オレハ、スマホヲテニイレタ

舘伝斗

3-11 オレハ、オソワレル

 翌日、朝起きた俺は腹痛に襲われていた。

 「ユウトお兄ちゃん、大丈夫にゃ?」

 「うぅ、無理かも。大勢に注目されるってこと考えたら腹痛と吐き気が・・・うっ!」

 バタンッ

 起きてから数十分。
 俺はトイレに出たり入ったりを繰り返す。

 「あぁ、気持ち悪い。」

 結局朝食も喉を通らず、コロッセオに着く頃にはゲッソリしていた

 「はぁ、全く。昨日までは何とも無かったじゃないか。」

 「兄ちゃん情けねぇぞ。そんな緊張するなら相手を瞬殺してすぐ裏に帰ってくればいいだろ。」

 「瞬殺か。そうだな。そうすればまだマシか。」

 ウルの提案で俺はリベンジャを瞬殺することを心に決める。
 リベンジャは決闘とか言ってたが、こっちはすでにそれ所じゃないんだ。
 悪いが全力で不意打ちする!!
 俺はそう心に決め、多少軽くなった気がしないでも無い足取りでみんなと別れて控室へ向かう。

 「兄ちゃん、大丈夫なのかな?」

 「まぁ心配無いだろう。リベンジャはユウトが観客のことが気にならないくらい強いからな。」

 「え、そんなにあいつって強いの?」

 「ユウトお兄ちゃん、緊張で出遅れて瞬殺されなきゃいいにゃ。」

 

 

 「はぁ・・・気持ち悪い。」

 俺は控室に着くと、用意された大部屋の角のベンチに腰掛ける。
 すると目ざとく俺を見つけて近寄って来る人影が。

 「おいおい、俺の相手をしてやろうと言うのにその無様な姿は何だ?大方、俺の実力をヴィエラさんに聞いて大口を叩いたことを後悔しているというところか。何、俺も鬼じゃない。ヴィエラさんをあきらめ、兄を侮辱したことを謝罪するなら試合開始後、痛みを感じないようすぐに気を失わせてやろう。」

 俺の目の前まで来たリベンジャが何か言っているが、俺はそれ所じゃない。
 控室の空気に当てられて、本番が近いと考えるとまた・・・

 「おい、貴様。聞いてるのか!」

 反応の無い俺に痺れを切らしたリベンジャは、おもむろに俺の胸倉を掴みぐいっと顔を引きよせる。
 あっ、ダメだ。

 「おえぇぇぇ。」

 「「「「「なっ!?」」」」」

 事の成り行きを遠巻きに眺めていた選手たちから可哀相な視線が注がれる。
 その視線の先には、ついに耐え切れ無くなってリバースした俺と、俺の胃液を胸に浴びたリベンジャの姿があった。

 「ではおまたせいたしました。本日の一組目、ユウト選手、コロネル選手は闘技台の方・・・へ・・・?」

 そこにタイミング悪く案内に来た係員が控室の異様な雰囲気に気づき、みんなの視線を辿り、俺たちを見つける。
 青い顔をした俺と、何故か吐瀉物で鎧を汚した俺の胸倉を掴むリベンジャ。
 流石にこの光景を見てすべてを理解する能力は係員には無かった。

 「えー、取り合えずユウト選手とコロネル選手はついて来てください。」

 (((((この状況で戦わせるのかっ!?)))))

 悩んだ末に出した係員の無慈悲な結論に控室の選手一同、ハロルディアへの畏怖を高め、同時に自業自得といえあの状態で試合をさせられるリベンジャを哀れみの視線で見送るのだった。

 その悲劇を知らない観客たちは多いに盛り上がっていた。

 「さぁ、ハロルディア2日目。一回戦第33試合目を開始します!」

 「「「「「うぉぉぉぉ!!!」」」」」

 「では、選手の登場です!まずは、世にも珍しいスライムを従え、その身一つで数千の魔物の中に飛び込む一騎当千の強者。残念ながら予選ではその身を一度もモニターに映し出すことは無かったのでお顔を拝見できませんでしたが、一昨日の抽選会場で目にしたとき、やはり私たちの運命は強く結ばれているのだと確信いたしました!ですからユウト様、どうか私を「おい、誰でもいい!アクア様を止めろ!!」「「「アクア様ぁぁっ!!!」」」あぁそんな。まだ告白の途中・・・」

