連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第15話;崩落

「家が――!!?」

 マンションのように大きかった屋敷は半分以上が崩れ落ち、瓦礫の山が5mほど積み重なっていた。
 誰にも、何が起きたのか分からなかった。

「人骸鬼? 何故ここに……」
「え……?」

 カイサルの言葉を聞き、ミズヤはふと父を見てその視線をたどる。
 カイサルの見ているその先には、黒い骸骨のようなものが空に浮いていた。
 黒い骸骨がロングスカートのようなはかまを履き、黒い翼を広げている。

 ミズヤは一目で確信した。
 あれはヒトではない、全く別の何かだと。

「リヤ!!!」

 フィーンが叫びながら屋敷の中へ入っていく。
 ミズヤの妹の少女は、瓦礫のある場所で眠っていたのだ。
 不意を突いた一撃、瓦礫の中にリヤが埋まり、死んでいると理解するのに時間はいらなかった。

「――ミズヤ、あれを倒すぞ」
「……はい」

 2体の骸骨のようなモノ、それが何者かはわからないが、家を壊したのは奴等だとわかる。
 だからこそ敵意を込め、土に落とした刀を【無色魔法カラークリア】で呼び戻し、握り締めた。

 ――コツコツコツコツ

 カタカタと歯を鳴らし、2体の骸骨の手が黒く輝く。
 キュウウンと音を立てて魔力を集中させるようなそんな音だ。

「ミズヤ、1つだけ言っておく」
「はい……?」
「1撃も食らうな」

 カイサルはそれだけ告げると、ただちに飛び上がる。
 人骸鬼2体に向かって一直線に向かった。

 敵は骨の集まりであり、脆い。
 格闘が弱点だということは魔物討伐組織“魔破連合”が定めている。
 だからこそ飛び上がった。

 ヒュンヒュン――

 黒い弾丸がカイサルを襲う。
 もう一体の人骸鬼は肉のない手のひらから魔弾を放つ。
 しかし、カイサルは最小限の動きで全て避けた。

「うぉぉおおおおお!!!」

 猛り、カイサルが一体の人骸鬼に刀を振り下ろす。
 だが、その刃は届かなかった。

 ジジジ――ジジ――

 電気を帯びた黒い結界が骸骨を覆い、守っていた。

「くっ……」

 やいばは弾かれ、即座にカイサルは左手を結界にかざす。
 その手からは白い光が満ち溢れ、円筒状の筒が彼の腕を包む。

「【無色魔法カラークリア】――【空間欠落プレイスヴォイド】!」

 円筒の光が放たれると、その部分だけ人骸鬼の結界が開く。
 だが――

 ブオン!!!

「グッ――!」

 もう一体の人骸鬼が、魔力で作った槍を振るい、カイサルの背中を斬りつけた。
 魔法ではない物理攻撃だったからこそ傷はこの程度で済む。
 しかし、彼の注意は背後から攻撃した人骸鬼に向いた。
 振り返るカイサル、その背後にある結界内では両手を構える人骸鬼がいた。

「【力の四角形フォース・スクエア】!!」

 そこにミズヤが参入し、人骸鬼の結界に衝撃波を与える。
 ギィィィイと妙な音が響き、結界との力が拮抗していた。

 ――グルン

 それでも、結界内の人骸鬼はミズヤの方を向いた。
 これで人骸鬼は二手に分かれ、2つのタイマン勝負が行われることになるだろう。

「…………」

 ミズヤは何も言わず、刀を構えた。
 敵は単なる骨格、打撃を与えれば倒せるという理解はある。
 刀、もしくは殴打や蹴りでいい。
 結界を破って当てられれば――

 ――ヒュン

「……?」

 その時、結界内に居る人骸鬼が槍を投げてきた。
 黒い槍は大した力でもない投擲でも落下によって速くなる。
 しかし、それでもミズヤが避けるには十分過ぎた。

(……なんだ、これ?)

