オレハ、スマホヲテニイレタ

舘伝斗

2-閑話 ウルとニア

 ガラガラガラガラ

 街道を行く大型の馬車。
 荷台に乗る人たちはすし詰め状態であり、出発から一言も発さない。
 重く、悲痛な空気が荷台を支配していた。

「盗賊だっ!前後から来てるぞ。構えろ!」

来たか・・・暴狼ぼうろう。」

「お兄ちゃん・・・」

「はっはぁー!暴狼ぼうろう様の登場だぁー!積み荷置いてけや!!」

 そう言って俺のぼろ切れのような麻の服の裾を掴むのは、同じ集落で育った猫人の女の子、ニア。
 ニアとは年が近く、集落の子供はみんなで育てるという風習から血は繋がっていないが、兄妹のようによく遊んでいた。

 森の中の集落に暮らしていたこともあり、魔物もそこそこ出てきたが総じて平和で楽しい日常だった。
 こいつらが集落の外れに来るまでは・・・



 遡ること一年。

「お兄ちゃん!あんまり集落から離れたらお父さんに怒られちゃうにゃ。」

「大丈夫だって。少しくらい離れたからってそこまで強い魔物も出てこねぇよ。それに、もうすぐ集落で子供が生まれるんだ。今日中に"ココリの実"を集めとかないと。」

 "ココリの実"を煎じて飲むと、母体の"気"と"魔力"の流れが良くなり難産に成りにくいと云われ、マナスでは出産前の妊婦に飲ませる薬として知られている。

「でも、集落にはお腹のおっきな女の人いにゃいよ?」

「いや、明日来る・・・・んだよ。妊娠した女の人を連れた商人が。その商人はこの集落に唯一商品を届けてくれるから助けてあげないと。」

「また大人の人の話を盗みしたのにゃ?」

「・・・まぁな。」

 ウルには誰にも言ってないとある秘密がある。
 一年前、集落のみんなとかくれんぼをして遊んでいた時、ウルは一人の行き倒れを見つけ、彼からある能力・・・・を受け継いだ。

 その能力は予知夢。
 正式名、"流浪する予知"。所有者に死期が迫ると、能力が新たな適合者を引き寄せ、創世以来、所有者を転々としながら歴史に何度も綴られた"ピルグリム"と呼ばれる祝福の一つ。

 能力を受け継いでから、ウルはこれまで幾度となく集落に迫る危機やこれから起こるであろう事故に備えるべく動いてきた。
 大人たちには、子供が内緒で森に入ったことを後付けで正当化する為に偶々・・持ち帰っていた薬草や毒草を持ち出したのだと考え、子供たちには、大人の話を盗み聞きして興味本意で首を突っ込んでいると思われていた。

 だがウルはその勘違いを正そうとせず、寧ろそれに乗っかるように勘違いを増長させるような発言をとってきた。何故か。
 それは能力を引き継いだとき、前所有者に言われた言葉を守っているから。

「少年、もし、この能力を使うのなら、使ったことを誰にも気づかれるな。気づかれたら俺のように自由はなくなり、戦の道具として国に管理される。それと、俺の死を知られないように、俺の死体をどこかに隠してくれないか?」

 彼の最後に見せた弱々しい笑顔がウルには凄く幸せそうに、それでいて辛そうに見え、ウルは幼いながらも息絶えた彼を丁寧に埋め、精一杯痕跡を消した。そして名も知らない前所有者に誓う。この能力は一大事にのみ使うと。

 だが所詮ウルも子供だ。
 何が一大事かなど一々判断できるはずもない。そこで一つ決まりを決める。
 集落の誰かが命を落とす出来事を一大事としよう、と。
 今回のココリの実は集落所縁の商人の子供の命が掛かっているから良しとしようと。
 その判断が後に、ウルとニアを不幸に陥れる。



 翌日、ウルの言った通り産気づいた妻を連れ、商人が集落を訪れた。
 集落側からしても、予定した来訪だったが予定外のハプニングに右往左往する。そんな大人たちを差し置いて、ウルとニアは昨日偶々見つけた・・・・・・・・ココリの実を差し出し、事なきを得、ウルとニアはいつも通り大人たちに叱られる。

