不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

177 「重なり一つに」

 懸念事項だった隊長のサミと看守のグランデの安否。これは突如空から箒にまたがって現れた錬金術士の師匠に懇願することで何とかなりそうだった。

 その師匠もさっさと飛び去り、お手伝いさんが指差していた方角へとっくに姿を消している。

 周囲に目を凝らしてみれば、魔女がいなくなったことに露骨に安堵している王国騎士団が何名かうかがえた。

 やはり魔女は恐怖の象徴なのだ。だからこうして淘汰とうたしようとする。

「魔女は悪い人ばかりじゃないのに……!」

 師匠が来てくれたことにより、重荷が減って気持ちはグッと楽になった。

「こんな窮地、さっさと突破しましょうかね!」
(そして先生を助け出す!)

 一人にして二人は完璧なシンクロを見せ、これまでの迷っていたような動きが見違えるかのように豹変した。

 混ざり合うように、足して2で割るように、正反対を向いていた二人の意見が間でおり重なり一つとなった。

 すなわち「殺しはせず、突破する」ということ。

 難しい要求だが、不思議と不可能ではないと思えた。それどころか今なら絶対にできると自信を持って言えるほど、心の底から根拠のない力が漲ってきていた。

 魔女である師匠が現れたという衝撃が伝播し、生まれた虚を突いてヴィオは駆け出した。

 反応が遅れた王国騎士団を出し抜くことなど、今の彼には容易いこと。

 低い姿勢で滑るように走るヴィオは、手袋の糸に全神経をそそぎ、前方広範囲へ伸ばす。

「ちゃんと前見てないと敵を見失いますよ!」

 武装した敵を殺さずに無効化する。つまりは持っている武器が使い物にならなくなればいい。

 狙い澄ましたヴィオの糸が弓を切り裂き、銃を裂いた。

 身のこなしで彼にかなう者は、この場にはいない。

 とにかく強引に強硬突破して包囲を突き抜けたヴィオは、振り返ることなく全力疾走。

「敵に背中を向けるなんてこれっきりにしたいですね」
(敵ではないので適応外ですね。その一回は後のために残しておいてください)
「はいはい」
「追え! 追えぇ!!」

 潰し切れなかった弓矢や銃弾が飛んでくるが、みるみるうちに遠ざかる彼の体に当たることはなく、疾走を止める存在はない。

(先生……! どうかご無事で!)

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