この夏俺は世界を守る巫女に生まれ変わりました

りょう

第42話終わりの始まり

「ちょっとここまで来て何を言っているのよ。彼女を殺さないと、何も解決しないのよ」

「じゃあラファエルを殺して、何か解決するんですか? むしろデメリットしかないんです」

「何よ今更! それを乗り越えるって今さっき決めたばかりじゃない」

「確かに言いました。ラファエルは生かしていたら危険です。それでも、彼女は一人の人間なんでよす」

「だから何を言ってるの。彼女は人の心の闇から生まれた存在なだけあって、人ではないのよ」

 分かっている。俺が今とんでもないことを言っているのを。分かってはいる。だからこそ、だ。

「君は最後までお人好しなんだね」

「悪かったですねお人好しで。でもそれも、悪くはないと思います」

「ミスティアさん、目を覚ましなさい! 彼女は悪者なのよ?」

「確かに悪者なのは違いないです。けど彼女はは一度でも人殺しをしたか? 傷つけはしたけど、殺しはしてない。そんな人を私は殺すなんてできない。グリアラさん、あなたにはできますか?」

「そ、それは……」

「私は人を殺めるなんてできません。一人の人間として、決してそういう事はできません」

「でも……またいつ、何するか分からないのよ! それまで放置なんてできないわよ」

「それだったら私達が側にいればいいじゃないですか。一人の仲間として」

「そんな……そんな事……」

「躊躇う気持ちも分かります。けど、それをずっと続けていたって何も解決しません。新しい未来を作る為に、歩み出しましょ。私達で一緒に」

 それが俺が導き出した答えだった。誰かが間違っているといえば、俺は否定できないかもしれない。けれど、恨みや怨恨だけで人殺しを俺にはできない。

「君の言葉、ありがたく受け取っておくよ。彼女は返してあげる。世界中の闇と一緒にね」

「え?」

 だがその俺の言葉に対して、ラファエルは予想外の行動に移る。彼女は剣を取り出し、それを自分の胸に刺したのだ。

「お、おい!」

「最後くらい……抗いさせて……もらうよ。生き……る……くらいなら、ね」

 ラファエルはそう言い残して息を引き取る。すると彼女の身体から黒い禍々しい何かが噴出し出し、空へと登っていく。

「あれは、まさか」

「まずいわ。ラファエルが自害したせいで、彼女の中にあった闇が全部……きゃあ」

「巫女様、逃げ……」

 突如として溢れ出した闇は、グリアラやセリーナにも降りかかり、

「グリアラさん! セリーナさん !」

 それは、俺にも降りかかり、全身が闇に包まれた。そして包まれたと同時に意識が遠のいていくのを感じる。

(何だよ、結局俺は……何も……)

 まさかこんな結末を迎えるとは思っていなかった。結局俺は、何の為に戦って来たのだろうか? その意味を見つける前に俺の意識は完全に途切れてしまったのであった。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
『何で、何でラファエルを殺さなかったのですか?』

 暗闇の中で声が聞こえる。どこかで聞いたことがある声だ。

『私はあなたなら最後はやってくれると思いました。それなのに、こんな結末になるとは、私は失望しました』

 この声、確かマリアーナか?

 失望とか色々言われたので、とりあえず意識だけではんのうしてみる。

『結局あんたは俺に、人殺しをさせたかっただけだろ?』

『人聞きの悪い言い方はやめてください』

『でもそれが事実だ。あんたは上手いようにに言って、自分には決してできない人殺しを俺にやらせようとした。それは俺に限ったことじゃないよな。あんたは巫女になった人間に、そうやって人殺しを迫った。だから皆耐えきれなくなったんだ。自分が殺人に手を染めるくらいなら、死んだ方がマシだと』

 初代水の姫巫女にそんな事を言われたら、嫌でも信じてしまう。そして時間が経つに連れて、少しずつ怖くなってくる。自分が人殺しをしていいのか、と。でもそれが水の姫巫女としての運命だというなら仕方がない、でも殺すなんてできない。その二つの選択肢に踊ろされ、最後は現実から逃げるような形で、自害した。それが恐らく今までの真実。

『でもあなただって、殺したいほど憎んでいたじゃないですか。それなのに突然心変わりして、彼女を生かそうとしてしまった。それは立派な罪です』

『罪? 自分の罪を他人に押し付けて、それが運命だといって自分は直接何かをしようとしないあんたの方が立派な罪人だ!』

『あなたは何も分かっていない! もういいです。あなたには今日をもって、水の姫巫女をやめてもらいます』

『は? やめるってどういう……』

『目を覚ませば分かります。そして知りなさい。自分の犯した罪を』

『あ、おい』

 目の前が急に光に包まれ、そして……。

「はっ」

 目が覚めた。

「え……?」

(これはどういう事だ?)

 目が覚めた。異世界で。

「な、ど、どうして?」

 水の姫巫女としてではなく、

「どうして身体が元に戻っているんだ?」

 本来の俺、春風咲田の身体として。

「目を覚ましたようね、春風咲田君」

 すぐ近くで声がする。

「誰だ」

「あなたはよく知っているはずですよ。私を」

 声がした方に顔を向ける。そこには……

「え、な、どうして?」

「どうしても何も、本来のあるべき魂が戻ってきただけよ」

 そこには、俺が一ヶ月過ごしてきた身体。水の姫巫女ミスティアがいた。

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