この夏俺は世界を守る巫女に生まれ変わりました
第53話ムウナの言葉
大地の歌姫を見つけるのは明日からにする事が決まり、今日は解散となった。
「咲田」
二人の説教にかなり体力を使い疲れてしまったので、自分の部屋へと戻って休もうとした時、ムウナに呼び止められる。
「ん? どうかしたか?」
「妾にちょっと付き合ってくれんかの。お主と一度話をしたい事がある」
「俺と? まあ構わないけど」
ドアノブにかけた手を一旦離し、ムウナの後をついていく。彼女とこうして話すのは、水の姫巫女の時から含めて初めてだ。
「それで何だ、話って」
「この前スウと会った時に、お主は妾を仲間と言ってくれた。妾はすごく嬉しかったのじゃ」
「何だよ今更。グリアラがそうしてくれたように、俺もそうしただけだって」
「だからなのじゃ。妾がお主にもうすぐ会えなくなってしまうことがすごく寂しい。妾にとって仲間というのは、一生一緒にいられる存在なのじゃ。その存在がいなくなってしまうのが、とても寂しい」
一生一緒にいられる存在。
これは不老不死に近い姫巫女だからこそ言える言葉なのかもしれない。同じ姫巫女である同士がゆえに一度できた仲間は一生のものになる。それに比べて俺は……。
「俺も正直言って寂しいよ。けど、俺には帰る場所があるから、元々手段が見つかれば元の世界に戻るつもりだったんだよ」
「帰る場所?」
「ああ。さっきも話したけど、俺には親友がいる。親がいない俺を孤独から救ってくれた、大切な親友が」
「親がいないの?」
「そういえば、まだこれは誰にも話していなかったっけ。まあ今回は特別にお前だけに教えてあげるよ」
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
ラファエルとの戦いの時にも思わず口滑っていたが、俺には親と呼べる人がいない。小さい頃に捨てられていたらしい。孤児院の当時の院長さんがそれを拾ってくれたらしいのだが、まだ一歳にも満たない年だったらしい。
その事実を知らされたのは中学生を卒業した日。それまでは本当の親を院長と奥さんだと思っていた俺は、酷くショックを受けてしまった。自分には親がいない、それがどれだけ悲しくて、寂しいものか。
「妾には親がおる。それなのに何故咲田はそんな酷い目に合わなければならんのだ」
「さあな。それが運命だったのかもな」
ともかく当時の俺は、その事実を受け入れることができず、自暴自棄になってまともに高校にも通えなくなっていた。
そんな時に出会ったのが、向日葵と雄一だった。キッカケはたまたま出た授業で、偶然同じ班になった事だった。
「君って高校にほとんど来ていない子だよね? 大丈夫? 何かあったの」
「何かあったとしても、関係ないことだろ」
「それは関係ないけど、折角の高校生活楽しまなきゃ」
「別に通おうが通わないが、俺の勝手だろ。好きにさせてくれよ」
「そういうわけにはいかないだろ。こうして同じ班になったんだからさ」
「そうだよ、彼の言うとおり! ここで会ったのも百年目、仲良くしようよ」
「言葉の使い方間違っているけど、言っていることは間違いじゃないだろ? これも何かの縁だろ」
「……」
第一印象は最悪だった。何でこんなに面倒くさい人と出会ってしまったのだろうか? 最初の頃は何度もそう思った。けれど雄一の言っていた通り、縁でもあったのか、俺達はその後も何度か同じ班になることがあった。その内に最初は面倒くさいなと思っていた二人に対して、少しずつ心を開けるようになった。
「え? 咲ちゃん親がいないの?」
「ああ。小さい頃からずっと孤児院で育てられているんだよ。だから親の顔も知らないんだ」
だからなのかもしれない。自分の境遇を二人に話すことができたのは。二人と出会って半年、俺の中での二人の印象は変わっていた。
「結構咲田って単純思考なんだ。妾はだったらそんな簡単に打ち解けられないのじゃ」
「単純思考とか言うなよ。二人はそれくらい俺にとって大切な存在なんだよ」
「ふーん。妾にもそんな存在がいたら嬉しいのう」
「ん? あのスウって子は?顔見知りみたいだけど」
「あれは……その、なんと言えばいいのかのう。腐れ縁というべきか。でも親友とは呼べないのう」
「腐れ縁ねえ……」
その相手が姫巫女になっただなんて、信じられないんだろうなムウナは。
「って、大分話逸れたけど、さっきも言ったけど俺には帰る場所がある。だからさ、寂しいけどお前達のことは絶対に忘れない。だからお前も忘れないでくれ」
「うん。それは約束するのじゃ。だからこちらからも約束させてほしいことがある」
「なんだ?」
「妾はこれから、お主達に多大なる迷惑をかけることになるが、許してほしい」
「それはどういう意味だ?」
「すぐに分かるのじゃ。皆にも伝えておいてくれ」
「ムウナ?」
俺は今になってこの時何故彼女の言葉の意味を深く考えようとしなかったのかと後悔している。何故なら、
「大変です咲田君」
「どうしたんだよシャイニー。朝からそんなに慌てて」
「ムウナちゃんが……ムウナちゃんが……」
「ムウナが?」
翌朝、その言葉の意味をムウナが行方不明になった後だったからだ。
