オレハ、スマホヲテニイレタ

舘伝斗

2-14 ユウシャハ、ソマル

 今日二回目となるクラトとの合体。
 一度目は俺が"気"で体を守ることを忘れていたため、たった一発のパンチで腕が折れてしまい再戦不能となったが、今回はしっかりと"気"で体を覆ったし何よりクラトも俺も二度目のチャレンジだ。
 相手が誰であろうと打ち倒してみせる!・・・あ、悪神マナシアはまだ駄目だから。フリじゃないから!!

「ひっ、まさかスライムと合体するとはな。ひひっ、中々男心くすぐるじゃねぇか。俺も今度スライムでも捕まえるかな。ひひっ。」

 俺とクラトの合体を、この世界で黒兎の魔人となった後藤は邪魔することなく見ている。

「いいのか?俺とクラトの合体が終わったら勝てないかもしれないぞ?」

「ひひっ、馬鹿言え。地球の特撮でもヒーローの変身を悪は遮らないものだぜ?ひひっ。」

「悪の自覚があったのか。」

「ひひっ、当たり前だろ?正義が同族を食うかよ。」

 そりゃ、そうだな。
 俺は黒兎ごとうの言葉を信じてクラトとの合体に意識を割く。
 ウルとの合体では獣型になっていた。ということは俺も自由な形になれるってことだよな?

(大丈夫だよー。)

 お?合体してるとクラトの声が直接聞こえてくるのか?

(何かねー、"しんどう"が音だから体で"しんどう"して声を伝えてるのー。)

 しんどう、振動か。成る程なー。早くもアプリを使いこなしてるのか。ってあれ?俺、この世界に来てからまともにアプリ使ってねぇな。クラトの方が使いこなしてるんじゃ・・・ 
 いやいや、それよりクラト。どんな形にも成れるよな?

(んー、食べたことのあるのなら大丈夫だけど食べたこと無いのは難しいかなー。形が分からないし。)

 そうか。・・・ん?形がわかればいいのか?

(とりあえず形を作るだけならねー。)

 そうかそうか。それじゃどうせなら格好いいのがいいなぁー。えーと・・・ここを、こうして、こうできるか?

 俺はそう言ってクラトに細かく指示を出す。
 その指示に合わせて俺を包む青い外装はウニウニと形を変えていく。

「ひひっ。・・・そろそろ待ちくたびれたんだけど?」

「もうちょっと待て!今細かい調整してるから!」

 俺は黒兎ごとうにそう告げて最後の仕上げに入る。
 って、後藤も俺の言葉を聞く義理無いのに、案外律儀だな。もしかして根は良い奴?・・・無いか。

 俺がクラトを纏って数分。ようやく青い外装の脈動が収まる。
 俺の注文通りなら、今の俺は鳥兜(鼻筋に沿って先細っている兜)を被り、動きやすさを重視した薄いプレートメイルを纏い、背中には二対の羽が生えている筈だ。
 何で羽かって?格好良いからに決まってんだろ!
 そして、注文通り右手には幅広の両刃のクレイモア、左手には騎士が持つような大きめの盾。
 まぁ結局全部クラトだから重くないし形だけなんだけどね。

 そう思って俺はクレイモアを軽く地面に突き立ててみると、

 ズブッ

 っ!?
 あの、クラトサン?このクレイモアって斬れるの?

(斬れるよー。"ちょうおんぱ振動"だってさー。)

 おぉう、クラトったら俺すら名前しか知らない単語を理解しやがったのか。
 もういっそクラトに全部任せようかな。

(まかせてっ!あの男を倒せばいいんだよね?)

 お?クラトさんが案外やる気だ。なら任せよう!俺は足手まといに成りかねないから"魔力"と"気"タンクに成り下がる!
 あ、目から汗が・・・

「待たせたな、後藤!"蒼天の戦鎧ブルー・ハイランダー"こうなった俺は、マジで俺の意思では止まれないぞ?」

「ひひっ。そう来なきゃなぁ!じゃあ、その見た目が見かけ倒しじゃないことを確認させてもらうぜぇ?ひひっ。」

 バツッ

 消えたっ!?うぉ!

