この夏俺は世界を守る巫女に生まれ変わりました

りょう

第36話前夜祭の悲劇

 皆が皆前夜祭というイベントで盛り上がり、俺も少しだけお酒が入り始めた頃、少し酔いを覚ます為に俺は軽い散歩に出た。

(酒なんかまだ飲み慣れてないから、自重しておくべきだったかな……)

 慣れないお酒を飲んでしまった為、まともに歩くことができない。まさに二十歳になって慣れないお酒を飲んでしまった学生の気分だ。いや、その通りではあるんだけど。

(気持ち悪い)

「もう駄目だな咲ちゃんは」

「そういうお前だってアルコール弱いだろ向日葵」

 幻聴まで聞こえて来た。どうやら結構飲んでしまったらしい。なんでこんな時まで向日葵の声が聞こえてくるんだ。

「というかどうして咲ちゃん、女の子の体なの?」

「知るかよそんなの……ん?」

 何で向日葵が今の俺の現状を知っているんだ?

「ここだよ咲ちゃん」

「え?」

 慌てて後ろを振り返る。そこに立っていたのは……。

「え、な、ど、どうして、ひ、向日葵が?」

「来ちゃった」

 偽物とかではなく丸々本物の向日葵がそこにいた。

「き、来ちゃったじゃなくて、お前、どうして?」

「分からない。目が覚めたらここにいたの」

「はぁー?」

 何がどうなっているんだ? この世界に向日葵はいないのに、どうして、どうして彼女がここにいる?

『ボクは何でも知っているのさ。それでその彼女ね、近々こっちの世界』

 いつかラファエルが言った言葉を思い出す。まさかそれが本当になるだなんて誰が予想しただろうか?

「もう何情けない顔しているの。そんな事をしたらお母さんに怒られるわよ!」

「っ!」

 どうやらそれは本当に気のせいだったらしい。誰がこんな事をやったのかなんて、すぐに分かる。

「残念だったなラファエル。俺を騙すには情報が不足していたな」

「何を言っているのよ咲ちゃん、ラファエルって誰?」

「とぼけても無駄だよ。あんたが偽物だっていうのは今ハッキリしたから」

「つ、つまらない冗談言わないでよ。私は向日葵だよ」

「冗談じゃないさ。残念だけど俺には母親がいない。父親もいない孤児だ。それは既に向日葵は知っている。だからあんな発言が出るはずがない。それにもう一つ、今の外見を見ただけでは俺だって判断できない。たとえこの前一度会っていたとしても、だ」

「なーんだ、君って親がいないんだ」

 本性が出たのか、先程とは全く違う声がした。

「騙せると思ってたか?」

「ちょっとした余興のつもりだったけど、まあいっか。とことん君は面白い人間だよ」

「それは褒めているのか?」

「そんなところかな。でもまさか、この作戦が失敗するとは予想外だったよ。本人をまるっきりコピーしたつもりだったんだけど」

「お前の情報よりも遥かに越えるものが俺たちにはあるからな。俺は酔いも覚めたし戻るから、お前もさっさと姿を元に戻すんだな」

 今はほぼ戦意がない俺は、適当にそんな事を言って彼女に背を向ける。色々驚かされたせいか、その頃にはすっかり酔いも覚めていて、普通に今は歩ける。

「言ったよね、これは余興だって。だから敵に背を向ける事なんてしたら、こうやって命狙われるんだよ」

「なっ」

 声が聞こえたと思った時には、時すでに遅し。背中に何かが刺さった音がした。

(う、嘘だろ……)

 昨日とは違い、全身の血が抜けていくような感覚に陥っていく。

「水の姫巫女、討ち取ったりだね」

「く、そ……」

「でもこれだとまだ死なないな。次は心臓でも狙おうか」

 刺さった何かが引き抜かれ、俺はその場に倒れこんでしまう。ラファエルは最後のトドメと言わんばかりに、刃物を再び振りかざし、そして俺の心臓に向かって刺す。

「じゃあね、見知らぬ異世界の旅人君」

 こうして俺の二度目の人生は、わずか一ヶ月とちょっとという短さで、幕を閉じることになったのだった。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「きゃー!」

 それからいく時の時間が流れた後、前夜祭も終わりに近づき、明日に備え皆が家に戻り始めたさなか、突如悲鳴があがった。

「何か起きたんでしょうか?」

 いつまでも帰ってこないミスティアを心配していたセリーナは、その悲鳴にいち早く反応した。

「どうかされましたか?」

 悲鳴をあげたのは光の姫巫女のシャイニー。彼女は一本の木を指差して、ガクガクと震えていた。

「あああ、あれ」

「あれ?」

 周囲が暗くちょっと見えにくいので、光を照らしてみる。するとそこに映ったのは、

「巫女様!」

 木に釘さし状態にさせられ、既に息絶えている水の姫巫女ミスティアの姿がそこにはあった。

「い、いや。いやぁぁぁ」

 あまりに衝撃的な出来事に、シャイニーはパニックに陥る。それを聞きつけて、グリアラとムウナがやって来る。

「え、ど、どうして……」

「ど、どういう事なのじゃ? ミスティアが……」

 二人とも今目の前の現状に、言葉を失ってしまう。誰もがパニックに陥り、どうすればいいのか分からない状態だ。

「巫女様! 巫女様!」

 その中でも一番パニックになっているのは、彼女の使いのセリーナだった。

「目を覚ましてください巫女様! お願いです!」

 木から何とか剥がすことに成功し、ミスティアの亡骸を抱えるセリーナ。既に彼女の息はあらず、心臓も動いていなかった。

「巫女様ぁぁぁぁ!」

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