オレハ、スマホヲテニイレタ

舘伝斗

0-1オレハ、ジコデトバサレタ

 プアァー

「うるさッ。」

   俺は背後から近づく車のクラクションに文句を言いつつ壁際ギリギリまで避ける。

「全く、こんな車1台通ると人が2人も並んで通ることができない様な道に機材車が通るんじゃないよ。邪魔臭い!」

  俺はぶつくさ言いつつも強面の運転手を見て文句を面と向かって言ったり睨んだりする度胸もなくなったので(どうであれそんな度胸はないのだが)顔を伏せて通り過ぎるのを待つ。
  学校のクラスでも特に目立つことのない単なる2次元好きに他人に抵抗しろと?
  無理だから(笑)

 ブチ、ブチブチッ

「ん?」

  トラックが半分ほど通り過ぎた頃、俺は世界が逆ギレしたかのような音を聞きトラックに荷台を見上げる。

 ガランガラガラ

  それは荷台の紐が切れ、荷台に積んでいた鉄骨が降ってくる音。

「あー、死んだわ。」

  俺は避けることが不可能な状況に責めて異世界に転生出来ないかなー。
  あわよくばケモミミをこの目に!とか阿呆なことを考えながら立ち尽くす。

 ガラン、ガラン!

 キーッ、バタンッ!

「まずいぞ!やっぱり紐が痛んでやがった!学生を巻き込んじまったか!?取り敢えず警察?救急車?」

  目をキツく閉じた俺の耳に強面の運転手の声が聞こえてくる。

「あれ?痛くない?」

  俺は体のどこにも違和感がないことに驚きつつも周囲を見回す。
 すると自分の周りに人一人がギリギリ入られる空間ができていた。

「おぉ、これが絶界か・・・」

 ギギ・・・

「あ、やばいわ、これそんな持たないな。」

「あー、畜生、会社にどう説明すればいいんだ。」

  俺は軽い衝撃で今にも崩れそうな空間から早く脱出しようと先ほどから聞こえる運転手と思われる男性に声をかける。

「あのー、すいませーん!」

「!?坊主か!?大丈夫なのか?」

「ギリギリ人一人居られる空間が出来たみたいで。でもギシギシアンアン言ってるんでなるべく早くどかして欲しいです。」

あ、アンアンは言ってないか。

「そうかっ、わかった。今すぐどかしてやる。」

 バタンッ、ブロロロ

  俺は聞こえてくるエンジン音に嫌な予感を感じる。

「ちょっとまってぇーーーー!車の方を動かさないでぇーーー!!!」

 ググッ、ガラガラッ

  奇跡的なバランスを保っていた鉄骨は今度こそ男に降りかかり、

 ヒュウン!

  男の体は地球から消えた。

  翌日、この事故は神隠しとして大々的にニュースに取り上げられ、運転手は道路の修復費を市に支払うだけの罰で済んだのだった。










「さて、そろそろ目を開けてくれんかのう。」

  俺は頭に響く様な声に従い意図せず目を開ける。

  あれ?今、俺が目を開けようとする前にまぶたが動かなかったか?

「それはそうじゃろう。いくら自力でこの空間に来れたからといっても神言に逆らえる者はおらんよ。」

  神言?あぁ、じゃあこの声は神様の声か。

「その通りじゃ。」

  それで、自力でこの空間に来たっていうのは?俺にはそんな特殊能力なんてないんだけど。

「まずこの空間にくる様な能力は儂も知らん。この空間に来られるのは自分が死ぬ間際に強く別世界に行きたいと想った者しか来られんよ。」

  でもそんな人くらいたくさん居そうだけれど?

「あぁ、たくさんおるぞ?だがお主はなんの力もないただの人間が瞬時に空間を歪めることができるとでも?それに死んだ者はここには来られん。」

  あー、つまり俺が一回死にかけた時に想ったことが二度目の死に際に間に合ったってこと?

「そういうことじゃ。で、ここからが本題じゃ。」

  本題?

「なんじゃ、お主はまさか永遠にこの何もない空間にいるつもりなのか?お主がここに来た理由を考えてみい。」

  ここに来た理由?まさか本当に異世界に行けるのか?

「あぁ、ここに来てしまったからにはワシの力の及ぶ世界に行かせてやろう。」

  うぉー、まじかまじか。どうするよ俺。
  やっぱケモミミは外せないよな!
  それに魔法!
  で、やっぱり異世界転生といったらチート能力だろ?
  何がいいかなーやっぱり莫大な魔力?それでいきなり街なんかを救っちゃったり?
  それのお礼に領主の娘をもらえたり?
  ハーレム作っちゃう?
  むっはー、テンション上がって来たー。
  やっぱケモミミもいいけどドラゴンにも乗ってみたいな!
  それからそれから・・・・・


「落ち着かんかっ!」

  神様の声でフッと今の興奮が嘘の様に収まっていく。
  あれ?何であんなにテンション上がったんだろ?

「まったく、久しぶりに力を込めたぞ。」

  あ、ごめんなさい。

「では行く世界を決めてくれるか?」

  声と共に目の前に5つのシャボン玉が現れる。

  これは?

