連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜
第12話:諍いの芽
懐かしい声が聴こえてくる――。
高飛車な女の子の罵声や嬌声、鳴き声や笑い声。
真っ黒な空間に浮かぶ、金色の花。
ただ1人いる僕は、その花びらに触れた。
掴んだ花びらは手のひらになり、残る花びらが新たな体を作っていく。
ピンク色の着物、赤の羽衣。
その姿はどこか懐かしく、だけど今でも傍にあるようで――
「にゃあ」
そこで、まぬけな猫の鳴き声が聞こえた。
繋いだ手は猫の手に変わり、馴染みのある金色の猫が着物の裾から出てくる。
「サラ……?」
意味もなく問いかける。
猫が応答するわけが無い、そう知っているのに。
「なによ?」
だが、声は返ってきた。
さっき聞こえた、高飛車な女の子の声。
彼女の赤い瞳が僕を凝視し、少し怖かった。
「……僕の事、好き?」
ただ、なんでだろう。
この猫とはいつも一緒に居たのに、空白の時間がある気がする。
そしてこれは、いつもは問えないこと。
この場でサラが喋れるのなら、僕は、聞いておきたかった。
「はぁ……」
やれやれというようにサラはため息を吐き、そのまっすぐな視線を僕に向けて、こう言った。
「当たり前でしょ。私はいつも……13年前から、あなたを愛しているわ――」
返事を返した刹那、サラは光だし、金色の花びらへと戻った。
ぱさりと着物が落ち、その上に花びらが乗る。
……愛してる、その答えは嬉しかった。
でも――今12歳の僕を、13年前から愛してるというのは、どういうことだろう――?
◇
「ニャァァァアアア!!!」
「うわぁっ!!? えっ!? さっ、サラ? どうしたの?」
飼い猫の鳴き声に目を覚ました。
急に叫び出した事でパニックの頭は、天井を見るとスッキリする。
「クオン……何してるの?」
「そろそろ起きる頃かと思いまして、待機してました。お手数ですけど、【無色魔法】で下ろしてくれませんか?」
「いいけど……」
朝一の来客を、天井裏からゆっくりと下ろす。
掛け布団に包まれたクオンは床に降り、スリッパでペタペタ歩いてベッドの上に腰を掛けた。
「何か夢を見ていたんですか?」
「え?」
不意の問いに、僕は聞き返した。
確かに夢を見ていたけど、なんでわかったのだろう?
「顔がニヤけてましたよ?」
「…………」
そんな……ニヤけるような夢だっただろうか。
今となっては不思議だ。
サラが喋って、13年前から好きだったって。
愛してると言われたのは嬉しいけれど……。
「……僕にも、よくわかんないや」
「夢を見たのにですか? やましい事だったり?」
「ほんとなんだって……」
「フフフ、そういう事にしておきます」
からかうようにクオンは笑い、サラはさらに威嚇するよう鳴き声を上げる。
「ニャーッ! ニャニャーッ!」
「……なんですかサラ。少しからかっただけですよ」
「サラ〜、僕は気にしてないからいいんだよーっ」
今にも飛び出しそうなサラを抱え、スリスリと頬擦りする。
鳴くのはやめたけど、尻尾をビシビシ僕に当ててくる。
「それで、クオンは何の用?」
「んっ。昨日の返事は決まったかな、と」
「……ああ、うん」
なるほど、クオンはいち早く聞きたいらしい。
ただ、僕としては――
「僕は、クオンが僕をここまで求める理由が気になる。なんで僕なの? 神楽器を持っているから? 強い力があるから、レジスタンスと戦って欲しいってこと?」
質問を重ねて問い詰める。
責めるような言い草にクオンは俯いてしまい、何も無い床を見つめた。
酷い言い方かもしれない、でも彼女は僕を利用しようとしただけなら、それはいけない。
この国の事情は知らないけど、僕が戦う理由も無いし――それに、人を操ろうなんて、よく無いことだ……。
だから、クオンの言葉を聞きたい。
俯いた彼女が喋り出すのを、僕は待った。
「……3年前、何故バスレノスが北大陸を統一できたのか、ご存知ですか?」
唐突に問われるも、僕はその理由を知らないので首を横に振った。
僕の様子を見て、クオンはさらに語る。
「……3年前、父上は謎の女性と交渉し、様々な物を手にしました。進化した魔法武器の数々と、“神楽器”です」
「……神楽器?」
「ええ。現在はトメス兄様が持っています」
「…………」
話を聞いて納得する。
神楽器を持つ者同士、力を測りたかったのだろう。
お互い手を抜いて力を測れなかったけど――強いのはわかってる。
