オレハ、スマホヲテニイレタ

舘伝斗

3-14 オレハ、イノチビロイスル

 「もし、ミナミがナンクンなら当たるのは決勝か。」

 俺はコロッセオに掲示されているトーナメント表を見ながら呟く。

 「兄ちゃんならなんて事ねぇよ!実際にガロティス帝国で五星魔ペンタプルを倒したんだからな!」

 ウルは俺がナンクンに負けるなんてつゆほどにも思っていない。
 昨日負けたとこなんだけどな・・・いや、あれは不意打ちだったからであってきちんと向かい合えば対応できた。きっと!・・・多分。

 「今日からは一日ニ試合以上行われるんだ。流石にミナミも姿を見せざるをえないだろう。」

 「相手が誰でもユウトお兄ちゃんが負けるところを見たくないにゃ。」

 ニアちゃんに言われたら負けるわけにはいかないな。
 だが俺にはさらにパワーアップした、今もパワーアップしつづけているクラトがいるんだ。
 正直誰が相手でも負ける気がしない。

 「任せとけ。サクッと優勝して来るよ。な、クラト。」

 (絶対勝つよー!!)

 「じゃあ私たちはユウトの勝つところを客席で見守っているよ。」

 ヴィエラさん達はそう言って客席の方へ歩いていく。

 「さて、俺達も控室に向かうか。」

 「へっへっへ。今の、兄ちゃんの連れか?偉い美人だったな。どこで捕まえたんだ?」

 突然背後から聞こえて来る声に振り向くと、そこには

 「ひっ、山賊!」

 「誰が山賊だゴラァ。兄ちゃん。初対面の相手にずいぶんナメた態度だな?二回戦の前に今ここでその首はねてやろうか?あぁ?」

 「ご、ごべんなさい。」

 恐い、恐いから。 
 こちとら平和な地球で育ったせいであんたみたいな山賊面に耐性無いんだよ。

 俺がビビっていることに気付いたのか、山賊面はニヤリと嫌らしい笑みを浮かべる。

 「そうだなぁ。反省しているようだし、俺も鬼じゃねぇ。一晩でいいぜ?」

 山賊面は抜いた剣の腹で俺の頬をペシペシしながら恐ろしいことを言う。

 「お、俺、僕にそんな趣味はな、無いですっ!」

 無理だ無理!
 こんな山賊面と一晩とか絶対無理!

 「はぁ?お前じゃねぇよ。さっき一緒にいた兎人の姉ちゃんとだよ。どうせお前も使ってんだろ?あの姉ちゃん一晩で今回のことは水に流してやろうってんだ。悪い話じゃねぇだろ?」

 ・・・は?
 こいつ、もしかしてヴィエラさんに欲情してんの?
 しかもよりにもよってヴィエラさんをビッチ認定しやがったな?
 試合で覚えてろよ。ボコボコにしてやる。
 ・・・怖くて直接言えないけど。

 「っけ。何も言い返せねぇ程の腰抜けかよ。こりゃコロネルに勝ったのはまぐれだな。」

 山賊面はそう言い残して控室へ向かって行った。

 「畜生め。好き勝手言いやがって、玉潰してやろうか?・・・・・案外良い考えじゃね?」

 (ご主人様ー、一試合目はじまっちゃうよー?えいっ!)

 「がぼっ!」

 久々にクラトに顔面ホールドされて俺は現実に戻って来る。

 (ほら、もう少しで始まるよー?)

 「ごほっ、ん?おぉ、悪いなクラト。行くか。多分ナンクンとミナミは別人だろうけどな。」

 あれ?何か忘れてるっけ?

