連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第13話:セカンド・コンタクト⑦

【ヤプタレア】は天界、人間界、魔界の3つがある世界。
 天使と魔人は魔法を、人間は誰でも超能力を持ち、それでいて科学技術が発達していた。
 この世界【サウドラシア】にはない、パソコンやスマートフォンといった機械が普及し、平穏と安寧を手にした世界であった。

 俺、羽村瑛彦はむらあきひこは人間界に生まれた。
 5歳の時、世界からこの電気の超能力を授かってしまう。
 超能力は天界が勝手に決めるもので、避けようがないものだった。

 俺は、能力の制御ができなかった。
 幼稚園の時に友達だった奴の頭に、少し電気が流れてしまった。

「――脳の電気信号に異常が見受けられます。誰か電気系の超能力者が――」
「このままでは植物状態に――」

 医師達の言うことは、当時の俺にはよくわからなかったけど、確実だったのは、そいつが2度と起き上がれない体になったということ。

 俺は幼稚園児にして引きこもりになった。
 いろんな奴に攻められ、幼稚園に行くな、人に近付くなと親に怒鳴り散らされ、毎日死にたい思いだった。

 これは能力のせいで仕方がないと保険が効き、家はそこまで酷い事にはならなかったが、腹の中に子供を宿した母親と話すことは禁止された。

 俺が1人のうちに弟が生まれ、それからもずっと1人だった。

 やがて、俺は小学生になった。
 入学式だけは出席しろと学校からうるさく言われたためか、親は俺をぶっ飛ばしながらも無理やり着替えさせ、俺は入学式に出た。

 机は出席番号順で、俺は羽村のは、その次が響川のひ――響川瑞揶ひびかわみずやが後ろの席だった。

「……君、大丈夫?」

 ところどころ傷のある俺に、後ろに居た瑞っちが話しかけてきた。
 これが初めての会話だった。

「…………」

 俺は無視した。
 話して電気が与えられれば、また脳が死ぬかもしれなかったから。
 けれど瑞っちは、俺のことなんて御構い無しで――

「傷、治したから」
「……は?」

 その言葉を聞いて俺は自分の体を見ると、擦り傷やぶたれた跡はなかった。
 気がつけば痛みも引いている。
 これは超能力かと、すぐに考え至った。

「……ありがとう」

 短く礼を言うと、瑞っちはにこにこと笑って手を差し出してきた。

「気にしなくていーよーっ。僕は響川瑞揶。君は?」
「……羽村瑛彦」
「あきひこくんかぁ。よろしくね?」
「…………」

 彼が差し出した手は、握手を求める手だった。
 俺は少し、悩んだ。
 その手を握れば、電気が流れるかもしれない、と。
 でも、その手には奇妙な魅惑があった。
 何年もまともに人に触れてない俺は、伸ばされた手を……掴みたくて――

 俺はその手を、握った――。

「……あっ」

 ぐらりと瑞っちの体は揺れた。
 右肩からゆっくりと、スローモーションに倒れていく。

「ッ――!」

 俺は即座にその体を支えようとした。
 だけど身を乗り出しても間に合わなくて……。
 ドンッと重い音が、教室に響いた。



 ◇



 瑞っちは保険室へ運ばれ、回復系の超能力を持った先生に診てもらっていた。
 俺も呼び出され、保健室に俯いて座っていた。

 入学式に来ていた母親と、担任と、保険医が何かを話し合っていた。
 俺はただただ瑞っちの顔を見ていた。
 コイツは起き上がってくれるのか――そのことだけがずっと、ぐるぐると頭の中を巡っていた。

 5分、10分……。
 いつの間にか親が居なくなって、担任もいなくなって、そんなことに気付かず、ずっと瑞っちの顔を見ていた――。

「――んぅ?」

 ふと、彼の目がパチリと開いた。
 同時に、俺も口が小さく開く。
 起きた――コイツは起きてくれた、と。

「……あれぇ、瑛彦くんだぁ。僕、なんでここに……」
「……それは、俺の……」
「あぁ……超能力かぁ。どんななの?」
「…………」

 無垢な笑顔で訪ねてくる。
 優しそうな笑顔、その笑顔を俺に向けられて、罪悪感から、俺はその場で土下座した。

「本当に、ごめんなさい! 俺の超能力のせいで……お前、死ぬかもしれなくって……」
「え? あぁ、僕は不死だから大丈夫だよ?」
「……え?」

 その時、瑞っちはなんでもないようにそう言った。
 自分は不死だから、と。

「他人にはあまり言わないんだけど、僕はもう300回ぐらいは自殺してるし、その度に生き返ってるからね? だから僕を殺しても全然気にしなくていいよ?」
「えっ……それって……え?」

 寧ろ俺が話についていけなかった。
 簡単に考えると、それは自殺が好き……という事なのか。
 だから殺されても平気だって……。

「お前……痛いの、嫌じゃないの?」
「嫌だよ。でも、だからこそやるんだ。僕は罪人だからね」
「……罪人?」
「そう。僕は悪い人だから……痛い思いをしないと。だから、君は気にしなくていいよ。どうせ、僕は死なないから……」
「…………」

