この夏俺は世界を守る巫女に生まれ変わりました
第8話悲劇の連鎖
「じゃあ私達はまた、闇と戦う事になるの?」
「否定はできない。ただ、あの声がもし本当に闇の姫巫女のものだとしたら、今回の事件は一筋縄ではいかない」
「それってムウナさんの事と、あの私達が見た影の事ですか?」
「そうだ。その二つが結びつくかは分からないが、セリーナを襲撃した犯人とは別と考えると、今まで以上に危険な戦いになる」
これらは全て仮説に過ぎない話ではあるけど、否定も肯定もできる材料がない。それはつまり、俺達はまだ知らぬ脅威とも戦わされる事になる。
(にわかには信じがたいが、ラファエルが死んだという確証がどこにも無い以上、否定はできないよな)
「とりあえず今優先すべきはセリーナの安全の確保と、ムウナの捜索だ。これは俺の怪我が治り次第行う」
「その必要はないぞ咲田」
部屋の外から声がしたかと思うと、扉が開かれムウナが入ってきた。
「この通り妾は無事じゃ」
「何だよムウナ、心配させやがって。どこへ行っていたんだよ」
「少々用事が長くなってしまってのう」
「もう出かけるなら一言言いなさいよ」
「私達すごく心配したんですから」
「すまぬ、すまぬ」
ムウナは疲れたかのように近くの椅子に腰をかける。何はともあれ、ムウナが無事だったのは良かったけど、例の影がムウナを攫っていなかったなら、あれは一体誰だったのだろうか。
(部屋は荒らされていなかったし、盗み目的とかではないよな)
なら他に目的があったのだろうか? でもセリーナが何か隠し事をしていたようには思えないし、一体何がどうなって……。
「のう咲田」
「どうしたムウナ」
「妾は……その、咲田の事嫌いではなかったぞ」
「何を急に変な事を」
そこまで言って、おれはムウナの異変に気がついた。椅子の座る部分から床に向かって、血が垂れていたのだ。
「ムウナ!」
「ムウナさん!」
俺のラグランディアでの夏休み初日は、最悪の形で幕を閉じる事になった。
■□■□■□
ムウナセリーナのように大事には至らなかったものの、王女と姫巫女の負傷は俺達に大打撃を与えた。そのショックからか、朝からシャイニーの元気がなかった。
「どうして……どうしてこんな事に。この六年ずっと平和だったのに、どうしてセリーナさんやムウナさんがこんな目に遭わなきゃいけないんですか」
「落ち着けシャイニー。焦っても何も解決しない」
「咲田さんは……皆と一緒に上がる時間が短いから分からないんですよ。私にとって、そしてグリアラさんにとっても二人は大切な仲間なんです。この六年の苦難を共に乗り越えてきた」
「……それは……」
思わず言い争いをしてしまう俺とシャイニー。分かっている、俺の方が皆と一緒に過ごした時間が短いのを。俺が知らない苦しみや喜びを四人はきっと分かち合ってきたんだ。
「やめなさいよシャイニー、咲田に八つ当たりしても何も解決しないでしょ?」
「そうですけど。でも私はこれ以上誰かが傷つくのだけは嫌です」
「そんなの俺だって一緒だよ。だから何もできなかった自分が悔しいんだ……」
セリーナに続いてムウナまでもがこういう目に遭ってしまった。外は女でも中身が男の俺にとっては、女性を守る事ができない事が何よりも悔しい。
「二人とも、ちょっと俺散歩してくる」
「散歩って、こんな時にどこへ」
「すぐ帰ってくるから心配するな」
「あ、ちょっと」
昨日の今日で体を動かすのは少し辛いが、歩けないわけではないので俺は歩いて城の最上階へと一人で目指す。この大きなピンチに話し相手になってくれそうな人はたった一人しかいない。
(原始の姫巫女、少しだけ力を俺達に貸してくれ)
俺は階段を上りながら、昨日の原始の姫巫女との会話を思い出していた。
■□■□■□
