この夏俺は世界を守る巫女に生まれ変わりました

りょう

第37話世界よりも一人の人間を

 死んだ。

 折角生まれ変わるチャンスを神は与えてくれたのに、俺は再び死んでしまった。

(しかもここはどこなんだ?)

 今暗闇の中にいる。普通人は死んだら天国もしくは地獄に送られるはずなのに、ここは完全な暗闇の中。俺は今どこにいるんだ?

『君のその魂、壊すには勿体無いから頂いたよ』

 どこからかラファエルの声が聞こえる。何故奴の声が聞こえてくるんだ?

『ここは闇の中。今君の魂はこの闇の中にいるのさ』

 ここが闇の中? 俺は今あいつの中にいるのか?

『簡単に言うとそういう事かな。ここはボクの中。水の姫巫女はもう死んでしまったから、君は一生この中にいるのさ』

 水の姫巫女は死んだ。

 こいつのせいで俺は二度目の命をないがしろにしてしまったのだ。

『ボクのせいだなんて、酷いこと言うなぁ。いずれそうなる運命だったのに』

 しかもこんなところに囚われてしまったら、元の世界にすら戻ることができない。再会する事を約束したのに。

『残念だったね。ヒマワリちゃんきっと待っていてくれているのに。まあ、元に戻る方法はなくもないけどね』

 元に戻る方法があるだと。

『まあその代償はかなり大きいけどな。ボクを倒すということは、世界の本当の終わりを意味しているのだからね』

 そうか、そういう事なのか……。俺が助かる事は、世界の本当の終わりを意味する。この世界の住人ですらない俺の命と世界の運命、どちらが大切か、そんなの決まり切っている。つまり俺はもう、生きる場所がない。

『そう、君はもうどこにも逃げられない。囚われてしまったのさ、永久の闇の牢獄に』

 永久の闇の牢獄。

 俺はもう一生この牢獄に囚われ続けるのか。

 そんなの嫌だな……。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 一方その頃、収穫祭当日を迎えたグリーンウッド。だが昨晩に起きた悲劇により、祭りどころの騒ぎではなかった。

「うぅ……巫女様ぁ……」

 水の姫巫女を失ったセリーナは、昨晩から一切に寝付けずに、ずっと泣いていた。泣きすぎたのか、もう涙も出てこない。

「セリーナさん、気をしっかり持たないと、あなたが壊れてしまいますよ」

「だって……私が付いていれば巫女様がこんな事にならなかったんですよ……。それに中の彼は、この世界の人間でもないのに殺されてしまうなんて、可哀想すぎます……」

「それは……そうですけど……」

 もう何が何なのか分からなくなってしまっていた。何で彼はこんな目に合わなければならなかったのか。既に死んでしまっていたとは言えど、二度も殺されるだなんて……。

「泣かないでミスティアさん。私が必ずこの落とし前つけるから」

「グリアラさん……」

「こんな事をした事を絶対に後悔させる。あの闇の姫巫女ラファエルを」

『じゃあボクも後悔させてあげるよ。ボクに逆らったことを』

「え?」

「グリアラさん、危ない!」

 どこからかラファエルの声がしたかと思うと、グリアラ体は吹き飛ばされていた、

(これは……爆発?)

 完全に意識の外からの出来事だったために直撃を避けられなかった彼女は、巫女服を焦がしながらも何とか立ち上がる。

「いたた、よくもやってくれたわね! 闇の姫巫女」

『へえ、今の耐えられたんだ。だけど残念、もう一発あるんだ』

「なっ」

 再びグリアラの近くで爆発が起きる。今度は辛うじて直撃を免れるものの、そのダメージは大きい。

「どこに……いるのよ! 出てきなさい」

『残念だけど、ボクが出るまでもないんだ』

「どういう意味よそれ」

『ボクが出るまでもなく、既に始まっているから。全ては』

「まさか!」

 ラファエルの言葉に何かを察したのか、グリアラは慌てて動きだそうとするが、先程のダメージが大きくて体が動かない。そんな彼女に、ラファエルは更なる追い打ちをかけようとする。

「グリアラさん!」

 だがそんな彼女を庇ったのは、何とシャイニーだった。彼女を庇うようにシャイニーが次の爆発を受ける。

「シャイニー! あなた、元々体は強くないんだから、無理なんかしたら」

「私も同じなんです」

「え?」

「私は彼女を許せません。ミスティアさんの命を奪った彼女を……」

「シャイニー……」

 誰もが同じ気持ちだった。大切な仲間を奪われたという想い、抑え込めない怒り。全てが彼女達の力となっていた。

『あははは。素敵な友情劇を見せてくれてありがとう。お礼にいいことを教えてあげるよ』

「いい事?」

『水の姫巫女の中の人とでも言うべきかな。彼の魂はまだ生きている。このボクの中で』

「え? 生きているの?」

『助けたい? だけどボクを倒さないと助けられないよ? そしてその言葉の意味が分かるよね?』

「それって彼を助けたいなら、世界を見捨てらと言いたいの?」

『そういう事。君達には選ぶことができるかな? この世界を選ぶか、この世界の住人でもない彼を助けるのか』

「何よその選択! ふざけないで」

(どちらかを選ぶなんてできるわけない。どっちも大切だから、どちらかを選べなんて……)

『何にもふざけてないよ。それくらいのリスクは背負ってもらわないとね』

 あまりに大きなリスクに、グリアラは言葉が出てこなかった。その場にいるセリーナでさえも、先程から喋ってすらいない。
 だけど一人だけ答えを持っている人物がいた。

「私は……彼の魂を助ける方を選びます」

 それはシャイニーだった。

『え?』

「シャイニー?」

「私は世界も大切だけど、それ以上に一人の人間を助けたいです。だからあなたを倒します」

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