連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第5話:火花の鎧

「ヘリリア、クオン様を護れ。いいな?」
「えっ……ひゃっ、はいっ!!」

 ケイクに命じられるがままに、ヘリリアはクオンの後ろに付いた。
 そのふくよかな胸を肩に乗せられ、守られる側は若干嫌そうではあるが。

「……その口ぶり、貴様は大将ヘイラの息子、ケイク・シュロン・ケールで間違いないようだな」

 1人の男が赤髪の少年を指差し、確信を持った声で言い放つ。
 名指しを受けたケイクの方はさして興味もないようで、空を見ながら思う。

(折角クオン様とたくさん話して好感度を上げてたというのに、無粋な……)

 今にも溜息を吐きそうな彼を見て、無視するような彼に男はドライブ・イグソーブを向ける。

「なんとか言ったらどうなんだ! 死ぬ前によぅ!」

 脅しかける言葉を発するも、ケイクにしては、彼は0点だった。
 武器を構えるにしても、ドライブ・イグソーブは構え方で次の攻撃が読める。
 刀を出すなら振り上げるし、横に向ければ撃つ、はたまた飛行だが、至近距離で飛行を使用するのは初速度が遅く、強者が使用することはない。
 結果、ドライブ・イグソーブを向けた時点でそこから魔力弾を撃つ事がわかってしまい、拍子抜けなのが本音なのだった。
 だからこそ余計なことを考えていられる。

(ここでクオン様に良いところを見せれば、俺は……うむ。こんな雑魚ども、蹴散らしてやろう)
「……。人を小馬鹿にして……クソガキがあっ!」
「!」

 カチリとスイッチが押される。
 同時に、超至近距離からの青い魔法弾が発射された。
 防ぐ暇はない、魔法弾は着弾し、衝撃が爆発を起こす。

 舞い上がる黒煙、囲んでいた者は全員が下がり、男はニヤリと笑った。

「側近も大したことない……所詮はガキだな」
「誰がガキだ」
「!?」

 刹那、黒煙が吹き飛んだ。
 煙が晴れた中からは紅蓮の炎を纏う少年が立っていた。

「【赤魔法カラーレッド】、【火花の鎧スパーク・アーマー】」

 逆立つ赤髪は燃えるように揺れ動き、ジャージに巻きつく鎧は半透明の赤い光であった。
 彼を中心に火花が散り、携られた炎の大剣はパチパチと火花が飛び散っていた。

「さて……」

 ちらりと、ケイクは背後を見た。
 彼の背後ではドーム状の緑の障壁を貼るヘリリアがクオンを守っている。
 ケイクの火花の鎧スパーク・アーマーは火花の如く飛び散る――すなわち、吹っ飛ばす力を持っている。
 その方向が制御できないのが盲点ではあるものの、ヘリリアはしっかりと守ったのだ。

 守備は万全、ならば倒すのみ。

「……フゥッ!」

 息吹とともに大剣を横に振り回す。
 だが、火の粉の集まりで出来た大剣は空気抵抗に耐え兼ね、自由に飛び散った。
 レジスタンスの取った多少の距離、そんなものは火花の飛ぶ速さではすぐにたどり着けるもので――

「爆ぜ、火花」

 次の瞬間には、一面が爆発と黒煙に包まれ――。

「【鎧解除アーマー・リバース】」

 そしてトドメと言わんばかりに彼自身の鎧を爆散させ、あたりの黒い空気を吹き飛ばした――。

「……ふんっ」

 つまらない、そう言わんばかりに鼻を鳴らすケイクは周囲を確認する。
 二重の爆撃をそのまま受けて無事であることは少ない。
 さらにはイグソーブ武器では攻撃を防ぐ手段がないのだ。

(この技は火花をもとにしているだけに威力は低い……が、人間3mも吹っ飛べばまともに立ってられんからな)

 ケイクの目には倒れている者、立てずに這いつくばり、傷を抑える者が4人見つかった。
 4人――あとの2人は?

 ゴンッ

「ガッ……?」

 鈍い音と共に、ケイクは自身の体が崩れていくのを感じた。
 直後に走る激痛と顔に垂れる暖かい液体が、頭を鈍器で殴られたことを告げる。

「なんだぁ、あの攻撃。結界で防げたぜ」
「俺たち【無色魔法】使いには効かねぇよ」
「ッ……!」

 1人の男が倒れたケイクの頭を踏みつける。
 無色魔法の結界で、彼らは火花の攻撃を防いだのだ。
 そう、ケイクの魔法は火であり、威力も弱い。
 イグソーブ武器に頼らず、結界か【青魔法】の水で止めるか、【緑魔法】の風で対抗できてしまう――。

「雑魚は死んどけ」

 冷徹な言葉と共に男はドライブ・イグソーブに魔法剣を生み出した。
 そしてそのまま、ケイクの体に突き立てる――。

 ケイクには自身を癒す黄魔法が使えず、頭をやられている。
 朦朧とする意識で防ぐことはできない――。



 ガインッ

「何っ!?」

 だが魔法剣は振り下ろされる前に、ドライブ・イグソーブごと吹き飛ばされた。
 見えない何かが衝突し、弾いたのだ。

「【力弾フォース・リボルバー】」

 微かな女性の声、しかし力強い声であった。
 戦いの端、ヘリリアが彼らに片手を向けて佇んでいる。
 彼女はクオンを守ったように結界――すなわち、空間、音を操る無色魔法が使えるのだ。

 男達もヘリリアとクオンの存在を、倒すべき敵として正しく判断する。

「オイ、結界で守ってろ。コイツには俺がトドメをさす」
「了解」

 しかし、生憎にも敵は2人。
 1人に結界で防御されては、ヘリリアもケイクを守れない、のだが――

「なっ!?」

 ケイクの方に向き直った男は驚嘆の声を響かせる。
 彼の見た先には草木しか写っていなかったのだから。

「――こっちは3人なんですよね」

 クオンが小馬鹿にしたように呟き、ケイクの体を【緑魔法】で生み出した木の蔓でヘリリアの結界内に引き寄せる。
 クオンも戦いに参戦はしなくとも、大将に匹敵しうる兄弟を持つ皇女、隙を見過ごすことはない。

「こ、この……ガキ共ッ!」
「落ち着け! とりあえず、奴らには怪我人がいるから動けないんだ。袋にするぞ!」
「おうっ!」

 男達は自分達が有利なのは変わりない、そう思い込んで再びドライブ・イグソーブを構える。
 大きな獲物に向けた銃のボタンを彼らは押すのだった。

「にゃあっ」

 ゴンッ、ガンッ!

 それでも魔法弾が飛び出すことはなく、そこには似合わない声で登場した少年が、男達の後頭部に何かをぶつけたのだった。

「えっと……とりあえず倒しちゃったんだけど、良かったかな?」

 目を回す2人の男の後ろには、両手に石でできたテーブルを持つミズヤが立っていた。
 なんてことはない決着、あっさりとした終わり。
 クオンはケイクを魔法で治癒しながら、ミズヤに向けてこう言った。

「えぇ、結構ですよ」

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