オレハ、スマホヲテニイレタ

舘伝斗

3-9 オレハ、カンセンスル

 カオスになった抽選会から数十分後、俺は少しむくれたヴィエラさんの機嫌をあの手この手で宥め、最終的に
 「ハロルディアが終わってから二人きりで買い物に付き合ってくれるなら許す。」
 という有難い申し出を受け入れることで何とかその場を納めた。
 というか、むくれるヴィエラさんがメチャクチャ可愛くて何でも良くなったというか、ヴィエラさんと二人きりの買い物とかその、デ、デートみたいでむしろ嬉しい。

 と、そんなやり取りをコロッセオの外でしていると周りが一際大きな歓声をあげる。

 「ん?どうやら組み合わせが全て決まったみたいだな。」

 そのざわめきにすっかり元の様子に戻ったヴィエラさんがモニターに視線を向け、それにつられて俺とニアちゃんもモニターを見る。

 俺の位置は、ふむ。クラトのやつ、きっちり俺の指示通りリベンジャの隣を引いてくれたみたいだな。
 流石クラトだ。

 俺は組み合わせを見ながら、首に巻き付くクラトを撫でる。

 さて、ウルはどこだーっと。 

 俺はクラトが指示通りの場所を引いてくれたことを確認してから、ウルの名前を探す。

 「おっ。」

 「あったにゃ。」

 俺がウルの名前を探していると、ヴィエラさんとニアちゃんが先に見つける。
 俺も二人の見ている方向、右の方に視線をズらしていく。
 すると、トーナメント表の右側ブロック、一番右のスパールタさんから4つ離れた場所にウルの名前を見つけた。

 「ウルのやつ、2回勝てばスパールタさんかよ。」

 「奴は厄介だぞ。"気"の扱いに長けた奴の"練気鎧"には魔王ですら傷を付けられなかったからな。」

 「いやいや、魔王の攻撃で無傷って。・・・あの裸同然の装備で?」

 俺の言葉にヴィエラさんは広角を吊り上げながら頷く。

 マジかよ。
 あんな格好で魔王の攻撃を防ぐとかどれだけ変態なんだよ。
 いいおっちゃんだったけど、あの格好で魔王と対峙するとか頭おかしいんじゃね?
 ヴィエラさんも名前を知ってるほどだし、とてつもない変態だな。うん。

 俺がスパールタさんを内心こき下ろしていると、コロッセオからウルが走ってくる。

 「兄ちゃーん、みんなー。」

 「あ、ウルにゃ。」

 「ウルにスパールタさんの逸話を教えたら・・・気にしないだろうなぁ。」

 俺は笑顔で走ってくるウルを見て、大人気なく脅すのは止めておくことにした。

 「ウルもそうだが、ユウトの一回戦も大分厄介な相手だな。」

 走ってくるウルを眺めていると、横からヴィエラさんが少し声を沈めて話かけてくる。
 いや、声を沈めてるというより申し訳なさで声が小さくなってるだけか。

 「確かに厄介ですね。特に重度のブラコンってところが。昔の兄貴の失恋の八つ当たりで決闘を申し込んでくるくらいですし。」

 「いや、厄介ってそういう意味ではなくてな?奴の兄貴が麒麟児だと持て囃されて目立たないが、一人っ子ならあいつも十分麒麟児と呼ぶにふさわしい技量を持っているぞ?」

 「・・・あれ。もしかして俺、決闘とか早まりました?」

 ヴィエラさんが思いの外厄介そうな表情を浮かべるので、俺は途端に決闘を受けたことに対する焦りが芽生える。

 「で、でもほら、リベンジャのやつ、何だかんだ言っても前回ベスト8でスパールタさんより下なんですよね?」

 「前回大会は恐らく全力では無かったはずだ。何しろ得意の槍ではなく、兄貴と同じ双剣での出場だったからな。」

 あっるぇー?
 もしかしてスパールタさんと同レベルってことですかね。
 今回は怒ってたみたいだから槍で来るだろうし。
 あれ、俺何賭けたっけ?
 確か、ヴィエラさんと付き合うことを諦める事を賭けたような・・・・・・敗けられんな。
 本戦は明日から順に行われて、明日に右ブロックの一回戦、明後日に残りの一回戦、三日目は二回戦全部、四日目はベスト8まで決め、五日目に残り全ての試合を行う。

