連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第16話:また友達がやって来た

 結局ミズヤは報告書を書く事ができず、そのまま夜になった。
 サラに人間の知性があると知ったからといって、ミズヤはサラへの態度を改めたりはしていない。
 それはミズヤとサラが今まで過ごした時間を無碍にする事であったし、サラ自身が嫌がってなかったから。

 そのような事がありながらも、ミズヤは城全体の集会という事で、外にある第一広場に来ていた。
 今日もほどよく晴れ、薄く青い月が柔らかな光で世界を包む。

「こんな月の日はお団子だよね〜っ」
「ここで食べないでくださいよ……」
「ミズヤくん、その……わ、私にも……」

 広場の前には皇族とその護衛が並び、クオンとその側近は1番端っこに居た。
 そんななかでミズヤはみたらし団子を口にし、ヘリリアが物欲しそうに涎を垂らしている。

「……クオン様、奴らはほっときましょう」
「そうですね……」

 ケイクに促され、クオンも諦めて前方を見た。
 この第一広場には今、円を描くように人が並び、およそ数百人の人間が居る。
 見学者も多いが、城の兵士は大半が円を作っていた。

「あぁ〜、お茶が美味しい〜っ」
「これ、ミズヤくんが淹れたんだよね? 美味しいよ〜」

 そんな中でもミズヤと、お団子にお茶までもらったヘリリアはほのぼのと月見をしていた。

「……ところで、ヘリリアさん。これ、何するの?」

 今からする事を聞いていないミズヤは、ヘリリアに尋ねた。
 ヘリリアも確信を持っていないのか、目を上に逸らしながら話す。

「うんと……なんかね? 昨日私達が捕まえたレジスタンスが、“召喚魔法を使って人を召喚した”って言うから、こっちも召喚しようって……」
「え……」
「ま、ままま間違ってたらごめんね!!? その時は私を蹴っていいですぅ〜っ!」
「…………」

 うずくまるヘリリアを無視し、ミズヤは立ち上がった。
 召喚魔法――もしそれで召喚したとして、バスレノスでは召喚した人を帰らせる手段があるだろうか?
 瑛彦はミズヤに、帰る事のできない現状も語っていた。
 だからこそ止めたい――しかし。


 ミズヤは、“もしまた自分を知る人が召喚されたら”と、そんな希望があった。
 他の世界の自分は、霧代と和解したという事を、サラとの問答である程度わかっていた。
 だからもっと話を聞きたい――その欲望が彼にはあったのだ。

(これを止めなかったら、僕はきっと――



 悪い子なんだろう)


 ドクンと胸が鼓動する。
 召喚される人の事を考えれば止めるべき――だけど止めたら話が聞けない。
 自分のエゴを優先する――でもそれはみんな同じだ。
 止めて召喚される人を守る――でもそれはここにいるみんなの時間を無駄にする。

 どっちがいい事なのか――。
 自分にとっての損得、周りの損得。
 どっちにも正義がある、強者を召喚するのは兵たちを鼓舞し、召喚しなければ異世界の人の名誉を守れる。
 だけど――

「ミズヤ」

 不意に、クオンがミズヤに声を掛けた。
 気付けば汗だらけの顔で、ミズヤは振り向く。
 そしてクオンは、こう言った。

「ヘリリアを起こしてください。もう召喚の魔法は発動しています」

 その言葉に、ミズヤの目は丸くなった。
 もう既に、召喚は始まっている――。

「え?」

 刹那、瞬く間に視界が光で覆われた。
 誰も声を出す事はなく、全てが白い光に飲み込まれる。
 何も聞こえず、ただ静かに、ミズヤは光が収まるのを待った。

 ずっとフラッシュが続くような、そんな光もいよいよ収まる。
 その直後、ミズヤは飛んだ。
 肩にはサラを伴って、円の中心を目指す。

「…………」

 真ん中の開けた場所には、2人の人物が居た。
 1人は黒髪の長い、学生服の少女。
 もう1人は青いブレザーを着た、これまた学生服の金髪の少年だった。
 2人は並んで立っており、どちらが前に出るでも、話しているでもない。
 格好から察するに、異世界の人間だ――それなのに2人の凛然とした姿には誰も声を出せなかった。

「…………」

 その時、ミズヤの肩に乗るサラだけはハッキリと2人の姿を認識していた。
 なんせ、別世界【ヤプタレア】での知り合いだったから。

「……(ふむ)」

 サラは考える。
 折角こうして知り合いと再会できたのだ、ここは猫パンチの1つでも喰らわせてやろう。

「ふにゃー!」
「えっ? サラ?」

 ミズヤの肩を蹴って、サラは地面めがけて飛んだ。
 20mの高さはあったというのに、それでもサラは土をめり込ませて普通に着地し、黒髪の少女目掛けて飛んだ。

「ニャア!(フンッ!)」
「んー?」

 黒髪の少女は鳴き声の方を向くと、既に距離は零――。

 バシン!!

 その猫のビンタは、少女の腕によって防がれる。
 とてつもなく良い音がしたが、それは黒髪の少女が半袖のワイシャツのせいで素肌だったから。
 少女はダメージもないようにサラを持ち上げ、隣の男に見せる。

「何、この猫?」
「ニャア! ニャニャニャア!」
「ただの小動物だ、殺したりするなよ?」
「わーってるって。ウチだってそこまで極悪非道じゃないから」

 少女はムキになる事もなく、ただ億劫だと言わんばかりに猫を放してやった。
 サラは内心「屈辱……」と唸っていたが、すぐに降りてきたミズヤに保護される。

「サラ〜っ! ダメだよ、知らない人に暴力振るっちゃ〜!」
「え?」
「ん?」

 バタバタと慌ててやってくるミズヤを見て、声を聞いて、ようやく2人は目の色を変えた。

「あれ? 瑞揶じゃん」
「なんだ、お前か」
「……にゃ?」

 異世界から来た2人は、ミズヤを見て拍子抜けしたように口をへの字に曲げるのだった。



 ◇



 どこかボケーっとした黒髪の少女は千堂環奈といい、金髪の少年はキトリュー・デメレオスという。
 2人は前触れもなくこの世界に召喚されたが、驚きも何もなかった。
 それは何故か――高校生だから肝が据わっているとだけいうには無理がある。

 理由は簡単。

 彼らはもともと、"転生者"だったのだ。

「はぁ!? ここ【サウドラシア】なん!?」

 しかも、2人ともサウドラシア生まれだった。

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