 俺が後藤を見失うと同時に突然体が左を向き、左の盾を差し出す。

 ゴンっ

「ひひっ、今のスピードに着いてこれるのか。いいねぇ。ひひっ、久しぶりに楽しめそうだ!」

 そこから何が起こったのか俺には理解不能なレベルの攻防が始まる。

 後藤が消えると同時に俺の体が、俺の意思に関係なく反転し、左手が右へ左へ引っ張られ、右手に持つクレイモアが縦横無尽に宙を翔け、後藤が後退しつつ"魔力"の弾丸を放つが、青い鎧クラトに触れると同時に霧散する。
 お返しとばかりに俺が"魔力"を高めると、クラトは即座に"魔力"を収束させ、レーザーのように放つ。

 遠距離戦は不利と見た後藤は"魔力"の弾丸を目眩ましに使い、その隙に背後から襲いかかるが、その行動はクラトの感知に引っ掛かり背中の翼にある羽の一枚一枚がナイフ大の刃となり、後藤を迎え撃ち、だめ押しとばかりにクレイモアが襲いかかる。クレイモアが振るわれる毎にその幅広の刃を濡らす血液。

 自分の体なのに自分以外の意思で動く体。"気"で本体を強化し、守っているが三半規管を揺さぶるアクロバティックな動きに平衡感覚がやられ、俺は早々にギブアップ寸前まで追い込まれる。



「ユウト。勇者でもないお前はどうしてそんなに強いんだ?どうして勇者である俺が見てることしかできないんだ?」

 アキラは少し離れた場所で繰り広げられるユウトと後藤の異次元の戦闘に畏怖を覚え、自分の力不足に思い悩む。

「がぁぁぁっ!!」

「ゴァァァァ!」

 それ以上にアキラの心を抉るのは、近くで行われているウルと魔人の戦闘だ。
 自分の弟ほどの子供が自分の手に終えない魔人相手に一対一で互角、いや、それどころかある程度余裕をもって戦っていた。

「勇者って何だ?力って・・・何なんだ?」

 "力が・・・欲しいか?"

「ぐぅっ!」

 "全てを凌駕する力が欲しいか?"

「な、んなんだ。これはっ!ぐっ!」

 "答えよ。力が欲しいか?"

「欲しいさっ!誰の足手まといにもならない、他を圧倒する力が!」

 "・・・なら与えよう!悪神マナシアの名に於いて汝に力を授けよう!"

「っ!何かが流れ込んでっ、ぐ、ぐぁぁぁぁぁ!!」

 呼び掛けに答えてしまったアキラは、ドロリとした悪意に飲まれ意識を手放す。
 だが、アキラの変化に誰も気づかない。誰にも気づかれないままアキラは魔人の一人・・・・・に担がれて戦場から姿を消した。



「はぁ、ふぅ、ふぅ、おぅえ。」

「ひ、ひっ、何でお前が、フラフラなんだよひひっ。」

「あぁ?そんなの決まってんだろ!お前の動きが早すぎて俺の虚弱な三半規管が悲鳴をあげてんだよ!!」

「ひひっ、それは良いことを聞いた。ひひっ。確かに今のお前は強い。俺だと勝てないだろう。ひひっ。だがな、俺の速度はまだまだ上限じゃねぇ!俺が力尽きるのが先か、お前が音を上げるのが先か。ひひっ、いいねぇ、真剣勝負だ!!」

 バヅッ

 後藤はそういうと再び空気を割きながら迫る。今度は何故か俺の目に見える速度・・・・・・・・・で。

 クラト、カウンターいけるな?

(いっくよぉー!)

 ブォン

 後藤の動きに合わせて振り下ろされるクレイモア。その刃は驚愕に目を見開く後藤の脳天に吸い込まれる。

 ズバッ

「・・・えっ!?」

 呆気なく。そう、正にそう言い表すことしかできないほど呆気なく後藤は真っ二つになり、地面に倒れ伏す。
 その光景を目にした兵士は士気を高め、ヴィエラさんやノワールさんと連携し司令塔を失い混乱に陥った魔人たちを仕留める。

 そうしてガロティス帝国を襲った五星魔ペンタプルを俺が討ち取り、ガロティス帝国には再び平和が訪れ、俺とアキラと後藤の世界を越えた確執は幕を閉じた。





 ・・・・・・かに思われた。



 ガロティス帝国、西門から少し離れた岩場。大きな岩に腰かける二人の影。

 一人は砂漠の民族のようなフード付きのローブを身に纏った20に満たないスレンダーな女。ただし、その頭部には二本の角の様なものがフードを押し上げていた。

 もう一人は今正にユウトに真っ二つにされた筈の黒兎の魔人ごとう

「あら、コクト。もしかして殺られちゃったの?あれだけ息巻いていたのに情けないわねぇ。」

 女は後藤が意識を取り戻したことで、彼の切り札である"脱兎・・"を使用しただと悟る。

「ひひっ、うるせぇぞ狂犬女。毛皮を剥いでオークションに掛けるぞ。ひひっ。」

 一方後藤は目を覚ますと同時に掛けられる女の言葉に不機嫌を隠さずに答える。

「グルル、狂犬だと!?新参者のキサマがこの私を侮辱するか!」

 後藤の言葉に女のつり上がった瞳が金色に変わり、弱い者は触れただけで絶命する濃密な"狂気"が辺りに蔓延する。

「ひひっ。おー、怖ぇ怖ぇ。これだから動物は。ひっ。」

 後藤はそんな"狂気"を物ともせず、ひょいひょいと寝転んでいた岩を飛び降りていく。

 "我が配下よ、聞け。"

