この夏俺は世界を守る巫女に生まれ変わりました
第29話迫られる選択
「つまり……ラファエルを倒してしまったら、その闇は再び元の場所へと戻り、人々は忘れていた闇を思い出してしまう。それが闇の牢獄という事ですか?」
『はい。そして私は、それから逃れたくて、数年後自ら命を断ちました』
「そんな……そんな事って……」
俺の常識を遥かに超える話に、どう反応すればいいのか戸惑ってしまう。でも水の姫巫女である以上、それから逃れてはいけない。それは代々継がれてきた意志なのだから。
(代々?)
待てよよく考えたらそれはおかしい。彼女の話によると、水の姫巫女は不老不死であるがゆえに、彼女みたいに自ら命を絶たない限りは、次の姫巫女に変わることがないはずだ。それなのに、何故俺は今こうして水の姫巫女として立っている?
「一つ聞いていいですか? 水の姫巫女は確か不老不死と言っていましたが、どうしてこの二百年の間に何回か変わっているんですか?」
『皆が皆この真実に耐えられないんですよ。ちなみにミスティア様が四代目です』
「どうしてそれに俺なんかが巻き込まれなきゃ……」
思わず素の自分が出てしまう。そもそも俺は全くの無関係だったのに、いつの間にかこんな大事に巻き込まれてしまった。しかも身勝手な理由で。
『あなたを巻き込んでしまったのは本当に申し訳ないと思っています。けれど、助けてほしいんです私達を。いつまでも呪いに囚われているようなこの世界を、私はずっと見ていられません』
「身勝手だよそんなの……」
『身勝手なのは承知しています。それでも、あなたならできると信じています。強い心を持っているあなたなら』
「だからそれが身勝手なんだって! 今日この日まで俺はずっとこの身体で我慢してきた。あんたも分かっているんだろ? 水の姫巫女ミスティアの中身は男なんだって。それなのに何だよ、誰もできなかったことを俺にやれって。強い心を持っている俺ならできる? そんな勝手な想像で、俺を巻き込まないでくれ……」
もう言葉すらも出てこなくなってしまう。俺は一ヶ月前までは普通の人間で、不幸にも事故で死んでしまった身だ。この世界とは全く関係ない。それなのに水の姫巫女になれだ、世界を救えだ、何でもかんでも押し付ければいいってもんどいじゃない。身勝手な理由で他人を巻き込まないでほしい。しかも異世界の人間を。
『ミスティアさん、私はもう声でしかない存在ですが、長い間この世界の歴史を見てきました。自分が犯した罪をどう償うか、その答えを探していました。皆が絶望してしまった世界をどう取り戻せばいいか。けど、少し違ったんです』
「違った? 何が?」
『まだこの世界は生きる希望を持っているんですよ。どんな困難が起きようとも立ち向かう人たちの姿がそこにあったんです。その希望を捨てていいのですか?』
「希望もなにも、ラファエルを倒したら、結局は絶望に戻ってしまう。俺が何したって意味がない。それに俺はここに長くはいたくない。必ず帰るって約束したんだ」
こんな絶望しか残っていないこの世界を、俺にどう救えと。
『分かりました。そこまで言うのなら、もうあなたには頼りません。ただし、よく考えてください。そして気が変わったら、もう一度声をかけてください」
どうやら俺を諦めてくれたらしく、どこかにあった彼女の気配らしきものは消えてしまった。
(俺に世界を救えだなんて、無理だよ……)
この世界の闇を、俺は払いのけることなんてできない。だから他の人に任せよう。そうすれば俺は安心して……。
(安心して?)
そもそも俺の体はこの世界にある。それをどこでどうやってもとの世界に戻せばいいんだ? そもそも水の姫巫女は不老不死に近い存在。でもアライア姫は約束してくれた。必ず戻してくれると。
(そうだよなきっと、大丈夫だよな)
この先の事に関して一抹の不安を抱えながらも、長らく空を旅してきた飛空挺は、それから数十分後に、グリーンウッドへと到着するのだった。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
出発した時間が時間だけにあって、着いたのはまだ早朝。皆が寝ているのに迷惑をかけてしまうのはあれだということで、朝までは飛空挺内で過ごすことになった。
「どうしたんですか巫女様、先程から元気がありませんけど」
「へ? あ、すいません。少し考え事を」
「さっきの長い独り言ですか?」
「もしかして聞こえていましたか?」
「バッチリ」
「そうでしたか……」
随分と長い独り言聞かれてたのか俺は。
「ふふ、冗談ですよ冗談。誰と話していたのか、分かっていますから」
「え、ちょ、知っていたなら尚更じゃないですか!」
「昨日私の所に彼女が来ましてね、この事話していいのか聞いて来たんです。私も彼女と話すなんて初めてだったので、ちょっと驚きました」
「それは誰だって同じですよ」
というか俺を一人にしたのって、こいつの策略なのか? そうだとしたらなおのことたちが悪いじゃないか。
「それで巫女様は、どうなさるつもりですか?」
「どうなさるもなにも、私には世界を救うだなんて……」
「不可能ですか。歴代の巫女はそうやって口々に言っていました」
「当たり前じゃないですか。こんな事私だけが背負えるものではありません」
「何も巫女様だけで救ってとは言っていませんよ?」
「でもこれは水の姫巫女が背負っているもので……」
「困っている時は頼ってもらう、誰かと約束していませんでしたか?」
「あ」
そっか。俺にはいざという時の二人がいる。しかも相当心強い。
「何のために他の巫女達と接触したのか、よく考えてみてください。それでは」
セリーナはそう言うと、その場から去って行った。
(そうか、俺は別に一人ではないんだよな)
『はい。そして私は、それから逃れたくて、数年後自ら命を断ちました』
「そんな……そんな事って……」
俺の常識を遥かに超える話に、どう反応すればいいのか戸惑ってしまう。でも水の姫巫女である以上、それから逃れてはいけない。それは代々継がれてきた意志なのだから。
(代々?)