 「兄ちゃん、どうしたんだ?そんな心配そうな顔しなくともあの黒兎の五星魔ペンタプルみたいな奴はそうそう居ないぞ?」

 「そうにゃ。あれだけ強い人を倒せるユウトお兄ちゃんなら優勝間違いなしにゃ。」

 賭けを思い出して緊張が顔に出たのか、ウルとニアちゃんは俺を鼓舞してくれる。

 「あぁ、うん。そうだよな。」

 それにしても、黒兎のコクト、いや、後藤か。
 一度は倒せたと思ったが、あの後クソ神が後藤は寸前のところで逃げ出したって言ってたし、またちょっかい出してくるだろうな。
 次に現れたとき、奴も力を付けているだろうし俺はそんなやつを倒せるのか?
 それに五星魔ペンタプルっていうくらいだし、あのレベルの敵が恐らく後4人。
 みんな同じレベルだとして一人ずつ襲ってくるならまだ俺だけで何とかなる。
 二人で来ても、一人を俺が抑え、もう一人をヴィエラさんとウルに任せれば何とかなるだろう。
 問題は奴等が本気で俺たちを、いや、俺を殺しに来た場合だな。総出でなくても3人同時に現れたら恐らくこの中の誰かはやられるだろう。
 くそっ、クラト以外にもう一、二匹強力な従魔が欲しいぞ。
 俺のスマホの容量魔力の総量が確認できないのが厳しいな。地球では設定画面で見れたが、こっちに来てから設定のアイコンが消えていたから確かめる術が無いんだよな。

 ピコンッ

 「ご主人様?」

 俺の体の緊張が伝わったのか、首に巻き付くクラトが心配そうに震える。

 「ごめんな。大丈夫だよ。もう何匹かクラトみたいな優秀な従魔が居ればなって思ってね。」

 俺はそう言ってクラトを撫でる。

 「ん?ユウト、何言ってるんだ?」

 俺の言葉が聞こえたのか、トーナメント表を眺めていたヴィエラさんが振り向く。

 「いや、そりゃクラトみたいな優秀なやつなんかそうそう居ないって分かってますけど、後藤の件もあるんでもう何匹か居ればなぁって。」

 「何匹かって、何匹も居るじゃないか。」

 ヴィエラさんはそう言ってウルとニアちゃんを指差す。

 えっ、まさかウルとニアちゃんのこと?違うよな?

 「ウルとニアちゃん、ですか?」

 「俺は兄ちゃんに従うけど魔物じゃねぇぞ?」

 「ニアも違うにゃ。まずクラトどころか普通の冒険者さんより弱いよ?」

 「お前ら、何言ってるんだ。ウルとニアにはクラトが付いてるだろう?そのクラトは別にユウトに付いてるクラトが指示出さなくても二人を守っている。そうだな?」

 ピコンッ

 「どのクラトもクラトだからクラトが一々指示しなくても大丈夫だよー。」

 うん?
 いまひとつヴィエラさんの言いたいことが見えてこないな。と、俺が首をかしげていると、ヴィエラさんは軽くため息をつく。

 「はぁ、つまりだ。分裂も別行動も変形もできるクラトが居るんだ。近くにクラトを複数置いておけば新たに捕獲しなくともその数だけ強力な従魔が居ることになるだろう、ということだ。」

 おぉ。それは盲点だった。
 クラトしか従魔がいないと思っていたが、よくよく考えるとヴィエラさんの言う通りだ。
 クラトはスライムだけあって分裂も変形も得意。
 しかも分裂したクラトは大本のクラトが指示しなくとも自律思考可能だ。
 俺はずっとクラト以外に新たな従魔を、と考えていたが、クラトなら一匹で何匹もの従魔になれる。