 そんな二人の頭に直接響く声。
 声の主は考えるまでもなかった。

「「マナシア様!」」

「マナシア様、申し訳ありません。コクトの独断でガロティス帝国の勇者を拐う計画に狂いが生じてしまいました。」

「ひひっ、俺の作戦に準備が間に合わなかったお前が悪い。ひひっ。」

 "まぁ聞け。この度の一件。コクトにもコントンにも非はない。
 それに、勇者を拐う目的は達した。"

「それは、どういうことでしょう?」

 頭に響くマナシアの言葉に疑問を持った民族衣装の女、コントンが問い返すと街の方から勇者アキラを担いだ魔人が歩いてくる。

「ひひっ、あいつは俺の下僕のデブじゃねえか。ひひっ。」

 "そうだ。コクトの下僕を用いて我が力を受け、意識を失った勇者を連れてきた。
 これで私の器は揃った。あとは時期を待つだけだ。
 コクト、コントン。他の三星トライプルと協力し、祭壇・・を整えよ。"

「「はっ、すべてはマナシア様のために!」」



 翌日から、勇者失踪の噂がガロティス帝国から全世界へと駆け巡ることになる。





「書簡は受け取った。ガロティス帝国は此度の星墜ちから手を引こう。ウィンブルス王国にはこれからも世話になるやも知れんからな。魔女兎ヴィエラ殿、蒼の騎士ネクラユウト殿。此度の助力感謝する。
 持て成しも出来ず心苦しいが、ガロティス帝国を楽しんでくれ。」

 後藤を倒した翌日。
 俺とヴィエラさんは当初の予定通りガロティス帝国の皇帝へと星墜ちに関する書簡を届けるべく皇宮へと足を運んでいた。
 ウルとニアちゃんはボロボロになったきゃさりんの看病も兼ねて"魅惑のバニー"でお留守番だ。

 俺は何時ものようにクラトを首に巻き、やや覇気の無い皇帝と同じように少し思うところがあり、謁見中も心ここに非ずであった。
 だが、そんな俺の無礼な態度は、皇宮の騎士たちに咎められることはなかった。

 理由はアキラの失踪。
 最後の戦闘中、俺と別れて兵士の助けに向かったアキラが忽然と、何の痕跡も残さずに消えたのである。
 当初、兵士たちは魔人に殺されたのでは?と最悪の想定をし、ヘトヘトの体に鞭を打ち、戦場となった広範囲に及び死体の処理に奔走した。

 結局アキラの死体は見つからなかった。
 それどころかアキラの鎧の欠片ひとつ落ちておらず、遂にはあまりの恐怖に逃げ出したのでは?という結論に至った兵士も居るほどであった。

 だが、その考えはアキラの戦闘を間近で見ていた兵士たちに尽く否定され、アキラは失踪したということになった。

 50人の犠牲を払って召喚した勇者が失踪した。
 この報せは目の前の皇帝にとっては国民の信頼を失うに値する最悪のものであっただろう。
 もし、アキラが死んでいれば英雄として奉り上げることもできたが、何の証拠も残さず消えたというのならば国民は勝手に勇者は国を捨てて逃げたと思うだろう。

 そして、勇者が逃げた以上、その怒りは勇者の召喚を実行に移した皇帝に向かうのは明白であった。



「勇者のことが心配か?」

 謁見を終え"魅惑のバニー"へと向かう道中、ヴィエラさんは重い口を開く。

「そうですね。アキラとは昔からの親友でしたから。」

「ユウトは勇者の失踪についてどう思う?」

「・・・逃げたわけではないと思います。あいつは、アキラは今より遥かに力がないときにも悪に立ち向かってますから。そんなあいつが敵を目の前に逃げるなんてあり得ませんよ。」

「そうか。見つかると良いな。」

「見つかりますよ。何て言ったって俺の相棒クラトが奔走してるんです。」

 そう言って俺は首に巻きついているクラトの本体を撫でる。


 ピコンッ

 「まかせてー!勇者さんは僕が絶対見つけるよ!!」 

 俺はそんなクラトの頼もしい言葉を聞き、首元を撫でる。

「何はともあれこれでウィンブルスに帰れる。ユウトはこの後どうするんだ?」

「この後、そうですね。多分まだ五星魔ペンタプルに狙われると思うんで、少しでも強くなるために修行の旅でもしようかな。」

 俺の言葉にヴィエラさんは待ってましたとばかりに懐から一枚の手紙を差し出す。

「ならユウト、ハロルドで開催される"ハロルディア"に出ないか?」




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