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この夏俺は世界を守る巫女に生まれ変わりました

りょう

第48話失くしてしまった居場所

「スウよ、何故お主が大地の姫巫女になった?」

 俺達の目の前に現れた新たな大地の姫巫女スウ。ムウナは裏切り者と認識され、その任を解かれてしまった。つまり今のムウナはただの人間。

(なんだよそれ、ムウナは何一つ悪いことしてないだろ)

「あなたの次に私が優秀だった、という事かしらね。まあ、あなたは無駄死にして姫巫女になったけど、私は命を粗末にしてまでなりたくなかったから」

「ちょっと、あなたそれは言い過ぎよ! 無駄死になんて、そんな事を言ったら私達まで無駄死にって事になるのよ!」

「だってそうでしょ? 世界を守るとかそんなの言葉だけであって、何一つ救おうなんてしない。ましてや、同じ人間である私達を、世界の穢れとして地下に追いやった。だから無駄死になのよ!」

「なっ! 私達だって……」

「もうよい! 妾が悪かったのじゃ。妾が無力だったから……」

 喧嘩を始めたグリアラとスウを止めるかのように、声を張り上げるムウナ。彼女の目からは微かに涙が……。

 その涙を見た瞬間、俺の中で何かが切れた音がした。

「グリアラ、喧嘩はやめろ。こんな所でいがみ合っても意味がない」

「でも……」

「あんたスウって言ったよな。あんたには仲間と呼べる仲間がいるか?」

「そんなのいるに決まっているじゃない」

「じゃあ分かるよな? その仲間が傷つけられたら、どう思うかくらい」

「咲……田……?」

「はは、何を今更。あなたはこの裏切り者が仲間だと言うの? だったら気をつけた方がいいよ。いつ裏切られ……」

 ガンッ

 怒りが抑えられなくなった俺は、近くの木を殴った。手が血で滲むが、そんなの気にしない。

「ムウナが裏切り者になるって? そんなのお前の勝手な妄想だ。俺が知っているムウナはそんな事をしない」

「ど、どうしてそんな事を言えるの?」

「そんなの決まっている。こいつは俺の、いや俺達の大切な仲間だ。信じるのは当たり前だろ?」

「な、何なのよ。こんな子の味方なんかしちゃって。どちらにせよこの子は大地の姫巫女でもなんでもない。だからとっとと帰りなさい!」

 そう言ってスウは逃げるように、地下へと再び消えてしまった。残された俺達は、ここにいても埒が明かないので本来の目的通りの場所へ向かうことになった。

「妾は……どうすればいいのじゃ……」

 ムウナの寂しげな言葉を耳にしながら。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 それから半日以上歩いた所で、皆の疲労が限界に近づいて来たので、近くの村へ寄り道する事に。勿論その村には人は一人もいなかった

「時間的にも今日はここで休むしかないな。皆も疲れているだろうし」

 村の宿泊施設の部屋を借りてそこに荷物を置き、近くにあった椅子に腰をかけながら俺は言った。
 時間的には夕方の六時過ぎ。これから歩こうにも次どこにこういうのがあるのか分からないので、今日はここで寝泊まりすることに決まった。

「そうですね。私もヘトヘトです」

「疲れているっていうのもあるけど、それ以上にムウナが心配よ」

「そうだな……」

 あの後、一言も喋っていないムウナ。彼女の精神が安定するまでは、動かない方がいいのかもしれない。この村に到着するや否や、一人にしてほしいと言って、今は外で一人ボーッとしている。

「まさかこんな事になるなんてな……」

「本人が知らぬ間に大地の姫巫女が変わっているなんて予想外よ。それにあのスウって子、無駄死にとか言っていたけどあれはちょっと酷いわよね」

「そうですよね」

 あの言葉には俺もイラッとした。ムウナと同じようにシャイニーも姫巫女になる為に命を落とした。それは自分の意思でやった事なのだから、無駄死になんて言葉はおかしい。そんな事言ったら俺はどうなる。姫巫女になるつもりすらなかったのに、命を落とした。果たしてそれは無駄死になのだろうか?

「とにかく今はムウナを一人にしてやろう。それで落ち着いたら、俺が話をしてくる。今はそっとしておこう」

「そうね」

「さてと、この話は一旦置いておいて、夕食の準備するぞ!」


 それから三時間後、夕食も終わりそれぞれが自由に時間を過ごす中、未だにムウナは一人でいたので、俺は夕飯を持って彼女に話しかけることにした。

「どうだ、少しは落ち着いたか?」

「……」

 返事がない。でも話は聞いているらしく、頷く事だけはしてくれた。

「ほら、ご飯だ。お腹減っただろ?」

「咲田……」

「ん? どうした?」

「妾はこの先どうすればいい?」

 これからどうすればいい?

 恐らく今のムウナは帰る場所も失い、自分の役割も失い、どうすればいいのか分からなくなってしまっている。それは分かっていた。

「お前はそのままでいればいいと思う。いつものお前のままで」

「でも妾は……何者でもない。大地の姫巫女でも、大地の民でも。そんな妾がいつまでもここに居ても意味がない」

「意味なら自分で見つければいい」

「え?」

「失くしてしまったら、新しく見つければいい。俺達だって協力する。だから、その、頑張れ」

 分かっていたからこそ、難しい答えはいらなかった。彼女は彼女らしく、ここにいればいい。それだけで充分だ。

「それでよいのか? 妾は何も出来ぬぞ?」

「それでいいんだよ。それにまだ俺達は諦めていない」

「それはどういう意味じゃ?」

「お前を絶対に大地の姫巫女として戻してやる。このまま
 言われっ放しも嫌だからな」

「本当か?」

「ああ。約束する。多少の時間をかけても、絶対に取り戻してみせるから、お前の居場所を」

 歌姫の件だってある。だからそんな簡単には諦められない。このままムウナだけ悲しい思いをさせて、平和なんて取り戻せやしない。だから誓おう。全てを取り戻してみせると。

「咲田……ありがとう。妾は嬉しい」

「その言葉は、全部片付いてから言え。これから始まるのだから」

「うん」

 そう、まだまだこれからが始まりなのだ。何もかも全て。

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