連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第13話:意識

『終わったぁぁああ……』

 疲れからキーボードパネルの上に倒れこむ魔王。
 その姿はてんで魔王らしくなく、野太い声からは誰も今の彼女の姿を変に思うであろう。
 ともあれ、彼女は地下でただ魔物が生産されるのを見ているのを終えたのである。

『あー……次は人骸鬼ですか。もう作るのに抵抗もありませんね、うん……』

 自分が嫌ですよぅ〜……と呟きながら、彼女は再び立ち上がってパネルを操作する。
 画面には魔法の言語で

 善魔力:8000
 悪魔力:2700

 と記されていた。
 前まではもう少し数字を調整していたが、大雑把な数でもできる生命体は変わらないためにキリのいい数になっている。

 そのまま魔王はパネルのボタンを押す。
 すると、左右両奥のパイプがキュウンキュウンと音を上げ、パイプから魔物の出る透明な箱に青と黄色の光が捻出された。

 ボフン、プシュプシュー……。

『うわっ……。あーもう、自動の時はこうならないのに……』

 機械から煙が吹き出てくるのを見て、魔王はため息を吐いた。
 神の作った装置、“界星試料”といえども、何年もメンテナンスも無しに稼働していれば故障もするだろう。
 はたまた、これは1度壊されているが故か――。

 ともかく、魔物生成の箱には煙が充満してしまう。
 しかし、魔王は慌てることもなく、次の操作に移行した。

 画面には新たな数字が刻まれている。

 善魔力:0
 悪魔力:8000000

『…………』

 少女は何も言わず、魔物の生成を始めた。
 刹那に響く、2つの断末魔。
 部屋にある2つの箱、その中に先ほど生成された“ヒトモドキ”が悪魔力を注入され、苦痛や恐怖を感じてさけんでいるのだった。
 人骸鬼という魔物を作るには1度、“ヒトモドキ”を作らなくてはならない。
 だからこそ、人骸鬼を作るのは彼女にとって苦痛であった。
 叫ぶその姿が煙で見えないのは、唯一の救いかもしれない――。

『…………』

 彼女がずっと無言でいるうちに叫び声はやんだ。
 直後にはドンドンと強く箱を叩く音がする。

『……【完全制御コンプリート・マネージ】』

 魔王の少女は朽ちた両手を箱に向け、その魔法を使った。
 いつも使っている、魔物を制御する魔法だ。

『……はぁ』

 罪悪感からか、疲れからか、彼女はため息を吐く。
 弱々しいため息だった。
 人間を作り、そのヒトを殺すに等しい行為を行って、彼女は疲弊しきっているのだ。

 だからと言って他にする事もなく、自分以外に装置を使う人もいない。
 だから、魔王フォルシーナは人骸鬼を運ぶ作業に移ろうとした――。

 ゴンッ

『……ん?』

 物がぶつかるような音に反応し、フォルシーナは振り返る。
 部屋右奥の透明な箱、その中からは扉を開け、自ら出てくる人骸鬼の姿があった。
 黒い骸骨が下半身に袴を履いた姿であり、穴の空いた瞳孔はしっかりとフォルシーナの方を見ていた――。

『……まさか、嘘ですよね?』

 慌て、フォルシーナは後ずさる。
完全制御コンプリート・マネージ】は魔物の自律行動を無効にし、いわば封印状態にするものだった。
 だが奴は、自ら箱から出てきた――。

『……ええ〜?』
「コツコツコツコツ――」

 骸骨がカタカタと笑うように歯を噛み鳴らし、そして――

 ヒュン

 風のように飛び、大部屋の扉をブチ破った。

『なっ――ええっ!?』

 フォルシーナを無視し、人骸鬼は外へ出るために消えていった。
 素の状態のままで地上に出るということは、フォルシーナにとって最悪の出来事であった。

 人骸鬼は骨格でできていることから物理攻撃には弱い。
 だが、魔法は恐ろしく強く、この世界の魔物討伐組織“魔破連合”は人骸鬼をA級魔物に設定している。
 この階級はC、B、A、Sの4段階であり、A級の難度は相当なものであった。
 もともと、魔物には種類が100もなく、A級は4体のみ指定されている。