 

 

 

 
 「では、ハロルディア二日目、二回戦第一試合を始めたいのですが、残念なことに第一試合のミナミ選手対ウル選手。ウル選手の棄権によりミナミ選手の勝利です。いやー、ウル選手、まだ小さい体でアテゥマ選手の相手は厳しかったのでしょう。ミナミ選手はハロルディア始まって以来の一度も姿を見せずに三回戦出場です!では、第二試合めから行います!」

 そうだった。万が一を考えてウルが棄権したから またミナミの不戦勝だったな。
 あれ、じゃあ俺顔面ホールドされ損?
 いやいや、まさか。

 そこから着々と試合は進み、第三試合の出場者が全て決まった。
 俺と山賊面との試合?
 俺の圧勝ですよ。
 まぁ山賊面は二度とたつことが出来ないとだけ言っておこう。
 後で魅惑のバニーを紹介してやろう。

 「さぁ、ハロルディア二日目、午後の部。三回戦を行います!三回戦第一試合、ここまでニ連続不戦勝、一度も姿を見せることなく32人の猛者に残った幸運の持ち主。その実力は優初を狙えるレベルなのか!戦力未知数、ミナミ選手!」

 「「「「「うぉぉぉぉ!!」」」」」

 アナウンスで闘技台へ上がったのはローブを纏い、フードを目深に被った人物。
 一瞬ナンクンか!?とも思ったが、奴はローブでも隠しきれないほどの脂肪があった。
 ミナミ選手の体はローブ越しにわかるほどの筋肉も脂肪も見られない。

 「いや、俺の目はごまかされないぞ?これは・・・」

 (ご主人様?)

 「では、三回戦第一試合、ミナミ選手対クコロ選手。はじめっ!!」

 「「「「「うぉぉぉぉ!!」」」」」

 俺がミナミ選手を見定めていると、第一試合が始まる。
 開始と共に腰の剣を抜き、ミナミ選手に斬りかかるクコロ選手。
 流石に三回戦に進んだだけあってそこそこ鋭い。

 だが、ミナミ選手は腰に手をかざしたまま動かない。
 無抵抗でミナミ選手が負ける。
 そう誰しもが思った瞬間、ミナミ選手は居合いの要領、いや、居合いそのものでクコロの剣を弾き、返す刀で胴体にも峰打ちを入れる。

 「おぉ、居合い抜きに燕返しか。」

 「神斬り流・無明返し。」

 ミナミ選手は刀を抜く前の姿勢のまま、ぼそりと呟く。
 俺の声が聞こえた訳じゃなさそうだから技名を呟くタイプの子なのだろう。
 え?何で俺にミナミ選手の呟きが聞こえたのかって?
 クラトが優秀なんですよ。

 さて、流石に素人には居合い抜きや燕返しが見えなかったのか、クコロ選手が勝手に転んだと思い込み、野次を飛ばすものも少なくない。

 審判のアクアちゃんも、クコロ選手が痛みに呻いているだけで気を失っていないから試合を止めようにも止められない感じだ。
 あ、クコロ選手が起きた。

 「ここまでの力量。ただ運が良いだけではなかったのか。相手の力量も測れんとは。くっ、殺せ。」

 クコロ選手はそう言って膝を着いたまま動かない。

 「そこまで!勝者、ミナミ選手!!」

 勝利宣言を受けたミナミ選手の態度から、ミナミ選手が何かをしたのだと気付いた観客達は多いに盛り上がり、無数の賭け札が空に舞う。
 そうだよね。
 誰もスパールタさんの一回戦の相手に大金賭けないよね。

 賭け札を投げた人たちを内心拝みながら闘技台に背を向けようとしたとき、ふと視線を感じて闘技台を振り返ると、ミナミ選手と目が合う。
 そのままミナミ選手が闘技台を俺の方に降りて来る。

 「B、いや、Cってところか。」

 近づいて来るミナミ選手に、やはり俺の目に狂いはなかったと俺は緩む頬を抑える。
 その事に気付いたのかどうかわからないが、ミナミ選手からとてつもないプレッシャーが放たれる。
 まぁ今の俺からしたら寧ろ心地良いんだけども。

 「ふっ。」

 ミナミ選手はそのまま俺の横を通りすぎる。

 やっぱり。
 俺の見立てた通りだったな。

 俺は彼女・・の背を見送りながら相当美人だったフードの奥の素顔を思い返す。

 「今日はいい日だなぁ。」

 (ご主人様ー、そんなにニヤニヤしてるとまたヴィエラ怒られるよー?)

