311よりも前を知る私の思い………。

ノベルバユーザー173744

116のお昼から……。

涙をこらえながら帰った私は、お昼過ぎもあり、家のあるビルの裏口に入る。
階段を上っていると、

「おい‼玻璃はり‼」

声がかかった。

自宅ビルは5階と屋上があり、一階は両親が経営する食堂と、喫茶店が入っており、二階は食堂の厨房と、お座敷があった。
3階は叔母の住まい、4階が家、5階が祖母と叔母の部屋である。
ちなみに4階は5Kである。

声は父で、

「忙しいけん、手伝ってくれや」
「……うん」

拒否権はない。
荷物を階段のテーブルに置くと入っていく。

「何?今すぐ必要なのは?」
「キャベツの千切り‼定食の準備、みそ汁‼」
「はい‼」

その単語のみで動く。
小さい頃からの動き、無駄はない。
お手伝いのおばさんと3人で、手際よく、無駄はなく、手早く順番に作り、料理用のエレベーターにいれる。

「終わった?キャベツの千切りだけ済ませて上がるよ?」

一玉を切り、水にさらすと、

「じゃぁね……」
「玻璃ちゃん‼」

お手伝いのおばさんが、呼び止める。
いつもは姉ちゃんと呼んでいた、優しいおばさんは、様子のおかしい私に、

「どうしたん?なんかあったんかね?」

といつものように抱き締めてくれる。
白い肌の柔らかいその人が大好きで、抱き締め返す。

職場は食堂のため、匂いのするものはない。
ただ、優しい石鹸の匂い……。

「何かあったらいうんよ?いつも我慢ばっかりしてからに……泣き顔ばっかりしか最近見てないで?」
「……エヘヘ。姉ちゃんにぎゅってしてもらったら、元気になったわ。やっぱり姉ちゃんがおらんかったら、玻璃、弱虫やけん」
「こっち来て、ホットレモン飲まんかね?」

姉ちゃんお手製のホットレモンは、生のレモンを半分絞り、お砂糖適量の、甘い甘いごちそうのひとつ。
姉ちゃんの作る大きなおにぎりと、キャベツの千切りにかつお節、お醤油とレモンをちょっと、そして食後にホットレモンを飲んだらニッコリになる。

いつもならうんと言うはずだった。
でも、

「ううん、今日は良いよ。また夕方ね?姉ちゃん。お父さんも気を付けてな~?スープ沸かしすぎたらいかんで?」

手を振り荷物を肩にかけて、上がっていく。
涙がにじむ……。
階段を登り、扉を開けると泣き出そうとしたが、そこには、会社が休みの年子の兄と妹、そして高校二年の弟がいた。

「な、何でおるんよ⁉下忙しかったんで‼」
「仕事休みなんやし、俺包丁使えん」
「俺、危険やけんおるなって言われた‼」
「えと……不器用」

兄の慎一しんいちは、金融機関の事務系社員として働いている。
学校は、本人はソフトテニス部の部長だが、野球の名門高校卒業である。
ちなみにゲームオタクであり、私に三国志のゲームうんぬんのネタを仕入れてくるのは兄である。
その他、ドラクエ、FF、ロマサガは兄の影響である。
しかし、物持ちがよく、家にいるときには、ジャージ姿……。
中学時代のジャージはちょっと古すぎではないか?

「何でよ‼包丁が使えんのなら、洗いものとかしてよ‼」
「エェェ?」

嫌そうだが、現在兄は結婚し台所で洗い物に精を出している。
神経質な乙女座で、マイペースなB型典型的タイプである。

「ごめんなさい……姉ちゃん」

妹は両手を見せる。
去年の4月からある機械工場の点検部門で働いている妹だが、とにかく肌が弱い‼
冬になるとしもやけ寸前、皮がボロボロむけて、血がにじむ。
見ているだけで痛い。

「代わりに、お風呂掃除はしたんやけど……ごめんね」
「……仕方ないなぁ……」

何故か妹には弱い。
先に謝られると許してしまう。
ちなみに妹のひなとは、小説や漫画の趣味が合うので、本棚を共有している。
それに、私の友人に非常になつき、

「先輩だぁぁ‼やっぱり美人‼かっこいい~‼」
「お世辞は言わない~‼」
「言ってないですよ~‼先輩のこと、本当に大好きなんです‼」

の一言に、メロメロになる友人が多い。

「姉ちゃ~ん‼俺も俺も‼」

弟の浩司こうじにチョップをかます。

「嘘言えや‼この、遅刻魔が~‼何が、『姉ちゃん~‼遅刻した~‼特急乗るけん500円‼』やねん‼このたわけ‼特急のったら、お前行きすぎるやろが‼で、昨日は?」

弟は、二つ向こうの市の高等学校に進学した。
正直に言うが、いじめが原因である。
苛めたわけではなく、逆にいじめられた側であり、ランドセルは二年もたたずに分解、中学校の詰襟に似合う帽子は度々盗まれ、物は棄てられていた。
そのため、進学先を市内の工業高校を諦めて、二つ向こうの工業高校に進学した。

「だってさぁ、姉ちゃん~‼電車が、止まったんで‼手前の市で‼そこから、大きい町抜けて、ここまで走ってあるいて2時間‼」
「陸上部‼行け!」
「無理やわ~‼学校から帰るとき、台風やけん言うて、おいちゃんちまで走るんと違うんで‼おいちゃんとこまでは、車ほとんどとおってないし、横断歩道に信号も、山に入ったらないんやけん‼ついでに近所のおっちゃんに乗せて貰える‼それはない‼」

弟は、中学校まではソフトテニス部にいたが高校に入ると陸上に転向、中長距離の選手として走っていたが、膝を痛め途中で引退する。
で、弟もオタクであり、幻水や、信長の野望、大航海時代等や、戦艦軍艦戦闘機オタクでもある。
呉に置き去りにしておいても良いだろう。

ちなみに、兄弟4人B型、上から乙女座、乙女座、蠍座、射手座。顔も、兄が母方、弟が父方、と兄弟順である。

ワン‼

吠えるのは12才の、愛犬星丸。

日本犬の雑種で、知恵が回る。
白内障になりつつあり……漆黒の瞳が濁り始めていた。

「あぁ、星クーン。ただいま~‼」
「おい、玻璃。ゲーム。ここからがどうしても進まん‼」
「ハイハイ……どこから?」



私たちは知らなかった……。
明日も普通に一日が過ぎると思っていたし、信じていたのだ……。

コメント

コメントを書く

「歴史」の人気作品

書籍化作品