「全く、お前たちは何度言えばわかるんだ。集落の外には危険な魔物もたくさんいるんだぞ?」

「「ごめんなさい。」」

 商人の子供が問題なく生まれたあと、ウルとニアは村長にこっぴどく叱られていた。

「まぁまぁ、村長さん。そんなに怒らないであげてください。この子達が偶々・・集落の外でココリの実を見つけてくれたお陰でうちの妻と子供は助かったんですから。」

 そこに止めに入るのはウルとニアに助けられた女性の夫であり、この集落に唯一足を運んでくれる商人。

「ですが、この子達はこれまでも何度もこういった問題を起こしてるんです。」

「ほぅ、何度も・・・ですか。」

 村長の言葉に商人の目に興味の色が浮かぶ。

「えぇ、その度に偶々・・持ち帰る薬草や毒草が役に立つことがあるのであまり強くは言えないんですが、そのせいでこの子達が余計に集落の外に行くようになって。」

偶々・・、ですか。誰かを見張りに付けたりは?」

「それが、お恥ずかしい話ですが、どういうわけか一瞬の隙をついて・・・」

「はっはっ、それは素晴らしい能力ですな。この子達は将来この集落にとって、いや、この国にとって・・・・・・・有用な人材になりそうですな。」

 商人の目の興味の色が怪しく揺れる。

「やめてくださいよ。またこの子達が調子に乗りますから。」

「おっと、これは失敬。では、そろそろ日も落ちてきましたし店仕舞いするんで、良かったら一杯どうですかな?いい酒があるんですよ。」

「おぉ、頂きます。」

 商人の瞳の揺らぎに誰も気がつくことなく、商人は数日の滞在期間を経て帰路につく。





「そう何度も偶々・・入った森で数日以内に必要なものを持ち帰るわけないだろう。特にココリの実なんて特殊なもの、好奇心で持ち帰る子供なんていねぇよ。これは預言者・・・が死期を悟り、この森に逃げ込んだのは間違いねぇな。あとは奴隷商に話を通して・・・」

「おぎゃー、おぎゃー!」

 帰路に付いた商人の後ろ暗い計画は赤子の泣き声に消え、赤子が泣き止むと完全に商人の瞳から善意が消えていた。




 半年後。

 ガラガラガラガラ

「ん?馬車?商人が来るには早いよな?」

 集落の周囲を見張る獣人の一人が集落に続く道を進む不審な馬車を発見する。

「お前、すぐに集落に戻って村長に報告しろ。残りは俺と共にあの馬車に目的を聞きに行くぞ。」

 不審な馬車か向かってくるのを発見した獣人は、仲間にそう告げると残りの獣人を引き連れて馬車の前に立ち塞がる。

「お前たちは何者だ!この道は我らの集落へ続く唯一の道。この先には我らの集落しかないが、一体何用だ?」

「えぇ、えぇ。我々はその集落に品物を持ってきた次第です。いつもの商人は子供の急病で来られないそうなので代わりにね。これが委任状です。」

 そう言って馬車の中から出てきたのは恰幅のいい中年男性であった。

「ふむ、確かに彼名義の委任状だな。疑ってすまなかった。我々も集落へ戻るところだ。お詫びもかねて護衛がてら案内しよう。おい、お前は先に集落へ戻り問題ないことを伝えてこい。」

