この夏俺は世界を守る巫女に生まれ変わりました

りょう

第26話変えられぬ未来 変えられる世界

 三時間向日葵との買い物を楽しんだ俺と向日葵は、帰りに近くの喫茶店へと寄っていた。

「明日楽しみだね咲ちゃん」

「お前それ今日何回目だよ」

「何回でも言うよ。楽しみなんだし」

「まあ、その気持ちは分かるけどさ」

 大量の買い物袋を引っさげて二人で楽しい時間を過ごす。そこにウェイターが注文したものを運んでくる。

「あのさ二人とも、楽しみなのはすごく分かるんだけど、どうして俺のバイト先を選んだ?」

「何でって、からかいにきただけだよな?」

「うん。雄一暇そうだったし」

「すごく迷惑なんだけどそれ……」

 実は俺達が寄った喫茶店は、雄一がアルバイトしている店で、俺達はあえてそこを選んだ。理由? それはさっき言った通りに決まっている。

「お前らな、偶然ならともかく、悪意があるならいくら親友でも帰ってもらうぞ」

「冗談だって。ほら、お前だって明日楽しみなんだろ? 向日葵の水着姿」

「な、何をいきなり言い出すんだよ!」

「きゃー、雄一のエッチ、スケベ、変態!」

「向日葵、変態は言い過ぎだろ。いいかこいつはど変態だ」

「お前ら帰れー!」

 そこには何ともない日常があった。俺達は毎日こうしてふざけあって、笑い合って、幸せな時間だけを過ごしていた。明日来る悪夢も知らずに。

(俺はまだこんな幸せな時間が続くと思っていた、それなのに……)

 この日常も、たった一度の事故で壊れてしまったんだ。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 ちょっとだけ悲しみに暮れていると、突然全ての動きが止まり、目の前にはあの闇の空間が現れた。そこから案の定ラファエルが現れた。

「どうだった? 久しぶりに懐かしい人に会えた感想は」

「お前が出てくるまでは最高だったよ」

「でもボクが出てこなくても未来は変わらないよ?」

「そんなの分かっている。だからさっさと元の方に戻してくれよ」

「はいはい」

 やれやれとため息をつきながらラファエルは指を鳴らすと、アライア姫の部屋へと視界が戻る。案の定俺の格好は、元の水の姫巫女に戻っていた。

「ミスティアさん! よかった、無事で」

 しばらくするとアライア姫が突如飛び込んで来る。よほど俺の事を心配してくれていたらしい。

(ありがたいけど、俺は……)

「さて、大事な話を彼女にもしたし、水の姫巫女君にはまた会いに来るから、今日はこの辺りで引かせてもらうよ」

「あ、待って。まだ話が……」

  去ろうとするラファエルを止めたのは、何とアライア姫だった。

「もうボクから話せる事は全て話したから、あとは君次第だよ。ボクの取引に応じるか、応じないかで世界は変わるのだから」

「え?」

 何だ世界が変わるって。一体ラファエルはアライア姫にどんな取引をしたのだろうか?

「私にはそんなの……」

「決められないの? 駄目だなあこの国は。誰も答えを出そうとしない。姫様も巫女も。それじゃあ世界は変えられないのに」

「じゃああなたが言う世界って何ですか? それは人を脅してまで作り上げる世界なんですか?」

「脅し? ボクはそんな事は一度もしてないさ。ただ眠っているあるものを、起こしてあげようとしているだけ」

「眠っているもの?」

「おっと。口が滑っちゃったみたいだし、この辺で帰らせてもらうね。それじゃあね」

 そう言い残すと、ラファエルは今度こそ闇の奥へと消えていってしまった。

「あの、アライア姫様」

「ごめんなさい。色々聞きたいことはあると思うけど、今は話せない。でもいつかは知ってもらうと思う。だから今日は呼び出しておいて悪いけど、帰って」

「分かりました……」

 本当は色々聞きたい事があったのだか、答えてくれそうにないので俺は彼女の部屋を出た。

(この国は、何かを隠しているのか?)

 俺は疑問が胸に残ったままだったが、アライア姫が話してくれるであろう、いつかを信じて部屋に戻った。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 しかしその後は特に大きな事が起きることもなく、あれから一週間が経とうとしていた日の晩、もう寝ようというタイミングで突然コロナが俺の部屋を訪ねてきた。

「どうしたんですか? こんな時間に」

 明日も当然早いので、帰ってもらおうとしたが、どこか真剣な眼差しで部屋に入ってきたので、話しだけでも聞くことにした。

「巫女様は、その、知っていたの? 私の事」

「コロナさんの事?」

「私の国は既に存在していないことを」

「あ、それは……」

 最初何故彼女が訪ねてきたのか分からなかった俺だが、その一言で彼女が何をしに来たのか理解した。

「黙っていなくていいの。私も嘘をついたのは申し訳ないと思っているから……」

「嘘って事は……」

「私があの国の出身なのは本当。だけど私の本体はとうの昔に滅んでいる。残っているのは魂だけ」

「何かこの世界だと、その言葉が通じそうで怖いんですけど、それは本当なんですか?」

 現に魂だけがこの世界にある俺にとっては、嘘とは思えない話だった。だから一応信じているていで話を続ける。

「うん。そして水の姫巫女であるあなたに会いに来たのも事実だった。まあ、半分は彼女の意志でもあるんだけどね」

「彼女?」

「ううん。何でもない。それでねどうして水の姫巫女に会いに来たのか、教えてあげる」

「何百年も前に滅んでいるはずのあなたが、何故今になってここに?」

「答えは簡単よ。全てはあなたのその命をいただくため。数百年前、国を滅ぼしたあなたのその命を、ね」

 突如刀を出してそう言い放つコロナ。

「え、あ、ちょ」

(まさかのここにきて二度目の死を経験するかもしれない最大のピンチ?)

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