連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜
第16話:ファースト・コンタクト②
色を操る【白魔法】を使い、透明化しながらミズヤ達は進んでいた。
だが、ヴァムテルは屋上へ向かうといい、ミズヤは3階の階段で見張っていたのだ。
いずれはバレること――そう分かってはいたが、早過ぎると感じていた――。
(……なぜ子どもがこんな所に? この賭博場に居た大人の連れ子……?)
一方、フィサは無言でミズヤのいる理由を探る。
軍人の着ているジャージもなく、異国の服装の少年。
しかし、その手に持つはドライブ・イグソーブと一本の刀。
敵かもしれない――しかし、ただの子供なら殺す理由も無い。
ドライブ・イグソーブも刀も、拾った可能性があるのだから。
フィサは一度姿勢良く立ち、ドライブ・イグソーブを太ももに固定した。
「君……ここに迷い込んだの?」
「……それはバスレノスに、かな? そういう意味ならそうかもね」
「…………」
意味のありそうなミズヤの言葉に、フィサは口を閉ざす。
しかしその意図を読み取ることはできず、質問を重ねた。
「君は、私の敵?」
率直な質問だった。
感情の無い声で、微笑む少年へと問い掛ける。
すると少年はニコッと笑い、短く答えた。
「そうだよ。僕はお姉さんの敵です」
その言葉が放たれた刹那、フィサはドライブ・イグソーブを手に取り、2つの機体から魔法弾を発射した。
もはや躊躇う余地はなく、その動作に一切無駄は無い。
「【力の壁】」
ミズヤも魔法を発動し、圧縮空気による壁を生み出した。
高密度の粒子の壁を魔法弾は乗り越えられず、見えない壁を前に爆散した。
「へぇ……その武器って、そうやって使うんだね? 僕も持たされたけど、なんだかよくわからなくてさ……このボタンかな?」
ミズヤもドライブ・イグソーブを構え、カシャンとボタンカバーを外して2番目のボタンを押す。
すると――
ジャキン!
「……あれ?」
ミズヤの間抜けな声が響く。
それはドライブ・イグソーブが、上下から飛行機の羽のようなものを出したからだった。
「……えっ、あれ? じゃあこっちは?」
間違いだったのを自覚し、おそるおそる1番上のボタンを押した。
ゴォォオオオオ!!!
羽からジェット噴射が起き、ミズヤの体は引っ張られるがままに前にぶっ飛んだ。
「にゃにゃにゃにゃ!!!?」
「ッ!? こっちに来るな!!!」
フィサが制止を呼びかけるも、ミズヤは止め方すら知らない。
ミズヤはドライブ・イグソーブを掴んだままフィサに突進し――
ガンッ
――フィサの頭を、ドライブイグソーブが激突した。
ぶつかった衝撃でミズヤは武器を手放し、ドライブ・イグソーブは1人でに飛んで行く。
「ぐうっ……」
ぐらりと倒れ、フィサは意識を失った。
「わーっ!? ごっ、ごごごごめんなさいっ! 悪気は無いんです! 死なないで〜っ!」
敵を倒したとはいえ、こんな不慮の事故では申し訳ない――というよりも、前世のあるミズヤとしては、人を轢いてしまった事と同義に思い、即座にフィサを揺するのだった。
「何の音だ!?」
「フィ、フィサ様!?」
暴れるドライブ・イグソーブの音を聞きつけてレジスタンスが続々と駆けつけてきた。
「え、えと……ご、ごめんなさい! 事故で倒しちゃってその……」
「君、フィサ様に何があったのか教えてもらうぞ」
「え? あ、はぁ……はい」
ポンッと肩を掴まれ、ミズヤは事情聴取されるのだった。
◇
同刻――最上階。
下が煩く、紫髪の男とミュベスは一旦屋上へ降りていた。
「騒々しいな……。フィサはこういうのは嫌いなはずだがな」
「何かあったのかしら? お兄様、見てきても?」
「……そうだな、頼む」
男に指示を受け、ミュベスは速やかに階段を下りていく。
この場には男1人になり、言葉もなく静かだった。
「……さて」
男は呟き、空を見上げた。
今にも此方に参ろうと飛んでくるバスレノスの大群、その中でも頭一つ抜けて速い人物が流星の如く空を駆ける。
銀髪をなびかせ、右手にはドライブ・イグソーブ、左手にはトンファーの形をした銃――ラージ・イグソーブが握られている。
「ラナか……性懲りも無く現れやがる。貴様もな、ヴァムテル」
