オレハ、スマホヲテニイレタ

舘伝斗

3-4 オレハ、ムソウスル

 ドラちゃんが降りてきて数分。
 ウルとニアちゃんの言った通り無数の魔物の陰が北側に位置する山から雪崩のように迫ってくる。

「なんなんだ、あの数は・・・」

「アクア様、全力を出せない今、あの数を相手にするのは自殺行為です。今からでも遅くはありません。避難いたしましょう!」

 迫り来る魔物の数を見て護衛の男たちが俺たちを引き留めようとしていた幼女に告げる。

 薄々思ってたけどこの幼女何者なの?まじで。

「・・・そうですね。今の私たちでは到底太刀打ちできる数じゃありませんね。せめてここが聖域ならばっ!」

 そう言ってアクアちゃんは撤退を指示する。

「あの、ヴィエラさん。この人たちが逃げるならついでなんであの魔物、全部クラトに食わせて良いですか?流石にあの数がどこかの街まで流れていったと考えると・・・」


 ピコンッ

「全部食べて良いのー??」

 あれ、何かクラトの食い付きが思ったより凄いな。腹ペコキャラだったっけ?


「それもそうだな。クラトは元々スライムだしあの程度の数なら何とでもなるか。私たちは足を引っ張らないようドラちゃんに乗って空で見てるか。」

 俺の提案にヴィエラさんも賛成し、クラトは意気揚々と魔物の群れへ駆けていく。俺たちはそんなクラトを残してドラちゃんに乗る。

「お待ち戴けませんか?」

 護衛の男の一人が俺たちを引き留める。
 いや、まぁ用件はある程度予想できるけど。

「もし宜しければアクア様だけでも乗せていただけませんか?不甲斐ないことに私たちの力ではあの集団から逃げ切ることは不可能に近いでしょう。どうか、よろしくお願い致しますっ!」

 俺は男の言葉にヴィエラさんを見る。
 だって、ねぇ。何かヴィエラさんの態度が何時もと違うんだもん。

「断る。私たちはこれからあの魔物と対峙する予定なんでな。お前たちが逃げ切れる時間は稼ぐから勝手に逃げておけ。」

 わぉ。流石ヴィエラさん。
 躊躇い無く断りましたねー。

 まさか断られると思っていなかったのか、護衛の男は呆ける。

「はっ?あの、今もしかしてあの魔物と対峙する。と言いました?」

 あっ、そっちか。
 元々断られる可能性の方が高いのか。赤の他人だし。

「そうだ。あの数の魔物、放っておいたら必ずどこかの街が犠牲になるからな。流石にあの数相手に周りを見ている余裕はない、行くなら早く行け。」

 ・・・まぁ戦うのはあくまでクラトであって俺たちは空の上だから周りを見る余裕はあるんだけどね。
 ヴィエラさんマジでこの集団と、いや、アクアちゃんと何かあったのかな?

「それでしたら私もご助力いたします!貴方達を残して去ったとあれば守護者の名が廃ります!」

 ヴィエラさんの言葉を聞いてアクアちゃんが寄ってくる。
 ああぁ、ヴィエラさんに近づいちゃダメ!

「いらん。」

 ほらぁ。
 あ、アクアちゃん涙目になってる。
 うーん、何か段々可愛そうになってきたな。

 俺は堪らずヴィエラさんを引いてアクアちゃんから少し離れる。

「ヴィエラさん、あの子と何かあったんですか?」

「いや、何かあった、というよりこれから何かあるというか。」

 おや?何かヴィエラさんの態度がおかしいな。
 いつもキリッとしてる目が泳いでる。

「これから、ということはヴィエラさんの未来に関することですか。態度から見るにあの子はヴィエラさんにとって悪となると。」

「悪というか・・・そのー、」

 本当に何だ?ヴィエラさんらしくないぞ?
 何があったんだ!?いや、これから何があるんだ!?

「ヴィエラさん、正直に答えてください。これからあの子と何があるんですか?」

「・・・・・。」

「・・・・・」

「・・・」

 フイっ

 ヴィエラさんと見つめ合うこと暫し、ついに耐えきれなくなったヴィエラさんは目をそらす。

「・・・るんだ。」

「え?」

 ようやく絞り出した蚊の鳴くような声は俺の耳に届かず思わず聞き返す。

「だから、」

 そこまで言ってヴィエラさんは決心ついたのかキッと顔をあげる。

 あ、ちょっと赤くなってる。

「アクアが私の(恋の)ライバルになるんだ!」

 ・・・ん?ライバル?
 アクアちゃんそんなに強いの?
 いやいや、よく考えるんだ俺。
 あんな幼い子がヴィエラさんのライバル足り得るはず無いじゃないか。

「えーと、ヴィエラさん。それって何年後の話してます?」

「・・・・・・・・・・2か月後だ。」

「あの子が、ですか?」

「アクアが、だ。」

「2ヶ月でヴィエラさんの(戦闘的な)ライバルに?」

 コクっ

 やばい、ヴィエラさんの目は嘗て無いほど真剣だ。
 あの子、2ヶ月でそんなに強くなるの?
 ってことはあれか?
 ハロルディアで俺と当たって俺が幼女に負けるのを見たくない的な?

