不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

156 「バッキバキ」

 お城の牢獄に入れられるというなかなか経験できない体験をしたお手伝いさんは、改めて王国騎士団疾風隊隊長のサミに案内され、最初の客室に通された。

 ガチャン。

 しかしそれは、簡単に阻まれる。

「あら?」
「あ……」

 お手伝いさんはここにきてようやく思い出した。この部屋はお姫様が中から鍵をかけ、そのまま窓から外に出た。

 つまり鍵がかかったままだと言うことを。

「んー、どうしたもんかしら。確かに普段は鍵かけてるけど、今はどこも使ってて空きがないのよねぇ……」

 顎に手を当て、「鍵の管理はメイド連中の管轄だし……てか鍵かけるの早いな」とぶつくさ言いながらしばらく考えていた彼女だが、やがて答えは出た。

「しょうがない、あたしの部屋に案内するわ」

 隊長は応急処置としてそのように判断した。

「大丈夫なんですか?」
「何がよ」
「いや、他人を簡単に自室に上げるのって抵抗ありませんか?」
「別に、実家とそう変わらないし、特に問題ないわ」
「そ、そうですか……」

 ということは、お城にある隊長の部屋もトレーニング器具で溢れかえっているようだ。

 なんだったらこちらの方が広いだろうし、さらに悪化しているかもしれない。

(でも言うほど筋肉質じゃないんだよな……)

 自室がトレーニング器具でいっぱいと言うことは、相当に鍛えているはず。隊長という立場上、最低限の強さは必要だから仕方ないかもしれないが、それにしては手足が細かった。

「なに? あまりジロジロ見ないでくれる?」
「あぁ、すみません」

 言われて慌てて視線を逸らしたお手伝いさん。

「鍛えてるにしては細いよな~……と、思って」
「そういうこと。よく言われるのよね。なかなか筋肉つかなくて、これじゃ隊長としての威厳が保てないからバッキバキにしてやろうと思ってるんだけど、世の中うまくいかないものね」

 呆れたように肩をすくめて隊長は言うが、お手伝いさん的にはむしろその方がいいのでは? と思わずにはいられなかった。

「ダイエット目的ならわかりますけど、普通の女の子はバッキバキにはしないのでは……」

 見た目は可憐な少女でも、一枚脱ぐと露わになる完璧なシックスパックとか、お手伝いさんには想像できなかった。それは詐欺だ、とすら思える。

「隊長に任命されてからは普通の女の子でいることは諦めたわ。そんなことよりも純粋な強さが要求されるんだもの」

 随分と責任感の強い人だな、と思う。それほどこの国のことが大切で、守りたい存在なのだろう。

「こっちよ。ついてきて」

 お手伝いさんは案内されるままに歩く。

 彼にも、隊長のように守りたいと思える存在がある。

 そのことを改めて噛み締めながら、ドラゴン決戦に向けて、着々と準備が進んでいくのだった。

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