その言葉を呟いた刹那、彼の背後に四方2mほどの紫色の結界が出現した。
何もないはずのそこから、透明化していたヴァムテルが姿を表す。
「やはり気付いていたか」
「この建物は俺の結界が4重構造で覆っている。その中の1つは検知用だ。1階分は住民を逃がすために空けといたが……わざわざ俺の結界内に入ってくる愚か者が2名居たからな。体格まで感知する俺の結界で、貴様を違えるわけがない」
男は振り返り、紫色の結界に手のひらをくっつける。
自らが生み出した結界を優しく撫でると、彼はニヤリと笑った。
「この紫色の結界にはいればどうなるか……お前ならわかるな? とっ、そもそも俺の結界は破れない」
「それは貴公が“ブラッドストーンの瞳”を使っている時に限る。我を殺すに至らんぞ」
「どうかね……」
既に男の瞳はブラッドストーンのように緑と赤、オレンジの入り混じった禍々しい色へと変貌していた。
しかし――右目はさらに青く変色していった。
深い海のように青く輝く、新たな宝石の瞳。
それはまるでサファイアのようで――
「――ぐうっ!?」
瞳が完成した刹那、ヴァムテルの体は浮き、結界の中でもがき出す。
「ぐっ……ぼごっ……」
「結界内を海へと変える、“サファイアの瞳”だ! そこで溺れて死ね、ヴァムテル!!」
「ッ――!」
ヴァムテルは咄嗟に拳を振り上げ、ドゴン!という破壊音と共に床を破った。
穴から下へ抜け出し、結界の中は空になる。
「……ハッ。単身で結界の中に入ってくるとはな。もう貴様は出られない。ねっぷりといたぶって殺してやる……」
ククククと笑う。
敵の大将を1人閉じ込め、もはやヴァムテルは結界を出ることができないのだから。
もっとも――結界を破壊するだけの、強力な力があれば別なのだが――。
◇
「ふえーん、ひどいよひどいよ〜っ!」
一方3階では、ミズヤは縄に捕らえられ、わんわんと泣いてジタバタしていた。
ミズヤは素性を明かさなかったため、レジスタンスは迷子の子として捕虜にしている。
見張りに男女一組の甲冑を着た兵がミズヤを見張っており、2人ともミズヤの様子を見て苦笑していた。
そのうち、女性の方が屈んでミズヤに言葉をかける。
「ごめんね、ボク? もう少ししたら、作業班と一緒に帰してあげるからね」
「…………」
帰してもらえる、その言葉にミズヤは首を傾けた。
建物1つ占領し、人をたくさん殺した。
そんな悪い人達が、ミズヤの事は解放するというのだから。
「あの……僕は殺さないんですか?」
「え? そりゃあねぇ……子供は悪くないし。巻き込ませちゃったのは私たちの責任だから、ちゃんとお家に帰すけど……」
「…………」
ミズヤは口を噤んで俯いた。
帰れない人をたくさん作った人達がそんなことを言うのだから――。
ミズヤも人を殺している、だから思わないことがないわけじゃない。
しかし――
「ボク、なんでそんなことを聞くのかな……?」
核心を突くような質問に、ミズヤの心臓はドクンと跳ねた。
だってそれは――
――お姉さんが、悪い人だから
――人殺しは罪だから
悪い人は――殺さないと――
そのミズヤに備わる狂気の蓋が開き、ドクンと心臓が脈打つ。
自身が罪人だからこそ、他人に贖いの辛さを味あわせないための――狂った衝動が、ミズヤの全身を駆け巡る。
ドクン、ドクンと脈打つ鼓動。
見開いた目線はレジスタンスの女性を射抜き――
ドゴン!!!
『!!?』
刹那に聞こえた破壊音に、全員の視線は奪われた。
音の先には瓦礫と共に落ちてきた巨漢、ヴァムテルが着地し、3階フロアを走り抜けていた。
「こうなれば仕方ない……戦闘を開始する!!」
ヴァムテルはその両腕にドライブ・イグソーブを握り、銃器より出現する魔法の刀を構えるのだった。
(ヴァムテルさん……。僕も行かないと、ね)
ミズヤは手に【黒魔法】で生み出した短刀を握り、バレないようにロープを斬った。
少しアクシデントはあったが、しかし――ここからが戦闘の始まりだ――。
だが、ヴァムテルは屋上へ向かうといい、ミズヤは3階の階段で見張っていたのだ。
いずれはバレること――そう分かってはいたが、早過ぎると感じていた――。
(……なぜ子どもがこんな所に? この賭博場に居た大人の連れ子……?)
