連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜
第10話:挑戦
ミズヤは家の玄関の前で座っていた。
夜風に吹かれながら曇った空を見上げている。
暗い夜だったが、電灯もないこの世界ではかがり火が夜を灯していた。
赤い光が少年を照らし、映し出される顔には悲しみが映る。
(……父上。僕がするべきことは――)
考えているのは今日の事。
彼は領地――否、国の政治というものを知ってしまった。
フラクリスラルという国のシュテルロード領はその一部に過ぎない。
(だったら――)
「……よし」
彼は立ち上がり、漸く玄関の扉を開いたた。
その先にはカイサルとフィーンの姿が――。
◇
玄関から先は広間になっていて、広間の奥の左右に階段が設置されている。
しかし、真ん中には何もない、ただカーペットが広がっているだけ。
僕が入った玄関の真ん前、その奥に父上と母上は立っていた。
「ミズヤ……!」
「お帰りなさい、ミズヤ……」
2人とも、僕を見て感激するように顔を輝かせた。
だけど、まるで僕に駆け寄ろうとはしてこない。
事情を知った僕が反抗すると思ってのことだろう。
僕はもともと16歳の精神を持ってるし、激情に駆られて親を殺す、なんて事はしないけど……。
「にゃんっ」
「あっ……はは。おいで、サラ」
ペットのサラだけはいつもと変わらず、僕の方へ駆け寄ってくる。
ぴょこんとジャンプをしてくると、僕は両手でその小さな体を受け止めた。
「寂しくなかった……?」
「にゃ〜っ」
「よしよし。ちょっと待っててね」
そっと頭を撫で、サラを床に置く。
……さて、やる事をやらないと。
「父上、母上。僕は見てきましたよ。あの領地を」
「…………」
「そうか。今まで隠していて悪かった。お前がこの現実を受け入れられるかどうか、見極めなきゃならなかったんだ。ミズヤ、これがこの国で起きている事実、現実なんだ」
「父上……」
父上自身の口から領地の話をされると、改めて実感させられる。
家では何不自由無く僕に生活させ、優しくて愛想の良い人だ。
なのに……。
「父上……どうしてあんな政治が行われてるんですか。いや、政治なんかじゃない。あれはただの無法地帯だ! 世界の善悪が平等!? そんな確証もない理由で人々をあんな目に合わせるのは間違ってる!!」
感情のままに言葉を口にする。
人の命はあんなに安いものじゃない。
誰にだって他にできることがあるんだから。
なのに……簡単に人を殺し、争う空間を作ることはダメなんだ。
「善悪が平等なのは、確かな事なんだよ」
父上は頭を振って、諭すように言い聞かせてきた。
「……何でそんなことが言えるの。あり得ないよ、そんなこと」
「神の装置のせいなんだ。この世界はもともと、とある神が作った世界。その証拠は西大陸にある」
「……西大陸?」
この世界の地形を瞬時に思い浮かべる。
“サウドラシア”は4つの大陸があり、ほぼ東西南北に位置することから方角と大陸の名を合わせて呼んでいる。
西大陸はフラクリスラルのあるここ、東大陸よりも大きく、ここ100年で再興した地だと聞く。
「……なんで、そんな。西大陸? 行って僕に確認して来いということですか?」
「そうではない。ただ、いずれは彼女からこちらに来るだろう」
「彼女?」
「魔王だ」
魔王、その言葉の真意がすぐにはわからなかった。
魔王っていえば、勇者がやっつける悪い奴だと僕は認識している。
その魔王が、自らやって来る……?
「どういうことですか?」
「魔王はシュテルロード家と、少し因縁があってな……。このフラクリスラルが魔物に襲われないのもその為だ」
「…………?」
魔物――きっとそれは魔王の手下だろう。
それに、領地で見た黒い犬のようなもの、あれはきっと魔物なんだろう。
だったら――シュテルロード家は、魔王と繋がってる……?
