不老少女とふわふわたあめ
144 「謁見」
お手伝いさんは、恐らく生まれて初めてとてつもなく緊張していた。
これから王様に謁見するのだ。目の前にそびえ立つ大きな扉を開いてくぐれば、そこはもはや別世界。
その緊張が隣に立つ王国騎士団疾風隊隊長のサミに悟られてしまったのか、肘で小突かれた。
「ちょっと! ただの顔合わせみたいなものなんだから、あんまりソワソワしないでよね。あんたは失礼のないようにしていればいいの」
小声でたしなめられたが、お手伝いさんはそれでも心配を拭い去ることはできない。
錬金術士の師匠の元へ訪れたときも、失礼のないようにしようと思って失敗した。その記憶が蘇ってきていた。
こちらも小声で「善処します……」と返したが、その声はわずかに震えていて、隊長は先行きが不安になる。
扉の左右に控えていた兵士に目配せの合図を送ると、バッチリと訓練された動きで、重厚な両扉が開いていく。
真っ赤なカーペットが導くその先に、この国の最重要人物が堂々たる姿で玉座に鎮座していた。
「この人が王様……」
心の中で呟いたつもりが、小さな声になっていた。
岩のような大きな体に、蓄えられた白い髭。真っ赤なマントに豪華な王冠をかぶったその姿は、まさしく王様そのものであった。
「王国騎士団疾風隊隊長サミ、参上いたしました」
「うむ」
玉座の前で片膝をつき、こうべを垂れる隊長。お手伝いさんも、見よう見まねでそれに続いた。
「面をあげよ」
王様の言葉は低く重く玉座の間に響き渡る。
よく通る声だった。
「お主が草原の錬金術士であるか?」
「は、はい……!」
どうやら王国では「草原の錬金術士」という呼び名で通っているようだ。「伝説の錬金術士」と呼ばれるよりは都合がいい。おかげで色々と言い訳ができそうだ。
王様は「ふむ……」と立派な顎髭を撫でながら、品定めするようにお手伝いさんを見つめた。
緊張が顔に出ないよう必死に隠しつつ、彼はそれを正面から受け止める。
しばしの沈黙が続き、まず口を開いたのは王様。
「よく来てくれた。国を代表し、礼を言う」
お手伝いさんは内心で大いに安堵した。
全てを見抜かれそうな眼光を浴びて、いきなり正体がバレるのではないかと気が気ではなかったのだが、なんとか最初の関門は突破したようだ。
「概要は手紙に記した通りである。詳しい話はそこのサミに伝えてある。彼女から話を聞くと良い」
「わかりました」
「では、下がって良い」
「へ?」
「ハッ!」
これで終わり? と、思わず気の抜けた声が出てしまったお手伝いさんだったが、すぐ隣にいる隊長の一声でかき消された。
回れ右して歩いていく隊長の小さな背中を追いかけて、お手伝いさんも玉座の間から出た。
左右に控えていた兵士が扉を閉めた途端、お手伝いさんの脇腹に吸い込まれるように拳がめり込む。
「ゴフッ?!」
「なにが『へ?』よ! もっとシャキッとしなさいよね!」
「そ、そんなこと言ったって……」
「なんか文句あんの?」
「無いです」
どうして自分の周りにはこういう女性が多いのだろうかと、密かにため息をこぼすお手伝いさんであった。
これから王様に謁見するのだ。目の前にそびえ立つ大きな扉を開いてくぐれば、そこはもはや別世界。
その緊張が隣に立つ王国騎士団疾風隊隊長のサミに悟られてしまったのか、肘で小突かれた。
「ちょっと! ただの顔合わせみたいなものなんだから、あんまりソワソワしないでよね。あんたは失礼のないようにしていればいいの」
小声でたしなめられたが、お手伝いさんはそれでも心配を拭い去ることはできない。
錬金術士の師匠の元へ訪れたときも、失礼のないようにしようと思って失敗した。その記憶が蘇ってきていた。
こちらも小声で「善処します……」と返したが、その声はわずかに震えていて、隊長は先行きが不安になる。
扉の左右に控えていた兵士に目配せの合図を送ると、バッチリと訓練された動きで、重厚な両扉が開いていく。
真っ赤なカーペットが導くその先に、この国の最重要人物が堂々たる姿で玉座に鎮座していた。
「この人が王様……」
心の中で呟いたつもりが、小さな声になっていた。
岩のような大きな体に、蓄えられた白い髭。真っ赤なマントに豪華な王冠をかぶったその姿は、まさしく王様そのものであった。
「王国騎士団疾風隊隊長サミ、参上いたしました」
「うむ」
玉座の前で片膝をつき、こうべを垂れる隊長。お手伝いさんも、見よう見まねでそれに続いた。
「面をあげよ」
王様の言葉は低く重く玉座の間に響き渡る。
よく通る声だった。
「お主が草原の錬金術士であるか?」
「は、はい……!」
どうやら王国では「草原の錬金術士」という呼び名で通っているようだ。「伝説の錬金術士」と呼ばれるよりは都合がいい。おかげで色々と言い訳ができそうだ。
王様は「ふむ……」と立派な顎髭を撫でながら、品定めするようにお手伝いさんを見つめた。
緊張が顔に出ないよう必死に隠しつつ、彼はそれを正面から受け止める。
しばしの沈黙が続き、まず口を開いたのは王様。
「よく来てくれた。国を代表し、礼を言う」
お手伝いさんは内心で大いに安堵した。
全てを見抜かれそうな眼光を浴びて、いきなり正体がバレるのではないかと気が気ではなかったのだが、なんとか最初の関門は突破したようだ。
「概要は手紙に記した通りである。詳しい話はそこのサミに伝えてある。彼女から話を聞くと良い」
「わかりました」
「では、下がって良い」
「へ?」
「ハッ!」
これで終わり? と、思わず気の抜けた声が出てしまったお手伝いさんだったが、すぐ隣にいる隊長の一声でかき消された。
回れ右して歩いていく隊長の小さな背中を追いかけて、お手伝いさんも玉座の間から出た。
左右に控えていた兵士が扉を閉めた途端、お手伝いさんの脇腹に吸い込まれるように拳がめり込む。
「ゴフッ?!」
「なにが『へ?』よ! もっとシャキッとしなさいよね!」
「そ、そんなこと言ったって……」
「なんか文句あんの?」
「無いです」
どうして自分の周りにはこういう女性が多いのだろうかと、密かにため息をこぼすお手伝いさんであった。
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