 「クラト、小さくなったら戦闘力って落ちる?」

 ピコンッ

 「んー、小さくなったら弱くはなるかなぁー。」

 うーん。今分裂して複数に、っていうのは無理か。
 ハロルディアには従魔を一匹しか使えないって決まってるし、何より弱くなるなら分ける意味がないな。

 ピコンッ

 「他のクラトをここに呼ぶー?」

 俺がどうしたものかと悩んでいると、気の効くクラトからそんな提案が飛んでくる。
 そうだな。
 デカくなりすぎて連れていけなくなったクラト(分裂)から何匹か同じサイズのクラトを呼べばいいか。

 「じゃあ頼むわ。そうだな、今のクラト四匹分くらい呼んでくれるか?」

 ピコンッ

 「わかったー。すぐ呼ぶから、うーん、2日くらいで着くかな。」

 俺は五星魔ペンタプルの事も考え、必要な分だけ呼ぶことにした。
 全部来られても大きくて目立つだけだし、何より自由に行動できるクラトが居ないとレベルアップにならないからな。

 「ホントにクラトってズルいよな。俺もクラトみたいな従魔が欲しいぜ。」

 「ニアはドラちゃんみたいな可愛いのがいいにゃ!」

 「じゃあハロルディアが終わったら二人の従魔探しでもしてみるか?」

 「従魔ってそんな簡単に従えられるんですか?」

 ウル、ニアちゃん、ヴィエラさんの会話に俺はそんな疑問を放り込む。

 「まぁ相性が良ければ比較的に簡単だな。」

 「相性が良ければ、か。そういえばヴィエラさんの従魔たちはどうやって従えたんですか?」

 「あ、俺も聞きたい!」

 「ニアも聞きたいにゃ!」

 「そういえば話してなかったな。っと、そろそろ人も増えてきたし昼でも食べながら話してやろう。」

 ヴィエラさんの先導で俺たちは宿の近くの飯屋まで歩く。

 

 

 「あいつがコクトを?てんでガキじゃねぇかよ。」

 「油断していると足元を掬われるぞ?コクトはあれでお前と同等の力がある筈だからな。」

 「はっ。俺をあの"魔器"を与えられる前の新入りと同じにすんな。」

 「まぁ油断はしないことだな。ではハロルディア最終日には戻る。失敗はするなよ、ボアードン。」

 そう言い残すと男は一瞬で姿を変え、腰の曲がった老人として歩いていく。

 「ったく。キュウキのやつも態々釘を刺しに来なくても油断なんてしねぇってのに。」

 残った男はそう言い残し、雑踏の中に消えていく。

 

 

 

 
 翌朝、ウルの一回戦の応援のため、俺たちはコロッセオの来賓席に来ていた。
 どうも参加者とその連れ一人までは来賓席という他の客席より比較的ゆったりとした座席が与えられているそうだ。
 まぁ負けたら次の日から席が無くなるらしいけど。

 「すごい熱気ですね。」

 「ここに居るだけでテンションが上がるにゃ!」

 俺とニアちゃんは初めてのハロルディアの雰囲気に朝から興奮が収まらずにいた。
 サッカーワールドカップとかオリンピックもかくやという熱気だ。・・・行ったこと無いけど。

 「でもこの中で戦うのはプレッシャーだなぁ。」

 「無様な姿を晒すと一躍笑い者だしな。」

 「ウルのことが心配にゃ。」

 俺も明日、ここで戦うと考えたら胃が痛くなってきた。

 「今から緊張してどうする。ユウトならいつも通り戦えば問題ないさ。」

 「ユウトお兄ちゃんなら優勝も軽いにゃ!」

 なんで二人はここまで言い切るんだろうか。
 先頭でいいところばっかり見せてきたニアちゃんはまだわかるけど、ヴィエラさんはガブリン相手に無様をさらすとこ見せてますよね?