『やはりあなたには届いていたのですね、私の声が』
それはほんの一瞬だけ俺の耳に届いた声から始まった。
「やはりって事は、確信があってさっき話しかけたな」
『見た感じあなたは特殊な人ですから、試してみたんです。いかがでしたか?』
「いかがも何も」
あなたはこの世界を、私達姫巫女を救えますか、何て聞こえたら歩んでいた足も止まる。それを彼女は狙ったというのだろうか。
「それでどういう事なんだよ。この世界だけではなく、グリアラ達姫巫女を救えるかって」
『その言葉のままです。あなたは六年前にこの世界を訪れた際に、水の姫巫女となりました。あの時あなたは一度この世界の脅威を打ち払っていただけましたね』
「俺一人の力じゃないよ。姫巫女や歌姫の力があったからこそ、乗り越えられたんだよ」
『でもそこまで世界を動かす事ができたのは、あなたの行動力です。異世界からの旅人様』
「何でそこまで俺の事を」
『姫巫女はその者の魂を見る事ができるのをお忘れで?』
そういえばそんな話あったような気もする。
「それよりさ、さっき言っていた姫巫女を救ってくれってどういう事だよ」
『あなたもご存知だと思いますが、姫巫女の大半は一度その命を落としてしまった人物。現にあなたもそうでした。しかしそれは、死者の霊を縛り付けるいわゆる呪いでもあるんです』
「呪い……か」
グリアラとムウナは兎も角として、シャイニーは一度も亡くなっている。でも確かそれは彼女自身の意志で……。
「まさか姫巫女になる為に命を落とすのも、呪いという事なのか?」
『そう考えて間違いないでしょう』
しかもその呪いは不死の力を与え、永遠に生き続けなければならないという宿命を背負わせる。それはグリアラもムウナもそうだ。特にグリアラは到底想像できないようなくらいの年月を生きている。
『ですからあなたには救っていただきたいのです。私達の呪われた魂を』
「否定はできない。ただ、あの声がもし本当に闇の姫巫女のものだとしたら、今回の事件は一筋縄ではいかない」
「それってムウナさんの事と、あの私達が見た影の事ですか?」
「そうだ。その二つが結びつくかは分からないが、セリーナを襲撃した犯人とは別と考えると、今まで以上に危険な戦いになる」
これらは全て仮説に過ぎない話ではあるけど、否定も肯定もできる材料がない。それはつまり、俺達はまだ知らぬ脅威とも戦わされる事になる。
(にわかには信じがたいが、ラファエルが死んだという確証がどこにも無い以上、否定はできないよな)
「とりあえず今優先すべきはセリーナの安全の確保と、ムウナの捜索だ。これは俺の怪我が治り次第行う」
「その必要はないぞ咲田」
部屋の外から声がしたかと思うと、扉が開かれムウナが入ってきた。
「この通り妾は無事じゃ」
「何だよムウナ、心配させやがって。どこへ行っていたんだよ」
「少々用事が長くなってしまってのう」
「もう出かけるなら一言言いなさいよ」
「私達すごく心配したんですから」
「すまぬ、すまぬ」
ムウナは疲れたかのように近くの椅子に腰をかける。何はともあれ、ムウナが無事だったのは良かったけど、例の影がムウナを攫っていなかったなら、あれは一体誰だったのだろうか。
(部屋は荒らされていなかったし、盗み目的とかではないよな)
なら他に目的があったのだろうか? でもセリーナが何か隠し事をしていたようには思えないし、一体何がどうなって……。
「のう咲田」
「どうしたムウナ」
「妾は……その、咲田の事嫌いではなかったぞ」
「何を急に変な事を」
そこまで言って、おれはムウナの異変に気がついた。椅子の座る部分から床に向かって、血が垂れていたのだ。
「ムウナ!」
「ムウナさん!」
俺のラグランディアでの夏休み初日は、最悪の形で幕を閉じる事になった。
■□■□■□
