連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第7話:【羽衣正義】

 話も終わり、クオン一行は再び軍事拠点へ戻った。
 夕陽が落ちる頃には夕食を食べ、各々浴場へ向かった後に客室へ向かう。

  客室は個室が3つしかなく、その個室はクオンとヘリリアが。
 残りは相部屋であるが、ケイクとミズヤ、環奈とキトリューでペアになる。
 ミズヤとケイクは今日も交互に寝ることになるため、部屋を共有する時間は実質少ないのが実態である。

 やることも無く、すぐに訪れた夜は静かで平穏だった。
 今晩もミズヤとケイクは交互にクオンを見張り、廊下で部屋の前に座っていた。

「あーっ……これはこうですにゃーっ」

 ピッピッと【魔法入力板マジシャン・ボード】に文字を入力して遊び、そのモニターを閉じる。

「【黒魔法カラーブラック】」

 そして魔法を発動した。
【黒魔法】は影の操作、物質生成などの効果を持つ魔法。
 彼は自分の足元に手をかざし、ある物を作り上げた。
 それは、黒いサラの彫刻であった。

「……ちょいワルねこさんだね〜っ」

 言動が意味不明であるが、ミズヤはにこにこと笑って彫刻を撫で回す。
 本物のサラが既に寝てしまっているせいか、猫さんパワーが足りないらしい。

 1人で遊んでいると、前の夜のように足音が聞こえてくる。
 ただその足音も1つだけで、やって来た黒髪の少女をミズヤは見上げた。

「……あれー、どうしたにゃ?」
「や、ちょいと聞きたいことがあってね」

 半開きの瞳のまま、環奈はミズヤの正面に腰を下ろす。
 ポカンと口を開けたミズヤに向けて彼女は、遠慮も無く質問をした。

「あんさぁー、神楽器持ってんだっけ? やっぱりヴァイオリン?」
「え? うん、そうだけど……」
「へー、なるほどねぇ……。マフラーは巻いてるし、刀もあるんよね?」
「持ってるけど……」

【羽衣天技】の3点セットはミズヤもしっかり持っていた。
 楽器、刀、マフラーの3点はフォルシーナが授けたものであり、楽器などはかつて生活の糧にもなっていた。

 ミズヤにしては、なぜ環奈がこんな時間に1人で聞きに来たのかがわからなかった。
 怪しんで注意深く環奈を観察する。

「……ちょっと刀貸してくれる?」
「……なんで?」
「疑わんでよ。別に刺しゃあしないから。それともアレ? おっぱいとか触らせないと見せてくれない? しゃーないなー、サラもキトリューも見てない今ならちょっとぐらい……」
「あーもーいいですからっ、貸しますよぅ……」

 半ば強引に迫られ、渋々ミズヤは影から刀を取り出した。
 柄を環奈に持たせると、環奈はゲンナリとした表情を作って見せ、

 ポイッと刀を放り投げた。

「ええっ!?」

 驚いて廊下に落ちる刀を拾いに行くミズヤ。
 何故そんなことをしたのかわからなかったが、否、わからないからこそミズヤはほっぺを膨らませた。

「なんなの環奈ねこさん! あんまり悪いことすると、このちょいワルねこさんが怒るよ!?」
「何その彫刻……。まぁまぁ、悪かったね。その刀には嫌な思い出が――無いか。無いけど条件反射でね、うん」
「……?」

 環奈の言うことがよくわからず、ミズヤは首を傾げる。
 そんなミズヤを見て環奈は吹き出し、昔語りを始めた。

「ウチはさ、【サウドラシア】で生まれて、転生して【ヤプタレア】に生まれて、それでこっちに戻ってきた、って言ったっしょ? ウチはさぁー、【サウドラシア】の第一生でね、その刀で刺されたんよ」
「……え」