「……少し、昔の話をしましょうか」
◇
3年前、皇帝である父は大量の武器と神楽器を軍に与えました。
「これを持って、北大陸を統一しよう――」
皇帝は力に酔っていました。
新しい武器、魔法、神楽器という魔力増幅器とその魔法――勝てない者は無いと、軍靴を轟かせて他国を倒していきました。
そこには幾人もの人が犠牲となり――他国の王族貴族はその殆どが死に絶え、北大陸は屍の上に統一の文字を掲げたのです――。
さらに皇帝は東大陸を侵略せんと、一部の領土に進軍。
しかし、ここで皇后の母上とラナ、トメスタスの皇族が皇帝を止め、バスレノスは落ち着きを取り戻しました。
しかし、踏みにじられた国々の不満は残り――彼らの一部はレジスタンスとなり、バスレノスに反乱を起こしている。
そこにはもう1つの神楽器と、バスレノスから奪った武器を手に――。
レジスタンスは各地で騒動を起こす。
バスレノス軍は各地で見回りを行い、沈静化する。
この3年でバスレノスも魔法技術を改善し、新たな魔法武器を作り出した。
これからも、バスレノス軍はレジスタンスと戦うことになる。
この大陸を1つにするために。
そして――
「バスレノスは多くの血を流させた極悪の国だ。だからもう、これ以上多く血を流さないよう、最大限の努力を努めろ!」
醒めた皇帝、
「この続いている大陸の上を、この国の人はみんな等しく立っています。幾多の屍はもう立てない。貴方達が歩けるうちは、胸を張って行動しなさい」
頼もしい皇后。
2人が先立って、北大陸統一を果たそうとしている。
そこについてくる幾多の人々が協力し合い、世界を作り変えていく。
その一歩を今、着実に刻んでいる――。
◇
「北大陸統一はバスレノスの悲願、父上が力に取り憑かれて統一を急いだのも仕方ないのです。しかし、その罪過は消えない。今やってるのは、悪く言えば後始末なんです」
話は終わり、クオンの生気に満ちた瞳がミズヤを見つめる。
ダイヤモンドのように硬い意志がある銀色の目に、ミズヤは少し慄いた。
「だからミズヤ……貴方の力が必要なんです。今ある災いを鎮圧させるために、この国には……」
「…………」
震える声で話すクオンの背に、ミズヤは重荷が見えた。
山のような屍の――。
ミズヤには恋人、家族への償いと責任がある。
だから彼には見えた。
クオンに乗る大陸1つの責任が――。
高飛車な女の子の罵声や嬌声、鳴き声や笑い声。
真っ黒な空間に浮かぶ、金色の花。
ただ1人いる僕は、その花びらに触れた。
掴んだ花びらは手のひらになり、残る花びらが新たな体を作っていく。
ピンク色の着物、赤の羽衣。
その姿はどこか懐かしく、だけど今でも傍にあるようで――
「にゃあ」
そこで、まぬけな猫の鳴き声が聞こえた。
繋いだ手は猫の手に変わり、馴染みのある金色の猫が着物の裾から出てくる。
「サラ……?」
意味もなく問いかける。
猫が応答するわけが無い、そう知っているのに。
「なによ?」
だが、声は返ってきた。
さっき聞こえた、高飛車な女の子の声。
彼女の赤い瞳が僕を凝視し、少し怖かった。
「……僕の事、好き?」
ただ、なんでだろう。
この猫とはいつも一緒に居たのに、空白の時間がある気がする。
そしてこれは、いつもは問えないこと。
この場でサラが喋れるのなら、僕は、聞いておきたかった。
「はぁ……」
やれやれというようにサラはため息を吐き、そのまっすぐな視線を僕に向けて、こう言った。
「当たり前でしょ。私はいつも……13年前から、あなたを愛しているわ――」
返事を返した刹那、サラは光だし、金色の花びらへと戻った。
ぱさりと着物が落ち、その上に花びらが乗る。
……愛してる、その答えは嬉しかった。
でも――今12歳の僕を、13年前から愛してるというのは、どういうことだろう――?
◇
「ニャァァァアアア!!!」
「うわぁっ!!? えっ!? さっ、サラ? どうしたの?」
飼い猫の鳴き声に目を覚ました。
急に叫び出した事でパニックの頭は、天井を見るとスッキリする。
「クオン……何してるの?」
「そろそろ起きる頃かと思いまして、待機してました。お手数ですけど、【無色魔法】で下ろしてくれませんか?」
「いいけど……」
朝一の来客を、天井裏からゆっくりと下ろす。
掛け布団に包まれたクオンは床に降り、スリッパでペタペタ歩いてベッドの上に腰を掛けた。
「何か夢を見ていたんですか?」
「え?」
不意の問いに、僕は聞き返した。
確かに夢を見ていたけど、なんでわかったのだろう?