「……父上。貴方はそんなに人々を貶めたいのですか!」
「誤解するな。私は世界を思って事をやっているんだ。魔王だってそう。魔物は世界の悪意の肩代わりをしている。魔物は人を傷つけ、殺す、悪い生き物だ。しかし、それを生み出さなければ人が人を殺す。私達とてそうだ。領地で悪意を溜め、他の国を、他の世界を! 平和にするために生きているんだ!」
「ッ!?」
語調の強い父上の言葉に気圧される。
本気の言葉なんだろう。
平和にするため、ただそこに、自分やこの国の人が入っていないだけで……。
きっと、今の制度を作るにあたって、いろんな人が関わってるんだろう。
僕の知らない偉い人や外国の人、何かと関係しているんだ。
だけど――それでも、目先に苦しむ人がいるのを、見過ごしたくない。
「父上……。それでもこの政治は間違っています。善意や悪意なんて誰もが持ってる、その裏側を表に出させて、人を貶める必要はないんです」
「…………」
「善悪が平等? 結構な事ですよ。喜怒哀楽があって人間なんだ。わざわざこんなことしなくたって、世界は平和にやっていけるんです!」
そうだ、僕は知っている。
転生前の世界【地球】では人々が協力しあって国を作っていた。
交通整備が発達し、便利の追求されていたあの世界では、善悪が平等とかそんなルールはなかった。
事件はテレビで流れた。
強盗や殺人はどこにでもおきるということ、だけど解説を聞いたら、犯人だってやりたくてやったわけじゃない人もいる。
悪さをすれば当然罰せられる。
だけど、情状酌量もある。
それは元がいい人だから。
だから……人にはみんな、善悪はあるんだ。
世界でそれが平等だからって、そんなの……。
「父上。僕は、こんな家を継ぐ気はありません」
「……そうはいかない。お前にはここを継いでもらうぞ。それがお前の責任なんだ」
「……そうです。だから、責任は負います。こんな家を継げないだけで、家が変われば継ぎたいと思うんです」
「…………」
「だから変えてください。父上……」
僕は頭を下げた。
どうしてもこの地を変えて欲しい。
全ての人が自由にあれるようにして欲しい、だから――。
「――ダメだ。お前や私がどうこう言った所で、変えられる問題ではない。お前には悪いとは思うが、これが宿命なのだ……」
それでも立ち上は頑なに拒む。
そこには諦観があって、この土地を変えることは不可能という諦めが見えた。
父上はこの件を、本心でどう思っているかはわからない。
だけど、僕だって自分を曲げられない。
「なら、僕と勝負してください。父上も昔から剣術や魔法を習い、国の将軍に当たると聞きます。将軍の貴方とまだ未熟な僕、これなら父上の方が有利だ」
「……なんだ、今更勝負とは。しかも私の方に勝ち目が出やすい。なぜそこまでする、ミズヤ?」
「負けられないからです」
自分の影から刀を出す。
さっきも出した実戦用の真剣。
今度はしっかりとふるってみせる――。
「これは親子喧嘩です。父上……受けてください」
「いいだろう。ただし、私が勝ったら土地の事は諦めろ。いいな?」
「ええ……」
「よかろう。外に出ろ」
父上に命じられ、僕は入ってきた扉を再び開く。
そのすぐ横にはサラが並び、雲の広がる夜の中へ戻っていった。
夜風に吹かれながら曇った空を見上げている。
暗い夜だったが、電灯もないこの世界ではかがり火が夜を灯していた。
赤い光が少年を照らし、映し出される顔には悲しみが映る。
(……父上。僕がするべきことは――)
考えているのは今日の事。
彼は領地――否、国の政治というものを知ってしまった。
フラクリスラルという国のシュテルロード領はその一部に過ぎない。
(だったら――)
「……よし」
彼は立ち上がり、漸く玄関の扉を開いたた。
その先にはカイサルとフィーンの姿が――。
◇
玄関から先は広間になっていて、広間の奥の左右に階段が設置されている。
しかし、真ん中には何もない、ただカーペットが広がっているだけ。
僕が入った玄関の真ん前、その奥に父上と母上は立っていた。
「ミズヤ……!」
「お帰りなさい、ミズヤ……」
2人とも、僕を見て感激するように顔を輝かせた。
だけど、まるで僕に駆け寄ろうとはしてこない。
事情を知った僕が反抗すると思ってのことだろう。
僕はもともと16歳の精神を持ってるし、激情に駆られて親を殺す、なんて事はしないけど……。
「にゃんっ」
「あっ……はは。おいで、サラ」
ペットのサラだけはいつもと変わらず、僕の方へ駆け寄ってくる。
ぴょこんとジャンプをしてくると、僕は両手でその小さな体を受け止めた。
「寂しくなかった……?」
「にゃ〜っ」
「よしよし。ちょっと待っててね」
そっと頭を撫で、サラを床に置く。
……さて、やる事をやらないと。
「父上、母上。僕は見てきましたよ。あの領地を」
「…………」
「そうか。今まで隠していて悪かった。お前がこの現実を受け入れられるかどうか、見極めなきゃならなかったんだ。ミズヤ、これがこの国で起きている事実、現実なんだ」
「父上……」
父上自身の口から領地の話をされると、改めて実感させられる。
家では何不自由無く僕に生活させ、優しくて愛想の良い人だ。
なのに……。
「父上……どうしてあんな政治が行われてるんですか。いや、政治なんかじゃない。あれはただの無法地帯だ! 世界の善悪が平等!? そんな確証もない理由で人々をあんな目に合わせるのは間違ってる!!」
感情のままに言葉を口にする。
人の命はあんなに安いものじゃない。
誰にだって他にできることがあるんだから。
なのに……簡単に人を殺し、争う空間を作ることはダメなんだ。
「善悪が平等なのは、確かな事なんだよ」
父上は頭を振って、諭すように言い聞かせてきた。
「……何でそんなことが言えるの。あり得ないよ、そんなこと」
「神の装置のせいなんだ。この世界はもともと、とある神が作った世界。その証拠は西大陸にある」
「……西大陸?」
この世界の地形を瞬時に思い浮かべる。
“サウドラシア”は4つの大陸があり、ほぼ東西南北に位置することから方角と大陸の名を合わせて呼んでいる。
西大陸はフラクリスラルのあるここ、東大陸よりも大きく、ここ100年で再興した地だと聞く。
「……なんで、そんな。西大陸? 行って僕に確認して来いということですか?」
「そうではない。ただ、いずれは彼女からこちらに来るだろう」
「彼女?」
「魔王だ」
魔王、その言葉の真意がすぐにはわからなかった。
魔王っていえば、勇者がやっつける悪い奴だと僕は認識している。
その魔王が、自らやって来る……?