 それにしても、準備にやけに時間が掛かるな。

 一般席が満席になってから結構時間が経つが、一向に一試合目が始まる気配がない。
 開始時刻は過ぎてるはずなんだけどなぁ。

 「中々始まりませんね。」

 「ん?あぁ、そういえばそうだな。私も初戦から見るのははじめてだが、時間がかかりすぎているな。」

 「周りの人たちも早く始めろって騒いでるにゃ。」

 ニアちゃんの言葉に周囲を見渡すと、確かにチラホラと文句を言っている人が目につく。
 人によっては係員に詰め寄るほどだ。

 「大変長らくお待たせいたしました。これより、ハロルディア本選を開催致します。」

 「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」

 擂るとようやくアクアちゃんの声が響く。
 しかしこの能力、スピーカー要らずだな。

 「そして観客の皆様にまずはお詫び致します。本日第一試合目。スパールタ選手対ナンク選手の対戦ですが、選手の不参加により・・・」

 スパールタさんの相手、逃げたのかな?
 まぁ前回大会でスパールタさんベスト4って言ってたしな。
 一発目に瞬殺されたくなくて不戦敗ってところかな?

 「ナンク選手には不戦勝で二回戦に進んでいただきます。」

 アクアちゃんの言葉に俺は耳を疑う。
 いや、俺だけじゃない。
 この会場中のほとんど全ての観客がそうだったのだろう。
 アクアちゃんの言葉で無数の掛札が空に舞う。

 「そんな馬鹿な。あいつは毎年欠かさず出場しているんだぞ?それなのに不戦敗?」

 「スパールタさん、何かあったんですかね?」

 「わからない。まぁとにかく一回戦が終わったら探しに行ってみるか。」

 「そうですね。スパールタさんに限って忘れたいた、なんてこと無いでしょうし。」 

 俺は嫌な予感を感じつつ、闘技台に出てきたウルの応援に意識を切り替える。

 「では気を取り直しまして、一回戦第二試合。ウル選手・クラトペア対アテゥマ選手の試合を始めます!
 ウル選手は今回がハロルディア初参加であり、今大会本選出場者の中で最年少。ですが子供と侮るなかれ。予選ではその圧倒的な素早さで参加者の一太刀も受けることなく一人でほぼ全員を撃破する超の付く猛者です。
 対するアテゥマ選手!ハロルドの人気料理店、ドラゴンパスタでお馴染みリストランテ・ドラゴの清掃員にして予選ではその類いまれなる隠密能力で参加者が最後の一人になるまで息を潜め、最後の一人を後ろから躊躇い無く襲う無慈悲の清掃員!!リストランテ・ドラゴの料理長、ドラゴシェフからメッセージを頂いております。"アテゥマの対戦相手よ。見事、彼に勝利することができたのなら我がリストランテ・ドラゴへ招待しよう。尚、料金はアテゥマの給料で賄うことにするから死力を尽くしてくれたまえ。そしてアテゥマ。見事優勝することができたのなら給料を月10銀増額してやろう。"とのことです!正直羨ましい限りです。リストランテ・ドラゴといえば貴族の中にもファンがいるほどの有名店。コース料理ともなれば一人20銀はするという噂もあります。庶民には中々手が届かないその味をウル選手は手にすることができるのでしょうか!」

 ひどっ!
 アテゥマ選手の紹介ひどっ!
 特にリストランテ・ドラゴのシェフ。清掃員の給料であなたの店の料理を食べられるのか?
 それにアテゥマ選手は一回負けたら20銀(2万円くらい)は損害が出るのに優勝で月給10銀(1万円くらい)しか上がらないのかよ。
 予選を勝ち上がったのは残った一人を背後から不意打ちで倒したからだって言ってたし、隠れようのない本選では勝ち上がれないんじゃないか?