「顔がニヤけてましたよ?」
「…………」
そんな……ニヤけるような夢だっただろうか。
今となっては不思議だ。
サラが喋って、13年前から好きだったって。
愛してると言われたのは嬉しいけれど……。
「……僕にも、よくわかんないや」
「夢を見たのにですか? やましい事だったり?」
「ほんとなんだって……」
「フフフ、そういう事にしておきます」
からかうようにクオンは笑い、サラはさらに威嚇するよう鳴き声を上げる。
「ニャーッ! ニャニャーッ!」
「……なんですかサラ。少しからかっただけですよ」
「サラ〜、僕は気にしてないからいいんだよーっ」
今にも飛び出しそうなサラを抱え、スリスリと頬擦りする。
鳴くのはやめたけど、尻尾をビシビシ僕に当ててくる。
「それで、クオンは何の用?」
「んっ。昨日の返事は決まったかな、と」
「……ああ、うん」
なるほど、クオンはいち早く聞きたいらしい。
ただ、僕としては――
「僕は、クオンが僕をここまで求める理由が気になる。なんで僕なの? 神楽器を持っているから? 強い力があるから、レジスタンスと戦って欲しいってこと?」
質問を重ねて問い詰める。
責めるような言い草にクオンは俯いてしまい、何も無い床を見つめた。
酷い言い方かもしれない、でも彼女は僕を利用しようとしただけなら、それはいけない。
この国の事情は知らないけど、僕が戦う理由も無いし――それに、人を操ろうなんて、よく無いことだ……。
だから、クオンの言葉を聞きたい。
俯いた彼女が喋り出すのを、僕は待った。
「……3年前、何故バスレノスが北大陸を統一できたのか、ご存知ですか?」
唐突に問われるも、僕はその理由を知らないので首を横に振った。
僕の様子を見て、クオンはさらに語る。
「……3年前、父上は謎の女性と交渉し、様々な物を手にしました。進化した魔法武器の数々と、“神楽器”です」
「……神楽器?」
「ええ。現在はトメス兄様が持っています」
「…………」
話を聞いて納得する。
神楽器を持つ者同士、力を測りたかったのだろう。
お互い手を抜いて力を測れなかったけど――強いのはわかってる。
「……少し、昔の話をしましょうか」
◇
3年前、皇帝である父は大量の武器と神楽器を軍に与えました。
「これを持って、北大陸を統一しよう――」
皇帝は力に酔っていました。
新しい武器、魔法、神楽器という魔力増幅器とその魔法――勝てない者は無いと、軍靴を轟かせて他国を倒していきました。
そこには幾人もの人が犠牲となり――他国の王族貴族はその殆どが死に絶え、北大陸は屍の上に統一の文字を掲げたのです――。
さらに皇帝は東大陸を侵略せんと、一部の領土に進軍。
しかし、ここで皇后の母上とラナ、トメスタスの皇族が皇帝を止め、バスレノスは落ち着きを取り戻しました。
しかし、踏みにじられた国々の不満は残り――彼らの一部はレジスタンスとなり、バスレノスに反乱を起こしている。
そこにはもう1つの神楽器と、バスレノスから奪った武器を手に――。
レジスタンスは各地で騒動を起こす。
バスレノス軍は各地で見回りを行い、沈静化する。
この3年でバスレノスも魔法技術を改善し、新たな魔法武器を作り出した。
これからも、バスレノス軍はレジスタンスと戦うことになる。
この大陸を1つにするために。
そして――
「バスレノスは多くの血を流させた極悪の国だ。だからもう、これ以上多く血を流さないよう、最大限の努力を努めろ!」
醒めた皇帝、
「この続いている大陸の上を、この国の人はみんな等しく立っています。幾多の屍はもう立てない。貴方達が歩けるうちは、胸を張って行動しなさい」
頼もしい皇后。
2人が先立って、北大陸統一を果たそうとしている。
そこについてくる幾多の人々が協力し合い、世界を作り変えていく。
その一歩を今、着実に刻んでいる――。
◇
「北大陸統一はバスレノスの悲願、父上が力に取り憑かれて統一を急いだのも仕方ないのです。しかし、その罪過は消えない。今やってるのは、悪く言えば後始末なんです」
話は終わり、クオンの生気に満ちた瞳がミズヤを見つめる。
ダイヤモンドのように硬い意志がある銀色の目に、ミズヤは少し慄いた。
「だからミズヤ……貴方の力が必要なんです。今ある災いを鎮圧させるために、この国には……」
「…………」
震える声で話すクオンの背に、ミズヤは重荷が見えた。
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