一方、フィサは無言でミズヤのいる理由を探る。
軍人の着ているジャージもなく、異国の服装の少年。
しかし、その手に持つはドライブ・イグソーブと一本の刀。
敵かもしれない――しかし、ただの子供なら殺す理由も無い。
ドライブ・イグソーブも刀も、拾った可能性があるのだから。
フィサは一度姿勢良く立ち、ドライブ・イグソーブを太ももに固定した。
「君……ここに迷い込んだの?」
「……それはバスレノスに、かな? そういう意味ならそうかもね」
「…………」
意味のありそうなミズヤの言葉に、フィサは口を閉ざす。
しかしその意図を読み取ることはできず、質問を重ねた。
「君は、私の敵?」
率直な質問だった。
感情の無い声で、微笑む少年へと問い掛ける。
すると少年はニコッと笑い、短く答えた。
「そうだよ。僕はお姉さんの敵です」
その言葉が放たれた刹那、フィサはドライブ・イグソーブを手に取り、2つの機体から魔法弾を発射した。
もはや躊躇う余地はなく、その動作に一切無駄は無い。
「【力の壁】」
ミズヤも魔法を発動し、圧縮空気による壁を生み出した。
高密度の粒子の壁を魔法弾は乗り越えられず、見えない壁を前に爆散した。
「へぇ……その武器って、そうやって使うんだね? 僕も持たされたけど、なんだかよくわからなくてさ……このボタンかな?」
ミズヤもドライブ・イグソーブを構え、カシャンとボタンカバーを外して2番目のボタンを押す。
すると――
ジャキン!
「……あれ?」
ミズヤの間抜けな声が響く。
それはドライブ・イグソーブが、上下から飛行機の羽のようなものを出したからだった。
「……えっ、あれ? じゃあこっちは?」
間違いだったのを自覚し、おそるおそる1番上のボタンを押した。
ゴォォオオオオ!!!
羽からジェット噴射が起き、ミズヤの体は引っ張られるがままに前にぶっ飛んだ。
「にゃにゃにゃにゃ!!!?」
「ッ!? こっちに来るな!!!」
フィサが制止を呼びかけるも、ミズヤは止め方すら知らない。
ミズヤはドライブ・イグソーブを掴んだままフィサに突進し――
ガンッ
――フィサの頭を、ドライブイグソーブが激突した。
ぶつかった衝撃でミズヤは武器を手放し、ドライブ・イグソーブは1人でに飛んで行く。
「ぐうっ……」
ぐらりと倒れ、フィサは意識を失った。
「わーっ!? ごっ、ごごごごめんなさいっ! 悪気は無いんです! 死なないで〜っ!」
敵を倒したとはいえ、こんな不慮の事故では申し訳ない――というよりも、前世のあるミズヤとしては、人を轢いてしまった事と同義に思い、即座にフィサを揺するのだった。
「何の音だ!?」
「フィ、フィサ様!?」
暴れるドライブ・イグソーブの音を聞きつけてレジスタンスが続々と駆けつけてきた。
「え、えと……ご、ごめんなさい! 事故で倒しちゃってその……」
「君、フィサ様に何があったのか教えてもらうぞ」
「え? あ、はぁ……はい」
ポンッと肩を掴まれ、ミズヤは事情聴取されるのだった。
◇
同刻――最上階。
下が煩く、紫髪の男とミュベスは一旦屋上へ降りていた。
「騒々しいな……。フィサはこういうのは嫌いなはずだがな」
「何かあったのかしら? お兄様、見てきても?」
「……そうだな、頼む」
男に指示を受け、ミュベスは速やかに階段を下りていく。
この場には男1人になり、言葉もなく静かだった。
「……さて」
男は呟き、空を見上げた。
今にも此方に参ろうと飛んでくるバスレノスの大群、その中でも頭一つ抜けて速い人物が流星の如く空を駆ける。
銀髪をなびかせ、右手にはドライブ・イグソーブ、左手にはトンファーの形をした銃――ラージ・イグソーブが握られている。
「ラナか……性懲りも無く現れやがる。貴様もな、ヴァムテル」
その言葉を呟いた刹那、彼の背後に四方2mほどの紫色の結界が出現した。
何もないはずのそこから、透明化していたヴァムテルが姿を表す。
「やはり気付いていたか」
