連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第10話:セカンド・コンタクト④

 顔を出している蒼い月が儚い光を世界に振りまき、3人の男と1匹の猫を照らしている。
 微弱な風は髪をやらずにも至らず、静かな空に停滞していた。

「……で、うちの大将はどこ行ったよ?」
「あん?」

 ヘイラの質問に、また瑛彦は首を傾げた。
 居なくなった者は1人しかいないうえに、どこかへ消したのは瑛彦なのは明白なため、彼も「ああ」と言って合点がいった。

「ソイツなぁ〜、あんな危ねぇ攻撃であそこにいた俺を殺そうとするもんだからよ、こんなかに入れちまったわ」

 ガシッと掴む槍を持ち上げ、何でもないように瑛彦は言う。
 次の瞬間、槍がピカッと光り、一瞬の後にトメスタスが槍の近くに立っていた。

「……??」

 状況が飲めないのか、トメスタスは疑問符を浮かばせながらヘイラの元まで後退する。

「おいテメー、もう二度と俺にあんな危ねぇ攻撃すんじゃねぇぞ。瑞っちが居たから温情で助けてやる」
「はっ? はぁ、そうか……?」

 指差して瑛彦が言い付けるも、トメスタスは依然として疑問符を浮かべるままだった。
 そしていつの間にかサラは瑛彦の頭の上におり、ペシペシと叩いている。

 およそ、この状況を分かる者は居ないだろう。
 ミズヤは前世の名前を見抜かれ、ヘイラは全く知らない男、トメスタスははてなを浮かべるばかり。
 そんな中だからこそ、瑛彦は自分から発言ができた。

「なぁ瑞っち、超能力使える?」
「……超能力?」
「その反応……使えねぇのか。ふーん……」

 呟いて、彼はミズヤを観察する。

(ちっせぇ……小5、いや、中1ぐらいか? でも、沙羅っちは記憶あるっぽいんだよな……。ったく、異世界に旅立ったと思ったらわけわかんねーことになってらぁ)

 ガシガシと頭を掻き、瑛彦は頭に乗る猫をつまみ上げる。
 ――彼は瑞揶と沙羅の友人であった。
 瑞揶の第二の人生、【ヤプタレア】という世界で過ごした仲間であり、幼馴染である。
 瑞揶と沙羅は【ヤプタレア】を去り、そして死んだ。
 瑞揶はミズヤへ、第三の人生を。
 沙羅は神の協力を得てミズヤと再会する気を伺っている。

 そこに今現れたのが瑛彦だが、彼は瑞揶と沙羅が一度死んだことを知らない。
 そして、ミズヤには瑛彦のこと、【ヤプタレア】の記憶がない。

 つくづく噛み合わない者達である――だが……

「ミズヤ、俺たちは先に行くぞ」

 会話を断ち切ったのはトメスタスであった。
 彼の見る先にはここまで来た道があり、今はバスレノス軍の後続兵が見えていた。
 数は100〜150人、魔法道具や【無色魔法】で飛び、こちらに向かっている。

 瑛彦がここに来て、もう何分と時間が過ぎており、トメスタスもヘイラも待ってはいられない。

「……あー、そっか。テメェらが帝国軍か」

 サラをミズヤに向かって投げながら、瑛彦は呟いた。
 ミズヤがサラをキャッチすると、ヘイラもトメスタスも瑛彦を睨む。
 彼の正体は、依然として知れないから。

「――ま、行きたきゃ行けよ。ただ、瑞っちはここに置いてってもらうぜ」
「え〜……?」

 ご指名を受けたミズヤは何色を示し、サラを片腕で抱きながらトメスタスの顔を見る。
 そのトメスタスがミズヤにコクリと頷き、それは「残れ」というふうにミズヤは受け取った。

「……わかったよ。僕は残りますから、2人は先に行ってください」
「おう」
「任せたぞ、ミズヤ」

 渋々と言ったミズヤの言葉を聞き、トメスタスとヘイラは機敏な動きで商館へと降りていった。

(奴は、レジスタンスだろう――)

 下降しながらトメスタスは考える。
 アキヒコという少年はどこからともなく現れ、場の空気を濁した。
 そして、トメスタス自身は命を落としかけた。

 新しい第三勢力という可能性は今更なく、あの実力でトメスタスが名前を知らないはずがない。
 そして、この場に居合わせるならレジスタンス以外にはありえない、だから――

(レジスタンス、この数日動かないと思っていたら……新たな援軍か?)

