界が建物全てと戦う全ての人間を包み込んだ。
時折仲間を拾いながら撤退して行くレジスタンス達を追う西軍だが、レジスタンスは結界を通過できても彼らは引っかかってしまう。
“鎖の瞳”、そして“ブラッドストーンの瞳”の同時発動。
トメスタスの2つの眼が光り出しているのであった。
脱出させず、壊させず――出ることのできない結界を生み出していた。
「……なんなんスか、マジで」
空飛ぶレジスタンスを片っ端から叩き落としていたマナーズが不意に下を見る。
ヤーシャは依然として立ったままで、指示も指令もない。
「……待機してたら思う壺なんじゃないんですか、っと」
まるで瞬間移動かのように素早い動きで空を駆け、また1人イグソーブ・ソードで叩き落とす。
早いところ動かなければならないが、スピードタイプのマナーズではこの結界を破壊することは叶わないのであった。
一方、ヤーシャは思考を巡らせることもなく、そのまま待機していた。
クオンの脱出は先ほど確認し、それはトメスタスも同じだろうからこその撤退宣言。
(クオン様が逃げたから、大技でここを潰そうってことかしら?)
考えられるのはその戦法であった。
単純ではあるものの、力技で潰すことはレジスタンスにとって不可能ではないのだ。
例えば、この巨大な結界を“サファイアの瞳”を使い水で満たせば、結界内部の人間は皆殺しにできる。
しかし、それは考えにくいのであった。
「なんで彼は、“神楽器”を身に付けてないのかしら?」
純粋な疑問を口に出してしまう。
レジスタンス側も神楽器を1つ持っているのだ。
だがトメスタスは今それを身に付けていない。
少なくとも500㎥はあるこの巨大な結界を水で満たすには、それなりの魔力がいる。
ならば神楽器を付けていた方がいいのに――。
「一体誰が――持ってるのかしら?」
彼女が呟いた刹那
ソレは降ってきた。
ガンッ、という鋭い衝撃音が耳を撃つ。
ソレが落ちてきた屋上は貫通し、大穴が開いていた。
突然の物音に皆の視線が穴に集まる。
やがて、ゆっくりとソレは浮上してきた。
黒を基調とした服を身に付け、その上からはドス黒く、禍々しい鎧を身に付けている。
人型ではあったし、人だと認識はできるのだ。
しかし、その背からは6翼の黒い翼が生えていた。
漆黒のリングが頭上を浮く、その姿はまるで堕天使――否、それは違う。
「――Ahhhhhhhhhhhhhhhhhh!!!!」
あれは、悪魔のようだった――。
啖呵を切ったフィサの動きを待つミズヤは、ヴァムテルの妹ということから【青魔法】を使ってくると予想している。
魔法の属性は生まれた家系に依存するものであり、初陣の際【青魔法】を使ってみせたヴァムテルを、ミズヤは見ている。
加えて、あの巨漢は【無色魔法】で飛ぶことができず、ドライブ・イグソーブで跳躍するフィサもその限りではなかった。
「……行くよ」
武器を左手に、右手を空けてフィサが呟く。
対して、ミズヤは口を開かず、両手を広げて見せた。
それは「いつでもどうぞ」という、自信に満ちた挑発に等しかった。
「……いつまでも――」
右手を掲げ、呟くフィサ。
魔法により青く輝く右手が憤怒の顔を照らし出す。
「――ナメるな!!!」
光る右手を、彼女は大地へと押し付けた。
閃光のように輝く大地からは氷が地を埋め尽くして行き、ミズヤは即座に飛んだ。
無限に広がるように思えた氷の地表は街を覆うほどに広く行き渡り、ミズヤが着地すると、滑って転んでしまう。
突起や凹みのない、ツルツルとした平面の氷。
そこはもはや、スケートリンクのようであった。
「【青魔法】、【氷場】。楽に死ねると思わないで」
平静な口調でありながらも土器を含む彼女の言葉に、ミズヤは笑って返した。
「生憎と僕は死なないので、そもそも死ねると思っていませんよ」
彼にしてみれば、ただ事実を語っただけであった。
ミズヤは不死身である、よって死ぬことはない。
だがフィサからすれば、依然とナメられてるとしか受け取れない――。
「……なら、とりあえず」
踏み込みながら、彼女はそっと呟く。
フィサの履いたヒールの高い靴には、先程までなかったエッジが付いており、進めばもう止まらない。
「絶望しなさい!」
ドライブ・イグソーブを噴射させ、彼女は飛び出した。
氷のブレードが付いた靴で氷上を滑る彼女だが、その速さは異常であった。
(単調だなぁ……)
しかし、ミズヤには見える。