 吐いて多少すっきりした頭でアナウンスを聞いているとアクアちゃんが暴走していて周りの信者に止められていた。
 会場を見回すと観客全員が今の脳内アナウンスに目を丸くさせ、俺の姿を視線で射殺さんとばかりに睨みつける。

 アクアちゃんめ。
 ここぞとばかりにアピールしやがって。
 いや、悪い気はしないよ?でもさ、タイミングってものがあるでしょ!
 今の一幕で会場が一気にアウェーだよっ!

 「えー、大変お見苦しいところをお見せいたしました。では改めて、対するは名門コロネル家の次男。麒麟児と呼ばれる兄と比べると見劣りするものの、前回の大会では慣れない二刀流スタイルでベスト8まで勝ち進みました。今年は得意の槍を携えての登場に賭けの倍率はうなぎ登り。旨味の少ない選手です。リベンジャ・コロネル!」

 アナウンスがアクアちゃんから別の人に変わったことで脳内アナウンスではなくなり、マイクでの紹介になる。
 っていうか賭けの旨味が少ないとか本人に面と向かって言うなよ。
 ハロルディアの係員おかしい奴多いな。アクアちゃん、親衛隊、こいつ。大丈夫か?

 アクアちゃんが時間を使ってくれたおかげである程度楽になった俺がハロルディアの心配をいていると、反対側からリベンジャが上がって来る。

 「おっと、どうしたことか。コロネル選手、まさかの防具無しでの登場です!実績の無い奴程度無傷で倒すというメッセージでしょうか。これはユウト選手、圧倒的に有利です!」

 解説者のアナウンスに会場中が一段階さらに盛り上がる。
 でも違うんだ。彼が防具をつけていないのは汚れたからなんだ。

 俺は内心で否定しつつリベンジャと向き合う。

 「もう、決闘とかどうでもいい。」

 向き合ったリベンジャは小さくそう告げる。
 俺としてもありがたい。変なプレッシャーも無く戦えるしね。

 「ネクラユウト。お前は殺す!!」

 あ、ダメだった。
 リベンジャの奴、汚されたことを相当お冠だ。
 大丈夫だよね?
 ハロルディアって未来の見える精霊が審判だから死人が出てないって・・・
 あ、アクアちゃん連行されてったじゃん!!
 くそ、マジか。試合開始までに帰ってくるよな?

 「試合、開始っ!!」

 だが無情にもアクアちゃんが試合開始までに戻ってくることはなかった。
 アクアちゃーーーーん!!

 「死ねっ!」

 開始直後、弾丸のようにリベンジャが飛び出す。

 「我が槍の錆びとなれ!」

 リベンジャから複数の突きがほぼ同時に飛んで来る。

 「ちょちょ、待ってタイムタイムぅっ!」

 バチュチュ

 俺の意思とは無関係に迫る突きはクラトによって防がれる。
 だが、リベンジャの猛攻は止まらない。
 頭、心臓、手足と容赦の無い突きが襲いかかる。が、その全てを尽くクラトが防ぐ。

