自転車が回転して、世界が変わった日

ノベルバユーザー173744

遊亀は、情けなくて恥ずかしくて誰にも話せませんでした。

 眠っていた遊亀ゆうきは目を覚ます。
 すると、安成やすなりが傍で寝入っていた。

「……ありがとう……皐月さつきとは言え、冷えちゃうよ……」

 自分にかけられていた着物をかけて、そっと廊下に出る。

 空を見上げると、細い眉のような月……。
 縁側に腰を下ろし、呟く。

「あーあ、言うつもりは、なかったんだけどなぁ……暗黒時代。ずっと……ずっと闇夜だったから……」

 涙が流れる。

「兄上、優しくて……父上も、お父さんもお母さんも……さきちゃんも安成君も優しすぎるよ……。こんな役立たずで得体の知れない私を……」

 ポロリ……ポロリ……。
零れ落ちる。

「こんなに幸せだったら……元の世界に戻ったら、生きていけない……どうしよう」
「ここにいればいい」

 フワッと背中にかけられ、抱き締められる。

「安成君……馬鹿だね……もっと可愛くて、優しくて、綺麗で、賢い人一杯いるよ?」
「俺は、遊亀がいい」
「変人。今まで人にされてきたから、仕返ししてやる‼とか思ってるとか思わないの?」
「そんなこと出来るなら、今みたいに、声を殺して泣いたりしないし、相手を憎むのなら兎も角、自分が悪いと責めることはないと思うけどね」

 その言葉に、

「そ、それもそうだね‼安成くんの嫁もなっちゃったし~‼」
「それは嫌みか~‼」
「あははは‼ウソウソ」

遊亀は振り返り、涙目で笑う。

「結婚は諦めてた。できないと思ってた。しないんじゃなくて……させて貰えない……一生、家に縛り付けられて生きるんだって思ってた……安成君みたいな、王子さまが現れるとは思わなかった……へたれだけど」
「何か、最後の一言が気になるんだけどなぁ?『ヘタレ』って何?」
「あははは‼内証‼」

 遊亀は笑う。

「ヘタレはヘタレ‼安成君にぴったりだよ‼」
「何だって~‼そう言う遊亀には‼」

 安成はそっと抱き締める。

「辛いことや、遊亀を苦しめるものは……俺が退治する。だから泣くな……」
「安成君……」
「怖いことも俺が苦手だったら一緒に乗り越えよう。だから……傍にいよう?俺ばかり甘えてて……ごめん」

 遊亀の顔が歪む。

「だ、だからぁ……安成君は、優しすぎるんだよぉぉ……甘えちゃうじゃない。それは駄目だって思ってるのに……」
「何で?」
「特別だって……信じちゃうじゃないか……。安成君の特別だって信じちゃって……目が覚めたら……」
「今、起きてるのに覚めるとかないだろう?」
「冗談とか……本気でとられないとか……」

 ひっくひっくしゃくりあげる。

「嘘だったら……悲しい……じゃないか……」
「俺も、悲しかったし悔しかった」

 その言葉に顔をあげて、安成を見つめ、

「ご、ご、ごめんなさい……だって、だって……」

泣きじゃくる遊亀を抱き締め、よしよしと撫でる。

「解ってるよ。意味が今解った。だから泣かないで……それに信じて……俺は、遊亀を嫁にした。鶴姫じゃない。遊亀だからだよ。だから……怖がらないで、心配しないで……ここにいるから……」
「や、や、安成君……」

 泣き続け、そしてそのまま眠ってしまった妻を抱き上げ、寝所に戻りつつ、

「遊亀を泣かせた奴ら、全員切り捨てたい……と言ったら、遊亀は泣くかな……」

と、安成は呟いたのだった。

「自転車が回転して、世界が変わった日」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「歴史」の人気作品

コメント

コメントを書く