フィサの動きはマナーズやキトリューを下回るものであり、【赤魔法】の強化よりも少し速い程度である。
だからこそ残念であったが、勝負は勝負だと、ミズヤは刀を構えた――
「あれ?」
しかし、その手が弾かれた。
フィサはまだここまで来ていない。
何が起きたのかと、ミズヤは振り返る。
彼の手の方へ、氷柱が地面から生えていたのだ。
「――ッ!」
大地全てが自身の敵――そう考えるまでもなくミズヤは飛んでいた。
ビキビキと次なる氷柱が何本もミズヤを襲い、氷柱の上をフィサが走る。
「【赤魔法】、【狂熱】!!」
幅5mを超える氷柱の群れに向かって、ミズヤは伸ばした手のひらから紫色の霧を生み出した。
魔法で生み出した視界を覆うほどの霧は、高温の待機であった。
その熱さ、鉄を溶かす1500度に相当する。
切り抜けることは不可能、氷さえも昇華してしまうものだ。
しかし、その霧の中に、フィサは突っ込んだ。
「えっ!?」
ミズヤも思わず口を開いて空中に止まる。
1500度の熱気の中をくぐり抜けることは、人間にはできない。
途中でドロッとしたものに変わってしまう、なのに――
「【青魔法】、【氷雪武装】」
彼女は出てきた。
氷の鎧でその身を包んで――。
ガンッと、ミズヤの左肩に重く鋭い一撃が掛かる。
フィサの蹴りが止まっているミズヤにぶつかり、吹き飛ばされたのだ。
ベッタリと血が彼の方から吹き出る。
ジャージに染み込む紅い血を見て、少年は下唇を噛みながら痛みを堪えた。
「……だから言ったんだ。私をナメるな、って……」
キィィィィ――
片手で氷柱を掴み、ドライブ・イグソーブを唸らせながら彼女は呟くのであった――。
◇
トメスタスによる全員後退の命が下されると、巨大な赤黒い結界が建物全てと戦う全ての人間を包み込んだ。
時折仲間を拾いながら撤退して行くレジスタンス達を追う西軍だが、レジスタンスは結界を通過できても彼らは引っかかってしまう。
“鎖の瞳”、そして“ブラッドストーンの瞳”の同時発動。
トメスタスの2つの眼が光り出しているのであった。
脱出させず、壊させず――出ることのできない結界を生み出していた。
「……なんなんスか、マジで」
空飛ぶレジスタンスを片っ端から叩き落としていたマナーズが不意に下を見る。
ヤーシャは依然として立ったままで、指示も指令もない。
「……待機してたら思う壺なんじゃないんですか、っと」
まるで瞬間移動かのように素早い動きで空を駆け、また1人イグソーブ・ソードで叩き落とす。
早いところ動かなければならないが、スピードタイプのマナーズではこの結界を破壊することは叶わないのであった。
一方、ヤーシャは思考を巡らせることもなく、そのまま待機していた。
クオンの脱出は先ほど確認し、それはトメスタスも同じだろうからこその撤退宣言。
(クオン様が逃げたから、大技でここを潰そうってことかしら?)
考えられるのはその戦法であった。
単純ではあるものの、力技で潰すことはレジスタンスにとって不可能ではないのだ。
例えば、この巨大な結界を“サファイアの瞳”を使い水で満たせば、結界内部の人間は皆殺しにできる。
しかし、それは考えにくいのであった。
「なんで彼は、“神楽器”を身に付けてないのかしら?」
純粋な疑問を口に出してしまう。
レジスタンス側も神楽器を1つ持っているのだ。
だがトメスタスは今それを身に付けていない。
少なくとも500㎥はあるこの巨大な結界を水で満たすには、それなりの魔力がいる。
ならば神楽器を付けていた方がいいのに――。
「一体誰が――持ってるのかしら?」
彼女が呟いた刹那
ソレは降ってきた。
ガンッ、という鋭い衝撃音が耳を撃つ。
ソレが落ちてきた屋上は貫通し、大穴が開いていた。
突然の物音に皆の視線が穴に集まる。
やがて、ゆっくりとソレは浮上してきた。
黒を基調とした服を身に付け、その上からはドス黒く、禍々しい鎧を身に付けている。
人型ではあったし、人だと認識はできるのだ。
しかし、その背からは6翼の黒い翼が生えていた。
漆黒のリングが頭上を浮く、その姿はまるで堕天使――否、それは違う。
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あれは、悪魔のようだった――。
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