オレハ、スマホヲテニイレタ

舘伝斗

2-9 ユウシャハ、サイカイスル

 アノールドを一撃で倒し、代償で負った右手の骨折をヴィエラさんの回復魔法で癒してもらっている訓練場に来客があった。

「クラトを胃とか肝臓に纏ったら毒とか効かなそうですよね。」

「クラトを食べる勇気があるなら、な。・・・ん?」

「どうかしたんですか?」

 治療を終え、一息付いたヴィエラさんが何かを感じ、俺の一撃で哀れに沈んだアノールドの方へ目をやる。
 俺もつられてそちらを向くと、そこには盛大に撒き散らした鼻血にうつ伏せに沈むアノールドと、その傍らに立つ謎の男が居た。

「誰だ?何時の間に入ってきたんだ?」

「わからないにゃ。今もあの男の人から臭いがしないにゃ。」

「そういえばそうだな。俺もあの男の臭いを感じないぞ、兄ちゃん。」

「あらぁん?あれは確か」

 きゃさりんが口を開くと男はこちらを向き、突如きゃさりんの背後に転移もかくやという速度で移動する。

「うっ!」

「にゃっ!」

「ぐぅっ!」

 きゃさりんの背後に男が移動してすぐに聞こえてくるウル、ニアちゃん、しょこらちゃんの呻き声。

「クラト!もう一度纏え!」

「待てっユウト!クラト!」

 俺は咄嗟にクラトに指示を出し、男に襲いかかろうとするがヴィエラさんがそれを止める。

「なんで止めるんですか!」

「あの男は敵ではない!」

「なんでですか!ウルとニアちゃんとしょこらちゃんがあの男にやられたんですよ!?」

「いや、違う。確かにしょこらちゃんを昏倒させたのはあの男だ。だがあの男はしょこらちゃんしか・・狙っていなかった。」

「え?じゃあなんでウルとニアちゃんが。」

「ウルとニアに害を為そうとしたのはしょこらちゃんだ。それを即座にあの男が止めに入ったんだ。」

「・・・いや、すまない。少し遅かったようだ。」

 俺とヴィエラさんの会話に男の声が割り込む。
 声は少し籠っているが若い男性のようだ。

「遅かったって?それにあんたは?」

「俺はガロティス帝国第六騎士団団長、ナダク。この国で英雄級と呼ばれている者の一人だ。遅かったというのはこの大男が子供達に薬品を注射するのを阻止するために動いたのだが、注射器自体が魔道具だったのか子供達の皮膚に刺さった瞬間中身を自動で注入したようだ。子供達が倒れているのはその為だ。」

 俺はその言葉にきゃさりんを見る。

「ごめんなさい、しょこらの手綱を握ることができなかったのは私のミスよ。でも、信じてちょうだい。これはしょこらの独断であって私の指示じゃないわ。」

 俺の視線の意味を正しく理解したきゃさりんが弁解する。

「薬品は何か分かるか?」

「すまない、薬学には通じていないのでな。すぐには分からん。だがこの大男の黒幕は分かった。」

 ヴィエラさんの言葉に返事をしながら、ナダクは昏倒するしょこらの衣服の袖を肘辺りまで捲る。そこにあったのは桜の刺青。

聖人会せいとかいか。あの人間主義者め!」

「聖人会って道中ヴィエラさんが言ってた"魔力"と"気力"のどちらも扱える人間以外は排他するっていう?」

「そうだ。恐らく私たち、いや、私がガロティス帝国に入ったのを奴等に気付かれたのだろう。」

「ヴィエラさんが?」

「ユウトは私が獣人であるにも関わらず"魔力"と"気力"の両方を扱えることを不思議に思わなかったか?」

「まあ、あれ?とは思いましたけど。」

「あれは私の持つ神器"帝王の瞳"の能力だ。聖人会の奴等は"帝王の瞳"とその持ち主を憎んでいる。」

「・・・そんなことより、この大男が聖人会なら少し不味い。確証はないが、最近奴等は新薬を開発したそうだ。ヴィエラ、貴方を討つためにこの薬を子供達に打ったというなら中身は恐らく、その新薬である"増強薬"。」

