不老少女とふわふわたあめ
152 「野菜スープ」
お手伝いさんが作ったスープをすすった隊長は、疲れたような表情がほんの少しだけ和らいだ気がした。
それもそのはず。
「お母さんの野菜スープの味にそっくりだわ……」
「それを真似て作りましたからね」
王国に来たときにお世話になった郵便ちゃんのお母さんがご馳走してくれたものだ。
レシピを教えてもらったわけではないが、料理スキルがどこかの誰かのせいで著しく上昇していたので、少し食べればある程度は再現できる。
残り物を無駄にしない主婦の知恵をお借りしたわけだ。
「そういえばあんた、お母さんのスープを飲んでたっけね」
「はい。そのあと無理やり連れられました」
そのときのチナファミリーのポカンとした表情は今も脳裏に残っている。
「姫様用に、新しくよそってくれる?」
「わたくしはそれでいいですわ」
隊長が口をつけてしまったので新しものを、とお手伝いさんに要求したのだが、今度はお姫様が隊長の手から器を奪った。
「あ、ちょっと姫様! それはダメですって!」
「わたくしが『いい』と言ったのだからいいのです」
隊長の制止を聞かず、口に含むお姫様。
そしてシン……と静まり返る厨房。
だから聞こえてきた。ヒソヒソと「お姫様って野菜全般は苦手であらせられたよな?」「ああ、そのはずだが……」と。
緊張感のある重苦しい空気の中、息をつく姫様の声だけが聞こえてきて、一層張り詰めた空気になる。
お城の者は、お姫様の機嫌を損ねるとどれほどめんどくさいことになるかよくわかっている。
きっと今回の逃走以上に厄介なことになる。それは間違いない。
「錬金術士様……」
「……あ、はい。どうでしょう?」
自分はいま錬金術士ということを忘れかけていたお手伝いさんは慌てて返事をして、感想を促した。
隊長からは美味しいという評価を頂いたし、自分でも上手くできたと思っている。
しかしヒッソリと聞こえてきた野菜嫌いという情報は知らなかった。もっと早く知っていれば別のメニューを考えたものなのに。
「これは本当に野菜が入っているのですか? わたくしが知っている味と全然違います」
「もちろん入っていますよ。ずっと見ていたじゃないですか」
あまりにもジッと見られ過ぎてやりづらかったが。
お姫様は、小さく肩を震わせ始める。嫌いな物を食べさせて機嫌を損ねてしまったかと身構えるお手伝いさん。
たが、お姫様が発した言葉は予想とは違った。
「気に入りましたわ! わたくしは気に入りました! この料理も――そして貴方も!」
高らかにそう言う彼女の表情は、実に楽しそうであった。
「とりあえず牢屋にぶち込んでおきなさいな!」
「……へ?」
どうしてこうなった。
お手伝いさんは、そう思わずにはいられなかった。
それもそのはず。
「お母さんの野菜スープの味にそっくりだわ……」
「それを真似て作りましたからね」
王国に来たときにお世話になった郵便ちゃんのお母さんがご馳走してくれたものだ。
レシピを教えてもらったわけではないが、料理スキルがどこかの誰かのせいで著しく上昇していたので、少し食べればある程度は再現できる。
残り物を無駄にしない主婦の知恵をお借りしたわけだ。
「そういえばあんた、お母さんのスープを飲んでたっけね」
「はい。そのあと無理やり連れられました」
そのときのチナファミリーのポカンとした表情は今も脳裏に残っている。
「姫様用に、新しくよそってくれる?」
「わたくしはそれでいいですわ」
隊長が口をつけてしまったので新しものを、とお手伝いさんに要求したのだが、今度はお姫様が隊長の手から器を奪った。
「あ、ちょっと姫様! それはダメですって!」
「わたくしが『いい』と言ったのだからいいのです」
隊長の制止を聞かず、口に含むお姫様。
そしてシン……と静まり返る厨房。
だから聞こえてきた。ヒソヒソと「お姫様って野菜全般は苦手であらせられたよな?」「ああ、そのはずだが……」と。
緊張感のある重苦しい空気の中、息をつく姫様の声だけが聞こえてきて、一層張り詰めた空気になる。
お城の者は、お姫様の機嫌を損ねるとどれほどめんどくさいことになるかよくわかっている。
きっと今回の逃走以上に厄介なことになる。それは間違いない。
「錬金術士様……」
「……あ、はい。どうでしょう?」
自分はいま錬金術士ということを忘れかけていたお手伝いさんは慌てて返事をして、感想を促した。
隊長からは美味しいという評価を頂いたし、自分でも上手くできたと思っている。
しかしヒッソリと聞こえてきた野菜嫌いという情報は知らなかった。もっと早く知っていれば別のメニューを考えたものなのに。
「これは本当に野菜が入っているのですか? わたくしが知っている味と全然違います」
「もちろん入っていますよ。ずっと見ていたじゃないですか」
あまりにもジッと見られ過ぎてやりづらかったが。
お姫様は、小さく肩を震わせ始める。嫌いな物を食べさせて機嫌を損ねてしまったかと身構えるお手伝いさん。
たが、お姫様が発した言葉は予想とは違った。
「気に入りましたわ! わたくしは気に入りました! この料理も――そして貴方も!」
高らかにそう言う彼女の表情は、実に楽しそうであった。
「とりあえず牢屋にぶち込んでおきなさいな!」
「……へ?」
どうしてこうなった。
お手伝いさんは、そう思わずにはいられなかった。
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