「2か月後ってことはハロルディアで?」

「・・・そうだ。」

「今のままでは俺が(実力で)負けると?」

「ユウトが(アクアの魅力に)負けるんだ。」

 なるほど。
 ならあと2ヶ月弱、俺が本気で特訓すれば何とか勝てそうな気がするな。
 流石にあんな子が五星魔ペンタプルより強いとは思えないし。
 多分あれだ。見た目に油断して負ける的なやつだ。

「ヴィエラさん、約束します。何があってもあの子に(実力で)屈さないと!だから安心してください!」

 そうとなったら俺もクラトに頼ってばかりはいられない。
 五星魔ごとうを倒せる実力はあることはガロティスで証明されたんだ。
 あの時は戦闘経験の不足でクラトの動きに振り回されたけど、クソ神の言葉を信じるなら俺もあの動きに付いていけるはず!
 なら今回の魔物の大量発生を使って駆け足で戦闘経験を得てやる!

「ヴィエラさん、俺、あの魔物達を糧に強くなってきます!」

「あ、ちょっ、違っ!」

 ヴィエラさんが何か言いたそうに声を掛けてきた気がするが今の俺は止まらない!
 ヴィエラさんの期待に応えるために!





「あの、あの方は丸腰で突っ込んでいったように見えるんですが大丈夫ですか?」

 ユウトの突然の行動に私が呆けていると、アクアの護衛の一人が声をかけてくる。

「あ?あぁ、大丈夫なのは大丈夫なんだが・・・」

「あぁ、何て勇ましい!まさかあの魔物の大群相手に自ら飛び込むなんて!」

 ・・・まずい。これはまずい。
 アクアがユウトの後ろ姿を見て目をキラキラさせている。折角引き離そうとしたのに、ユウトの行動が寧ろアクアの心を揺るがしてる。
 よし。

「さっきの話だが、一応私の・・ユウトが魔物ごときに敗れるとは思わないが、手段を問わないというのなら、その子を魔物の手の届かない空に逃がしても構わない。」

 そんなアクアに、"私のユウト"であることを強調して告げる。
 その事に気づいたアクアは少し眉をしかめる。

「本当ですか!?」

 そして私の提案に護衛が食いつく。

「あぁ。」

「では、何卒よろしくお願い致します!もし乗りきることができたら報酬の方は約束いたします!」

「よし、ドラちゃん!あのお嬢さんをお運びしろ・・・・・!」

「きゅぁーーー!」

「えっ、あっ、ちょっ!」

 私の指示でドラちゃんはアクアを背に乗せず、両手で抱えるように掴む。

「よし、何かあったら大変だ。念のため戦況が目視出来ない・・・・・・・・・高度まで上がってくれ。」

「きゅぁーーー!」

「いやぁぁぁぁぁぁー!!」

「「「「アクア様ぁぁぁぁー!!」」」」

 アクアの悲鳴を聞きながら、ドラちゃんはグングン上昇していく。今私はさぞ良い顔で笑っていることだろう。

「ニア、姉ちゃんが何か怖いんだけど。」

「ヴィエラお姉ちゃん、ユウトお兄ちゃんを取られないように必死なのにゃ。」

「兄ちゃんは姉ちゃん一筋なのにな。」

「それでも嫌なのが乙女心なのにゃ。」

 私はそんな二人の声を聞き流し、アクアの悲鳴をBGMに暫し空の旅を楽しむのだった。





「いやぁぁぁぁぁぁー!!」

「ん?何か悲鳴が・・・おぉっ!」

 俺が魔物の大群に向かって駆け出してすぐ、背後から悲鳴が聞こえて振り向くと、そこにはグングン上昇するドラちゃんの姿が。

「なんだ。ヴィエラさん、なんだかんだ言っても助けてあげるんじゃないですか。よし、なら俺も無様なところは見せられないな。」

 俺はその光景に気合いを入れ直し、半分ほど詰めた魔物との距離をさらに詰める。

「クラト、予定変更だ。ハロルディアに向けての練習も兼ねて一緒に魔物を狩るぞ!」


 ピコンッ

「ご主人様と一緒に戦えるの!?頑張るー!」


 クラトはそういうと同時に物凄い速度でこちらに戻って来て俺の体に纏う。
 二回目ということもあり、クラトは直ぐに俺の鎧となり、盾となり、剣となる。あ、あと4枚の羽にもなる。



 蒼天の戦鎧ブルーハイランダー
 俺がガロティス帝国で後藤と戦ったときに思い付いた最強の盾であり、最強の矛。
 騎士の纏う様なゴツゴツとした鎧ではなく、動きやすさを重視した薄いプレートメイルクラト、頭には側頭部と額から鼻先にかけて守るような鳥兜クラト、右手には俺の身長より少し短い両刃のクレイモアクラト、左手には騎士らしい足から胸元まで覆い隠せるサイズの縦長のクラト
 そして背中に生える二対4枚のクラト。(後藤を倒したあとに聞いた話ではこの羽で本当に飛べるらしい。)

