連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第4話:無垢

「クオン様、あの店のフランクフルトは美味しいのですよ。この会報にもこのように評価されておりまして……」
「ほう。では食べてみましょうか」
「ク、クオン様……あまり間食はなされない方が体に……いぇ、なんでもないです……。うぅ……」

 2人の子供と気弱な大人は露店でフランクフルトを購入したり売り物を見たりと、普通に買い物を楽しんでいた。
 ケイクがクオンに勧めて了承し、その後ろをオロオロしながらヘリリアがついて行くのが恒例パターンと化していた。

「ミズヤを見ませんね」

 何気なくクオンが呟いた。
 その言葉にすかさずケイクが答える。

「おそらく、メインストリートからはずれたのかと。我々はメインストリートを辿っていますからね」
「ミ、ミズヤくん……大丈夫かな?」

 突然の単独行動に不安がる声も上がる。
 この城下町にもレジスタンスが多数潜伏している可能性があり、兵服のジャージで一人歩きは危険だからだ。
 そんなことも知らず、当のミズヤは――



 ◇



「お待たせしました〜、フルーツ盛り合わせとナポリタンでございます。ごゆっくりどうぞ〜♪」

 トンッ、と2つの皿が古い木のテーブルに置かれた。
 フルーツ側には胸に猫を抱いた少年、ナポリタン側には水色髪の少女が座している。

 何故このような状況になったのかと言われれば、2人は“流れでこうなった”と言うだろう。
 あの気まずい空気から抜け出そうとしたが上手く言葉が出ず、とにかく店前では邪魔になると思い、フィサが食事に誘ったのだった。

(何故このようなことに……)

 フィサ自身もこのように思っていたのだが……

「ほらさーら、あーんっ」
「ニャァ」
(まぁ、子供だし……いいでしょう)

 胸に抱く猫にイチゴを持って行き、食べさせている少年を見てフィサは自分を許すのだった。

「わーっ、キウイすっぱいーっ! フィサさんも食べる〜?」
「……いらない」
「そっか〜……サラ、あーん」
「……その猫、果物を食べても平気なの?」
「サラは何でも食べるよ〜? ねぇサラ?」
「ミャー」

 キウイを飲み込み、サラは気分良く鳴いた。
 猫自身が良さそうならとフィサはそれ以上追求しない。

 改めてフィサは少年を見る。
 ボールのような髪型をした黒髪にベレー帽に似た帽子。
 そして、バスレノス軍の兵服であるジャージ――

「……貴方はやっぱり、バスレノス軍だったのね」
「あ、はい。昨日正式にバスレノスの身内になりました」
「……昨日? 昨日は、クオン皇女の側近が決まる……」
「その1人が僕です。だからクオンを狙おうだなんて思わないで〜ね〜っ」
「…………」

 にこにこと笑う少年にフィサは何も言い返さなかった。
 敵を前にして余裕のある少年に、若干ながら畏怖していたのだから。

 ミズヤにしては、単に何も考えてないだけだが。

「それより、フィサさんはヴァムテルさんの妹なんですよね?」
「……そうだけど?」
「えーっ、なら仲良くしてよ。ヴァムテルさん、フィサさんに申し訳なさそうにしてた。きっと、ずっと謝りたい気持ちが――」

 ダンッ!

 ミズヤの言葉は、大きな物音に止められた。
 フィサが右拳でテーブルを殴りつけたのだ。
 周りが一様に静かな空気で包まれるが、すぐにまた店のざわめきが再開する。

「……あの人の話はしないで」

 冷たい口調で放たれた言葉に、ミズヤは眉をひそめた。
 極端な拒絶反応には不可侵の領域がある。
 そう思えたから、ミズヤも追求しなかった。

「……坊や、君は強い。だけど……この大陸に居れば戦いが相次ぐ。死にたくなければ……立ち去って。私達も、子供を殺すのは好きじゃない」
「……忠告、感謝します。ですが、これは僕が決めたことですから……」
「……。そう」

 短く返事を返すと、フィサはフォークでナポリタンをくるくると巻き、自分の口元へ運んだ。
 むすーっとした顔でもぐもぐと食べる少女を見て、ミズヤは微笑んだ。

「フィサさん、さっきペンダントを見てましたよね?」
「……?」
「【緑魔法カラーグリーン】」

 ミズヤはテーブルに手を乗せ、呪文を唱えた。
 ガタリとフィサは立ち上がり構えを取るが、ミズヤがテーブルから手を離すと構えを解く。

 テーブルの上には先ほど露店で見ていた、金の鎖に大きなアメジストが付いたペンダントが出来ていた。

「これは……?」
「【緑魔法】で作りました。材質は全く同じはずです」
「そんなことが……」
「にゃーは何でもできるんだよ? ねぇサラ〜?」
「ミャア」

 サラは適当に鳴き、勝手にテーブルに乗ったフルーツ盛り合わせをがっつく。
 フィサにしては、ミズヤが“金”を生み出した事に驚きを隠せずにいた。
 いかに植物や風、自然を司る【緑魔法】が使えるからといって、金を生み出すなどということはできない。
 そんなことができれば一般に流通するペンダントの価値は、そこらの石ころと変わらない。

 この異質な魔法を使える少年に、フィサは勝てる気がしなかった。

「これは差し上げます。レジスタンスの貴方にではなく、あのお店で困っていた貴方に」
「……なんで? 私にそんなことをする義理はない。……それに、怪しい」
「えーっ、困ってる人を助けるだけだよーっ、怪しいとか言わないでよーっ」
「…………」

 ぷくぷくと脹れるミズヤに、フィサは驚き、そして微笑んだ。
 子供の純真さに、その無垢な心に。

「……ありがとう。なら、貰う」
「どうぞ〜っ」

 ミズヤがペンダントを持つと、フィサは静かに受け取った。
 一応ペンダントの全身を確認するも、ペンダントはペンダントだった。

「……でも、これを貰ったからって、私は貴方の敵に変わりはない」
「それで構いませんよーっ。今日のところは、お困りうささんを助けただけだものーっ」
「……うささん?」
「フィサさんはうさぎさんみたいだもの〜」
「ぇ……」

 フィサは慌てて両手を頭にやるが、別に耳が生えてるわけでもない。
 ミズヤの意味不明な比喩に翻弄されただけである。

「じゃあ僕はそろそろお暇しまーすっ。ご馳走様でした!」
「……えぇ」

 パチンとミズヤは金貨を一枚置いて、サラを抱きしめながら店を飛び出していった。
 その後、フィサは呆然として金貨を手に取る。

「……これ1枚あれば、3日は食べれるんだけど……」

 彼女が手にする新金貨は、それだけ価値のあるものなのだが、ミズヤの無邪気さから考えれば気にしても仕方ないのだった。



 ◇



「……はぁっ、嫌になりますね」

 メインストリートを抜けて広場に来ると、クオンは悪態をついていた。
 人の賑わう通りを出た途端、彼らは囲まれたのだから。

 ジャージの3人を囲う6人の男女は年齢にバラツキがあれど、いずれもその手にはドライブ・イグソーブが握られていた。
 あたりには誰も寄り付かず、ただ吹く風は冷たいもの。

「……少なっ。こんなんで俺たちを殺れるとでも思ってんのか?」

 沈黙を断ち切り、小馬鹿にするようにケイクが言い放つ。
 ドライブ・イグソーブは万能な武器である。
 しかし、その武器持った敵が6人いようと――

「俺1人で十分だわ」

 大将の息子、ケイク・シュロン・ケールにとって、ゴミ掃除のように思えるのだった――。

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