オレハ、スマホヲテニイレタ

舘伝斗

2-11 ユウシャハ、カコヲヨビコム

 ヴィエラ、アキラ、ネロノワールが魔物たちと交戦している頃、ガロティス帝国東門近くの冒険者ギルドの訓練場、そこでは重い空気が流れていた。

「「・・・・・。」」

 訓練場の端で今なお気を失っている猫人の少女、ニアちゃんと犬耳の少年、ウル。
 そして二人の介抱をしている俺こと根倉悠斗ねくらゆうととピチピチのゴスロリドレスを着たムッキムキの漢乙、きゃさりん。

 これだけでも冒険者ギルドの訓練場に居るメンバーとしては異様なのだが、重い空気の原因は別にあった。

「ほんっとぉに、ごめんなさい。謝って済むとは思わないけど、ユウトちゃんが望むなら何でも差し出すわ!」

 そういって正座をして、両手と頭を地面に密着させるムッキムキの漢乙、きゃさりん。そう、いわゆる土下座だ。

 理由はきゃさりんの運営する"魅惑のバニー"の店員、同じくムッキムキの漢乙、しょこらが実は聖人会人間至上主義者の一員であり、そのしょこらが、ニアちゃんとウルに薬を注射することを未然に防ぐことができなかったからである。

 タイミングよくその場にいたガロティス帝国の英雄級、ナダクさんの活躍により最悪の事態は防げたかに見えたが、ショコラの用いた道具は魔道具であり、対象に刺さると同時に自動で中身を注入する物であったためニアちゃんとウルには"増強薬"と呼ばれる体内の"気力"、"魔力"を無理矢理合成する薬が打ち込まれ、一時期死に瀕することになった。

 幸いにして、クラトが体内で薬を分解できたから事なきを得たが、未だに二人は目を覚まさない。

 きゃさりんの土下座はそういう経緯から来たものであったて、俺がすぐにきゃさりんのせいではないと言えば事は収まったのだが、どうにも俺の対漢乙の経験値が低いため口を開けずにいた。

 その沈黙をきゃさりんは俺の憤りだと誤解して更に深い謝罪の言葉を口にし、俺はそこまで言わなくてもっ!と、更に引くという負のスパイラル。

 地球には土下座というものに性的興奮を覚える強者も居たというが、俺にはさっぱり理解できそうにない。
 あ、それは女の子の土下座か。
 とにかく俺はもうどうしていいかわからなかった。

「うっ。」

 そんな重い沈黙を破ったのは他でもない当の被害者だった。

「ウルちゃんっ!目が覚めた?大丈夫?痛いところはなぁい?」

「きゃさりんちゃん?うぅん?確か誰かがそこに、いたっ!」

「大丈夫っ!?」

 ウルが目を覚ますと同時に土下座の低い姿勢で這い寄るきゃさりん。
 貞子もビックリの光景で、俺ならば昇天間違い無しなのだがウルは平常運転だ。
 異世界の子、恐るべしっ!

 そんなことは置いておいて。

「ウル、体に異常は?倒れる前の事はどこまで覚えてる?」

「あ、兄ちゃん?少し頭痛がするくらいかな。倒れる前・・・男の人が突然目の前に現れたと思ったら腕に何かが刺さる感じがして、体の奥から嫌な何かが沸き上がってきたんだ。必死に抵抗したけど、勝てなくて・・・。もうだめだって思ったら、体の中に何か優しいものが入ってきたんだ。それで嫌な何かがどんどん消えてって。馬鹿みたいな勘違いかもしれないけど、あれはきっと死んだ母さんだと思うんだ。」

 あ、うん。それスライムクラトだよ。
 俺は喉まで出かかった言葉を意思の力で飲み込む。

「そうか。それについて、現状の説明もかねて大事な話があるんだが、まずはニアちゃんが起きるのを待つか。」

「にゃぁ。ユウトお兄ちゃん、起きてるにゃ。」

 そこに聞こえるか細い声。
 隣を見るときゃさりんに抱き起こされたニアちゃんが寝ぼけ眼でこちらを見ていた。

「起きてたのか。大丈夫?痛いとことか気分が悪いとかない?」

「ちょっとだけ体がダルいけど平気にゃ。」

「そっか。じゃあ、二人に何があったか、今この国に何が起こってるか。俺の知ってる範囲でだけど教えるね。」



 二人には全てを話す。
 しょこらが二人を襲ったこと。それをナダクさんが助けてくれたこと。薬の影響を打ち消すため、体内にクラトが居ること。ガロティス帝国に魔物の群れが迫ってきていてヴィエラさんがその助けに行ったこと。・・・これから先、更に恐ろしい敵に・・・・・・狙われること。