 「では、一回戦第二試合、開始っ!!」

 「「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」

 あぁ、始まったよ。

 「ふむ、今年の当たりはウルか。」

 「当たりですか?」

 試合を見るヴィエラさんが溢した一言が気になり、俺は聞き返す。
 周りの観客たちは羨ましいぞ坊主!とか俺と変われー。とか観戦する気の無い感じだ。

 「アテゥマは、というよりもリストランテ・ドラゴの清掃員は毎年こんなかんじでハロルディアに出場していてな。勝者は有名店の高級コース料理を無料で食べられるからある種のイベント扱いになっているんだ。」

 「でも清掃員ですよね?毎年上手く本選まで上がれるんですか?」

 「リストランテ・ドラゴで働いているものはシェフから給仕、清掃員までそこそこの実力者が集まっているんだ。」

 「それまたどうしてそんな?」

 「あそこは他の料理店と違って食材を全て自分達で調達しているからな。あそこで働くものは3人居ればドラゴンを狩ることが出来るレベルだ。」

 「でもなんで自分達で食材の調達をしてるんですか?冒険者に依頼したり卸売りされているものを買わないんですか?」

 「依頼したら確実に手に入るというわけではないからな。実力の無いものに依頼を受けられると全滅する恐れがあるし、なにより卸売りされた食材は鮮度がな。大衆食堂のような安いところはいいが、リストランテ・ドラゴほどの高級店となるとあまり卸売りの食材に頼らないな。」

 「そういうもんなんですか。」

 まぁ確かにこの世界は地球ほど技術が進んではいなさそうだしな。冷蔵庫とか無いのかもな。

 「あれ?それじゃああのアテゥマもそこそこ強いんじゃないんですか?みんな当たり扱いしてますけど。」

 「まぁ一般人の中ではアテゥマは強いが、ハロルディア本選に出るとなると少し実力が足りない。」

 あれ?
 俺、そんなドラゴン狩れるほど強かったっけ?
 でも、ヴィエラさんとウルと俺で・・・・・狩れるな。
 そうか。この世界にはレベルとか無いから自分の強さがイマイチ分かり辛かったけど、俺もそこそこ強くなってるっぽいな。クラトありきだけど。

 俺が自分の強さを再確認している頃、闘技台ではウルとアテゥマがようやく動き出す。

 「ふっ、リストランテ・ドラゴの清掃員を舐めるなっ!」

 アテゥマはウルにそう言い放つと、手に持ったモップを背に隠すように後ろに引き、駆け出す。

 「おぉぉぉ!清掃流、水拭き演武!」

 気合いと共にアテゥマは息も吐かせない華麗なモップ捌きを見せる。
 アテゥマがモップを振る毎に、闘技台からみるみる汚れが消え、汗や血が染み込んで汚れた闘技台が元の色を取り戻していく。
 勿論肝心の攻撃は全てウルに捌かれている。

 「あれは、清掃流!アテゥマは清掃流の使い手だったのか!!しかし、あの技は近くの汚れがなくなると攻撃にキレが無くなるという諸刃の剣。奴は勝負を急いでいるのか?それともなにか秘策が?」

 ・・・近くの観客が五月蝿いが、まぁ聞き流そう。

 「ふっ、水拭き演武を捌ききるとは、中々やるな。」

 「へっ、この程度兄ちゃんの攻撃に比べたら遅すぎてあくびが出るぜ!」

 「ならこれはどうだ!清掃流、乾拭き乱舞!」

 アテゥマはそういうとモップを投げ捨て、腰から雑巾を二枚取り出し、構える。
 あっ、よく見るとモップの穂先から刃が。
 あっぶねぇなぁ。怪我でもしたら、いや、武器だから怪我させることが目的か。
 ってことはあの雑巾も・・・

 俺がモップに仕込まれた刃に気付き、アテゥマの動きに視線を戻すと、彼はウルの足元を執拗に雑巾で攻めていた。
 しかも隙を見ては水の玉を魔法で作りだし、これまたウルの足元にぶつけに掛かっている。
 アテゥマの姿勢が低く保たれているため、この攻めにはウルも反撃する隙がなく、回避に専念している。

 「乾拭き乱舞だとぉ!?あの"気"と"魔力"の同時使用が困難であることから、幾人もの先人達が清掃流を諦めたといわれるあの技をあいつはあの若さにして習得したというのかっ!!」

