オレハ、スマホヲテニイレタ

舘伝斗

3-5 オレハ、カリツクス

 ユウトが第一陣の小型の魔物集団を倒していく光景を目にし、アクアの護衛たちは顎が外れんばかりに口を開けたまま呆ける。

「おい、英雄級の人たちってあんなに強いのか?」

 その中の一人がユウトが小型の魔物を狩り尽くした辺りで気を取り直し、やっとのことで口を開く。

「いや、確かに英雄級は化け物揃いだって話だけど、昔見たハロルドの英雄級のラドゥス様もあの位はできたぞ?」

「いやいや、ラドゥス様は魔人族で大規模な魔法が得意なんだろ?でもあの人、魔法じゃなくて剣でそれと同じことをやってのけたぞ?」

「でもあんなに若い英雄級なんて"魔女兎"以外にいたか?」

「最近ガロティス帝国で一人若いのが英雄級になったじゃないか。」

「ばっか。あれは勇者だろ。魔王も出てないのにこんなところまで勇者が来るかよ。それに、勇者はガロティス帝国の悪神信仰者の攻撃で行方不明になったって聞いたぞ?」

「なら、あの人は?」

「「「「「・・・・・」」」」」

 自分達の知らない者が英雄級と呼ばれるレベルの実力を見せる。
 守護者であるアクアの護衛を任されている彼らは例外なく精鋭と呼べるレベルの者たちだったが、目の前で魔物を単身で葬るユウトの姿は嫉妬することも烏滸がましいほどの格の違いを見せつけるものだった。

「まぁ彼が何者であったとしても、このタイミングで彼に出会うことができた俺たちにとっては運が良かったという他ないさ。」

「ただ、あれ・・は無理だろ・・・」

 そう言って護衛たちはユウトが今倒した魔物たちの背後に迫る、一匹一匹が一軒家に近い大きさを持つ魔物たちを見つめる。





 ズゥン、、、ズゥン、、、

 護衛たちが半ば自分の人生を諦めた頃、ユウトとクラトの射程圏内に魔物の群れが押し寄せる。

「おいおい、幾らなんでもこれは、デカすぎだろ。」

(おっきいねぇー。)

 そういって俺は目の前の亀と思われる魔物を見上げる。

「これ、倒せる・・・か?」

 俺は不安になりつつ、全長5メートルはあろうかという魔物たちを見つめる。
 数匹程度なら構わないんだけど、魔物たちの列の切れ目が見えないし、また大仕事だなぁ。

(んっ、よしっ。ご主人様、さっき倒した魔物の回収が終わったからもう少し剣を長くするね!)

 そういってクラトが魔物の屍を回収していた分身を吸収し、クレイモアを更に2メートルほど伸ばす。

「流石にこの長さだと・・・しなるな。」

(・・・・・そうだね。)

 俺は長さが5メートルになったクレイモアの先端を見てそう呟く。
 流石にクラトと言えどスライムだ。
 俺の体という骨組みがあればある程度は硬さを維持できるが、5メートルも離れるとその硬さも維持出来ず、クレイモアを垂直に構えてもその切っ先が地面から離れることはなかった。

「クラト、クレイモアは止めよう。何か、意味がない気がする。」

(・・・ごめんなさい。)

 クラトはその言葉に少し落ち込みながらクレイモアを本体に吸収する。

「さて、どうしたものか。クラトが硬さを維持できるのは3メートルまで。目の前の魔物はそれだと一撃で倒せるかわからない。」

 魔物の進軍が遅いことをいいことに、俺は対策を練る。

「あぁ、せめて魔法が使えたらなぁ。んー・・・」

 漫画やアニメみたいに広範囲に及ぶ攻撃魔法を使えたら悩むことはなかったのだが、俺はまだ魔法はひとつも使えない。
 ならどうするか・・・。
 どうにかあいつらを倒すすべはないか。

 だが一向に解決策が見つからない。
 魔物たちももう目の前だ。

「はぁ、無理だわこれ。ごめんな、クラト。」

(ご主人様?)