 二人は幼いながらも俺の拙い説明を最後まで聞いてくれた。

「出来れば二人には危険な目にあってほしくない。だから魔物を防ぎきることができたら二人が平和に過ごすことが出来る場所を探そうと思うんだけど。」

「嫌にゃ!」

「ニアっ!?」

 だが、最後の提案にニアちゃんが猛反対する。

「嫌にゃ嫌にゃ!ユウト兄ちゃんやヴィエラお姉ちゃんやクラトと離れ離れになるのは嫌にゃ!」

「でも、今回ですら二人を守りきることができなかったんだ。次はほんとに手遅れになるかもしれない。俺は弱いから、二人を守れないんだ。それに離れ離れになるっいってももう会えないってことじゃないんだよ?」

「それでも嫌にゃ。ぐすっ、これ以上家族がいなくなるのは嫌にゃ。」

「ニアちゃん。」

 目に涙を浮かべて拒否する姿に俺はもうどうしていいのかわからなくなる。
 その沈黙を破ったのはニアちゃんの否定に目を丸くしていたウルだった。

「・・・兄ちゃん、俺とニアから離れようとしてるのは、俺たちが弱いからなんだよな?」

「そうだ。俺もヴィエラさんも神様じゃない。いつでも二人を見守ることはできないし、自分達より強い敵が現れたら手も足も出なくなるんだ。」

「これから、そういう敵が、兄ちゃんの前に現れるってことなんだよな?」

「・・・可能性がないわけじゃない。」

「ぐすっ、なら、ニアたちも強くなるにゃ。ぐずっ。」

「えっ?」

「兄ちゃん、俺もニアと同じ意見だぜ。俺たちが弱いから、兄ちゃんやヴィエラ姉ちゃんに守られなきゃ命が危ないからって理由で俺たちと別れるなら、俺たちが守られなくてもいいくらいに強くなればいいんだ!」

「でも、ウル。敵は何時来るかわからないんだ。五年、十年後ならウルとニアちゃんは確実に俺より強くなってる。でも敵はそんなに待ってくれないんだ。明日、いや、もうすぐそこに潜んでるかもしれないんだ!」

「ひひっ、そうだぜ、チビッ子。敵は、すぐ近くに・・・・・潜んでる。ひひっ。」

 俺とウルとニアちゃんときゃさりんの四人しか居ないはずの訓練場に響く、何故か俺の胸を奥から掻き乱すような声。

「誰だっ、どこにいるっ!」

「そこぉっ!"怒気怒気拳ドキドキスマッシュ"」

 きゃさりんが不意に拳を突き出し、シャドーボクシングのように数度振り抜く。
 すると拳から"気力"の塊が無数に飛び出し、訓練場の反対側の地面を抉り砂煙を上げる。

 ドドドドッ

「ひひっ。人間にしておくには惜しい、な。ひっ。」

 砂煙が晴れると誰もいなかったはずの空間に歪みが生じる。

「あんまり舐めないでくれるかしらぁん?私はこう見えても元A級冒険者だったのよん?」

「「「っ!?」」」

 その言葉にウルとニアちゃんが驚く。

 あ、俺は突然現れた黒い兎人・・・・とその後ろに居るザ・悪魔、みたいに頭に角を生やしてる連中に驚いてるんであってきゃさりんが元々実力者ってところにはこれっぽっちも驚いてないよ?だって筋骨粒々の漢乙ってどんな物語でも実力者っていうのが相場でしょ?

「ひひっ、久しぶりだな。クソ餓鬼。」

 俺たちが固まっていると黒い兎人がこちらを見て口を開く。

「「「・・・どちらさま(にゃ)?」」」

 だが、如何せん距離が離れているため誰に向けての言葉なのかわからない。
 俺にはこの世界での知り合いは居ないからウルかニアちゃんに因縁のある相手なのかな?と思ったが、二人もキョトンとしてる。

「お前だよ・・・」

 そこまで言うと黒い兎人はフッと姿を消す。

ブラックジャック・・・・・・・・なんかで思いっきり殴りやがって。お陰で俺ぁ絞首刑だ。」

 突然背後にフッと気配を感じると、耳元でそんな言葉が聞こえる。

「なっ!?」

 俺が振り返るとそこには誰の姿もなかった。

「どうしたの?ユウトちゃん。」

「ひひっ、どこ見てるんだ?」

 敵を目の前に、突然振り返った俺にきゃさりんと黒い兎人の声が背後から・・・・聞こえてくる。 

 バッとまた正面を向くと、そこには元の位置に寸分違わず立ってこちらを見て居る黒い兎人。
 相変わらず距離は離れているが今度はバッチリ俺を見ている、俺だけを・・・見ていると認識できるほど強い意思の宿った視線が飛ばされている。