 全身クラトに覆われた蒼天の戦鎧ブルーハイランダーは、クラトの超反応で俺の体を無理矢理動かし、微細に振動するクレイモアクラトで敵を斬るクラト頼みの必殺技であった。

 クラトだけの方が強いんじゃね?と思わなくもないが、クラト曰く、俺に纏って戦うと骨格がある分力が乗り、スライムの体では扱えない"気"と"魔力"を俺が放つことで一時的に使えるため大分楽に戦闘が出来るそうだ。

 まぁご主人様好きーなクラトの事だから強くなるとか以前に俺と戦いたいだけかもしれんが。

(準備できたよー。)

「お、サンキュー。じゃあ魔物も大量にいることだしサクッといきますか!」

 俺はそう言って盾を前に、クレイモアを少し引いて腰を落とす。目指すはオークやオーガ等の定番の魔物の混成軍団。数は大体・・・・数えるのは無理だな。千は越えてるとしよう。

 あ、因みにこの状態ではクラトが微振動して俺に直接音を伝えるのでスマホを通さなくても会話が出来る。

「じゃあ先ずは一発ぶちかますぞ!」

(よぉーい、ドン!)

 ゴォッ

 気合い一喝。
 クラトの掛け声と同時に俺の視界が切り替わり、魔物の群れの中央へと移動した。

「あ、ちょ、想像と違っ、」

 グリンっ

 ザシュッ

 いきなり魔物の群れの中央に突っ込んだ事による俺の悲痛な叫びはクラトに届かず、超速度での移動により蹴散らされた背後の魔物達を他所に体が勝手に無双し始める。

「グォッ!」

 突然先頭集団を蹴散らして目の前に現れた俺たちに魔物たちは硬直する。
 その隙に俺の意思とは関係なく右手はクレイモアを振り回し、数匹まとめて魔物を斬り倒す。

「ガァァァ!」

 辺りの魔物を十数匹斬ったところで漸く魔物の中でも力有るものが気を取り直し、率先して迫り来る。
 それに釣られ、他の魔物も徐々に硬直を解く。が、

 ヒュボッ、グニッ

 ヒュヒュンッ、グニニッ

 身長2メートルを越えるオーガの大振りの一撃はクラトに止められ、魔物の隙間を縫って放たれる魔法や弓はクラトに阻まれる。
 連携も何もない魔物たちの猛攻に容赦なくクレイモアクラトが閃く。

 お、ほっ、よし。
 魔物の速度が遅いせいか少し慣れてきたぞ。

 第一陣の大量の屍を作った頃、単独で攻めては勝ち目がないと判断したのか魔物たちは同士討ち覚悟の物量攻めを開始するべく、前後左右、上空に至る全方位から捨て身の攻撃に出る。

「クラト、上だ!」

(まかせて!)

 バヒュッ

 しかし、全方位からの攻撃も、クラトの超速度の前では止まってるに等しく、上空の包囲が完成する前に2対4枚の羽クラトにより、包囲のさらに上へと飛び上がり魔物達を見下ろす高さに位置取る。

「んぉ!流石に上下運動はまだキツいな。」

 っていうか段々慣れてきたのか本当に魔物の動きが止まってるように見えてきたぞ?

(魔物が密集してるところに落ちるねー。)

 あ、クラトさんには休憩という概念はないのか・・・

 ヒュッ

 ズバババッ

 超速での上昇の苦痛から解放された途端に再び俺を襲う下降の苦痛。
 そんな俺に構うもんかとばかりに体は魔物を狩り続ける。

「ふぅ、ふぅ、粗方小物は片付いたかな?まさかクラトがこんなに乱闘が好みだとは思わなかったけど。」

 俺は足元に広がる凄惨とも呼べる魔物の屍を見て漸く一息つく。
 屍の数は千では足りないほどであり、正に地獄である。

(ダメだった?)

「いや、構わない。それにそろそろ"気"を纏っての動きにも慣れてきたところだ。死体はちょっとキモいから回収班として少しのクラトを置いて第2ラウンドといこう。」

(わかったー。それとちょっと剣を長くするねー!)

 クラトはそう言って2メートル無かったクレイモアクラトを3メートルほどまで伸ばす。

「おぉ、これ長くね?」

(そう?でもあれ・・を相手にするならこれでも短いと思うよ?)

 その言葉に俺はこれまでの人間サイズのオークやギリギリ人間サイズのオーガとは異なり、少し間を置いて迫る、進行速度は遅いものの4トントラックほどある大型の獣型の魔物を見る。

 数は今の半分も居ないが、一匹一匹がデカい。何て言うか街が迫ってきているように見える。

「やっぱり目の錯覚じゃないよなー。あれ。」

(どんどんいっくよー!!)

 あまりの魔物の多さに嫌になる俺と対照的にクラトは意気揚々と俺の体を動かす。

 終わりの見えない大量虐殺作業がまた始まる。






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