「う、ぐぅっ!」

「にぁぁぁぁ!」

 男の言葉に呼応するかのように苦しみ出すウルとニアちゃん。
 その体には黄色いオーラが滲んでいる。

「あれはっ?」

「わからない!だが、良いものではないのは確かだっ。」

「あれは聖人会の奴等が"聖力"と呼んでいる異端の力だっ!"魔力"と"気力"を薬で無理矢理混ぜ合わせているため今二人は物凄い苦痛に襲われているはずだっ。」

「ナダク、なんとかできないのか?」

「いや、俺の持ち得る知識では"増強薬"の効果は服用者が死ぬか、薬が全て体外に排出され、体内から消えるまで・・・・・・・・・続くそうだ。悪いが街の中で暴れられるのは困る。狩らせてもらうぞ!」

「まてっ、クラトっ!」

 ヒュヒュッ

 ブニンッ、グニンッ

「なんだ!?」

 ナダクはそう言うやいなやウルとニアちゃんに向けて二本の短剣を投擲する。
 だが、そのナイフは二人の目の前に現れた水色の物体に止められる。

「ナダク、落ち着いてくれ別にガロティス帝国に害を為そうとしているわけではない。"増強薬"の被害を出さない方法を運の良いことに私たちは持ってるんだ。」

「・・・本当だな?」

「ヴィエラさん?」

 ナダクがナイフを受け止めたのはガロティス帝国を害するためだと考え、殺気を振り撒くが、すぐにヴィエラさんの言葉により俺はその殺気から解放される。だが俺もナダクと同じくヴィエラさんの言葉を信じられない気持ちで聞いていた。

「なんだユウト。薬品が体内から無くなれば良いんだろ?私たちには、いや、お前にはそれが出来る力が付いてるじゃないか。クラト、二人の体内・・に入って不純物を食べ尽くしてこい。」


 ピコンッ

 「わかったー。」


 クラトはそういうと二つに分裂してそれぞれウルとニアちゃんの口に飛び込む。
 細い棒状になったクラトが二人の体内に入っていくというのはなんか、あれだ。大分と猟奇的な光景だな。

「まさかスライムに"増強薬"を除去させるとはな。魔物の中で最弱だと考えていたのだが、これは利用価値があるか?」

「やめとけ、ナダク。クラトは特別製だ。そもそもどうやって他のスライムを従える気だ?」

 その光景を観察しつつ未だに警戒を解いていないが、スライムに利用価値を見いだしたナダクの考えをヴィエラさんが両断する。
 そりゃそうだ。魔物を従魔にするにはある程度の知能が必要らしいから意思の疎通も難しいスライムを従えることは誰にも出来ないだろう。

「む、そうか。ではこのスライムはどうやって従魔にした?まさか長年に渡り躾たわけではあるまいだろう?」

 その質問にヴィエラさんはちらりとこちらに視線を向ける。
 いやいや、教えられるわけ無いでしょ。
 ただでさえ邪神が動き出してるのに他の問題とか抱えてられないですって。

「そう易々と教えられない、すまないな。」

 俺の気持ちが正しく伝わったかどうかは定かではないが、取り敢えずはヴィエラさんも厄介事は御免らしい。

「それもそうか。なら・・・ん?」

 ヴィエラさんと会話しているナダクが言葉を止め、訓練場の入り口に目をやる。

「勇者様、こちらです。部下の話では訓練場から魔力を感じたと言うことです!」

「この一大事に使用者がいるのか?」

「わかりません。部下の勘違いかもしれませんが、私の示すことの出来る可能性はここのみです。あ!」

「確かに人が集まっているみた・・・」

 兵士に連れられ訓練場にやって来たのはガロティス帝国で話題の人物、地球・・という異世界から召喚された、180センチという長身に赤のメッシュが入った黒の短髪に柔らかな瞳、少し低めの鼻が特徴の勇者。

あきら?」

「・・・悠斗ゆうと、か?」

「ん?ユウト、勇者と知り合いなのか?」

「それはあり得ないだろう。勇者は召喚されてから、魔王討伐のためにしかガロティス帝国出たことがないんだぞ?彼と出会うことは・・・まさか!」

「「何であきら悠斗ゆうと)がマナスに!?」」



 地球で親友だった二人は異世界、マナスで再会する。










訓練場での事件の後、その場に駆けつけた兵士に連れられてきたガロティス帝国の勇者。
なんとその勇者は俺の地球での・・・・親友、本郷暁ほんごうあきらであった!
これは運命の悪戯か何者かの思惑か、地球から遠く、かは分からないが、離れた異世界で親友が再会し、物語は加速するっ!