「ブラックジャックで俺が殴った?もしそうなら、後藤ごとう・・・か?何であきらだけじゃなくてあいつもこの世界に?」

「ユウトお兄ちゃん?」

 俺の顔色が突然悪くなったことに気が付き、横に居るニアちゃんが声をかけてくれる。

「いや、あいつはどうやら俺の知ってる犯罪者だったみたいでさ。・・・きゃさりん、今の動き、見えた?」

 俺は一縷の望みをかけてこの中で一番の実力者に訪ねるが。

「何のことかしらぁん?今の動きってユウトちゃんが振り返った意外誰も動かなかったわよん?」

「・・・まずいな。」

 俺は既に黒い兎人ごとうから逃げられないことを悟る。

「ウル、ニアちゃん、きゃさりん、あの後藤、いや、黒い兎人の男は俺たちが足元に及ばないほどの実力者だ。多分逃がしてくれない。だから・・・ 」

 俺は後藤に悟られないよう小声で三人に俺の持ちえる後藤に対する知識を与える。

「ひひっ、おいおい、ユウト君。俺の事を紹介するのはいいけどよぉ、内容が快楽殺人犯だの食人趣味の異常者だとか酷くねぇかぁ?責めてそこは頭脳明晰だとか手先が器用だとか入れておいてくれよ。」

「うそだろっ、この距離で聞こえてるのか?」

 20メートルは離れているはずなのに俺の小声を拾った後藤に驚愕する。

「これじゃ作戦の立てようがないわねぇ。」

「ひひっ、仕方ねぇなぁ。俺は寛大だからよぉ。10分だ。10分間俺は耳を塞いで目を閉じててやるよ。その間に逃げるなり作戦会議なり好きにすればいい。俺は・・その間は邪魔しねぇし追いかけもしねぇ。」

 後藤は突然そんなふざけた提案をし、本当に目を閉じ耳を塞ぐ。

「罠かしらねぇ?」

「でもあの魔人が強いのは分かるにゃ。」

「えっ、あの兎人って魔人なの?」

「私にも獣人にしかみえないわねぇ。後ろの10人は魔人って一目で分かるんだけどぉ。」

「まぁそれは置いておこ・・・ん?10人?9人でしょ?」

 きゃさりんの言葉に俺は疑問を感じる。

 ひの、ふの、み・・・うん。9人しか居ない、よな?幽霊? 

「あらぁ?おかしいわねぇ。さっきまで確かに、」

「兄ちゃんたちっ!危ないっ飛んで!」

 ババッ

 きゃさりんと一緒に首を捻っていると突然のウルの警告。
 この世界に来て咄嗟の行動に慣れつつある俺はウルの言葉に従いその場を飛び退く。もちろんウル、ニアちゃん、きゃさりんは俺より早く飛び退いていた。

「グガァァッ!」

 ドゴォッ

 俺たちの居た場所、地面から出てくる10人目・・・・の肥満を通り越した巨漢の魔人。どうやら後藤の行動でみんなの注意が逸れたタイミングを見計らって地面からの奇襲をかけてきたようだ。

「ひひっ、あぁ、そうそう。もしまだ無事にこの場に居るなら言っておくが、俺は何もしねぇが下僕たちはどうかは知らねぇぞ?ひっ。」

 その言葉を皮切りに、後藤の背後に控えていた魔人たちからも殺気が放たれる。

「な、なんで。何であなたが魔人なのっ!?アーモンド伯爵・・・・・・・っ!!」

「グラァッ」



 うん、確かにチョコレートを食べ過ぎた人の末路みたいな肉付だな。

 えっ?そうじゃないって??っていうか言葉理解できてないんじゃないかな。

「みんなっ、ここは私が足止めするわっ!全力で東門から外に向かいなさい!外も危険だけど、あそこには英雄級が三人も居るから街中より安全よぉ!"覇朱涙騎士ハッスルナイト"!」

 ゴォォ

 きゃさりんは気合と共に"気力"を体中に溢れさせる。
 溢れた"気力"はきゃさりんの身にまとわり、薄紫色の鎧との形を呈する。

「さぁ、行きなさい!私が全力でもこの10人を押さえるのは5分間が限界よ!"憂鬼憂鬼死ウキウキデート"ぉ!!」

 きゃさりんの体が眩く輝き出すのに呼応するかのように魔人たちも体に"魔力"を迸らせる。

「ガァァァァッ!!」

 ズガガガガガッ、ドォォォォゥゥン

「ウル、ニアちゃん!」

「「わかってる(にゃ)!」」

 俺たちは訓練場どころか、街中に響き渡る程の轟音を背に強大な戦力の集う東門へと走る。






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