(ムウナのやつ、まさか)
「咲田」
二人の説教にかなり体力を使い疲れてしまったので、自分の部屋へと戻って休もうとした時、ムウナに呼び止められる。
「ん? どうかしたか?」
「妾にちょっと付き合ってくれんかの。お主と一度話をしたい事がある」
「俺と? まあ構わないけど」
ドアノブにかけた手を一旦離し、ムウナの後をついていく。彼女とこうして話すのは、水の姫巫女の時から含めて初めてだ。
「それで何だ、話って」
「この前スウと会った時に、お主は妾を仲間と言ってくれた。妾はすごく嬉しかったのじゃ」
「何だよ今更。グリアラがそうしてくれたように、俺もそうしただけだって」
「だからなのじゃ。妾がお主にもうすぐ会えなくなってしまうことがすごく寂しい。妾にとって仲間というのは、一生一緒にいられる存在なのじゃ。その存在がいなくなってしまうのが、とても寂しい」
一生一緒にいられる存在。
これは不老不死に近い姫巫女だからこそ言える言葉なのかもしれない。同じ姫巫女である同士がゆえに一度できた仲間は一生のものになる。それに比べて俺は……。
「俺も正直言って寂しいよ。けど、俺には帰る場所があるから、元々手段が見つかれば元の世界に戻るつもりだったんだよ」
「帰る場所?」
「ああ。さっきも話したけど、俺には親友がいる。親がいない俺を孤独から救ってくれた、大切な親友が」
「親がいないの?」
「そういえば、まだこれは誰にも話していなかったっけ。まあ今回は特別にお前だけに教えてあげるよ」
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
ラファエルとの戦いの時にも思わず口滑っていたが、俺には親と呼べる人がいない。小さい頃に捨てられていたらしい。孤児院の当時の院長さんがそれを拾ってくれたらしいのだが、まだ一歳にも満たない年だったらしい。
その事実を知らされたのは中学生を卒業した日。それまでは本当の親を院長と奥さんだと思っていた俺は、酷くショックを受けてしまった。自分には親がいない、それがどれだけ悲しくて、寂しいものか。
「妾には親がおる。それなのに何故咲田はそんな酷い目に合わなければならんのだ」
「さあな。それが運命だったのかもな」
ともかく当時の俺は、その事実を受け入れることができず、自暴自棄になってまともに高校にも通えなくなっていた。
そんな時に出会ったのが、向日葵と雄一だった。キッカケはたまたま出た授業で、偶然同じ班になった事だった。
「君って高校にほとんど来ていない子だよね? 大丈夫? 何かあったの」
「何かあったとしても、関係ないことだろ」
「それは関係ないけど、折角の高校生活楽しまなきゃ」
「別に通おうが通わないが、俺の勝手だろ。好きにさせてくれよ」
「そういうわけにはいかないだろ。こうして同じ班になったんだからさ」
「そうだよ、彼の言うとおり! ここで会ったのも百年目、仲良くしようよ」
「言葉の使い方間違っているけど、言っていることは間違いじゃないだろ? これも何かの縁だろ」
「……」
第一印象は最悪だった。何でこんなに面倒くさい人と出会ってしまったのだろうか? 最初の頃は何度もそう思った。けれど雄一の言っていた通り、縁でもあったのか、俺達はその後も何度か同じ班になることがあった。その内に最初は面倒くさいなと思っていた二人に対して、少しずつ心を開けるようになった。
「え? 咲ちゃん親がいないの?」
「ああ。小さい頃からずっと孤児院で育てられているんだよ。だから親の顔も知らないんだ」
だからなのかもしれない。自分の境遇を二人に話すことができたのは。二人と出会って半年、俺の中での二人の印象は変わっていた。
「結構咲田って単純思考なんだ。妾はだったらそんな簡単に打ち解けられないのじゃ」
「単純思考とか言うなよ。二人はそれくらい俺にとって大切な存在なんだよ」
「ふーん。妾にもそんな存在がいたら嬉しいのう」
「ん? あのスウって子は?顔見知りみたいだけど」
「あれは……その、なんと言えばいいのかのう。腐れ縁というべきか。でも親友とは呼べないのう」
「腐れ縁ねえ……」
その相手が姫巫女になっただなんて、信じられないんだろうなムウナは。
「って、大分話逸れたけど、さっきも言ったけど俺には帰る場所がある。だからさ、寂しいけどお前達のことは絶対に忘れない。だからお前も忘れないでくれ」
「うん。それは約束するのじゃ。だからこちらからも約束させてほしいことがある」
「なんだ?」
「妾はこれから、お主達に多大なる迷惑をかけることになるが、許してほしい」
「それはどういう意味だ?」
「すぐに分かるのじゃ。皆にも伝えておいてくれ」
「ムウナ?」
俺は今になってこの時何故彼女の言葉の意味を深く考えようとしなかったのかと後悔している。何故なら、
「大変です咲田君」
「どうしたんだよシャイニー。朝からそんなに慌てて」
「ムウナちゃんが……ムウナちゃんが……」
「ムウナが?」
翌朝、その言葉の意味をムウナが行方不明になった後だったからだ。
(ムウナのやつ、まさか)
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