「俺とクラトじゃあれは倒せないわ。」

(そ、そんなことないよ!頑張れば何とか・・・)

 俺の言葉にクラトはショックを受けたように反論する。
 だが言葉が途中で途切れたことから、クラトもこのままじゃ魔物を全て狩るのは無理だと気付いているのだろう。

「だから、あとは任せた・・・・・・。」

(・・・・・・・・・・・はーい。)

 その言葉でクラトは渋々蒼天の戦鎧ブルーハイランダーを解除して俺から離れる。

 ズル、ズル

 チラッ

 ズル

 チラッチラッ

 クラトは未練がましく何度か振り返りながら魔物の前に辿り着く。


 ピコンッ

「ほんとに一人でやるの?」


「頼む。」

 最後に、スマホを通して念押しをして来る始末。
 いや、どんだけ嫌なんだよ。

 俺は苦笑しつつもそんなクラトを見守る。

 するとクラトはすぐに諦め、魔物の進路に薄く薄く、広がっていく。

 ズゥン、、、ズゥン、、、

 クラトの小細工には目もくれず、大型の魔物はクラトを踏み抜く・・・・・ことは出来ず、次々とゴ○ブリホイホイに捕まった奴らの如く足を止める。


 ピコンッ

「折角、折角ご主人様と戦えたのに!お前たちなんか、こうだぁぁぁぁぁ!!」


 バクンッ

 魔物をある程度足止めすると、クラトは急速に膨らみ足の止まった魔物を丸飲みにする。

 だが、魔物の進行は止まらない。
 目の前で突然飲み込まれた仲間がまるで見えていないかのように、寧ろ目の前の渋滞の原因ノロマな大亀が居なくなったことを良いことに、更に速度を早める。

 ウゾゾゾッ・・・・バクンッ

 ウゾゾゾゾゾッ・・・・バクンッ

 ウゾゾゾゾゾゾゾッ・・・・バクンッ

 そんな魔物も、最早この世界最強なんじゃないかという強さになったクラトの捕食を前に着々と数を減らす。
 具体的に言うと1バクンッで数匹の大型の魔物を飲み、大きくなった体を広げ、次の1バクンッで十数匹を飲み、次で更に多くの魔物を・・・という風に雪だるま式に増えていく捕食数が進行速度を上回り、魔物の群れは不自然に数を減らしつつ後退していった。

 うん、これは、あれだな。

「もうクラトさえ居れば五星魔ペンタプルもマナシアも怖くないんじゃね?」

 俺の呟きは誰にも届くことなく風に消え、程なくして視界を埋め尽くしていた大型魔物は不自然に姿を消した。





「・・・魔物が、消えた?あの人が倒したとかじゃなくて?」

 大型の魔物たちの進行を目にし、一時は全てを諦めた護衛たちは、この数分で何度目かになる驚愕の光景に再び目を見開く。

 恐らく、彼らの瞳はそろそろミイラになる頃だろう。

「今のは、魔法・・・か?」

「あの人はただ立っていただけだし、魔物の消え方も不自然だったな。」

「でもあんな属性の魔法、見たことないぞ?」

 護衛の男たちはどうにか目の前の光景を自分の理解に当て嵌めようとするが、どう考えても上手くいかず、困惑を隠せない。

 何より魔法とは"火"、"水"、"風"、"土"、"雷"、"闇"、"光"、"無"の8属性から成る。
 必ず魔法はこの中から一つ、ないし複数の属性を持ち、"魔力"によって属性に則した現象を引き起こすのだが、今ユウトが引き起こした(実際はクラトが飲み込んだだけ。)現象には何の属性の気配もなかった。

 護衛たちの頭の中で考えられることは自ずと1つに絞られた。

「・・・無属性魔法。」

 ポツリと誰ともなく発された言葉は護衛たちの間に大きく響いた。

 本来"無"の属性は数多の賢者たちが、どの属性を用いても同じ現象を引き起こすことができなかった勇者の能力・・・・・を差す。
 この世界の住民の手に入れることの出来る"神の祝福"すらも上回る理を外れた能力。

