自転車が回転して、世界が変わった日
安成君は元気です……若いっていいなぁ……。
安成の家族は、さほど遊亀の病にも気にしなかった。
逆に心配して、
「休みなさい。ゆっくり休めばいいのよ」
「病気がどうした。疲れて参っとるだけや。家におればええ」
浪子はデーンと構え、亀松も大笑いである。
「自分の親ながら、凄いですよ」
安成は報告する。
「でも、親が反対しても……」
「連れて逃げてでも、添い遂げるつもりでした。親には申し訳ないのですが……」
安舍の一言に苦笑する。
「でも……」
「き、気持ち悪い……」
浪子に支えられ現れたのは、少々痩せやつれた遊亀である。
「おめでとう。ややが出来たのだって?父上が『初孫~‼』だそうだよ」
「おめでたいもなにも……気持ちの悪さが……。ご飯の匂いが……駄目だなんて……勿体ないお化けが……」
嘆く方向がずれているのは相も変わらずである。
「で、男の子がいいのかな?」
「いえ、私は健康であれば。でも、家の為にはと、言っているのですが……」
夫を見る。
「女の子を‼絶対に、遊亀に似た女の子で‼」
「と、こうなんです……うちに似ても可愛くないのに……それなら、安成君かさきちゃんに似た美人がいいですよね」
「さきは、元気で日々動いてるから、男の子かなと思っているんだよ」
実は、さきも身ごもっているのだが、つわりはほぼない。
「いや、兄上。年のせいですよ。高齢出産は危険度が高いんです。母体にも負担がかかるし……母体のできていない、10代前半も危険ですけど、私のこの年では、はっきり言って超高齢出産です」
「遊亀は……」
「数えで31です。生まれたときにはすでに1才。新年が来ると2才です。私は、長月(9月)生まれですから生まれて3月で2才です」
答える遊亀に、
「数え以外でも、年を言えるのかな?」
「『ゼロの概念』ですね。インド……ここから、南西にある天竺に、グレゴリウス暦628年に正式に用いられた記録があります。グラーマグプタという、数学者……計算を研究したり天文学を教えた有名な人が、使ったとあります。残されている書物の名前は『ブラーマ・スプタ・シッダーンタ』。元々はもっと古く、それよりも500年ほど前に用いられていたのですが、曖昧でした」
「ゼロの概念?」
安舍は不思議そうに言う。
「簡単に言うと、今では計算では子供は生まれた時には1才ですが、私の場合、長月に生まれた時には0才です。で、新年を迎えても年を取りません。翌年の長月に1才になるんです。生まれた赤ん坊は全く何も出来ない、泣いて襁褓、お乳をねだります。次の年の生まれた日位には、ハイハイや立ち上がったり、言葉をしゃべったり……その時に1才なんです」
「ふーむ……面白い考え方だ」
「もし、大晦日に生まれたら翌日には2才も大変でしょう?人それぞれ生きる時間も違う……新年に全員が年を取るというのも、新年に身を清め新しい気持ちで迎えるのに良いことです。でも、こう言う考えがあることも面白いと思いませんか?」
「あぁ、楽しい話だ」
安舍は微笑む。
「さきも面白がっていたが、遊亀の考え方は柔軟でとてもいいと思う。遊亀は学者だな。学ぶ楽しさを思い出させてくれる」
「そんな……知識だけで……」
「説明できるだけで凄いものだ。自信を持てとはまだ言わない。でも、自分を否定しないで、自分を誉めてあげなさい。他人よりも自分とお腹の子供を考えなさい」
年上の青年の言葉に、照れくさそうに、
「はい、兄上。ありがとうございます」
「では、遊亀?体を大事にするんだよ?」
「はい」
微笑んだ安舍に、頷いた遊亀は、日に日につわりにもなれて、日々を過ごせるようになったのだった。
逆に心配して、
「休みなさい。ゆっくり休めばいいのよ」
「病気がどうした。疲れて参っとるだけや。家におればええ」
浪子はデーンと構え、亀松も大笑いである。
「自分の親ながら、凄いですよ」
安成は報告する。
「でも、親が反対しても……」
「連れて逃げてでも、添い遂げるつもりでした。親には申し訳ないのですが……」
安舍の一言に苦笑する。
「でも……」
「き、気持ち悪い……」
浪子に支えられ現れたのは、少々痩せやつれた遊亀である。
「おめでとう。ややが出来たのだって?父上が『初孫~‼』だそうだよ」
「おめでたいもなにも……気持ちの悪さが……。ご飯の匂いが……駄目だなんて……勿体ないお化けが……」
嘆く方向がずれているのは相も変わらずである。
「で、男の子がいいのかな?」
「いえ、私は健康であれば。でも、家の為にはと、言っているのですが……」
夫を見る。
「女の子を‼絶対に、遊亀に似た女の子で‼」
「と、こうなんです……うちに似ても可愛くないのに……それなら、安成君かさきちゃんに似た美人がいいですよね」
「さきは、元気で日々動いてるから、男の子かなと思っているんだよ」
実は、さきも身ごもっているのだが、つわりはほぼない。
「いや、兄上。年のせいですよ。高齢出産は危険度が高いんです。母体にも負担がかかるし……母体のできていない、10代前半も危険ですけど、私のこの年では、はっきり言って超高齢出産です」
「遊亀は……」
「数えで31です。生まれたときにはすでに1才。新年が来ると2才です。私は、長月(9月)生まれですから生まれて3月で2才です」
答える遊亀に、
「数え以外でも、年を言えるのかな?」
「『ゼロの概念』ですね。インド……ここから、南西にある天竺に、グレゴリウス暦628年に正式に用いられた記録があります。グラーマグプタという、数学者……計算を研究したり天文学を教えた有名な人が、使ったとあります。残されている書物の名前は『ブラーマ・スプタ・シッダーンタ』。元々はもっと古く、それよりも500年ほど前に用いられていたのですが、曖昧でした」
「ゼロの概念?」
安舍は不思議そうに言う。
「簡単に言うと、今では計算では子供は生まれた時には1才ですが、私の場合、長月に生まれた時には0才です。で、新年を迎えても年を取りません。翌年の長月に1才になるんです。生まれた赤ん坊は全く何も出来ない、泣いて襁褓、お乳をねだります。次の年の生まれた日位には、ハイハイや立ち上がったり、言葉をしゃべったり……その時に1才なんです」
「ふーむ……面白い考え方だ」
「もし、大晦日に生まれたら翌日には2才も大変でしょう?人それぞれ生きる時間も違う……新年に全員が年を取るというのも、新年に身を清め新しい気持ちで迎えるのに良いことです。でも、こう言う考えがあることも面白いと思いませんか?」
「あぁ、楽しい話だ」
安舍は微笑む。
「さきも面白がっていたが、遊亀の考え方は柔軟でとてもいいと思う。遊亀は学者だな。学ぶ楽しさを思い出させてくれる」
「そんな……知識だけで……」
「説明できるだけで凄いものだ。自信を持てとはまだ言わない。でも、自分を否定しないで、自分を誉めてあげなさい。他人よりも自分とお腹の子供を考えなさい」
年上の青年の言葉に、照れくさそうに、
「はい、兄上。ありがとうございます」
「では、遊亀?体を大事にするんだよ?」
「はい」
微笑んだ安舍に、頷いた遊亀は、日に日につわりにもなれて、日々を過ごせるようになったのだった。
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