「これはワシが管理する世界。右から地球、マナス、リンドル、竜海、ベルダンドじゃ。それぞれ詳しいことはそのシャボンに顔を入れて覗いてみるとわかる。」

  俺は地球の横のマナスから覗いて見る。

  そこに広がるのは緑。
  人、獣人、魔人、精霊が暮らしている。
  世界の端で何か黒い存在があるけれど、見なかったことにしよう。
  何か、あれはダメだ。触れちゃいけない。

  シャボンから顔を出し、次のリンドルに顔を入れる。

  今度は広野が広がっていた。
  居るのは人、獣人、魔人、竜人。
  あー、ここはダメだわ。
  だって戦争真っ只中だもん。
  全種族間で。ケモミミ見られないじゃん。次!

  竜海。
  そこには浦島太郎の竜宮城の様に楽しげな光景がひりがっていた。
  うーん、平和そうだな。
  人だけだし変な種族差別とか無さそうだ。
  しかし、そこは一面の海。
  ダメだろ、これ。
  陸地ないじゃん。
  どうやって生きろと?
  平和だけどさ、ダメだよこれ。

  最後にベルダンド。
  一面に広がるマナスの端に広がっていた黒い存在がそこかしこに跋扈していた。
  ここはやめよう。
  転生した瞬間殺されるオチしか見えない。

「決まったかの?」

  俺が地球以外全ての世界を覗き終わると神の声が聞こえてくる。

  決まったかって、これはもうマナス一択でしょ。
  ベルダンドとか死ぬ未来しか見えないよ。

「ではマナスで良いのか?地球にも帰れるのじゃぞ?」

  いやいや、ここで地球選んだらまたあの面白くない日常が戻って来るじゃん。
  ケモミミも見られないし。

「獣人への想いが重いのう。」

  あ、うまい。

「ごほん、ではこの世界に送るぞい。」

  ちょちょちょ、能力は?
  チートは?

「ん?この平和な世界には必要ないじゃろう。」

  いやいやいや、要るでしょ!。
  世界の端っこに何か危なそうな奴らがいたじゃん!

「あー、あれのう。邪神の復活を目論む不届きものじゃわい。特に手出ししなければ魔族を生み出す以外の悪さはせんぞ?」

  いやいや、オタクなめるなよ!
  このままだと俺は魔物の赤ちゃんにだって負ける自信しかないよ!

「そうか?あぁ、そういえば地球出身者は最も身体能力が低いんじゃったな。でも決まりで平和な世界ほど与えられる能力は最低限にせんといかんからのう。」

  じゃあせめて魔法の使い方を教えてください!

「ん?何を言っておるんじゃ?地球出身なんじゃから魔法なんて使えるわけなかろう。」

  えっ?そうなの?

「当たり前じゃ。危険のあるベルダンドならまだ肉体を再構成させられるがマナスの様に平和な世界には地球ボディのままで行ってもらうぞ?」

  地球ボディって・・・
  じゃあせめてなにか武器を。
  俺にも扱える武器を。

「困ったのう、今お前が身につけて居るものしか持ち込ませられないのじゃ。持ち物になら多少の能力を付けられるのじゃが。」

  俺はすぐに持ち物を確認する。

  えーっと、財布に定期、スマホ・・・
  ダメだっ!カバンを離しちゃったから服以外に財布と定期とスマホしかポケットに入ってなかった。
  こうなったら小銭に攻撃力を付加してもらって指弾の要領で・・・だめだ、300円しかない。
  ズボンのベルトを頑丈にしてもらって鞭の様に使うか?・・・短いな。
  服に絶対防御とか付加してもらうか?ふむ、いい案だな。

「それはいいが一枚毎にひとつしか付加してやれんぞ?ブレザーに対魔法、シャツに対斬撃、ベストに対衝撃みたいな感じでのう。もちろんそれ以外の能力はつけられんから最初の一撃は防げるが一度傷むともう効果を現さなくなるぞ?」

  だめだ。
  ならスマホに・・・
  だめだ、どんな能力を付けてもいい予感がしない。

  考えろ!思い出せ!
  俺の大好きな2次元に何かヒントがあるはずだ!

  スマホ、検索、アプリ、電話、写真・・・

  写真?
  そういえばスマホで写メを撮った相手を意のままに操ることができるっていう同人誌あったよな。
  ・・・うん。力がない俺が生き残るためにはそれでドラゴンとかを操るか。

  ドラゴンライダー。かっこいいな!
  古竜とかを手下にしてドラゴン軍団の王とか?
  王になれたらハーレムとかいいよね??
  これで俺もケモミミ娘を好き放題に・・・

「ん、んん。それでよいのか?その力なら多少制約を付けることになるが可能じゃろう。」

  制約って?

「まず大前提に容量を設ける。これはお主の経験によって増加するようにしといてやろう。まぁほかにも色々設けるが、向こうに行ってから体で覚えるように。では送るぞい。」

  えっ、ちょ、いきなり?


 ヒュウン!


  俺は足元に突如現れた黒い穴に抵抗を許されずに落ちて行った。


  せめて心の準備させてーーーーー













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