 変な攻撃に、ミズヤは首を傾ける。
 だが一撃も食らうなという父の言葉の通り、ミズヤは避け、攻撃する為に上へと飛んだ。

「――いかん!! ミズヤ、家を守れ!!!」
「――え?」

 必死な形相のカイサルの叫びに、ミズヤは間抜けな反応が出てしまう。
 しかし時すでに遅く、黒い槍は地面に落ちる。
 刹那――爆音が鳴り響き、黒い爆発が家を襲った。

「ガッ――」

 地面から十分に離れていなかったミズヤも爆発に押し出され、体を潰すような負荷がかかる。
 吹き飛ばされたその体の先には人骸鬼が居て――

 ドスッ

 いとも簡単に、黒い槍がミズヤの胸を貫いた。

 少年の体が落ちていく。
 槍が刺さったまま落下して、ドサリと落ちた。
 死ぬ――いや、もう死ぬ事は揺るがないだろう。
 口から吐き出す血は溢れ、ミズヤが最後に目にしたのは、炎に燃え上がる家だった――。



 ◇



『……予測より遅かったですか』

 それから15分後、魔王フォルシーナはシュテルロード家の前にやって来た。
 フラクリスラルで安全な王都を破壊されるのは阻止すべく王都を張っていたが、【瞬間移動】でシュテルロード家に来たのだ。

 屋敷は燃えていたが、ポツポツと降って来た雨でいずれ火は消えるだろう。
 しかし、誰も人はいなかった。
 瓦礫の山となった屋敷で生きた人はまずいない。
 そして、体に穴の開いたミズヤは地面におり、下半身の吹き飛んだカイサルか端の方で倒れている。

 シュテルロード家は破綻はたんした。
 誰にでもわかるその事実を、フォルシーナは1人で受け入れる。

『……さて』

 折角来たものだというのに、フォルシーナは目を閉じて振り返る。
 そこには2体の人骸鬼が居た。
 黒いオーラを放つ禍々しい存在、それを目にして――魔王は右手に黒い槍を持つ。

『……処分の時間です。遅刻しましたが、ね』

 完全な敵意を込め、魔王は人骸鬼を睨む。
 2体の人骸鬼も両手に槍を持ち――構えた。

 その槍――【悪苑の殲撃シュグロード】は強い衝撃を受けると爆発を引き起こす、いわば爆弾のような存在。
 骨と化したフォルシーナと人骸鬼は近くで爆発すれば、人骸鬼は確実に死ぬがフォルシーナもただ手は済まない。
 しかし――

『フッ――!』

 魔王は遠慮もなしに槍を放った。
 放たれた槍は人骸鬼を捉えるも、結界が発動し、結界にぶつかって爆発する。_¥\_\

 空が黒い煙で覆われる。
 雨が掻き消すような暇もなく、煙の中をフォルシーナは駆け――新たに作った黒い大剣を振り被り、一気に振り下ろす!

『【黒天の血魔法サーキュレイアルカ】――【悪苑の剣戟グジャロード】!!!』

 その言葉をトリガーに、振り下ろされた大剣は爆発を引き起こした。
 地上を喰らい、天まで黒い光が響く大爆発。
 黒い光の塊のような、天まで続く塔のような、巨大な攻撃だった。

 やがて攻撃が消え去り、煙の中から1人の少女が現れる。

『……はぁ』

 戦いを終え、フォルシーナは爆発で持ってかれた両手を見てため息を吐く。
 あの高威力ならば人骸鬼であれ、どんな魔物だろうと倒すことができるが、なにせ両手が骨なもので、【赤魔法】で強化しても耐えることができない。
 しかし、ほぼ魔物と同化した彼女は5分で腕も戻るため、仕方なしと諦めていた。

 それはさておき、戦いは終わり、唯一体が無事残っているミズヤの元に降り立った。
 少年は仰向けに大の字で倒れていて、胸には赤い血がべったりと付いている。
 虚ろな瞳をしたまま、体はピクリとも動かずに、電池のない人形のようになっていた。

『…………』

 少女は思う。
 自分の住処に封印された、あの少年に似ていると。
 それもそうだ、同じ性を持つ人間であり、甥のような存在なのだから。

 だが彼よりも幼く、若くして眠っている。
 話したこともな少年だが、魔王としては、彼と少し話したかっただろう。

「にゃーお」
『……ねこ?』

 その時、屋敷の方から一匹の猫が魔王に駆け寄る。
 いや、違った。
 金色の毛を持つ猫は、ミズヤを守るようにフォルシーナの前を立ち塞がった。

『……。その子のペット、ですか。そんなことをしても、彼は……』

 死んでいる、そう呟こうともした時だった。



 ミズヤの手が、微かに動いた――

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