 「く、スライムが従魔と侮ったか。なら、炎よっ!」

 リベンジャは突きをすべてクラトに防がれると、即座に槍に炎を纏わせてスライム対策を施す。

 「炎は反則だろっ!」

 ここでようやく俺は腰の剣を抜き、適当に構える。
 クラトがいくら強いといっても結局はスライムだ。
 炎に極端に弱い。あの突きはクラトにも防げないぞ。

 「はっ、所詮スライム任せの雑魚か。隙だらけだ!」

 その通りです。とは流石に答えられなかった。
 俺の構えを鼻で笑ったリベンジャは、今度は炎を纏った状態で突きを放って来る。

 「クラト!」

 ピコンッ

 「任せて。」

 ガギギンッ

 リベンジャの突きが届くより先に、クラトが俺の腕を覆い剣を動かす。
 流石に今度は想定外のことなのかリベンジャは槍を弾かれた態勢で固まる。

 「ほう。流石にある程度の技量はあるか。構えだけを見て侮った。なら!」

 リベンジャはすぐに追撃に動く。
 今度は突きだけでなく、足払いや横薙ぎも加えた多彩な槍術が襲いかかる。
 クラトが補助してくれているとはいえ、俺もクラトも武術の心得は無く、達人の相手をするには圧倒的に経験不足だ。
 これまでと違い、力業でどうこうできる技量差を超えていた。

 「くっ、ちょっとは、手加減しろよっ!」

 俺はリベンジャの猛攻に堪らず炎の纏っていない石突きでの攻撃をクラトに止めさせ、力いっぱい剣を振るう。
 もちろんそんな単調な攻撃ではリベンジャを捉えられないが、後に飛んで回避してくれたおかげで一息入れられる距離ができる。

 「素直に驚愕だ。これほどまで俺の槍を防いだのは兄以来だ!」

 リベンジャはすぐに襲い掛かって来ず、槍を下ろす。

 「何だ?降参してくれるのか?」

 俺はありえないと思いながらも槍を下ろしたリベンジャに確認する。
 どうか体力切れでありますように、と。

 「降参?俺が?有り得ないな。お前は次の一撃で殺す。」

 そういってリベンジャはフッと炎を消す。

 「へぇ、次の一撃で俺をね。炎を消したが、クラトに止められるぞ?恥かくぞ?撤回した方がいいんじゃないのかー??」

 俺は挑発するように言う。
 だが、事実炎の無いリベンジャの槍などクラトの絶対防御の前では無意味に近い。
 だが、リベンジャは俺の言葉を無視して槍を立て、体で隠すように後手に持ち替える。
 まぁ身長に対して槍の方が長いから穂先が頭の上から飛び出てるけど。

 「一つ、警告してやろう。この技は兄を以ってしても5割の確率でしか防ぐことは叶わなかった。」

 いやー、その兄がわからないんですけど・・・という前にリベンジャが魔力を纏う。

 「死ねっ!“幽幻槍“」

 リベンジャは槍を背に隠したまま先程よりも鋭く踏み込む。
 そして何の工夫もなく背後から多少勢いを増した突きを放つ。
 いや、頭からまだ穂先が出ている事を考えると、恐らく分解式の槍か何かなのだろう。
 これみよがしに頭上にはみ出した槍は突きへの反応を遅らせるものらしい。
 って、あれ?これだけ?
 これならクラトが・・・

 加速する思考の中、異変に気づく。
 目の前の突きにクラトが反応していない。

 クラトが反応しないっ!?
 頭上の穂先に騙されてる?
 それとも幽玄槍に何か秘密が?でも、この程度ならこの世界に来てから動体視力だけは上がった俺だけでも何とか弾けるっ!

 リベンジャの突きにクラトが反応しない中、俺は剣で槍を弾きあげるように振り上げる。

 俺の振り上げた剣は槍の先端に触れた瞬間、槍がブレて剣が槍をすり抜ける。

 っ!?
 さっきの魔力で槍を長く見せていたのか!

 俺は反省するが、振り上げた手はもう勢いのまま流されているため引き戻すことができない。
 そして、突きは何の障害もなく俺の首を穿つ。

 って熱っ!!
 俺の首に刺さる槍は高熱を帯び、俺は咄嗟に首を後に引こうとすると、ようやく動き出したクラトが俺の手を操り、背後に剣を振るう。

 いやいや、クラトさん。
 敵はそっちじゃなくて前!っていうかあれ?
 人って中々死なないんだな。

 ガキィン

 俺は首に刺さった槍を抜こうという考えも浮かばず、人の生命力に驚いていると、クラトが振るう剣に手応えが・・・手応え?
 俺は感じた手応えに従い、背後を振り向くとそこにはもう一人のリベンジャが槍を弾かれ、目を見開いて固まっていた。
 二人?
 じゃあ前のリベンジャは幻影か!
 幽玄槍のカラクリに気づき、俺は剣を握っていない方の拳を握る。
 それだけでクラトが次の行動を察知し、サポートが入る。