 護衛たちの考えは満場で一致した。
 年端もいかない少年が引き起こした(ように見える)その現実が示すこと、即ち

「勇者・・・」

「行方不明なんかじゃ、なかったのか。」





 護衛たちの間に生まれた疑惑はざわざわと大きくなり、最早ユウトは勇者で間違いないという結論に至った頃、地上を埋め尽くす勢いであった魔物の大群を全て倒しきったことを確認したドラちゃんたちが護衛の元に降り立ち、クタッとしたアクアを離す。

「アクア様!」

「お体は大丈夫ですか!?」

 ドラちゃんの手から漸く解放されたアクアは地面に降り立つ・・・事は出来ずにペタンとその不自然に湿った腰を下ろす。

「み、見ないでくださいませ・・・」

 勿論これは上空の雲を突っ切ったときの水滴であり恥ずかしいものではない。が、ドラちゃんに上半身を覆われていたために腰から下しか濡れておらず、事実を知らない者が見たらそうは思わないだろう。

 そんな護衛とアクアを置いて、ヴィエラ、ウル、ニアはドラちゃんから降りユウトを迎える。



 ドラちゃんが降りてきたことを確認し、クラトに辺りに魔物の気配が無いことを聞き、俺はみんなの元へと戻る。

 その間、クラトはまたまた大きくなった体の大部分をその場に残し、いつものサイズで俺の首に巻き付く。

 だがその体からは少し不機嫌さが滲み出ていた。

「ほら、そんな不貞腐れるなよ。今回は俺が弱かったから少ししか一緒に戦えなかったけどこれからもっと強くなるからさ。そしたらまた一緒に魔物狩りに行こう、なっ?」


 ピコンッ

「・・・約束だからね?」


 クラトとそんな話をしつつ、右手でクラトを撫でながらヴィエラさんたちと合流する 。

「よくやったな、ユウト。最後どうするのかと思ったが、やっぱり乗り越えたな。」

「兄ちゃんすっげぇー強かったな!」

「ユウトお兄ちゃんならハロルディアも楽しょっぶっ!・・・ひはかんはひゃ舌噛んだにゃ。」

 そんな俺たちをみんなは高めのテンションで迎えてくれる。

「いやー、最後は結局クラト頼みのでしたけど、なんとかなりました。」


 ピコンッ

「ご主人様と最後まで戦えなかったけど頑張ったよー。」


 たった十数分の戦闘だったが、みんなに囲まれて俺は安堵の息を吐く。
 現代社会で争い事とは無縁の世界に生きてきた俺があんなに大量の魔物と戦うことになるとは。人生何が起こるかわからんね。

「そういえば、ヴィエラさんたちが降りてきたってことはもう取り逃しはいないってことですよね?」

「そうだな。空からみた感じ魔物の姿は無かったな。」

 ヴィエラさんの答えに俺は戦場、というかクラトの餌場となった街道脇に広がる荒野を見渡す。

 クラトのお陰で荒野は大量の魔物の屍で埋め尽くされることはなかったが、地面に染み込んだ血液までは回収できず、あれだけの魔物を倒したとは思えないほど狭い・・面積だけが赤々とした荒野が出来上がっていた。
 勿論俺が蒼天の戦鎧ブルーハイランダーで暴れたところだ。クラトだけだと丸飲みにするから痕が残らない。

