この夏俺は世界を守る巫女に生まれ変わりました

りょう

第65話世界に響けこの歌よ 後編

 決着は本当一瞬だった。俺がマリアーナに殴りかかろうとしたところを、何とセリーナが止めに入って来たのだ。

「何をしているんですか二人とも!」

「何をって、俺はこいつを倒そうとしただけだぞ? 俺達の邪魔をしようとしているマリアーナを」

「何でそんな事をするんですか! マリアーナさんも」

「おい、どうしたんだよセリーナ。こいつは敵なんだぞ?」

「敵なのは知っています。でも彼女は水の姫巫女じゃないですか」

「どうしたんだよセリーナ! 何で今になってそんな事を言うんだよ」

「こんな意味のない戦いをして、何が世界の平和ですか!人を傷つけて得るものなんてありません!」

「だけどなセリーナ」

「あなたも邪魔者ですね。では死んでもらいます!」

 セリーナが俺を止めている間にマリアーナが、何かの準備を終えたらしく、その刃をセリーナへと向ける。

「セリーナ、危ない!」

 俺は慌てて彼女を庇おうとするが、その前にマリアーナの力が何者かによって止められる。

「なんか騒がしいと思ったら、生きていたのね水の姫巫女さん」

「な、どうして私の力が」

「何でかしらね。それより私達の邪魔をするのはやめてもらえないかしら」

「嫌だと言ったら?」

「制裁を加える形になるわ。そうなりたくなければ、あなたはこのまま水の姫巫女としてウォルティアで暮らしなさい」

「お断りします。私は水の姫巫女であっても、どこかの国に居座り続けるつもりはないですし、それにこの世界はじきに私が滅ぼします」

「そう。それがあなたの答えね」

 そう言うとアライア姫は、片手を大空に掲げ、何かを唱え始めた。

「え? な……」

 とマリアーナが言い終わる前に、彼女の目の前にシャイニーの力以上の大きな光の柱が落ちてくる。

「次は避けられる?」

「ひっ、な、何者なんですか? あなたは」

「どこにでもいる姫よ私は。まあ、ちょっと変わっているところはあるけど。さあ、あなたはどうするのかしら?」

「わわわ、分かりましたよ。い、言う事聞きます」

「うん。それでよし!」

 話がいつの間にか完結していて、俺は何が起きたのか認識するのに、少々時間がかかった。

「あ、アライア姫。これでいいんですか? こいつのせいでウォルティア城は……」

「いいのよ咲田君。誰も傷つかない方法がベストかなって思ったから」

「だけど……」

「それよりも、作戦の方が大切でしょ? ほら見て」

 マリアーナに気を取られて忘れていたが、アライア姫が指差した方を見てそっちの方を思い出す。四人の歌姫がもたらしている力は、俺の想像を越えるものだった。

「闇が消えていく……」

 ずっと真っ暗だった空が、光を取り戻し青空が見え、枯れていた自然が、その息吹を取り戻す。ほとんどボロボロに近かったウォルティアも、少しずつではあるが元の形に戻り始めている。

「これが歌姫の力。どういう原理になっているのかは分からないけど、その力は確実に世界を変えてくれる。この世界に来て、初めて私はそれを教えてもらった」

「この世界に来てって、何を言っているんで……」

 どういう意味なのか、尋ねようとしたところで俺は言葉を止める。何故なら、

「アライア……姫? もしかして……」

 彼女の体が少しずつ消えているからだ。そして俺の疑問に答えるかのように、彼女は微笑みながらこう言った。

「さっきの言葉で気づくと思ったんだけど、やっと気づいたんだ。実は私もこの世界を去らなければならない人間の一人なの」

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 彼女は言った。

 かつてもう一人だけ、俺と同じようにこの世界に来た人間がいると。

 彼女は言った。

 時空門が開けば、元いるべき世界へと戻れると。

 それは俺を元の世界に戻す為に調べて分かった結果、ではなく自分が元の世界に戻す為に調べていた結果。

 そう、アライア姫と俺は同じ、異世界から来た人間。

「あ、アライア姫様? どうして体が……」


 その異変にセリーナも気づいたらしく、慌て始めた。

「咲田君は疑問に思わなかった? どうしてこの国には国王がいなくて、姫である私しかいないのかを」

「それは最初にちょっと思っていましたけど、それと何の関係が?」

「本当はいたのよ? ちゃんとした国王と王妃が。私をすごく可愛がってくれた二人が」

 ちゃんとした王国なのだから、先代がいるのは分かっている。だか、それがいつ亡くなって、いつアライアがこの国の姫になったのかまでは分からない。第一、彼女が異世界から来た人間だなんて予想できなかった。

「でも少し前に、二人は亡くなってしまった。で、誰が次を継ぐのか、結構争われたのだけれど、養子としてこの世界で二人が育ててくれた私が姫になる事になった。おかしい話よね。王家の血を継いでない私が姫になれちゃうんだもん」

「私が使いとしてウォルティア城での暮らしを始めた頃には、既にアライア姫様はおられたので、気がつきませんでしたけど、まさか異世界の人間だったなんて……」

「しょうがないわよ。この話を知っているのは、ごく一部の人間だったから」

 次々と語って行くアライア姫。だがその体は、確実に消え始めていた。

「まさか私が先に消えるなんて思っていなかったけど、お別れの挨拶ができたから、結果オーライかな」

「アライア姫、あなたはこうなると分かっていて俺にここまで教えてくれたんですか?」

「咲田君がこの世界にやって来たのを分かったのも、実はその影響だったりするの。だからちゃんと帰してあげたかったんだ、私と同じように元の世界へ。そして今日、私はその日を迎えられた。ありがとう咲田君」

「お礼を言うのは俺の方ですよ。ここまでしてくれてありがとうございました!」

 アライア姫には最初からお世話になってばかりだった。だからちょっと悲しいかもしれないけど、彼女にも帰る場所があるなら、俺はそれを引きとめない。

「アライア姫様、行かないでください! 私はまだ学んでないことか沢山有るのに」

「何を言っているのセリーナ。今度はあなたが教える番なんだから」

「え? それはどういう……」

 頭にクエスチョンマークを浮かべているセリーナに対して、アライア姫は最後の仕事と言わんばかりにセリーナ告げる。

「本日をもって、王位をセリーナへと継承する」

 それは名誉ある称号。この瞬間、今日をもってウォルティアの姫はセリーナになったのだ。

「さて、これで継承式も終わったし、他の巫女達にもよろしく伝えておいてね」

「はい。しっかり伝えておきます」

「じゃあお元気で。咲田君、セリーナ」

 笑顔でアライアはそう言葉を残して、光の粒となって消えて行った。

(アライア姫、俺は絶対に忘れません。あなたが教えてくれた沢山のことを。たとえ天国に行っても、忘れたりはしません)

 俺は光の粒を見ながら心の中でそう誓った。

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