不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

154 「看守とおしゃべり」

「それにしてもあんた、料理上手いんだな。うちのコック連中も大したもんだけど、残り物であれだけ美味しいものを作れちまうんだから相当だよ」
「ありがとうございます。……ちょっとした訳がありまして、いつの間にか上手くなってただけなんですけどね」

 肩をすくめながらお手伝いさんは言う。料理を褒められるのは素直に嬉しいが、上手くなった理由について考えると、少し複雑だった。

「オレもそんな感じさ。ホントは看守なんかじゃなくて、騎士になりたかったんだけどな、気づいたら看守やってた。向いてるって言われてね」
「看守に向いてるってどういう意味ですかね?」
「ボーッとしてることが多いくせにクソ真面目だからって言ってたな」
「なるほど」
「なるほどって、ひでーな」

 お手伝いさんが思わず納得してしまったのにも理由がある。

 勝手なイメージかもしれないが、看守といえばサボってまともに仕事をしない人が勤めているイメージがあった。だから捕まえた犯人に容易に逃げられてしまう。

 そんな展開が、物語ではよく見受けられる。

 しかしこのグランデという青年は、真面目に看守の仕事をこなしていた。こなしつつ、お手伝いさんと話をしている。

「見たところあんた、そこそこ修羅場くぐってるよな」
「そうですか?」
「ああ、その身体中の傷を見ればわかる」

 お手伝いさんの全身には、オオカミに噛み付かれた痕がビッシリと残っている。錬金術士の師匠のアトリエに行ったときにできたものだが、そのときの記憶はなぜか無いので、修羅場をくぐったという実感は沸かなかった。

「オレもあんたほどじゃないけど、結構生傷が多いんだ。騎士になりたかったって言ったろ? だからオレなりに修行とかしたんだ。幼馴染に手合わせしてもらったりとか」
「へぇ」
「んで、ボッコボコにやられてな、腕へし折られたりとかした。何度も。ほら」

 腕を見せてくる看守。

 そこには、見ようによってはお手伝いさんの傷跡より痛々しい、青あざがビッシリとあった。

「実は今も騎士になることは諦めてない。だからこうして努力してるんだが、なかなかどうして、思うようにはいかないね」

 今度は看守が肩をすくめて言う。

 痛い思いをしてまで夢を追うことを諦めていない姿に、お手伝いさんは心を打たれた。

「僕は応援しますよ! 騎士になる夢、叶えてください!」
「おうともさ!」

 なんとなく心が通じ合った気がして、友達になれそうな人だな、とお手伝いさんは思うのだった。

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