 「おっと。さて、決勝まで上がる理由が増えたなぁー。」

 俺は結局危なげなく三回戦を勝ち進んだ。

 いやー、何でか対戦相手の防御が股間に集中しててやりやすかったなぁ。

 

 

 「けっ、やっぱり俺の考え通り影武者だったか。ネクラユウト。」

 控室からコロッセオを出る道中、背後にふと気配を感じ、咄嗟に前へ跳ぶ。

 ブォンッ

 「へへっ、やぁっぱり本物はかわすよなぁ?」

 振り返る俺の前にはローブの大男、ナンクンが回し蹴りの体勢で笑っていた。

 「クラト、飛ぶぞ!」

 (わかったっ!)

 俺は近くの部屋に飛び込み、窓から外へ飛び立つ。

 「へっ、何処行こうってんだぁ?」

 飛行している俺をナンクンはあろう事か空気を蹴って空を走り、追いかけて来る。

 「そんなのありかよっ!くそっ、クラト、昨日の岩場に全速力だ!」

 (任せてっ!)

 クラトが一際大きく羽ばたくと、バツンッと空気を割く音をその場に残し、俺の体が急加速する。

 ズダンッ

 急加速から数秒で岩場に着地する俺とクラト。
 だが俺は着地の余韻を吹き飛ばす勢いで振り返り、空を見上げる。

 「やっぱり振り切れないか。クラト、様子見は無しで始めから全力だ。」

 (蒼天の戦鎧ブルーハイランダーだねー!)

 クラトの超高速飛行でも振り切ることが出来なかったナンクンを見上げてクラトに指示する。
 そして、徐々に姿がはっきりと見えはじめたナンクンに向けて右手を翳す。

 「とりあえず挨拶がわりにくらっとけ!なんちゃって"ホーリーレイ"!」

 ナンクンに向けて収束させた魔力を放つ。
 属性が付いてない純粋な魔力だが、威力はハロルディア予選で確認済みだ。

 カッ

 ナンクンは俺のなんちゃって"ホーリーレイ"を避けようともせず腕を大きくなぎ払うだけで彼方へはじき飛ばす。

 「まさか、今のが全力じゃねぇよな?」

 そのまま少し離れた場所に着地したナンクンは嘲笑うように告げる。

 「安心しろよ。魔法は最も不得意な分野だからさ。」

 「それは安心したぜ。んじゃ、お前の力、みせてみなっ!!」

 ナンクンと俺はほぼ同時に地面を蹴り、互いに距離を詰める。

 「いいねっ!せいぜい足掻けよっ!!」

 ナンクンは何かにつまずいて、前にこけるように倒れていく。

 こけた!?

 いきなりの事にチャンスとばかりに拳を握り、下がっていくナンクンの頭部目掛けて振り下ろそうとしたところで、クラトが腕を頭上に固定する。

 「クラトっ!?」

 ズドッ

 その瞬間、腕に衝撃が走り、見上げるとナンクンの脚を防ぐように腕を掲げていた。

 こけたように見せかけての踵落としか!
 だが、今こいつの脚はクラトが固定してる。
 これは避けられないだろっ!

 宙づり状態のナンクンを蹴りにいく。

 「ふんっ!」

 ナンクンはその蹴りを固定した脚を基点に腹筋の力で体を起こして避ける。

 バチィッ

 「いっ!」

 そして脚に雷を纏って掴むクラトを弾く。

 「はぁーはっはっ。いいぞ!実に良い!!あの雑魚のスライムがここまで厄介だとは思わなかった。そしてそのスライムをここまで育てたお前の手腕も!」

 ナンクンは少し離れた位置でクラトを褒める。
 じゃぁ逃がしてくれないかな?
 正直勝てるかわかんないんだけど。

 「だが所詮スライム。魔法に弱いのは変わらない。はぁっ!」

 ナンクンは雷を全身に纏う。

 「さぁ、次のレベルだ!!」

 そのまま距離を詰めて来る。

 「ちっ!クラト!あいつの攻撃は出来るだけ避けろよ!俺の体は丈夫だから気にしなくていい。それよりお前が減って俺の動きが悪くなる方がヤバい。」

 (・・・わかった。)

 ナンクンを迎え撃つべく腰の剣を抜く。

 「くそっ、こんなことなら安物の剣じゃなく上等なのを買ってくるべきだった。」

 過去の反省をしつつ俺はナンクンの拳や蹴りを避け、剣で反らし、流せないものはクラトのいない左手で弾く。

 よしっ。
 この雷はさほど脅威じゃない。これならクラト無しでも十分に堪えられる。
 ナンクンの猛攻の最中、隙を見つけては剣や拳で攻撃を加えるが、全く効いた素振りが無い。