 近くの説明役が便利だな。

 「あれ?ヴィエラさん。"気"と"魔力"の同時使用って"あれも闘力"なんですか?」

 俺は説明役の言葉にふと、世界でただ一人の闘力遣いに目を向ける。

 「いや、"闘力"は"気"と"魔力"を混合したものだから同時使用しているだけのあれとは別だ。まぁ確かにあれだけ高速で動きながら"気"と"魔力"を使用できることは称賛に値するが私もユウトもウルにだって出来る程度のことだ。」

 へー。
 何か知らないけど俺も同じこと出来るんだ。
 やらないけど。清掃流?格好悪いじゃん。

 俺はそう思いながら、ピカピカになっていく闘技台を見つめる。

 「くっ、これでもまだ届かないのか!」

 「まだまだ単調だ。そんな単調だと兄ちゃんとの組手ではボコボコにされるぜ。」

 「なら、清掃流奥義、研磨斬!」

 アテゥマは雑巾掛けが効かないとみるや雑巾を手放し、懐から電話帳ほどのサイズのお好み焼きをひっくり返すコテを取り出す。
 というかウルよ、ちょくちょく俺を引き合いに出すなよ。
 何か俺がおかしいみたいじゃねぇか。

 「おぉぉぉ!」

 流石は奥義というだけあり、アテゥマの動きがさっきまでより複雑に、かつ俊敏になっている。

 「よっ、ほっ、はっ。おぉっ、今のは擦った!」

 俺ですら目で追うのがやっとの動きをウルは楽しげに、アトラクションか何かのように笑顔で避ける。
 ウル、お前も十分変態だよ。

 「えっ?ユウトお兄ちゃんならもっと激しい動きしてるにゃ。」

 横から俺の呟きを拾ったニアちゃんの言葉が胸に刺さる。

 

 尚、後日ウルとの組手をしている俺の動きをクラトに再現してもらったところ、確かに気持ち悪かった。
 なんか蹴りとか突きが人間の可動域を越えたおかしなところからウルに襲いかかっていた。
 俺、なんで訓練の度に骨折しないんだろう。マジで。
 ほら、何で真後ろに回り込んだウルに背を向けた状態でフックを放てるんだよ。

 

 「それより、アテゥマ強くないですか?」

 俺はニアちゃんの言葉で受けたダメージを隠しつつ、今更ながら気になったことを告げる。
 ウルが苦戦しているようには見えないけど、どうもあのアテゥマの攻撃の多彩さに手を出しかねているように見える。

 「そうでもないぞ?確かにアテゥマは強いがウルはまだ実力の一端しか見せていない。その証拠に、ほら、クラトをまだ纏ってないしな。」

 それもそうか。
 ならなんだろ?ウルのやつ周りのレベルを見ようとしてんのか?
 それとも奥の手を隠して勝とうとしてる?
 そんな頭回るか?無いな。
 多分俺たちにいいところ見せたいだけだな。

 俺はアテゥマの大型のコテというか彫刻刀?で削られて平らになっていく闘技台を見る。
 闘技台は最早始めの岩岩しさを無くし、大理石のように艶が出ている。
 って岩岩しさってなんだよ。言ってて自分で突っ込んじゃったよ!

 闘技台の変化は置いておくとして、ウルとアテゥマの試合ももう佳境だ。
 といっても回避に専念していたウルは無傷で体力もほぼ全快で、当たらない技を延々放ち続けていたアテゥマはすでに立っているのもやっとの状態だ。

 流石は当て馬(笑)