 獣人のリーダーが代理商人から受け取った委任状を確認後、その馬車に付き従うように集落へと案内する。

 その後、無事商人を集落へ案内した獣人たちは再び見張りの仕事に戻る。

 誰も商人を疑うことはない。
 その光景を物陰から覗く二人の子供以外。

「お兄ちゃん。本当に違う商人が来たにゃ。」

 物陰から商人の確認を行ったウルは、ニアの言葉に遂に来たか。と言う思いに駆られる。

「ニア、奴等は確かにいつもの商人の代わりに集落へ来たが、他にも目的があるんだ。・・・探し物っていうな。」

「何を探してるのにゃ?」

「俺たち、いや、俺をかな。でも奴等は目的の探し物が俺だと気付いていない。俺とニアのどちらかだと考えてる。」

「探してどうするにゃ?」

「・・・拐われて、売られる。」

「大変にゃ!大人たちに知らせにゃいと!」

 ウルの言葉にニアがその場を立ち去ろうとするが、ウルがその手を掴む。

「待って!駄目なんだ。大人たちはこの事を信じてくれない。証拠がないんだ。」

「ならなんでお兄ちゃんは知ってるにゃ?大人の話を聞いたんじゃないのかにゃ?」

「・・・今回は違うんだ。ただ、この事は本当の事なんだ。信じてくれるか?」

 ウルは恐る恐るニアを見つめる。ここで信じてもらえなかったら最悪ニアを無理矢理連れて逃げるしか・・・そう考えていた。

「信じるにゃ。これからどうするつもりにゃ?」

「そうだな。」

 ニアの問いかけにウルは悩む。

 ここで逃げたら集落のみんなに迷惑がかかるか?
 まず誰かに相談するべきなんじゃ。でも誰に?
 村長?いや、ダメだ。村長だと集落のみんなの事を優先するから俺は相手にされないかもしれない。
 父さんや母さん、も同じか。

「ニア、二人で少しの間、奴等が帰るまで集落から出て隠れよう。」

 ウルは悩み抜いた末、今後の方針を定めた。

 二人はその後すぐに家に戻り、荷物をまとめる。
 といっても数日姿を眩ますだけだし、何より隠れる場所は通い慣れた集落の外の森。
 必要なものは少しの着替えと護身用のナイフのみ。
 食料は森に溢れるほどあるし寝る場所も心当たりがある。

 商人が来てから数分で二人の支度が整う。
 と、そこに、

 トントンッ

 家に響くノックの音。今、集落のみんなは商人から生活用品を買っているはずだから誰も来ないはずだった。

「・・・誰だ?」

「お、お兄ちゃん。」

「ニア?もう準備が終わったのか?」

 ニアの声にウルは何の躊躇いもなく扉を開ける。開けてしまう。

 ガチャッ

 扉の前には涙目のニアと、

「よぅ、次期預言者・・・・・。」

 数人の商人の護衛が立っていた。

 ドスッ

 ウルの意識はそこで途絶えた。





 ガラガラガラガラ

「うっ!」

「お兄ちゃん、目が覚めたにゃ?」

 ウルが目を開けると目の前にニアが縛られて倒れていた。手足が動かないことを考えるに自分もそうなのだろうと考え、自分より早くから起きてたニアに状況を聞く。

「ニア?ここは?」

「ごめんにゃさい。ニアがあいつらに捕まったせいでお兄ちゃんまで。」

「捕まった、そうか。なら、この商人に売られるか。」

「売られる?」

「あぁ、もうすぐ、奴隷商と合流するはずだ。」

 ガラガラ、ガ、ラ、ガ・・・ラ

 ウルとニアが話していると馬車が停止する。

 バサッ

「出ろ。」

 そういって荷台の布を開いたのは集落で見た商人だった。

「ほぉ、獣人ですか。女の子の方は愛玩用として申し分ないですが男の子の方は戦闘用にしては幼く、愛玩用としても価値は低いですな。」

「・・・それが噂の後継者・・・かもしれない、としてもですかな?」

 奴隷商の言葉に商人の男は嫌らしく笑みを浮かべ、そう告げる。

「・・・確証はあるのか?」

「さぁ?私たちは嘘を見抜く能力なんか持っていませんし、然るべき役職の者に見てもらわなければ何とも。ですがいいのですかな?我々が然るべき場所へ彼らを連れていっても?」

「金貨で200枚出そう。」

 奴隷商の男は二人の値段・・・・・を掲示する。

「300枚です。」

「・・・230枚だ。」

「300枚です。」

「・・・・・250枚だ。これ以上は出せん。」

「まぁいいでしょう。では一人当たり・・・・・金貨250枚。合わせて500枚ですね。即金でいいですよ?」

「なっ、貴様っ!」

「いやならいいんですよ?買い手は五万といるでしょうし。」

「くっ、わかった。金貨で500枚払おう。おいっ、持ってこい。」


「毎度あり。また良いのが入ったら持ってきますよ。」

 そう言って商人は金貨500枚=約5000万円(銅貨1枚=10円、銀貨1枚=1000円、金貨1枚=10万円)を手に揚々と帰っていく。

 こうしてウルとニアは逃げ場のない地獄に飲み込まれる。
 半年後、暴狼ぼうろうに襲われ、ある夢・・・を見るまでは。





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