Re:勇者召喚

初柴シュリ

第三話

「皆さん無事スキルを確認出来たようで何よりです。そうだ、お名前を教えて頂けませんか?」


無邪気な表情で唐突に話題を振ってくる様は、とてもあいつに似ている。

パーティーの一人だったロタリア王国の第三王女、パルマ=ロタリア。金髪碧眼のおっとり美人で、俺が最初に異世界で知り合った人物である。もっとも、その穏やかな見た目とは裏腹にとんでもなく苛烈な奴だったが。普段はその見た目通り、優しい近所のお姉さんといった感じの性格だったが、俺が一度セクハラをすると、笑顔で「あらあら」なんて言いながらとんでもない笑顔を見せてくるのだ。あれは怖かったなぁ……あの笑顔一つで魔族が逃げたこともあるくらいだ。


「あ、そういえば自己紹介がまだだったね。僕は富塚 優也とみつか ゆうや。この二人とは知り合いだよ」

「私は姫宮 雅ひめみや みやび。そこの奴とは腐れ縁ね」

「……沢木 優芽さわき ゆめ


おっと、感傷に浸るのも程ほどにしないとな。もっとも、体感的にはついさっきまで一緒に居た為、まだ少し割りきれない物があるが。

だが既に四百年という膨大な時間が経っているのだ。この溝は決して埋まるものではない。納得出来なくとも理解はするべきだろう。

とまあ、ここまでちょっとシリアス調で語ってきたが、要するに俺が言いたいのは昔の仲間に見えてムラムラするということだ。

いや、軽蔑しないで……しょうがないじゃないか。さっきまで命のやり取りしてたんだから、生存本能的に興奮するんだよ。


「えっと、あなたは……」

「ん、わりぃな。俺の名前は小鳥遊 彰。平々凡々な元高校生だよ」

「コウコウセイ、が何かはわかりませんが……まあいいでしょう。それでは皆さん、早速とう……国王様の元へ行きましょう」


お、一瞬国王の事父様って言いかけて直したな。追求するのもあれだからしないけど、こういう感じの女子って凄く可愛いと思います。なんかこう、エロとは別にほっこりするよね。ほっこりしたところで俺の股間のほっこりは治らないんだけど。

さて、問題は国王との謁見か。流石に俺が四百年前の勇者なんて知られてるとは思わないが、万が一にも文献で知ってるやつがいたら問題だ。第一に俺の服装は異世界準拠の布の服。ここまで誰にも突っ込まれていないが、そこを指摘されると少々面倒なことになるかもしれない。なぜだか鎧とかは消えてるが、探せばあるだろ。

……しゃーない。逃げるか。


「あ、悪い。俺やんなきゃいけないことあるからパス」

『は?』


総員からの「何言ってんだこいつ」という視線が痛い。しかし、この程度で諦める俺ではないのだ。パーティーの仲間からの冷たい視線に耐えてきた経験は伊達ではない。

それにやらなきゃ行けない事というのは強ち嘘でもないのだ。現在、魔王討伐時より四百年が経過。そして当時仲間だったエルフは十九歳であり、エルフの平均寿命は六百年。

このことが意味するのはただ一つ。仲間がまだ生きている、ということである。

ん? 別に無理して行くほどじゃないって? バッカお前、帰ってきてたのに言わなかったとバレたらどんな折檻を食らうかわからんだろ。まだMに目覚めていない身でこれは中々不味い。勿論、これからも目覚める気は無いが。


「何バカなことを言ってるんですか。ほら、早く行きますよ」

「やなこった!!」


そう言って窓に足を掛ける。ようやく俺が本気だと思い知ったようで、慌てて全員が止めに入る。


「ちょっ!? 馬鹿な真似は止めなさい!!」

「早まるな!! まだ戻れる!!」

「……(カチャカチャ)」


完全に反応が自殺者に対するそれだ。別に死なないから大丈夫なんだが……あとゲーム女子。すこしは興味を持ちなさい。それはそれで寂しいんだが。死ぬよ? 寂しくて死ぬよ? 構って貰えないと死ぬタイプだからね俺?


「そこのツンデレの胸を揉ませてくれれば考えるよー」

「はぁ!?」

「隙あり!!」

『あっ』


ツンデレちゃんにセクハラをして動きを止めてから、窓から飛び降りる。

待ってろ。エロフの元へ、今いくぞ!!

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