 驚きと共に、ミズヤは手に持った刀を見つめた。
 紫色の柄白銀の刀身と金色の鳴らない鈴が付いた刀。
 魔王フォルシーナが渡した刀――。

「アンタの御先祖……かな。ヤララン・シュテルロードと昔、ウチは戦ったんよ。そんでこの刀で刺された」
「……僕の先祖に、殺された、と?」
「イヤイヤ、違くてね……。この刀の能力知らない?」
「……ん〜?」

 見当もつかないミズヤだが、答えないばかりでは悪いので何かしら答えた。

「刀がお花になっちゃう?」
「わかんないなら答えんでいいからね?」
「ふにゃーっ……」

 門前払いを受け、コテンと倒れるミズヤ。
 そして猫の彫刻は環奈に奪われ、肘掛けにされる。

「ミズヤの頭でわかってるか知らんけど、この世界は善意と悪意が魔力になる。そして、その刀で生物を斬る時に、あるキーワードを言うと、斬った対象の善魔力と悪魔力を変換するんよ」
「……ん?」
「ようは良い心と悪い心を入れ替えちゃうってわけよ」
「おおっ、そうなんですにゃー」

 簡単に言われてやっと合点がいき、ポンっと相槌を打つミズヤ。
 しかし同時に、1つの疑問が浮かび上がる。

「じゃあ環奈さんって……」
「気付いた? ウチ元はチョー悪い奴ってね。あっはっはっはーっ」
「……刺されて嫌味な性格になったの?」
「いや、良い人になったつもりなんだけど。ミズヤがウチをどういう目で見てるんかよくわかったわ」
「ごめんなさい……」

 ギラリと目を光らせた環奈に対し、ミズヤは頭下げて謝罪するのであった。
 とはいえ、過去にちゃんと環奈の悪意と善意が変換された――というわけでも無いのだがそれはまた別の話。
 環奈は「まったく」と言わんばかりにため息を吐き、そのまま立ち上がる。

「なんにしても、その刀は危ないからね。善悪を反転させる技、【羽衣正義】は出来うる限り使わんでね」
「……【羽衣正義】ですにゃー?」
「うん。ま、そんだけよ。じゃあね」
「はーいっ」

 環奈はそのまま踵を返して寮室に戻って行った。
 1人になったミズヤは刀を見つめるも、事の重大さがあまりわからず、すぐに仕舞うのであった。



 ◇



「いやー、ほんと助かりました。キトリューさんや環奈さんが計算凄くできて本当ありがたかったですよ」

 遠征2日目の昼頃、昨日まで溜まっていた書類の山を全て処理し、ヤーシャ含むクオン達7人は食堂で昼食を取っていた。

 中でも書類をよくさはいたのはキトリュー、次点に環奈であった。
 イグソーブ武具の発注申請や簡単な計算をこなし、内容の判断も素早かった。
 というのも、【ヤプタレア】では環奈はバイトを、キトリューは生徒会をやっており、書類に付いては完璧であった。

 義務教育など無い【サウドラシア】では計算が特に弱い。
 そのため、計算ができない面々は署名や押印を主に担当し、クオンやケイク等は疑問があればすぐヤーシャに尋ねて書類を潰していった。

 ミズヤも第一生において二次関数程度なら解けたため、苦戦することもなかった。
 内容がわからないものはクオンに任せていたが。
 ヘリリアも無難にこなし、今はモグモグとパスタを食べている。

「異世界って凄いんですね〜……」
「どーもー」
「…………」

 クオンが褒めると、環奈はヒラヒラと手を振って笑い、キトリューは無言で茶を啜る。
 文化レベルで言えば、携帯電話が普及する科学レベルの【ヤプタレア】は【サウドラシア】より良いのは違い無い。

「それでは折角の遠征ですし、今日はうちの訓練を見学して行ってください。ここ西軍は、かなり強いですよ――」

 ヤーシャは皆にそう告げて笑う。
 かなり強い――その意味を彼らは、すぐ知ることとなる。

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