連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第3話:偶然の再会(※)

 クオンの寝室の前には3人の少年少女が集まっていた。
 そのうち1人の少年が両手を腰に当て、残る2人を叱りつけていた。

「貴様ら……クオン様の側近でありながら今更クオン様の部屋に訪れるだと!? 今が何時だと思っている!」
「ひぅ……ごめんなさいごめんなさい……。私が悪いんです、全部私がぁあ……」
「まだ6時前だ〜よ〜っ。ねぇ、ねこさん?」
「ミャァ〜」

 少年の叱責にヘリリアはひれ伏し、ミズヤは胸に抱くサラにそんな事を言う。
 朝一からの異様な光景に廊下を通る人々はチラリと見るが、子供達の言い争いだと思ってすぐ立ち去っていく。

「ふんっ!!」
「にゃあっ!?」

 ただ、クオンの寝室にずっと立っていた赤髪の少年は怒り心頭であり、ミズヤの頭を帽子ごと掴む。

「貴様、ミズヤ・シュテルロード……。犯罪者の分際で与えられた仕事も満足にこなせぬとは……」
「にゃぁー!? やめてよーっ! 朝来るのが遅れたぐらいでぇえ〜っ!」
「黙れ」

 ミズヤは顔を押さえられ、後頭部を壁にぶつけられた。
 ひぃひぃ言いながらバタバタ手を振るミズヤだが、胸の辺りかからサラが落ちる。
 クルリと一回転して着地すると、めんどくさがってその場に丸くなった。

「まったく……この腑抜け共め。それでもクオン様の側近か!? もっと緊張感を持って行動しろ! いいな!」
「ふにーん」
「うぅ、ごめんなさいぃ……うぅっ、私をいじめないでぇえ……」
「……なんですか、朝から騒々しい」

 と、そこに部屋の中から上下ジャージ姿のクオンが現れる。
 少年は即座に身を翻して膝を屈した。

「おはようございます、クオン様。本日も見目麗しく、さながら天に居りわす女神のようで――」
「そういうのはいいですから。それより……」

 クオンは廊下で“ぐでーん”としているミズヤと、床にひれ伏して頭を抱えるヘリリアを見やった。

「……この光景はどういうことですかね」

 朝一から見る側近達の姿に、クオンは頭を抱えるのだった。



 ◇



 様々な試験結果より、側近に選ばれたのは3名だった。
 1人はミズヤ・シュテルロード。
 1人はヘリリア・ノメド・アーカバルン。
 最後はケイク・シュロン・ケール。

 ケイクは大将であるヘイラの実子であり、逆立った赤髪を持つ強気な少年だ。
 それもクオンと歳の同じ13歳で、クオンとはもとより故人の仲……ではあるが、ヘイラの崇拝するような態度をクオンは嘆いていた。

 以上3名を連れ、クオンは朝食の後にバスレノス城を出た。
 城のすぐ外には城下町であるバスシャールが広がっており、雪をイメージした白い建物が連なっている。

 城の外に出たのは、ある意味では試験だった。
 城外にクオンが出ればまず命を狙われても仕方のないこと。
 そこでクオンを守れるか、そういう意味もあるが、親睦を深めるという理由で外に出た。

「うわー、広〜いっ」

 メインストリートは幅15mもの広さであり、馬車や人が行き交う中、ミズヤは先立って道を進んで行った。
 身につけていたのは勲章付きのジャージと紫色のマフラー、そして帽子の上にサラを乗せて走っていく。

「1人で行くと迷子になりますよーっ」

 クオンが引き止めようと声を掛けるも、ミズヤは露店に夢中で店から店を渡っていた。
 この時点で1人消えたものの、残った3人はゆっくりと歩き出す。

「クオン様、本日は何故に髪を下ろしておいでなので?」

 ケイクが平身低頭にして尋ねた。
 彼の言うように、今のクオンは髪を結ばずストレートにしていた。
 さらには上下ジャージ姿であり、自分の袖口を見ながら彼女は苦笑する。

「大した意味はないのですが、一応変装のつもりです。矢張り髪は下ろした方が暖かいですね」
「バスレノスは寒いですからな。それに、クオン様は髪を解いていても変わらずお美しゅうございます故……」
「あーもう、わかりましたから……ケイクはその話し方をなんとかしてください。何度も言ってるじゃありませんか」
「クオン様に仕える身として相応の態度であるだけです。特に、わたくしは貴女と古くからの知人である故――」
「はいはい、わかりましたわかりました」

 鬱陶しそうにケイクの顔を押し出し、クオンは次に、ヘリリアの方を見た。

「この中では、貴女が年長者ですね。ヘリリア、よろしくお願いします」
「あ、はい……よろしくお願いします」

 萎縮するヘリリアの態度を見て、クオンは彼女の背中を叩く。

「……?」

 が、さほど強い衝撃もなく、ヘリリアは不思議そうにクオンの顔を覗いた。

「え、と……何か粗相を……」
「違いますよ。私の側近なのです。もっと堂々として、自分に自信を持ってください」
「えっ……はっ、はいっ!!」

 クオンに笑顔を返され、ヘリリアはコクコクと頷くのだった。



 ◇



「迷子の迷子のにゃーですよ〜っ♪」
「ミャーオ……(本当に迷子ね……)」

 ミズヤが歌うと、相槌を打つようにサラが鳴いた。
 その副音声に隠された絶望感を彼は知る由もなく、テクテクと道を歩いて行った。
 街道を抜け、お散歩気分でタイルの地面を歩いて行く。

「あっ! サラ、アクセサリーのお店があるよ? 見に行こ〜う」
「ニャー……」

 帽子の上に乗ったサラは、最早何も言わなかった。
 露店に置かれた宝石付きの輝く髪飾りやネックレス、腕輪が整然と並んでいた。

「綺麗だね〜っ。サラは何か付けてみる? お金ならクオンを助けた報奨金があるよ?」
「ミャー……ニャ(着けてもこの体だと重いし、いいわ)」

 サラが頭の上で丸くなると、ミズヤは残念そうな顔をして、1人品物を見ていた。

「……あの、これ……」

 と、隣で誰かがネックレスを指差して店主の方を見ていた。
 恰幅のいい店主はニコニコ笑いながら対応する。

「お嬢さん、それは純金の鎖で作られたアメジストのペンダントでして……この龍をイメージした縁は芸の細かさが必要でして、これ1点しかモノはございません」
「……いくら?」
「えぇ、値段ですが……ここだけの話、通常は新金貨30枚のところ、お嬢さんの美貌に免じて新金貨29枚に!」
「ニャー(クッソぼったくりね)」

 隣の人の取引を聞いてサラが口を挟む。
 だが猫の口を挟んだところで仕方なかった。
 ミズヤは隣の人を見ると、その表情は曇っていた。

 だがそれ以上に、女性の顔に見覚えがあって驚いた。

「……あれー?」
「…………?」

 ミズヤが呟くと、その少女も振り返った。
 青髪のボブカットにゴシックドレス、その少女はヴァムテルの妹のフィサだった。

「…………」
「…………」

 空気がこおったように冷え込む。
 前の出撃で戦った2人が、またこうして出会うのだった――。

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