 両者膠着状態のまま終わりの見えない殴り合いが何分も続く。

 「くっ、まさか俺が"気"も満足に使えない子供相手に攻めきれないとは。もうちょっと楽しみたかったが、そろそろ口うるさい奴が来るんでね。こいつを使わせてもらうぜ。」

 ナンクンはさっきより距離を取り、魔力を集める。

 "気"が使えてない?
 "気"の使い道って纏うだけじゃないのか?
 まさか漫画みたいに攻撃するときに集めたら攻撃力が上がるとか?

 「とりあえずこれ以上ナンクンが強化されたら面倒だし集中力を削ぐか!"ホーリーレイ"!」

 少し"気"を込めた魔力砲をナンクンに向けて放つ。

 「でかいっ!」

 ホーリーレイはこれまでと全く同じ量の魔力しか込めていないにも関わらず、速度、規模がかなり増強されていた。

 「ちっ、手を抜いてたってか!?はぁっ!!」

 ナンクンも予想外の規模に集中をやめて集めた魔力でホーリーレイを迎え撃つ。
 魔力同士の衝突は一瞬拮抗するも、直ぐにナンクンの方へ近づいていく。

 「ぐっ、このっ!」

 「いける!?クラト、もっと収束させろ!」

 (まかせてっ!)

 太さを絞ったホーリーレイはナンクンの魔力を軽く押し返す。

 「調子に乗るなよっ!クソガキがぁぁぁっ!!」

 ジュッ

 最後の最後でホーリーレイを何とか反らし、直撃を避けたナンクンだが、完全に反らしきれず左肩から先を失う。

 「ぐっ、このクソガキ、殺してや・・・」

 フッ

 左肩を押さえたナンクンがこちらを睨んだ瞬間姿を消す。

 「!?クラトっ!ナンクンは?」

 (わからない。いなくなっちゃった。)

 「全方向警戒してくれ。」

 ナンクンを見失い、奇襲を警戒するが結局そのままナンクンが現れることはなかった。

 

 

 

 
 「はぁ、はぁ、くそっ!何で邪魔しやがったっキュウキ!」

 ハロルドから馬で数週間の街に左失ったナンクンはいた。
 ナンクンの目の前には夥しい数の死体と鎖で吊られた一人の少年。
 そしてその少年に背を向けてナンクンを見下ろす一人の男性とその横に付き添うように黒髪に赤いメッシュの入った長身の青年がいた。

 「ナンクン。無様だな。マナシア様から力を頂いておきながらその様。コクトの二の舞だな。」

 「黙れ!お前さえ邪魔しなきゃ魔器であんなガキ殺していた!」

 「そうか。なら試してみよう。勇者よ、ナンクンに身の程というものを教えてやれ。」

 「あぁ?俺がそこの勇者モドキに負けるとでも?キュウキ、舐めるのも大概にしとけっ!魔器降臨!"悪鬼羅刹"!」

 おぉぉぉぉぉぉ。

 ナンクンの魔力に呼応するように地面や空から無数の怨念が集い、手に持つナイフを目印にナンクンの体に入り込んでいく。

 キュウキも勇者、アキラもその光景を見つめているだけで止めようともしない。

 「この姿になるのも止めないか。キュウキ、あんたも知ってるだろ。この姿なら魔器の無いあんたより俺は強いぜ?せっかくの玩具を壊すことになるが?」

 怨念を取り込み、猪の獣人であったナンクンの姿は一回り以上細く、大きくなり、辛うじて人型だとわかる程度の異形の姿を呈していた。

 だが、その姿になってもキュウキは動かず、アキラは逆にそんなナンクンに一歩近づく。

 「けっ、そうかよ。キュウキ、悪いが玩具遊びは終わりだ。そんであんたもな!魔器を出す時間すら与えねぇ!!」

 ハロルドから遠く離れた街で起こった異形と元勇者の戦闘は誰に知られることはなかった。

 ただ、この街に住民の虐殺以外の痕跡は残っていなかった。

 

「オレハ、スマホヲテニイレタ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く