 だが、外に放つ人骸鬼にはフォルシーナが魔力を抑えていた。
 S級の魔物もそうだった。
 だから魔物の被害は近年減りつつあるが――抑制なしの人骸鬼は、小国1つぐらい潰せてしまう。

『クッ――』

 慌ててフォルシーナも後を追おうと振り向く。
 しかし、その横をまた何かが通り過ぎる。
 黒い装束、それはもう一体作った人骸鬼のもの。

『なんでこんな日に、魔法が効かないんですかねぇ!』

 魔王はその両手に魔力の黒い槍を作り出し、【無色魔法】で飛行して後を追う。
 地上――雲の敷き詰められた夜の中に出て、フォルシーナはようやく人骸鬼2体を視界に捉えた。

『私の最高速度より速い――このままでは振り切られる……』

 思考を口にしながら飛び続ける。
 空を切る音が耳に入りながら、3つの黒い姿が空を舞う。

 その中で、フォルシーナは気付くことがあった。

『こっちは東方向――? 人骸鬼達は、フラクリスラルに向かっている?』

 追い付けないことを悟り、フォルシーナは一度足を止めた。
 フラクリスラルに行く理由、それは一つしか思いつかない。

『奴らの狙いは……ミズヤ・シュテルロード――?』



 ◇



「いい攻撃だ、ミズヤ。だが、私を倒すならもっと知恵を使え」
「…………」

 無傷で炎から抜け出し、不敵に笑う父を見て、ミズヤは眉ひとつ動かさずに空中で刀を構える。
 その思考や意図が読めず、カイサルは問うた。

「なぜ黙る? 言いたいことがあるなら言え」

 刀を構えて問いただす。
 その言葉に、ミズヤはまばたきをしてから、重い口を開いた。

「別に……領主としての貴方と話すことは、僕にはありませんから」
「……。私も嫌われたものだな」

 ゆっくりとカイサルが飛び上がり、ミズヤと同じ視線の高さになる。
 刀を構え合う2人の剣士、空を蹴って刀を振り上げる――。

「フッ!!!」
「セイッ!!!」

 ギィイン!!!

 鉄がぶつかり合う。
 本来なら身体強化を行っているミズヤが刀を振り切るのだが、カイサルも既に【赤魔法カラーレッド】――【質朴増力インスタント・ストレング】を発動していた。
 あの爆発の中で――。

「ぬぅっ!!」
「りゃぁ!!」

 剣戟を交わし合う。
 刀を振るい、避け、あいた手で魔法弾を放つ。
 鉄のぶつかる音が鳴り響き、魔法は光となって吹き飛んでいく。

「つぅ――埒があかないな!」
「だったら素直に、負けを認めてよ!!」

 ミズヤはカイサルの刀を弾くと、カイサルはその勢いに乗って空に逃げる。

「【無色魔法カラークリア】、【力の雨フォース・レイン】!!」
「【無色魔法カラークリア】、【無色防衛カラーレス・プロテクト】……!」

 上から衝撃波の雨を落とすカイサルに対し、ミズヤは正方形の結界で防ぐ。

 ――ピシッ!

「くっ……」

 だがすぐに結界には亀裂が入る。
 このままでは長くは持たない。

(今までは優勢だったのに、こんな一撃で……! やっぱり魔力の差があるんだ!)

 どうしても勝てないのかとミズヤは奥歯を噛んだ。
 この領地を変えたい……そのためには勝たないといけないのに――。

(負けられない……! 僕の善意をもっと掻き出して、魔力を出さないと――!)

 思いを胸に結界の維持を勤めるも、亀裂は広がっていく。

「背負っているものが違うんだ、ミズヤァァァアアアアアア!!」

 カイサルは咆哮し、魔法の威力をさらに引き出す。
 もう結界は持たない――

(くそ……やっぱり、僕じゃ――)

 この家の事情を変えることはできない――そう、ふと家の方を見た。
 その時、少年は猫と目が合った。
 彼の飼う、金色の猫――。

(……サラ?)

 時が止まったようだった。
 目が合う時間が永遠に感じられ、少年は猫の赤い瞳に魅入る。

(……なんでだろう)

 ミズヤには不思議だった。
 まっすぐ自分を見ている猫が、ではない。
 不思議な想いが彼の身に溢れたからだ――。

(どうしてだか、お前が見ている前では負けたくない!!)

 その気持ちが胸を溢れ――結界が修復する!

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