 おそらくそれが正解であり、それ以外は考えられない。
 トメスタスは歯嚙みをしながら、未だ結界の貼られる商館に向け、刀を掲げるのだった――。



 ◇



 2人が過ぎ去り、その後ろからは後続のバスレノス軍が夜空より続々と到来する。

「……よし、瑞っち。ちょいと場所を変えるぜ」
「ん――?」

 ミズヤが言葉を口にしかけたその刹那、瑛彦の姿は消えた。
 そして気付けば、ミズヤの目の前には瑛彦が居て、ミズヤの帽子を掴んでいた。

「……あれ?」

 思わずミズヤは後ろを振り向くと、後続はどこにもおらず、目下にあった街並みは全て木に埋め尽くされている。

「瞬間移動っつーのかな。300万ボルトぐらいで空気の絶縁破壊してよ、俺らは一瞬だけ電気になって絶縁破壊しながら移動したんだ」
「……にゃ?」
「ニャー(このクソ電気人間。やるなら南大陸まで移動しろっての)」
「……なんかわかってなさそうな顔してんな」

 説明してもミズヤに伝わらず、ジト目になる瑛彦。
 出だしは失敗だったが、瑛彦は改めて語る。

「とにかくさ、お前は響川瑞揶、なんだな?」
「……そう、だけど?」

 否定しようのない前世の名であり、ミズヤはすんなりと答える。
 だが、逆に瑛彦は頭を抱えた。

「ぬあぁぁ……でも超能力使えねーもんなぁ……。俺の知ってる瑞っちじゃねーんだよなぁ……」
「……君はどうして僕を知ってるの? その、僕の前世の名前を……」
「幼馴染だったからだ」
「……?」
「首かしげんじゃねぇよ!」

 すかさず飛んできたツッコミに、ミズヤは苦笑した。

「だって、僕は君のこと知らないし……」
「あれじゃね? 平行世界ってやつ。俺の知ってる響川瑞揶はよ、前世で“川本霧代”って奴を……なんだっけ? 自殺幇助ほうじょしたっつってたよ」
「…………」

 ある少女の名を聞いて、ミズヤの顔から血の気が引いた。
 自殺幇助した――それについてはミズヤも自身でよく知っている。
 だからこそ贖罪の道を歩むと誓った。
 罪を償うため、自己犠牲しながら生きたいと思った。

 そんなミズヤの顔を見て、瑛彦は――

「ぶはっ!」

 吹き出していた。
 バンバンと帽子を叩き、ミズヤを励ます。

「なーに辛気臭い顔してんだよ! つーか、やっぱその事はわかってんだな!」
「……うん。君の会った僕と、この世界の僕は……同じ過去を持ってるんだね……」

 消え入るような声での返事。
 それは快活な瑛彦とは真逆であった。
 同じような辛い過去、それを持つもう1人の自分が居た。

 そのことに、彼は少しだけ――

 可哀想だ――と思った。

 自分の人生を贖罪に捧げ、きっと退屈な人生を送ったのだと予想できたから。

 でも、それは違うのだ。
 響川瑞揶がヤプタレアで送った最期を、サラ、そして瑛彦は知っている。

「……知りたいか?」

 不意に、瑛彦が尋ねる。

「……何を?」
「俺の知ってる“響川瑞揶”が、どんな人生だったのかをよぅ」
「…………」

 ミズヤは口を噤んだ。
 彼にすれば、知れた結果であったから。
 しかし、ここでふっかけてくるという事は、もしや――という気持ちもある。
 だから、ミズヤは答えた。

「……知りたい」
「……そうか。へへっ、だったらよぅ……」

 ブオンと空を裂く音が耳を掠めた。
 瑛彦が振るった槍を、咄嗟に瑞揶は避けたのだ。

「闘えよ、瑞っち。俺はどうしても一度、お前を負かしてみたかったんだ」

 ニヤリと笑い、瑛彦は槍を構えた。

「お前が勝ったら教えてやる。だから、剣を構えな――」

 威勢よく煽ると、ミズヤは目を閉じた。
 彼には瑛彦の胸中など知ることもないし、ミズヤ・シュテルロードにとっては他人なのだからどうでもいい。
 ただ、戦えと言われたのなら――

 ゆっくりと刀を構える。
 月明かりに反射するまばゆい刀身は、真っ直ぐと瑛彦の方を向いた。

 綺麗な月夜の最中さなか、今ここに、2人の少年が戦い始める――。

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