「次にここを通った人たちはこの光景を何だと思って通ることになるんでしょうねー。」

 俺は今更ながら自分が作り出した怪奇現象にしか見えない光景にため息をつく。

「まぁあそこまで大量じゃないにせよ魔物に襲われることは間々あることだからな。どうとでもなるさ。」

 ヴィエラさんはそう言って苦笑して俺に歩み寄る。

 ギュッ

「うぼぉぁっ!?」

「おぉっ!?」

「うにゃっ!?」

「無事でよかった。」

 あろうことか俺を、その、包み込むというか、ね、大変柔らかい感触の、えーと、胸が、幸せの、顔を、息が、

「あの、少しよろしいですかっ!」

 俺の頭がショートしかけた頃、この光景を見て立ち直ったアクアちゃんが少し大きな声で話しかけてくる。

「・・・なんだ?」

 その声に俺を解放しつつまたもや不機嫌そうにアクアに対応するヴィエラさん。

「あっ、こ、この度は命を救っていただき感謝いたします。ひいてはお礼の件なのですが、」

 そこでアクアちゃんは少し言い淀み、意を決したように衝撃の言葉を吐き出す。

「私がユウト様のフィアンセになる、というのはどうでしょうか!」

 ・・・・・・・・ん?
 あれ、まだ俺の頭がはっきりしていないようだな。
 幻聴が。

「あの、今なんて?」

「ですから、私が貴方様のこ、婚約者に「いらんっ!」っ!」

 次の言葉はヴィエラさんに遮らる。
 もうヴィエラさんは怒り心頭だ。

「もう危機はない!私たちは行くぞ!ドラちゃん!!」

「あ、待って!」

 ヴィエラさんは一気に捲し立てると"闘気"まで使って俺、ウル、ニアちゃんを抱えて一足でドラちゃんに飛び乗る。
 勿論アクアちゃんの制止の声は無視して。

「ドラちゃん、さっさと飛べ。」

「きゅっ、きゅぁっ!」

 そのあまりの迫力にドラちゃんはまるで怯えるように即座に飛び立つ。

「あぁっ!待ってください、わ、私はあきらめませんからねぇぇぇぇぇ!」

 下から聞こえてくる悲鳴に近い声に反応することなく、ドラちゃんは地上の声の届かない高度まで上昇する。
 下を覗くと懸命にこちらになにかを主張するアクアちゃんの姿が。

「ユウト、まさか。」

 そんな俺の姿をアクアちゃんに対する未練に見えたのか、ヴィエラさんはショックを受けたようにウサミミを左右にヘニャらせる。

「いやいやいやいや、未練なんかじゃないですって!俺はもっと大人な女性が好みですって!」

 俺はヴィエラさんの視線に耐えきれず顔を背ける。

「ん?」

 そこで地上に僅かな違和感を覚える。

 なんだ?何かおかしくないか?
 どこだ?みんな乗ってる、よな。クラトも居る。
 何が引っ掛かる?護衛たちは無事だからアクアちゃんもハロルドに辿り着けるだろう。

 俺は違和感の正体を確かめるべく辺りを見下ろす。

「ユ、ウ、トぉぉぉぉ?」

 だが結局違和感の正体を突き止めることはできず、ヴィエラさんを宥める方に意識を割かざるをえなくなる。
 それから数十分にも及ぶ俺の赤裸々な性癖の話を根掘り葉掘り喋らされ、ようやくヴィエラさんに俺がアクアちゃんと結婚することはないと理解してもらう頃には俺の頭から違和感に対する疑問はすっかり消えていた。





 ドラちゃんに乗ったユウトたちが去り、空に向かって叫んでいたアクアを護衛たちがなんとか宥め、馬車に乗ってもらい街道を離れたあと、荒野の一部、赤く染まった大地に一人の男が立っていた。
 男はファンシーな衣に身を包み、白塗りの顔、目元には星と滴マークというピエロのような、いや、正にピエロそのものであった。

「くっくっくっ。話に聞いていた通り、我々の活動に支障が出かねないなかなか厄介な従魔を連れているようですね。ですが、いくつか弱点は見つけさせてもらいましたよ。・・・・・それにしても魔物の血は臭いますね。」

 フッ

 ピエロが言うと同時に、彼の足元に広がっていたクラトにも回収できなかった地面に吸い込まれた血液が彼の掌に集まり、赤黒いいくつかのビー玉のような結晶になる。

「あぁ、やはり死は美しい。あれほど醜い魔物が死ぬとこれほどまで美しい結晶を造るとは。醜いものに溢れたこの世界を美しい死で彩るためにはやはり、八大精霊たちは邪魔ですね。彼が・・私の邪魔をしなければいいのですが。くっくっくっ。」

 ヒュオォォォ

 一陣の風が吹き抜けたあと、男の姿は無くなっていた。

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