不老少女とふわふわたあめ
155 「表裏の顔」
看守としばらく話していると、また新たな足音が近づいて来た。今度は複数だ。
「来たな。お出ましだ」
看守は素早く誰が来たかを察し、速やかに持ち場へ戻って佇まいを正した。
「彼は大人しくしていましたか?」
「はい。問題ありません」
「よろしい」
お手伝いさんからは壁が影になってよく見えなかったが、聞こえてくる声でそれが誰かは簡単にわかった。
「待たせてしまって申し訳ございませんわ」
現れたのは、やはりお姫様。後ろには王国騎士団疾風隊隊長のサミと、その部下らしき人が数人。
近辺警護しているといえば聞こえはいいかもしれないが、恐らくまた面倒を起こさないように監視でもしているのだろう。
「いえいえ、おかげさまで退屈しませんでしたよ」
「ふふ。それはよかったですわ」
お手伝いさんの言葉も、上品な笑いで流されてしまう。
二人きりで話したときと雰囲気がだいぶ違うことから、上っ面を装っているとすぐにわかったが、これがお姫様としての顔、ということだろう。
たぶん、無邪気に笑い、裸足で外を駆け回るような姿が彼女の素の表情。
(他人の前では自分を偽って、繕わなきゃならないんだな。偉い人っていうのも、結構大変なのかも)
いまさらお姫様の顔をしたところで後の祭りだが、とにかくいまはお姫様モードらしい。
そこで、ふと思い出してしまった。
ある意味世界中で一番偉いにも関わらず、自分を偽らず、繕わず、常にありのままで過ごしている少女のことを。
(先生は今頃何をしているかな……?)
あまり考えないようにしていたが、思考が少し傾いてしまうと、とことん考え始めてしまう。
「錬金術士様?」
「……あ、はいなんでしょう?」
お姫様の声で我に帰るお手伝いさん。こんなんじゃいけない、と心の中で自分を叱責し、目の前の問題と向き合う。
「貴方はどうして牢屋に入れられているか理解していますか?」
「いいえ。厨房で何かをやってしまったのだろうと、察しはつきますけど」
「その通りですわ。わたくしは言いました。『錬金術を見せて欲しい』と。しかし貴方が見せてくれたのはただの料理……このわたくしに嘘をつくなんて、大した度胸ですわ」
「なんだ、そのことでしたか。僕は別に、嘘はついてませんよ」
「なんですって?」
「だって、言ったじゃないですか。『僕なりの錬金術をお見せします』って。捨てられる運命にあった食べ物を再利用した……これも立派な錬金術かと」
確か犬にも猫にも見える不思議な生物、いぬねこも似たようなことを言っていたような気がする。
お手伝いさんが自信満々にそう言うと――、
「ぷ」
――お姫様は軽く吹き出した。そしてお腹を抱えて笑いだすまでに発展する。お姫様の上品さはどこへやら。
少女の愉快な笑い声は牢獄を明るく反射する。
「っあっははははは! あー……」
一通り笑うと、一呼吸置いてから、お姫様の顔へ戻る。
「ますます気に入りましたわ。この者を出してあげなさい。そして客間へ案内を」
「はっ」
こうして、短い間だがお手伝いさんはお城の牢獄の冷たさを、その身をもって体感したのだった。
「来たな。お出ましだ」
看守は素早く誰が来たかを察し、速やかに持ち場へ戻って佇まいを正した。
「彼は大人しくしていましたか?」
「はい。問題ありません」
「よろしい」
お手伝いさんからは壁が影になってよく見えなかったが、聞こえてくる声でそれが誰かは簡単にわかった。
「待たせてしまって申し訳ございませんわ」
現れたのは、やはりお姫様。後ろには王国騎士団疾風隊隊長のサミと、その部下らしき人が数人。
近辺警護しているといえば聞こえはいいかもしれないが、恐らくまた面倒を起こさないように監視でもしているのだろう。
「いえいえ、おかげさまで退屈しませんでしたよ」
「ふふ。それはよかったですわ」
お手伝いさんの言葉も、上品な笑いで流されてしまう。
二人きりで話したときと雰囲気がだいぶ違うことから、上っ面を装っているとすぐにわかったが、これがお姫様としての顔、ということだろう。
たぶん、無邪気に笑い、裸足で外を駆け回るような姿が彼女の素の表情。
(他人の前では自分を偽って、繕わなきゃならないんだな。偉い人っていうのも、結構大変なのかも)
いまさらお姫様の顔をしたところで後の祭りだが、とにかくいまはお姫様モードらしい。
そこで、ふと思い出してしまった。
ある意味世界中で一番偉いにも関わらず、自分を偽らず、繕わず、常にありのままで過ごしている少女のことを。
(先生は今頃何をしているかな……?)
あまり考えないようにしていたが、思考が少し傾いてしまうと、とことん考え始めてしまう。
「錬金術士様?」
「……あ、はいなんでしょう?」
お姫様の声で我に帰るお手伝いさん。こんなんじゃいけない、と心の中で自分を叱責し、目の前の問題と向き合う。
「貴方はどうして牢屋に入れられているか理解していますか?」
「いいえ。厨房で何かをやってしまったのだろうと、察しはつきますけど」
「その通りですわ。わたくしは言いました。『錬金術を見せて欲しい』と。しかし貴方が見せてくれたのはただの料理……このわたくしに嘘をつくなんて、大した度胸ですわ」
「なんだ、そのことでしたか。僕は別に、嘘はついてませんよ」
「なんですって?」
「だって、言ったじゃないですか。『僕なりの錬金術をお見せします』って。捨てられる運命にあった食べ物を再利用した……これも立派な錬金術かと」
確か犬にも猫にも見える不思議な生物、いぬねこも似たようなことを言っていたような気がする。
お手伝いさんが自信満々にそう言うと――、
「ぷ」
――お姫様は軽く吹き出した。そしてお腹を抱えて笑いだすまでに発展する。お姫様の上品さはどこへやら。
少女の愉快な笑い声は牢獄を明るく反射する。
「っあっははははは! あー……」
一通り笑うと、一呼吸置いてから、お姫様の顔へ戻る。
「ますます気に入りましたわ。この者を出してあげなさい。そして客間へ案内を」
「はっ」
こうして、短い間だがお手伝いさんはお城の牢獄の冷たさを、その身をもって体感したのだった。
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