連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第1話:邂逅(※)

 東大陸、バスレノス領――。
 2年前に北大陸全土を統一したバスレノスは東大陸北側にも領地を持っており、東大陸の他の国との物流が盛んに行われる都市であった。
 しかし――2年前に起きた戦争により、敗戦して統合された人々はバスレノスに不信感を抱き、反抗勢力レジスタンスと化して各地暴動を起こしている。
 そしてここにもまた1つ、暴動が――

「ハァ、ハァ……ハァ……!」

 銀髪を揺らしながら1人の少女が夜の星々の下、住居の間を駆けていく。
 彼女はバスレノスの第二皇女――クオン・カライサール・バスレノスであった。
 黄緑色のドレスは土埃にまみれ、白い柔肌にも幾つか紅い傷が見られた。

「くぅっ……!」

(やはりバスレノス領内に入れば、襲ってきますか……。内密の会談だったのに、やはり簡単には――)

「居たぞ!! こっちに人を回せ!」
「ッ……!」

 考える時間も与えられず少女は走る。
 土地勘がないにも関わらず、住居の間をジグザグ回ってレジスタンスを巻こうとしていた。

 彼女は東大陸でも栄えた国、マソーロ共和国へ部下を伴い会談に臨んでいた。
 しかし、帰還の際に馬車が襲撃を受け、近くにいる者は殆どが死んだ。
 現にクオンの側近は今誰も付いて居らず、13歳の彼女は1人で逃げている。

 日頃鍛錬など積んでいない少女は【赤魔法】も使えず、逃げる足は徐々に失速していった……。

「オラァ!!!」
「ガッ!?」

 不意に背中を蹴飛ばされ、倒れるクオン。
 頭を打ち、たらりと血が顔に垂れた。

「あ……ぐっ……」
「よし、よくやった。まったくこのガキめ、手こずらせやがって」
「けどこれで、バスレノスとのいい交渉材料が手に入りましたよ」

 1人の男が黒い猿轡さるぐつわをクオンに付けながら笑って言う。
 囚われた少女はバスレノスの第二皇女、これ以上にない取引の品になる。

「さて……とりあえず、コイツを運ぶぞ。この猿轡をしてしまえば魔法は使えねーからな」
「おう。人目がつかねーよう、袋にでも入れとくか」

 男の1人がクオンの両手を縛ったのち、麻袋をクオンに被せて肩に担ぎ上げた。
【赤魔法】の使える男であり、身体強化を使えば人を1人担ぐなど造作もなかった。

(喋れない……。空気も薄いし、意識も……霞んで……)

 怪我を負っているクオンは反抗する気力もなく、虚ろな瞳でただ時が経つのを待った。
 自分はもう助からない、この先どんな苦い思いをさせられるのかも想像がつかず、不安で意識を失うにも失えなかった。

 やがて、クオンは降ろされた。麻袋からも解放されるが、視界が霞んでどこにいるのかもわからない。

「【黄魔法カラーイエロー】、【治癒ヒール】」

 その時、誰かがクオンにヒールをかけた。
 頭の傷や所々の擦り傷もなくなり、意識も視界も明瞭になった。
 はっきりとした視界の先には、複数の男がクオンを見据えるように並んでいて――

「クックック、お手柄だな。後はコイツを陛下に献上すればいい」
「おいおい、その前にやる事あるだろ?」
「結構可愛いじゃん。まだガキなのが惜しいぜ」

 その中から1人の男がクオンに近付き――ドレスの胸元を引き裂いた。

「〜〜ッ!?」
「おお、下着もいいな。まぁとりあえず、この汚ねぇドレスをどかさねぇと……」
「早くしろよ。もっとビリビリいけ」
「下着もう脱がせよ」
「下着姿に興奮する奴もいんだろ? まぁまぁ、少しずつな」

 ナイフを出され、ビリビリとドレスは破られていく。
 腹部を露わにされ、男共から歓声が上がった。
 クオンにはもう、自分がどういう目にあうのか容易に想像がつき、しかし助けが来ることもないと、涙を流して諦めた。
 これから無数の男に体を弄ばれる――皇女であるのに、そんなのは――

(嫌だ……私はこんな――)

 叫ぶことも許されない。
 ニヤリと笑いながら息を荒くする男達がただただ恐怖に映り、クオンは目をつむった――。



 ――リリン


「……ん?」
「なんだ?」

 一瞬、鈴の鳴る音がした。
 男達はすぐさまあたりを見渡すが、鈴などなかった。

 ――リリン

 2度目の音、今度ははっきりと聞こえた。
 男達は全員立ち上がり、小屋の中で戦闘態勢になった。
 各々が武器を取り出し、一気に辺りは静まり返る。
 そして――

「……こんばんは」

 ギィと扉を開け、1人の少年が小屋に入る。
 黄緑色の法被を着て白い袴を履き、その頭には帽子のつばとして円筒のクッションをつけたようなベレー帽を被っている。
 帽子の先には、赤と黄色の鈴が付けられていた。
 年の頃は10かそこら、黒髪黒目の、気弱そうな少年だった。
 だが――その手には刀が携えられている。


「……なんだ、ガキか」

 男の誰かが発したその言葉により、張り詰めた空気は溶ける。
 少年を見て男達は刀を持っていることを不思議に思いながら、優しく少年に言った。

「坊や、迷子か? ここは子供がきちゃいけないから、他に道を聞きな」
「いえ……ここであってます」
「……え?」

 少年の言葉に男は疑問を口にする。
 刹那――

 ――ズブリ

「ガハッ……!?」

 少年は男の胸を突き刺した。
 その太刀に迷いはなく、男の体からは血が溢れ、刀が抜かれると倒れた。
 その様子に呆気にとられるも、倒れた男が動かなくなって、男達は一気に少年を睨む。

「殺せ! コイツは帝国の奴だ!」
「テメェ、このクソガキィ!!!」
「【赤魔法】――!」

 5人の男が魔法や武器で少年に襲い掛かった。
 しかし、少年が動くことはない。
 ただ一言、こう呟いた。

「【多天技】」

 その言葉が呟やかれた刹那、視界を埋め尽くすほどの黒い刀が宙に浮いて顕現する。
 その刀は射出され、男達の攻撃が届く前に、すべての男が血を流して倒れた。

 血溜まりができる。
 倒れている6つの肉塊は1つも動くことはない。
 少年は冷めた目で全てを見て、やがて囚われた少女の方へと歩いていった。

「……!」

 少女は怯えて身を縮こませる。
 この少年をクオンは知らなかった。
 バスレノスの人間じゃない、誰か――。

「……大丈夫?」

 不意に、少年は尋ねた。
 心配するように呟いたのだろう、しかしその言葉には生気がなかった。

「……あぁ」

 少年は猿轡に気付き、クオンの口元に刀を伸ばす。
 スパッと猿轡の縄を切り、少年は再び問い掛ける。

「……大丈夫?」

 今度は答えられるはずだった。
 しかし、クオンは答えられなかった。
 その少年が、恐怖に映ったのだから――。

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