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この夏俺は世界を守る巫女に生まれ変わりました

りょう

第60話間違っていても正しい事

 翌日、俺達はグリーンウッドを出てウォルティアへと帰還した。帰ってくるなりセリーナが大喜びをしながら俺達の元へとやって来た。

「おかえりなさい巫女様、ご無事でよかったです」

「ああ、ただいま」

 だがそれとは裏腹に、昨日の事を未だに引きずっている俺は、少し元気のない返事をしてしまう。

「どうかされましたか? 元気がないようですけど」

「ちょっと色々あってな。それより、ポルメルとアライア姫は元気か?」

「はい。あとこちらの方でと色々と準備をさせてもらいました」

「準備?」

「歌姫が四人こうして揃ったのですから、舞台が必要だと思いまして」

「三人でやったのか?」

「はい。まだ完成していませんが、ほぼできています」

「へえ、私達が苦労している間に、そっちも頑張ってくれていたんだ」

「当たり前じゃないですか。皆でやらなければいけない事ですから」

「そうだな」

 そう、今回の作戦は皆で力を合わせてやらなければならない事だ。だから落ち込んでいるわけにもいかないのだが、時間があまり経っていない事と、人が死ぬという今までしたことのない経験をしたせいで、すぐに立ち直れない。
 それはムウナもそうだ。俺以上に辛いのは言わなくても分かるし、立ち直るのも倍の時間がかかる。その中で果たして彼女は力になれるのだろうか? 不安ばかりが残る。

「そういえばムウナさんの姿が見当たりませんけど、どこへ行ったんですか?」

「え?」

 そう思った矢先、先程まで居たはずのムウナが行方不明に。そういえば今日一日喋ってすらいなかった。昨日あれだけ泣いても、抜けないんだな悲しみが。

「仕方が無い。しばらく一人にしていてあげるか」

「大丈夫ですか? 一人にして」

「逃げるわけじゃないから腹が減ったら戻ってくるよ。それまでは一人にさせてあげてくれ」

「はい……」

 無事に帰還して喜んだのも束の間、昨日の事を思い出した俺達は少しだけ重い空気になってしまったのであった。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 その日の晩、俺はアライア姫に呼び出されていた。城自体が崩壊してしまった為、今彼女の部屋も仮住まいみたいなものになっている。何だか窮屈そうにしているが、大丈夫だろうか?

「そんな事があったのね」

「はい。ムウナは勿論ですけど、俺も結構ショックを受けてしまいまして」

「まあ、そうよね。僅かな時間とはいえ、同じ目的で行動した仲間だもの。ショックは大きいわよ」

 呼び出された理由は無事に帰還した方向、そしてムウナの事だった。俺は全てをアライア姫に話し、理解してもらった。ただ、次に彼女が述べた言葉は、あまりにも衝撃的すぎた。

「でもね咲田君、あなたにとっては初めての経験なのかもしれないけど、姫巫女達にとってはそれは、何度も見てきた事なの。悪く言うとそれが彼女達には当たり前でもあるの」

「それは……姫巫女が不老不死に近いからですか?」

「そう。彼女達は長い間生きている分、何度も人の死を経験している。そして自分自身も経験している。話を聞いているあなたなら分かるでしょ?」

 何だよそれ……おかしいだろ。

 人が一人死んでいるのに、当たり前だなんておかしい。

「でもあなたもその経験をしてしまった。己の意思とは関係ないとはいえ、死んでしまった。それは紛れもない事実なの」

「それでもおかしいと思います。いくら長生きとはいえ、人一人が死んでいるのに、そんな言葉が出て来るなんて間違っています!」

「間違っているのは分かっているの。でもだからこそ、ずっと落ち込んでいることなんてできないの。だって、その先も長い間生きていかなければならないのだから。そうよね? ムウナちゃん」

「え?」

 突然アライア姫がムウナの名を呼んだので、慌てて後ろを振り向くとそこには、何か吹っ切れた様子のムウナがいた。

「ムウナ?」

「咲田、昨日はすまなかったのう。でもお陰で妾は元気を取り戻せた。感謝する」

「元気を取り戻せたってお前、もう平気なのか?」

「うむ。妾も長く生きておるがゆえ、流す涙も大分枯れてしもうた。それに、ずっと落ち込んでおったら世界は取り戻せんじゃろ?」

「そうだけど、まだ、時間だってある。もう少し休んだ方が……」

「もういいのじゃ咲田。ありがとう」

 笑顔でそうムウナは言った。

 分かっている。

 本当は辛いことを。

 分かっている。

 本当は悲しい事を。

 なのにどうして、笑わなければならない。何故我慢しなければならない。

 一生その人とは会えないのに、どうして……。

 こんな無理に笑わなければならない。

「そんなのおかしい……」

「咲田?」

「そんなのおかしいだろ!」

「何がおかしいのじゃ? 落ち込んでいたら姫巫女が務まらん。だから妾は問題なのじゃ」

「それがおかしいんだよ。人の死をそんな、簡単に片付けるなんて……俺だったらあり得ない」

「じゃがな咲田、妾も立ち直れてないかもしれない。それでも、しっかりせねばならん。そうでないと妾だって、大地の姫巫女をやってられん」

「言いたいことは分かる。けどそんなの辛すぎるよ……」

 俺には命を軽くなんて思えない。だから……。

 グラッ

「あれ? また体が急に……」

「咲田?」

「咲田君!」

 そうか、忘れていたけど俺また死にかけているんだっけ。

 それなのに、命がなんだとか言えないじゃん。

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