 「はぁ、はぁ。流石は本選出場しただけはあるな。子供と油断していたぞ。」

 いや、お前本気だったろ。奥義とか放ってたじゃねぇか。

 「へへっ。アテゥマさんもなかなか強かったぜ。そろそろ終わらせてやるよ。」

 ウルよ、何格好つけているんだ。お前は避けてただけだろ。
 アテゥマもふっ。みたいなキメ顔やめろ。お前はただ自滅してただけだろうが。

 「いいだろう。我が最終奥義で止めを刺してやる。」

 「そう来なくっちゃな!アテゥマさんの最終奥義を越えて、俺はさらに強くなる!」

 「清掃流最終奥義」

 「むっ!」

 大型のコテを投げ捨てたアテゥマに集まる魔力にウルはこれまでと打って代わって真剣な眼差しを送る。

 「最終奥義だとっ!アテゥマのやつ、あの歳で既にその技を見たものが居ないという清掃流の深奥を極めたというのか!?」

 「閃光のワックス掛け!」

 無手のアテゥマが勢いよく地面を叩くと、アテゥマに集まった魔力が地面に流れ、カッ、と視界を覆う閃光を産み出す。

 「「「「「目がっ、目がぁぁぁぁ!!」」」」」

 最終奥義を見ようと目を凝らした観客の全てがその閃光を受け、目を押さえて某大佐になる。

 俺たちは咄嗟にクラトが視界を覆ってくれたお陰で闘技台での一部始終が問題なく見えている。
 僅かに白くなった視界の中、ウルが咄嗟に飛び上がり光と共に闘技台を駆け抜けるアテゥマの魔力を避ける。
 だが、アテゥマの叫んだ技名の通りの現象が起きているとしたら、ウルよ、飛び上がるのは悪手だぞ。

 「ふははっ!魔力感知に長けたものは必ずそう避ける!だが、避けたが最後、お前は無限の苦しみを味わうだろう!!」

 アテゥマが高らかにウルに宣言する。

 「へっ、空中にいても攻撃くらい避けられるぞ?」

 アテゥマが空中に居るときは攻撃を避けられないと考えているウルはまだまだ余裕を崩さない。
 まぁ飛び上がったところへの攻撃に対する対処は嫌というほど組手でやったしな。
 俺もウルも。

 「余裕を見せていられるのも今のうちだ!お前はすぐに地獄を見ることになる!!」

 ウルも追い討ちが来ないことを不思議に思ったのか、空中で器用に首をかしげる。
 だがウルは知らない。
 ワックス掛けの恐ろしさを。

 「まさか何も攻撃が来ないとは思わなかっ、おわっ!」

 ツルッ

 ズダッ

 ウルは着地と同時に派手な転倒音をあげて倒れ・・・たりはせず、足が滑り、地面に何か仕掛けがあると気づくと同時に腰にベルトのように巻き付くクラトを尻尾のように伸ばし、地面に楔のように打ち込み姿勢を安定させる。

 「なんだとっ!?」

 「へへっ。なるほどな。さっきの魔力は地面を滑りやすくするもので、閃光はこの仕掛けに気づきにくくするものだったのか。残念だったな、こんな手に引っ掛かっているようじゃあ兄ちゃんの相手はできねぇぜ!」

 体勢を整え、闘技台の表面を足で擦るウルの言葉にアテゥマは驚愕する。
 観客は何が起こったのか気づいていないようだが、俺も恐らくアテゥマのように驚いた表情を浮かべているだろう。

 ウルのやつ、反応速度だけなら俺よりいいんじゃね?
 あれ、もしウルと当たったら俺、勝てんのかな?
 っていうか俺ってそんなせこい手使ってたっけ?

 「隙ありっ!!」

 チュンッ

 動きの止まった隙だらけのアテゥマを見逃すはずもなく、ウルはビー玉くらいにしたクラトを飛ばし、アテゥマを昏倒させる。
 アテゥマ、やはり貴方は当て馬だったか。

 「清掃流を完封しやがった。アテゥマも相当の使い手だったが、あの坊主、ただもんじゃねぇ!」

 「アテゥマ選手が試合続行不可能となりましたので、ウル選手・クラトペアの勝利です!」

 「「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」

 「坊主!お前に全財産賭けるぞぉっ!優勝してくれぇ!!」

 「くそぉっ!今年こそ清掃流が勝つと思っていたのに!!」

 「ウルちゃん可愛いー!!」

 アテゥマの意識が無いことを確認したアクアちゃんが高らかと宣言すると、客席から大歓声が巻き起こる。
 くそっ、黄色い声援まで飛んでやがる!
 ウルめ、許すまじ!

 

 

 

 

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