 死なないから良い、そんなことが許されるのか。
 歯がゆい思いも、泣きそうな思いも入り混じった俺は、土下座した頭を上げることができずにいた。

「……もし君がその能力で悩んでるなら、僕は治してあげられる」
「!」

 耳を疑うこの言葉には、思わず顔を上げてしまった。
 その時に見た彼の顔は、憂いに満ちていて、哀愁が漂いながらも、優しく微笑んでいて……。

 俺にはコイツが、神様に見えたんだ――。



 ◇



「ほんで、お前は俺に、能力が制御できるようにしてくれた。練習とか言ってお前は何回か俺に殺されたよ。今思えば、学校側もお前の不死を知ってたから救急車を呼ばなかったんだろうな」
「……。そっか」

 ここまでの事を聞いて、ミズヤは喜ぶでもなく怯えるでもなく、俯きながらひたすらに聞いていた。
 彼の頭に乗るサラは「さすがは私の男」と誇らしげにしていたが。

「あの後、お前は俺と俺の親を和解させるのを手伝った。ま、和解っつっても殴り合いになったけどな。おかげでスッキリしたんだけどよ。それからずっと、俺はお前と一緒にいた。放課後に学校残って演奏してよ、俺はギターが得意なんだぜ?」
「……ギター、かぁ」

 演奏という言葉にはミズヤも奏者として無視できなかった。
 少し頭が上がり、興味深そうに頷く。

「ギターは昔ながらのアコースティックギターからエレキギター、そして軽音で使われるようなベースも弾けるぜ。ま、この世界にゃエレキギターなんてねぇだろうがな」
「それはそうだよ……。電源すらないんだもん」
「だよなぁ……。ギター以外にもいろいろ弾けるけどよ、結構いい勝負になるぜ? 瑞っちとはよ」
「……。そっか……」

 ミズヤは寂しそうに呟き、また俯いた。
 そんな反応を見ては瑛彦も言葉に詰まってしまい、話を元に戻す。

「それでさ、高校生までお前はずっとそんなだった。今のお前とまるっきり一緒。根暗っぽいけど根は優しくて、とにかく音楽が大好き。でも、高校から、お前は変わったんだ」
「……それは、なんで?」
「お前の家に、居候いそうろうができたからだ。響川沙羅っていう奴が――」
「――――――――」

 響川沙羅――その名前を聞くと、ミズヤの思考は停止した。
 隣の瑛彦が何を言っていても頭に入ることはない。

 響川沙羅――その名前にミズヤは、どこか懐かしさを覚えていた。

(沙羅)
(サラ)

 自分のペットにつけた名前とまったく同じ――だからか。
 いや、それだけではなかった――

 目を閉じると、視界いっぱいに一枚の絵が浮かび上がった。
 その絵はクレヨンで描かれたようでありながら、場所はわかるぐらいに精巧だった。
 場所はリビングか、白いソファーがあって、テーブルがあって、人の通りやすいリビングであった。
 そこに、1人の少女が立っている。
 流れるような金髪の髪、二本の触覚のようなアホ毛、そしてピンク色の和服を着ている。

 見たことがない――なのにその少女が懐かしい。
 何故だろう、どうしてこんなに、

 胸が痛いのか――。



 ペロペロ

「…………?」

 ペロペロ

「……。何、サラ?」

 ミズヤは頬を舐められ、目を開いた。
 瞳孔になんとか映った金色の毛並みをした猫は、ぴょこんと飛んでミズヤの膝の上に座る。
 そしてひとつ、にゃ〜お、と鳴いて、またペロペロとミズヤの頬を舐める。

「……おい瑞っち、聞いてんのか?」
「え――あ、うん。なんだっけ?」
「……ったく」

 ミズヤが上の空だった事に瑛彦は悪態つき、髪を掻きながら話を続ける。

「それでな、部活でいろいろあったけど、最終的にゃ、お前は居候の沙羅っちと――恋人になったんだよ」
「…………」

 ミズヤにとって信じられない言葉に、彼は耳を疑った。
 ミズヤには、霧代のことがある。
 響川瑞揶にとっても、第一生で愛した川本霧代は最愛の人だった。
 それを、別世界に行ったから他の人と付き合うなんて――

「――あり得ないよ」

 冷え切った声だった。
 全身を凍えさせる冷風のように、とても冷たい言葉がサラと瑛彦の耳に入る。

「それがあり得るんだよ。瑞っち、聞いてくれ。お前は――」
「聞かない。僕が霧代以外を愛するわけないだろ! 君は霧代のことも知ってるんだろ! 僕が霧代以外を愛するわけないじゃないか!!」

 激しい怒りを言葉に宿し、ミズヤの叫びが広場に響く。
 その悲痛な声には、瑛彦も沈黙を余儀なくされた。

「(…………)」

 そして、それを聞いていたサラ――沙羅本人も、何も言うことはできなかった。

「連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く