「この建物は俺の結界が4重構造で覆っている。その中の1つは検知用だ。1階分は住民を逃がすために空けといたが……わざわざ俺の結界内に入ってくる愚か者が2名居たからな。体格まで感知する俺の結界で、貴様を違えるわけがない」
男は振り返り、紫色の結界に手のひらをくっつける。
自らが生み出した結界を優しく撫でると、彼はニヤリと笑った。
「この紫色の結界にはいればどうなるか……お前ならわかるな? とっ、そもそも俺の結界は破れない」
「それは貴公が“ブラッドストーンの瞳”を使っている時に限る。我を殺すに至らんぞ」
「どうかね……」
既に男の瞳はブラッドストーンのように緑と赤、オレンジの入り混じった禍々しい色へと変貌していた。
しかし――右目はさらに青く変色していった。
深い海のように青く輝く、新たな宝石の瞳。
それはまるでサファイアのようで――
「――ぐうっ!?」
瞳が完成した刹那、ヴァムテルの体は浮き、結界の中でもがき出す。
「ぐっ……ぼごっ……」
「結界内を海へと変える、“サファイアの瞳”だ! そこで溺れて死ね、ヴァムテル!!」
「ッ――!」
ヴァムテルは咄嗟に拳を振り上げ、ドゴン!という破壊音と共に床を破った。
穴から下へ抜け出し、結界の中は空になる。
「……ハッ。単身で結界の中に入ってくるとはな。もう貴様は出られない。ねっぷりといたぶって殺してやる……」
ククククと笑う。
敵の大将を1人閉じ込め、もはやヴァムテルは結界を出ることができないのだから。
もっとも――結界を破壊するだけの、強力な力があれば別なのだが――。
◇
「ふえーん、ひどいよひどいよ〜っ!」
一方3階では、ミズヤは縄に捕らえられ、わんわんと泣いてジタバタしていた。
ミズヤは素性を明かさなかったため、レジスタンスは迷子の子として捕虜にしている。
見張りに男女一組の甲冑を着た兵がミズヤを見張っており、2人ともミズヤの様子を見て苦笑していた。
そのうち、女性の方が屈んでミズヤに言葉をかける。
「ごめんね、ボク? もう少ししたら、作業班と一緒に帰してあげるからね」
「…………」
帰してもらえる、その言葉にミズヤは首を傾けた。
建物1つ占領し、人をたくさん殺した。
そんな悪い人達が、ミズヤの事は解放するというのだから。
「あの……僕は殺さないんですか?」
「え? そりゃあねぇ……子供は悪くないし。巻き込ませちゃったのは私たちの責任だから、ちゃんとお家に帰すけど……」
「…………」
ミズヤは口を噤んで俯いた。
帰れない人をたくさん作った人達がそんなことを言うのだから――。
ミズヤも人を殺している、だから思わないことがないわけじゃない。
しかし――
「ボク、なんでそんなことを聞くのかな……?」
核心を突くような質問に、ミズヤの心臓はドクンと跳ねた。
だってそれは――
――お姉さんが、悪い人だから
――人殺しは罪だから
悪い人は――殺さないと――
そのミズヤに備わる狂気の蓋が開き、ドクンと心臓が脈打つ。
自身が罪人だからこそ、他人に贖いの辛さを味あわせないための――狂った衝動が、ミズヤの全身を駆け巡る。
ドクン、ドクンと脈打つ鼓動。
見開いた目線はレジスタンスの女性を射抜き――
ドゴン!!!
『!!?』
刹那に聞こえた破壊音に、全員の視線は奪われた。
音の先には瓦礫と共に落ちてきた巨漢、ヴァムテルが着地し、3階フロアを走り抜けていた。
「こうなれば仕方ない……戦闘を開始する!!」
ヴァムテルはその両腕にドライブ・イグソーブを握り、銃器より出現する魔法の刀を構えるのだった。
(ヴァムテルさん……。僕も行かないと、ね)
ミズヤは手に【黒魔法】で生み出した短刀を握り、バレないようにロープを斬った。
少しアクシデントはあったが、しかし――ここからが戦闘の始まりだ――。
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