「どういうことですか?」
「魔王はシュテルロード家と、少し因縁があってな……。このフラクリスラルが魔物に襲われないのもその為だ」
「…………?」
魔物――きっとそれは魔王の手下だろう。
それに、領地で見た黒い犬のようなもの、あれはきっと魔物なんだろう。
だったら――シュテルロード家は、魔王と繋がってる……?
「……父上。貴方はそんなに人々を貶めたいのですか!」
「誤解するな。私は世界を思って事をやっているんだ。魔王だってそう。魔物は世界の悪意の肩代わりをしている。魔物は人を傷つけ、殺す、悪い生き物だ。しかし、それを生み出さなければ人が人を殺す。私達とてそうだ。領地で悪意を溜め、他の国を、他の世界を! 平和にするために生きているんだ!」
「ッ!?」
語調の強い父上の言葉に気圧される。
本気の言葉なんだろう。
平和にするため、ただそこに、自分やこの国の人が入っていないだけで……。
きっと、今の制度を作るにあたって、いろんな人が関わってるんだろう。
僕の知らない偉い人や外国の人、何かと関係しているんだ。
だけど――それでも、目先に苦しむ人がいるのを、見過ごしたくない。
「父上……。それでもこの政治は間違っています。善意や悪意なんて誰もが持ってる、その裏側を表に出させて、人を貶める必要はないんです」
「…………」
「善悪が平等? 結構な事ですよ。喜怒哀楽があって人間なんだ。わざわざこんなことしなくたって、世界は平和にやっていけるんです!」
そうだ、僕は知っている。
転生前の世界【地球】では人々が協力しあって国を作っていた。
交通整備が発達し、便利の追求されていたあの世界では、善悪が平等とかそんなルールはなかった。
事件はテレビで流れた。
強盗や殺人はどこにでもおきるということ、だけど解説を聞いたら、犯人だってやりたくてやったわけじゃない人もいる。
悪さをすれば当然罰せられる。
だけど、情状酌量もある。
それは元がいい人だから。
だから……人にはみんな、善悪はあるんだ。
世界でそれが平等だからって、そんなの……。
「父上。僕は、こんな家を継ぐ気はありません」
「……そうはいかない。お前にはここを継いでもらうぞ。それがお前の責任なんだ」
「……そうです。だから、責任は負います。こんな家を継げないだけで、家が変われば継ぎたいと思うんです」
「…………」
「だから変えてください。父上……」
僕は頭を下げた。
どうしてもこの地を変えて欲しい。
全ての人が自由にあれるようにして欲しい、だから――。
「――ダメだ。お前や私がどうこう言った所で、変えられる問題ではない。お前には悪いとは思うが、これが宿命なのだ……」
それでも立ち上は頑なに拒む。
そこには諦観があって、この土地を変えることは不可能という諦めが見えた。
父上はこの件を、本心でどう思っているかはわからない。
だけど、僕だって自分を曲げられない。
「なら、僕と勝負してください。父上も昔から剣術や魔法を習い、国の将軍に当たると聞きます。将軍の貴方とまだ未熟な僕、これなら父上の方が有利だ」
「……なんだ、今更勝負とは。しかも私の方に勝ち目が出やすい。なぜそこまでする、ミズヤ?」
「負けられないからです」
自分の影から刀を出す。
さっきも出した実戦用の真剣。
今度はしっかりとふるってみせる――。
「これは親子喧嘩です。父上……受けてください」
「いいだろう。ただし、私が勝ったら土地の事は諦めろ。いいな?」
「ええ……」
「よかろう。外に出ろ」
父上に命じられ、僕は入ってきた扉を再び開く。
そのすぐ横にはサラが並び、雲の広がる夜の中へ戻っていった。
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