待てよよく考えたらそれはおかしい。彼女の話によると、水の姫巫女は不老不死であるがゆえに、彼女みたいに自ら命を絶たない限りは、次の姫巫女に変わることがないはずだ。それなのに、何故俺は今こうして水の姫巫女として立っている?
「一つ聞いていいですか? 水の姫巫女は確か不老不死と言っていましたが、どうしてこの二百年の間に何回か変わっているんですか?」
『皆が皆この真実に耐えられないんですよ。ちなみにミスティア様が四代目です』
「どうしてそれに俺なんかが巻き込まれなきゃ……」
思わず素の自分が出てしまう。そもそも俺は全くの無関係だったのに、いつの間にかこんな大事に巻き込まれてしまった。しかも身勝手な理由で。
『あなたを巻き込んでしまったのは本当に申し訳ないと思っています。けれど、助けてほしいんです私達を。いつまでも呪いに囚われているようなこの世界を、私はずっと見ていられません』
「身勝手だよそんなの……」
『身勝手なのは承知しています。それでも、あなたならできると信じています。強い心を持っているあなたなら』
「だからそれが身勝手なんだって! 今日この日まで俺はずっとこの身体で我慢してきた。あんたも分かっているんだろ? 水の姫巫女ミスティアの中身は男なんだって。それなのに何だよ、誰もできなかったことを俺にやれって。強い心を持っている俺ならできる? そんな勝手な想像で、俺を巻き込まないでくれ……」
もう言葉すらも出てこなくなってしまう。俺は一ヶ月前までは普通の人間で、不幸にも事故で死んでしまった身だ。この世界とは全く関係ない。それなのに水の姫巫女になれだ、世界を救えだ、何でもかんでも押し付ければいいってもんどいじゃない。身勝手な理由で他人を巻き込まないでほしい。しかも異世界の人間を。
『ミスティアさん、私はもう声でしかない存在ですが、長い間この世界の歴史を見てきました。自分が犯した罪をどう償うか、その答えを探していました。皆が絶望してしまった世界をどう取り戻せばいいか。けど、少し違ったんです』
「違った? 何が?」
『まだこの世界は生きる希望を持っているんですよ。どんな困難が起きようとも立ち向かう人たちの姿がそこにあったんです。その希望を捨てていいのですか?』
「希望もなにも、ラファエルを倒したら、結局は絶望に戻ってしまう。俺が何したって意味がない。それに俺はここに長くはいたくない。必ず帰るって約束したんだ」
こんな絶望しか残っていないこの世界を、俺にどう救えと。
『分かりました。そこまで言うのなら、もうあなたには頼りません。ただし、よく考えてください。そして気が変わったら、もう一度声をかけてください」
どうやら俺を諦めてくれたらしく、どこかにあった彼女の気配らしきものは消えてしまった。
(俺に世界を救えだなんて、無理だよ……)
この世界の闇を、俺は払いのけることなんてできない。だから他の人に任せよう。そうすれば俺は安心して……。
(安心して?)
そもそも俺の体はこの世界にある。それをどこでどうやってもとの世界に戻せばいいんだ? そもそも水の姫巫女は不老不死に近い存在。でもアライア姫は約束してくれた。必ず戻してくれると。
(そうだよなきっと、大丈夫だよな)
この先の事に関して一抹の不安を抱えながらも、長らく空を旅してきた飛空挺は、それから数十分後に、グリーンウッドへと到着するのだった。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
出発した時間が時間だけにあって、着いたのはまだ早朝。皆が寝ているのに迷惑をかけてしまうのはあれだということで、朝までは飛空挺内で過ごすことになった。
「どうしたんですか巫女様、先程から元気がありませんけど」
「へ? あ、すいません。少し考え事を」
「さっきの長い独り言ですか?」
「もしかして聞こえていましたか?」
「バッチリ」
「そうでしたか……」
随分と長い独り言聞かれてたのか俺は。
「ふふ、冗談ですよ冗談。誰と話していたのか、分かっていますから」
「え、ちょ、知っていたなら尚更じゃないですか!」
「昨日私の所に彼女が来ましてね、この事話していいのか聞いて来たんです。私も彼女と話すなんて初めてだったので、ちょっと驚きました」
「それは誰だって同じですよ」
というか俺を一人にしたのって、こいつの策略なのか? そうだとしたらなおのことたちが悪いじゃないか。
「それで巫女様は、どうなさるつもりですか?」
「どうなさるもなにも、私には世界を救うだなんて……」
「不可能ですか。歴代の巫女はそうやって口々に言っていました」
「当たり前じゃないですか。こんな事私だけが背負えるものではありません」
「何も巫女様だけで救ってとは言っていませんよ?」
「でもこれは水の姫巫女が背負っているもので……」
「困っている時は頼ってもらう、誰かと約束していませんでしたか?」
「あ」
そっか。俺にはいざという時の二人がいる。しかも相当心強い。
「何のために他の巫女達と接触したのか、よく考えてみてください。それでは」
セリーナはそう言うと、その場から去って行った。
(そうか、俺は別に一人ではないんだよな)
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