この夏俺は世界を守る巫女に生まれ変わりました

りょう

第43話終局への前奏曲

「どういう事だよ! 何でミスティアの身体がそこにあるんだよ」

「今はミスティアではなく水の姫巫女マリアーナと呼んでほしいわ。歴代の姫巫女があまりに役に立たなかったから、私自身が二度目の姫巫女にさせてもらったのよ」

「二度目の姫巫女にだと!」

 水の姫巫女マリアーナ。

 初代水の姫巫女。そしてあの声の主。その彼女が今俺の目の前にいる。そもそも彼女は既に何百年も前に死んでいる。それなのに、何故その魂は残っていた? コロナもそうだが、この世界は色々変だ。分かっていたこととはいえ、死人が生まれ変わり姫巫女の使命を課せられる。これは一種の呪いみたいなものだろうか?

「あなたがまさかその身体で目を覚ますこと自体が、本来あり得ないはずなんだけど、まあそこはいいか。これで私は元の身体に戻ってこれたんだし」

「何一つよくない! その身体を返してもらおうか」

「あら? あなたは散々元の世界に戻りたがっていたのに、どうしたのかしら。その身体なら余計なことしなくても、手順さえ踏めば自分の世界へ戻ることはできるのに」

「俺はこの世界をこのままにして、元の世界に戻るなんてできない」

「その身体で何ができるというのかしらね」

「できるさ。お前とは違ってな」

 ふと扉が開けられる音がする。誰かがこの部屋に入って来たのだろうか?

「一応監視していたけど、まさかこんな事になるなんて、思いもしなかった。でもやり過ぎたことは見逃せない。そうよね水の姫巫女マリアーナさん」

「あらお久しぶりじゃない。アライア姫」

「アライア姫、様」

 入ってきたのはアライア姫だった。水の姫巫女の名残があるせいか、思わず様を付けて呼んでしまったが、多分問題はないだろう。

「春風咲田君よね? こうして会うのは初めてかしら」

「そうですね。いつも会っていたのはあくまでミスティアですから」

「前にも言ったけど、あなたの身体は最近までずっと保管されていた。けれど、彼女がそれを崩して、あなたの身体を元あるべき身体に戻してしまった」

「してしまったって、どういう意味ですか?」

「いずれ分かると思う。それよりもマリアーナさん、あなたは水の姫巫女に戻ってまで何をしようとしているの?」

「簡単な事よ。この地下に眠るあれを、もう一度起動させて、今度こそ私がこの世界を手に入れるの」

「何だと!」

 あんなに起動させるのを嫌がっていたのに、何故それを自ら起動させようとしているんだ?

(いや、ちょっと待て)

 彼女は起動させるのを嫌がっていたのではないのでは? 止めようとしていたのは、自分の手で起動させて、世界を今度こそ自分のものにしたいから。そしてもう一度水の姫巫女として元の自分に戻りたかったから。だから全ては時間稼ぎに過ぎなかったということになる。
 でも彼女は知っているはずなんだ、それを起動させた時、何が起きてしまうのかを。それなのに何故?

「何か色々と考えているみたいだけど、もうそんな時間も猶予も与えない。今から私は計画を実行する」

「なっ」

「やめなさい! マリアーナさん」

「さようなら、哀れな人達」

 突然水を纏ったマリアーナは、そのままその場から姿を消した。

「アライア姫様!」

「ええ。すぐに向かうわよあそこに」

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 一刻を争う事態が発生し、慌ててマリアーナが向かったであろう場所へ急ぐ俺とアライア姫。その途中、セリーナとすれ違った。

「アライア姫様、どちらへお急ぎに。あとその隣にいる方は?」

「セリーナ、急げ。緊急事態だ」

「何故私の名前を?」

「とにかく行くぞ!」

「え? あ、な、何をするんですか!」

 半ば強引とはいえセリーナも連れて行く。人は多い方がいいだろう。

「で、ではこの方が水の姫巫女様の中の方なんですか?」

「ああ。春風咲田だ。改めてよろしくなセリーナ」

 道中、現場を理解してもらう為にもセリーナに起きたこと全てを話した。相変わらず中の人呼ばわりしているけど、今は気にしない。

「咲田さんって思っていた以上に男前なんですね」

「お前は俺を何だと思っていたんだよ」

「うーん、変態でしょうか」

「誰が変態だ!」

「だって普通はあり得ませんよ。女の体に生まれ変わるなんて。余程前世では欲求不満だったんですね」

「お前は俺の何を知っているんだよ……」

 呆れてものが言えない。そもそもこうなったのは、俺のせいではない。全ては不可抗力の中で起きた出来事に過ぎない。べ、別に欲求不満だった訳ではないからな。

 本当だよ?

「でも……その、よかったです」

「何が?」

「あの日、皆が闇に飲まれどうなるかと思いました。巫女様も行方不明でしたし、他の皆様もあれから会っていないですし、心配ばかりの毎日だったので、こうして巫女様がもどってこれただけでも私は嬉しいです」

「セリーナ……」

「おかえりなさい、巫女様」

 そうか、やはり心配してくれていたんだ。あれからどれくらい時間が経っているのかは分からない。けれど恐らく彼女はずっと俺の事を心配してくれていた。だからほんの少しだけ照れ臭くなった。

「まあ巫女様が男になってしまったのは残念ですけど」

「今までの雰囲気台無しだよ!」

 折角いい感じで締めようと思ったのに。

「二人とも再会を喜ぶのはいいけれど、着いたわよ」

「え? あ、本当だ」

 セリーナとくだらないやり取りをしている間に目的地へと到着。本来なら閉められているはずの扉は、鍵の持ち主が現れ、開かれてしまっていた。

「この先にマリアーナが……」

 止めなきゃいけない人物がこの先に。

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