 リベンジャ、本当は気持ち良く謎解きをしてお前の悔しがる顔を見たいが、生憎このチャンスを見逃すほど余裕は無い。
 一刻も早くここから逃げ出したい。思ったより注目される中での戦闘はキツい。

 「今度はお前が隙だらけだ!」

 そういって俺は、いつの間にか足に纏うクラトの突進力を使ってリベンジャに向けて殴りかかる。
 その恐らく音速を超えた速度で放たれた拳ををリベンジャは奇跡と言うべき反応速度で防ぐ。
 俺の拳からパンッと空気を割くような音が鳴り、胸当ての下に着た麻の服がなびく。
 俺の拳を受けた槍は真ん中から折れたものの、リベンジャは無傷で立っているが、数瞬後、俺の動きに付随して生じたソニックブーム的な衝撃波は流石に予想外だったのか、リベンジャは拳を防いだ無防備な態勢で衝撃波を受け、成す統べなく場外へ吹き飛んでいった。
 余りの衝撃に会場中が静まり返る。

 いやね、俺もこの目で衝撃波を見るどころかこの身で衝撃波を起こすとは思わなかったよ。マジで。
 これ、新たな必殺技にできるんじゃね?
 蒼い瞬動ブルーソニックと名付けよう。
 ちょっととあるゲームキャラを思い出すが、まぁいいか。

 「な、何が起こったのでしょうか!私にはコロネル選手が二人に増え、その槍がユウト選手の首を穿ったように見えました!ですが、ユウト選手。事もなげに反転し、背後から迫るコロネル選手に殴り掛かり、さすがの不意打ちにコロネル選手、堪らず場外まで吹き飛んだぁぁーーー!!一回戦第33試合目、勝者、ユウト・クラトペア!!」

 「「「「「うぉぉぉぉ!!!」」」」」

 俺は静かになった会場から気を反らそうと現実逃避をしていると、アナウンスが復活し、花吹雪のようにリベンジャに賭けていた人達の賭け札が舞う。
 俺は観客の大歓声の中、日本人らしくヘコヘコしながら闘技台を降り、控室へ向かう。

 「あー、ハロルディア出たはいいけど、注目されんの嫌だな。いや、ヴィエラさんを賭けた決闘も終わったし明日不参加でも良くね?体調不良とか言って休もうかな。・・・いや、ヴィエラさんには仮病って気付かれそうだな。ヘタレって思われたくないしもうちょい頑張るか。はぁー、雨天中止にならない・・・だろうなぁ。」

 ピコンッ

 「ご主人様は戦うの嫌いー?」

 「いやぁ、まぁ人と戦うのはあんまり好きじゃないかな。魔物相手ならまだマシだけど。」

 ぶつくさ言いながら通路を歩いていると、少し先にローブを纏ったガタイの良い人が通路の真ん中に立っていた。

 次の選手か?
 魔法使いか暗殺者ってところか。
 にしてはガタイが良いな。拳闘士か?うん。そうに違いない。

 俺は邪魔にならないよう、通路の端により軽く会釈してすれ違う。

 「ネクラユウトだな?」

 「へっ?」

 ローブの男から突然呼ばれ、間の抜けた返事をして振り返り、先ほどまで居た男が消えていることに気づく。

 「あれ、誰もいな・・・」

 ピコンッ

 「ご主人s、」

 ドゴォォンッ

 俺は突然の真横からの衝撃に耐え切れず、通路の壁を破壊しながら吹き飛ばされる。

 「あ?完璧な手応えだと?チッ、身代わりを立てていたか。用心深い奴だぜ。アンタにゃ悪いが恨むんならネクラユウトを恨みな。ってもう死んでるか。」

 ローブから覗く豚顔の男はそういい残すと通路から消え、俺はクラトに瓦礫から引きずり出されるまで意識を失った。

 

 

 

「オレハ、スマホヲテニイレタ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く