・・・はい。
こんなふざけた脳内妄想をしてしまう程度には混乱中です。
えっ?周りを放ったらかしてそんなくだらないことをするな?
いやいや、寧ろ俺が放ったらかされてるんだけど?

「なるほど。先程のユウトの魔力で生じた混乱に乗じてタイムリミットのあるアキラが直接その魔力の出所を探り、あわよくば協力を仰ごうと。」

「はい。それにしても先にナダクさんが来ているとは。」

「いや、俺より先にアノールドがユウトに声を掛けていたようだ。まぁ、そこで情けなく伸びているが、あの決闘がなければ外の混乱もユウトの存在も知ることができなかったんだ。アノールドには後で褒美と訓練をやらねばな。」

「いや、ただでさえ訓練を人一倍頑張ってるのにさらに訓練を追加は可愛そ・・・なんでもないです。」

ヴィエラさんとアキラとナダクさんは自分の世界に飛んでいた俺を放置してこれからのことを話している。

きゃさりんは気絶しているしょこらを引きずってアキラを案内してきた兵士と共に詰め所へと移動していった。
ウルとニアちゃん?まだ俺の横で気を失ってるよ。クラトにはもう二人の体内に居てもらうことにした。だって俺たちと行動を共にするとまた狙われそうだし。

「で、当のユウト本人は事情により今は力を発揮できない、と。すまないがヴィエラ、勇者と共に戦線に行ってやってはくれないか?」

「そうだな。自業自得とはいえアノールドというそこそこ有力な・・・・・・・戦力を使い物にならなくしたのはユウトだ。私の従魔は一匹も居ないが力を貸そう。」

「助かります。聞けばヴィエラさんも英雄級だとか。」

「私の場合は完全な後方支援型だがな。基本は従魔をサポートしているだけにすぎん。」

みなさん、聞きました?
ビンタ一発でツキノワグマサイズの魔物を殺しておいて完全な後方支援型ですって。
異世界ってなんてデンジャーなのでしょうか。

「ユウト、何か文句があるなら聞くが?」

「いえ、結構でございます。私はクラトの分身体を呼び寄せますのでどうぞお話を続けてください。」

阿呆なことを考えているとヴィエラさんの視線が飛んできた。
何故考えが読めるのだろうか。解せぬ。
取り敢えず俺はクラトにメールを送る。ウルとニアちゃんの体内に潜ったクラトには声が届かないのは検証済みだ。


ピコンッ

「わかったよご主人様ー。これからみんなで向かうねー。ガロティス帝国の東門なら多分一時間くらいで着くと思うよー。」


一時間か。
ヴィエラさんが出たら一時間も掛からないんじゃ・・・いやいや、アキラが言うには、当初5万前後だと言われていた魔物は10万はいるみたいだし俺の魔力で起こった混乱で1/3が死んだとしてもまだ7万。
流石に一時間じゃ全滅させられないか。というか、あれ?
俺たちが居なかったらガロティス帝国詰んでたんじゃね?

「ではナダクさん。ネロさん達が心配なんで俺とヴィエラさんは東門に向かいますね。」

「わかった。私も皇帝に頼まれた仕事は終えましたので戻り、序でに増援も要請しておこう。皇帝の護衛は俺と一人二人残して全て東門に送る。」

「ありがとうございます。では、いきます・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・?」

そう言ってアキラは固まる。というより何か恥ずかしがってる感じか。

「どうした?まさか、迷子?」

「んなわけあるか!あー、もう!ナダクさん、序でに力、借ります。"お金マネーあげるから真似・・させて"っ!」

なんっ、だとっ!
まさか、これはっ!

「・・・・・・・・・・寒っ。」

「うっせぇ!忘れろバカ野郎!」

それだけ言うとアキラとヴィエラさんの姿が霞のように消えていく。

「っ!ほぅ、これが勇者の真の力か。見たところ相手の力をトレースする、いや、身体能力もか?何にせよこれで勇者がネロと二人だけで魔王を討伐したという確証が得られたな。・・・ではユウト、無事、魔物を追い返すことができたらまた会おう。」

そういってナダクも霞のように消えていく。
訓練場に残されたのは俺と気絶中のウルとニアちゃんのみ。

「あれ?もしかして俺、置いておかれた?」

十数分後、詰め所にしょこらを連れていったきゃさりんが戻ってくるまで、俺は新たなアプリをサーチ&インストールして過ごすのだった。

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