ムウナセリーナのように大事には至らなかったものの、王女と姫巫女の負傷は俺達に大打撃を与えた。そのショックからか、朝からシャイニーの元気がなかった。
「どうして……どうしてこんな事に。この六年ずっと平和だったのに、どうしてセリーナさんやムウナさんがこんな目に遭わなきゃいけないんですか」
「落ち着けシャイニー。焦っても何も解決しない」
「咲田さんは……皆と一緒に上がる時間が短いから分からないんですよ。私にとって、そしてグリアラさんにとっても二人は大切な仲間なんです。この六年の苦難を共に乗り越えてきた」
「……それは……」
思わず言い争いをしてしまう俺とシャイニー。分かっている、俺の方が皆と一緒に過ごした時間が短いのを。俺が知らない苦しみや喜びを四人はきっと分かち合ってきたんだ。
「やめなさいよシャイニー、咲田に八つ当たりしても何も解決しないでしょ?」
「そうですけど。でも私はこれ以上誰かが傷つくのだけは嫌です」
「そんなの俺だって一緒だよ。だから何もできなかった自分が悔しいんだ……」
セリーナに続いてムウナまでもがこういう目に遭ってしまった。外は女でも中身が男の俺にとっては、女性を守る事ができない事が何よりも悔しい。
「二人とも、ちょっと俺散歩してくる」
「散歩って、こんな時にどこへ」
「すぐ帰ってくるから心配するな」
「あ、ちょっと」
昨日の今日で体を動かすのは少し辛いが、歩けないわけではないので俺は歩いて城の最上階へと一人で目指す。この大きなピンチに話し相手になってくれそうな人はたった一人しかいない。
(原始の姫巫女、少しだけ力を俺達に貸してくれ)
俺は階段を上りながら、昨日の原始の姫巫女との会話を思い出していた。
■□■□■□
『やはりあなたには届いていたのですね、私の声が』
それはほんの一瞬だけ俺の耳に届いた声から始まった。
「やはりって事は、確信があってさっき話しかけたな」
『見た感じあなたは特殊な人ですから、試してみたんです。いかがでしたか?』
「いかがも何も」
あなたはこの世界を、私達姫巫女を救えますか、何て聞こえたら歩んでいた足も止まる。それを彼女は狙ったというのだろうか。
「それでどういう事なんだよ。この世界だけではなく、グリアラ達姫巫女を救えるかって」
『その言葉のままです。あなたは六年前にこの世界を訪れた際に、水の姫巫女となりました。あの時あなたは一度この世界の脅威を打ち払っていただけましたね』
「俺一人の力じゃないよ。姫巫女や歌姫の力があったからこそ、乗り越えられたんだよ」
『でもそこまで世界を動かす事ができたのは、あなたの行動力です。異世界からの旅人様』
「何でそこまで俺の事を」
『姫巫女はその者の魂を見る事ができるのをお忘れで?』
そういえばそんな話あったような気もする。
「それよりさ、さっき言っていた姫巫女を救ってくれってどういう事だよ」
『あなたもご存知だと思いますが、姫巫女の大半は一度その命を落としてしまった人物。現にあなたもそうでした。しかしそれは、死者の霊を縛り付けるいわゆる呪いでもあるんです』
「呪い……か」
グリアラとムウナは兎も角として、シャイニーは一度も亡くなっている。でも確かそれは彼女自身の意志で……。
「まさか姫巫女になる為に命を落とすのも、呪いという事なのか?」
『そう考えて間違いないでしょう』
しかもその呪いは不死の力を与え、永遠に生き続けなければならないという宿命を背負わせる。それはグリアラもムウナもそうだ。特にグリアラは到底想像できないようなくらいの年月を生きている。
『ですからあなたには救っていただきたいのです。私達の呪われた魂を』
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